作者は最近、某運命のFPSゲーをやっており、投稿が遅れてしまいました。申し訳ありません。
では、第百三話をどうぞ
Side鏡夜
ようやく森の上を跳び、一分ちょっとくらいで竹林の前に着いた。
竹林も跳んで行けばいいと思うかもしれないが、残念な事に森の倍以上の大きさの竹が何千と生えているので、跳んでいけない。それに、地道に下から探して行った方が見落としもない気がするし。
「じゃあ、カロ、行くか。ここからは何の情報もないから、ゆっくりと竹林の中を進んでいってくれ」
「ガルル」
こくんと一度首を縦に降ったカロはゆっくりとした足取りで竹林の中へと進んでいく。
雰囲気的には何も起きてるような気がはしない。ただ……なんというか、懐かしい気配を感じる。この気配は大昔に会った奴の気配。誰の気配だかは忘れてしまったが。
「ん?」
竹が生えているだけという、ずっと同じでつまらない風景を見ながらしばらく歩いていると、ふと光が見えた。
人工の白い光でもなく稲光のような黄色い光でもない。真っ赤な、赤い炎の光だ。その赤い光が、竹の上まで真っ直ぐと伸びている。
こんな真夜中に、ましてや竹林の中であんな馬鹿みたいな火力の炎を出して何をやっているんだ? よく周りの竹に燃え広がらなかったな。
……もしかしたら、あの光が放たれた場所に今回の犯人がいるのか? ……いや、その前に、こんな竹林の燃えやすい木々の中であんな火力を出している馬鹿を注意しなければ。今回はたまたま上手く竹が燃えなかったが、あんな炎何回も放ってたらいつかこの竹林が燃えてなくなるぞ。
「カロ、今光った場所に向かってくれ」
「ガル」
歩いていた向きを変え、一気に光の下まで走り出すカロ。
「グル?」
「どうした?」
走ってると中、急にカロは走るのをやめるとピョンと少しの間隔を跳んだ。そして、振り返り、ちょんと地面を叩くと、そこには結構深く掘られた落とし穴があった。
「何だこれ? いったい誰が仕掛けた?」
「グル……」
分からんか。臭いも残っていないみたいだ。……考えても仕方ない。早く光の下へ向かうか。
落とし穴を放置して、カロは再び振り返ると、ゆっくりと歩き出す。もう少しで、光のあった場所に着くんだが……ここら辺か。
さっきの光が放たれた場所に着いたので、取り敢えずカロから降りて辺りを散策する。……ふむ、何か色んな燃えカスがあるな。これは……御札か? 霊夢ちゃんのではないようだが。
「……から……じゃなくて……」
「わかん……元詳し……」
誰かの話声が聞こえる。声質から察するに一人は男の子で一人は少女の声だな。
こんな夜中に逢引か? 全く、最近の若いのは進んでるねえ……なんて、冗談を言っている場合じゃない。早くこの竹林から出して帰らせないと。今はまだいいけど、下手したら妖怪が襲ってくるぞ。
「カロ、人型に戻っとけ」
「は~い」
カロを人型に戻らせ、曲げる能力を使って俺とカロにくる光を曲げ姿を隠す。これで、こちらを見つけてもバレずに隠れられるだろう。歩いたり物にぶつかって音を出さなければの話だが。
こっそりと茂みに隠れ、カロと共に声のした方を見る。あの子は……。
「だから、こう霊力を体に纏わせて、それを発火させるの」
「霊力を体に纏うってのはわかるけど、その次の発火ってなんだよ! どうやって霊力を発火させるんだよ!」
「だから――――――」
緑色の着物を着ているバクくんと、白い、腰くらいまである長髪で、カッターシャツと白いもんぺのようなズボンを履いた女の子が言い争っている。なんで、こんな所にバクくんがいるんだ?
「あ~バクくんだ~」
「知ってるのか?」
なんとまあ、カロまで知っているとは。普段人里なんかに行かないのに、いつ知り合ったんだ?
