ソードアート・オンライン ~時を越えた青薔薇の剣士~   作:クロス・アラベル

97 / 119
大変長らくお待たせいたしました
実習を終えたのでようやく投稿出来ました。
本編のほうを、どうぞ〜


聖騎士の正体

 

 

 

「_____犠牲者は!?」

 

ボスがポリゴン片となり爆散した直後。

キリトはディアベルに問う。

「ゼロ…の筈だ。人数は減っていない……俺たちの勝利だ!!」

ディアベルの勝利宣言に全員がわっと湧く。

ディアベル自身、《完全勝利》と言いたかっただろうが、先遣隊が全員死亡しているが故に、そうは言えなかった。

 

「_____せ、先輩」

「ああ。お疲れ様、ロニエ………毎度の如く疲れるな…」

「そうですね…あ、先輩、とりあえず回復を…!」

「ん、そうだな。ボス戦終わったとはいえ、最低限回復しておかないと」

キリトはロニエに言われて2人一緒にポーションを飲み干す。そこで初めて、今飲んだポーションが最後の一本だったことに気が付いた。

 

攻略組全員が激しく疲弊しているようだったが、それでも死闘の果てに手にした勝利に皆が諸手を挙げて喜んだ。

 

ハイタッチしたり、抱きしめあったり。

それぞれが喜びを分かちあった。

 

「_____お前も生きてて良かったよ、相棒」

「_____うん。ありがとう、キリト」

「何言ってるんだよ。礼を言うのは俺……いや、俺たちの方だぜ?」

キリトとユージオはへたり込みながらもハイタッチして勝利を喜んだ。

「お前があの時______時間を稼いでくれなかったら、間違いなく全員死んでた」

 

事実、あの時間稼ぎが無ければ、確実に全滅していただろう。全滅を逃れたとしても、逃げ道のないこのボス部屋で半分以下になったそのメンバーでは、勝つ事など出来なかった。

 

「____まぁ、馬鹿みたいに無理してた件については後で説教するとして」

「え」

「当たり前だろ」

「うっ」

「ティーゼがあんなに心配してたんだぞ……もう、目を離したら飛び込んで行きそうで怖かった。いや、俺も人の事言えないんだけどさ」

キリトにデコピンされて思わず額に手を当てるユージオ。

彼もわかっている。

彼女にどれだけ心配をかけさせたか。心配性のティーゼには、心臓に悪かっただろう。

 

「______しかし、これじゃ先が思いやられる」

「……確かに。あと25層もあるんだよね」

「いつか、犠牲者が出るだろうからな。そうならないように、頑張りたいけどさ」

懸念があるとすれば_____まだ、4分の1が残っているこの現状。

まだ、100層には程遠い。

今回のボス戦よりも、強いボス達がこの上で待ち構えているのだ。ここで躓いている訳には行かない。

 

「_____」

 

攻略組の面々のHPゲージを見てみると、ユージオ達に負けず劣らずの減り具合だった。

攻撃を受けないように気をつけているとはいえ、掠る程度は受けてしまう。

それに、タンク隊は特にHPが減っている。

完全な防御を何度も成功させてきた猛者達だが、その防御時の余波ダメージは相当なものだった。

 

ほとんどの者がHPを減らし、疲れを顔に隠せない中______

 

一人、毅然と立ち、攻略組の面々を俯瞰する男が居た。

 

ヒースクリフ。

彼だけは、消耗している様子はなかった。

確かに彼もHPがかなり減っているが、半分以下にはなっていない。

いや、そもそも________

 

 

()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()

 

ユージオ達でさえ、2人がかりで防いでいたあの大鎌をたった1人で防ぎきっていた。

確かに、彼なら出来なくもないだろうが_______しかし。

 

ユージオには、何か漠然と頭の中に残る違和感があった。

 

例え彼がどれだけ強くても______初見のボスの攻撃を防ぐことは出来るだろうか?