「この前の萃香の時の異変でね~人里に寄った時に会ったんだ~」
「なるほどね」
カロの答えを聞いて再び少女とバクくんを見る。……ふむ。改めて詳しく見てみたら、少女の方、若干妖力も持っているな。
俺にも言える事だが、これまで生きてきた中での経験上妖力を持っている人間は、どこか普通の人間とズレている。
性格や思考といったものではない。人間としての存在がズレているんだ。……少女も、何かしらが人間とズレているのか。
「……しかし、霊力の使い方を知りたいんだったら、俺の所に来ればいいのに」
いくらでも力の使い方を教えてあげるのに。
「いや~鏡夜の修行は普通の子には無理だと思うよ~」
「そうか?」
妖夢や咲夜ちゃんは意外と普通にこなしているけど。
カロは俺の言葉に苦笑いを浮かべる。
「だってね~鏡夜の修行はある程度力の使い方を知ってる子にだけ通用する修行だよ~初心者には辛いよ~」
「ふむ……」
言われてみれば確かに俺の修行はある程度鍛えているのが前提だ。初心者の子……咲夜ちゃんとかの時は、最初カロに任せてたしな。
……う~む、今度初心者の子を鍛える修行メニューでも作ってみるか。
「もう……もっかいやるから、ちゃんと見ておいてよ」
カロと話しながら茂みから二人を見てると、少女がバク君から離れ、目を瞑って体に妖力を纏わせる。
霊力ではなく妖力なのか。バク君には妖力で見せたほうがいいと思うのだけど。
少女は数秒目を瞑ってから、ふぅと息を吐いて目を開ける。と、同時に、少女の周りから紅蓮の炎が天に向かって爆風と共に伸びていく。
へ~凄い火力だこと。……しかし、どうしてこんな大きな炎が上がっているのに、周りの木々は燃えたりしないんだろうか。アレか、偽の炎か。俺のドッペルフレイムみたいな。
「ね~鏡夜~」
「どうした?」
俺の隣にいたカロが俺の肩を指でつついてくる。何事かと思い、カロを見てみると、カロは俺の足元を指差した。
ゆっくりとカロの指差した方を見てみれば、そこには……
「火がね~雑草に燃え移ってるんだ~」
「だ~じゃない! 早く消せ! 燃え広がらないうちに消せ!」
雑草が燃えて、しかもその火が茂みの方にまで燃え広がってきている。
消そうと魔力で水を作り出して掛けるが、妖力の火のせいなのか知らないが、中々消えない。むしろ、勢いが増している。
どうする! このまま放置していたら燃え広がってここら辺一体燃えカスになるぞ。
「ね~鏡夜~」
「何だカロ。今結構マズイ状況なんだが」
「あのね~もう食べちゃっていい~?」
「……は?」
燃え広がる火を消そうとしていると、カロがいきなりそんな事を言ってくる。
カロの訳の分からん発言に思わず聞き返すと、カロはニッコリと笑って狼に変身し、燃え広がる火に近づき……
「わお……」
大きな口を開けて妖力の火を食べてしまった。熱くないのか?
カロは食べた火を口の中で何度か噛むと、そのままゴクンと飲んでしまった。……なんとまあ。カロの奴、妖力の火を飲み込んだら妖力が回復しやがった。
火と言っても、元は妖力だから出来ない事もないのか?
「グル!」
どうだ! と言わんばかりに口の端をつり上げて笑うカロ。ああ、すごいよ。
「む? 誰? そこにいるのは?」
「やばいな。見つかっちまった」
火を消し終えると、さっきの放火の原因である少女が俺らの方を向きながら言ってくる。
光は曲げているから見つかってはいないが、音で居場所はバレてしまったな。大きな音を出しすぎた。
仕方ない。ここは大人しく出て行くことにしよう。どうせ、隠れたのだって男女の逢引中だったら迷惑だと思って隠れただけだし。
このまま去るっていう方法もあるが……久々にバク君に会いたいし。何より、バク君にアドバイスを送りたい。
「カロ、そのまんまでいいから出るぞ。……襲うなよ?」
「グル」
勿論と唸るカロ。
「よし……いやはや、すまない。覗き見するつもりはなかったんだけどね」
曲げる能力を解除して、両手を挙げつつカロと一緒に歩いてバク君と少女の下に行く。
「あ、鏡夜!」
「やあ、バク君。久しぶり」
両手を下げて、笑顔を浮かべつつバク君に挨拶する。
「知り合い?」
「うん。俺の、憧れの人……で、そっちの狼は……やっぱり」
何か分かったかのような表情をしてバク君はカロへと近づいていく。お、この状態でも分かるのか?
バク君はそっとカロの頬に手を当てると、何か確信を得たのか二三度、頷く。
「あの時の姉ちゃんだね」
「ガル」
そうだよと言いつつ、カロはバク君のほっぺを舌で舐める。
「バクの知り合い……鏡夜だっけ? どうも初めまして」
バク君の事を見ていると、後ろからさっきの少女に話しかけられる。
「初めまして。バク君の知り合いの時成鏡夜。よろしく」
「私は藤原妹紅。妹紅でいいよ。一応、バクの師匠ってことになってる」
藤原妹紅。藤原……どっかで聞いたことがあるような……ああ、そうだ! アレだ! この前読んでいた本の登場人物の一人に藤原って奴がいたな。
「ああ、一つ聞いていいか?」
「どうぞ」
「藤原って、もしかしてこの本の登場人物と関係ある?」
スキマを開いて中から例の本を取り出し、藤原に見せる。
俺から本を受け取って、マジマジと見た藤原は、本を開いて中を確認してから、自嘲的な笑みを浮かべて俺に本を返す。
「ああ、確かに私はこの作品の娘だよ」
「へ~……娘?」
娘だと? この作品は時期的には相当昔に書かれた物だぞ。それも、千年単位で昔の。そんな本の登場人物の娘だとすると、この娘は千歳以上の年齢になるぞ。
いくらなんでも、嘘だとしか思えない。千年以上生ける人間なぞ、この世に存在はしない。……ああ、だからこの娘は妖力を使えるのか。
藤原は俺を一度見てから月を見上げる。
「そうだよ、娘。絶世の美女に嘘を見抜かれた哀れな男の、娘……だよ」
「……そんなに自分の父を卑下することはないと思うぞ」
「いや、いいんだよ。もう、昔の話しだから」
俺に背を向けて月を見上げた藤原は、やれやれと頭を振ってから俺の方を向く。
「で、どうしてこんな場所に来たの?」
「さっき、竹林の中を歩いてる時に巨大な炎が見えてね。気になったので来たら、ここだった」
「巨大な炎? ……ああ、これの事?」
両手を左右に広げた藤原は両手に霊力を集めると、一気に霊力を炎に変える、そうそれだ。さっきの火災の原因になった炎!
「それの事。さっき山火事の原因になる所だったその炎だよ」
「うえ、山火事って本当?」
「本当。カロが何とかしなかったら、危うくこの一帯は竹の燃えカスしか残らなかったよ」
「ええっと、ごめんね」
まあ、別に竹林が燃え尽きたりしていないから、謝る必要はないと思うんだけどね。
「別に謝る必要はないと思うよ。……それと、ここに来た理由はもう一つあるんだ」
人差し指を立てて、月を指差す。
「今回の月。おかしくしたのは、藤原じゃないよね?」
「……違う。月をおかしくしたのは、アイツ」
アイツ? アイツとは……
「この先にいる、昔から住み着いている永遠の姫様のせいだよ」
永遠の姫様……? 誰だそれ。……まあ、それは会ってからのお楽しみにでいいだろう。取り敢えず今は、異変の首謀者の居場所を知れただけでもよしとしよう。
俺の後ろを真っ直ぐと指差して嫌味っぽく藤原は言うと、カロと戯れてたバク君に近づく。そして、バク君の首根っこを掴むと、片手で持ち上げた。
「ほら、さっさと修行に移るよ」
「いきなり掴むなよ。驚くだろ」
「これくらいで驚くわけ無いでしょう。そんな柔な鍛え方なんかしてないんだから」
藤原とバク君がカロから離れたので、俺はカロの下へと向かう。
「鍛え方の問題じゃない。心の気構えの問題だ。誰でもいきなり首根っこ掴まれたら驚くだろう」
「私は驚かないけどね」
……ふむ、いい師弟関係だこと。バク君と藤原は相性ピッタリなんじゃないか?
二、三再び言い合いをした所で、藤原は何か閃いたのか、バク君を離すと、俺に向かって指差した。
「いいこと思いついた。バク、鏡夜と弾幕ごっこで戦いなよ」
「なッ!?」
「へ~」
それは面白い。藤原との修行でどれほど強くなったのか、見せてもらおうか。
「ちょ、ちょっと待って! どうして俺が鏡夜と……」
「いいじゃない。憧れの人なんでしょう? どれくらい強くなったか見てもらいなさいよ……鏡夜は別にいいでしょう?」
「構わない。むしろ、望むところだよ。どれほど強くなったか、見せてご覧よ」
挑発的に手をバク君に向けて真っ直ぐと伸ばし、指をクイクイっと動かす。
「……分かった。やってやる。見せてやる。この半年でどれだけ強くなったか」
緑色の着物の腕を捲り、意気揚々と前に出てくる。
「グル……」
早く行かなくていいのかと聞いてくるカロ。
確かに早くこの異変を解決しに行かねばならないが……男には、他の事よりも優先して受けなければならない戦いというものがあるんだよ。
「すまない。多少遅くなるが、待っていてくれ。この勝負はやらなきゃいけない戦いだ」
「グル」
そう、とだけ言ってカロは下がってくれる。ありがとう、カロ。
「被弾数は三まで。スペルカードは五枚。いいかな?」
「いい。それでやってやる!」
「ふふふ、いい闘気だ。……では、始めようか」
狭いここではなく、例の物理有りの空間へと行くためのスペルカードを取り出し、放り投げる。
「さあ、どれほど強くなったか、見せてもらおうか。バク君!」
次回はバク君との戦闘回。
感想、アドバイス、誤字、お待ちしております。