初めてのボスに対して、彼は果敢にも全ての攻撃を防いでいた。

まるで。

 

「______知っ、ていた…?」

 

全て知っていたかのように、思えて。

直後、

 

「____ぅっ…!!」

 

ユージオを襲う頭痛。

再び、未来(キリト)の記憶の蓋が開く。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

キリトと向かい合うのは_____ヒースクリフ。

周りには攻略組の面々が倒れている。

そんな中、二人は剣を交える。

 

キリトは、ヒースクリフを『敵』として。

ヒースクリフは、キリトを『好敵手』として。

 

完全なる護り。

磐石なる絶対の壁を前に、焦りを募らせるキリト。

苦し紛れに放たれた剣技は全て受け止められ、最後の一撃を正面から止められて_____剣の刀身が、半ばからへし折れる。

完全に防御され、行き場を失った力は失速し、使い手に一瞬の______しかし、大き過ぎる硬直時間()を生み出してしまった。

 

ヒースクリフがその隙を逃す筈もなく。

 

ソードスキルを回避行動すら取れないまま_______

 

 

受けなかった。

 

いや、アスナが庇ってしまった。

 

キリトはアスナを抱きとめるが、アスナのHPゲージはゼロになり____

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

「______っ!?」

ユージオは、遂に真相に辿り着いた。

キリトの記憶は、映像、音声がバラバラに伝わる。大体は映像が必ず入って、音声が欠けていることが何度もあったが_____今回は所々、声が聞こえた。そして_____キリトが感じた、激しくも荒々しい感情が。

 

《殺意》、《怒り》、《悲哀》。

 

キリトの記憶が正しければ。

彼こそが。

 

 

______本当の、敵。

 

「_____ユージオ」

「____もしかして、キリトもかい?」

キリトに声をかけられて、ユージオはようやく、キリトも同じ人物を見ていることに気がついた。

そして____キリトがその可能性に辿り着いてしまった事も。

 

「…俺が仕掛ける」

「ダメだよ。やるなら僕もやるさ」

「けど、間違ってたらお前まで…」

「その時は……そうだね、謝るしかないかな」

キリトはユージオにそう諭されて、決心して剣を掴む手に力を入れる。

 

「____もう一度、アレを使うよ。キリトはヒースクリフの背後から、僕は回り込んで斬り掛かる」

現在、ヒースクリフはキリト達とは真反対の方向を向いている。キリトならば、最速で一撃を取れるかもしれない。しかし____相手はあのヒースクリフ。最強の護りを持つプレイヤーだ。

故に、万全を期すために、ユージオが裏を取る。

今のヒースクリフはギリギリ半分を保っている状態。

今攻撃すれば____化けの皮が剥がれる。

 

静かに剣を抜き、左手に突き刺す。

それと同時に、スキルが発動し、剣が紅く染まる。

 

「___先輩?」

「ティーゼはここにいて。僕らだけで、行けるから」

ユージオは首を傾げるティーゼにそう言って_____

 

「______ッ!!」

駆け出した。

 

それと同時にキリトの剣が光を帯びる。

片手剣ソードスキル《レイジスパイク》、射程距離が優秀でなおかつ、発動までの時間が短い突進系ソードスキルだ。

「_____おおおッ!!」

 

最速の攻撃に___

「___!?」

ヒースクリフは、反応してのけた。

 

盾をすぐさま構え、右側へ回転するように振り返りキリトの剣を止める。

しかし_____キリトの攻撃がバレて防がれるのは承知の上だった。

当然だ。キリトにとっての本命は、ユージオなのだから。

 

「_____はあッ!!」

 

既に、背後には《血薔薇》を使ったユージオが回り込み、斬撃を放っていた。

 

「な_______!?」

 

キリトとの攻撃の誤差は一瞬。

剣は盾の中にしまっているので、剣では防げない。

(キリト)の予想と、ユージオが見た記憶(未来)

 

ヒースクリフは、ユージオの一撃を防ぐことは出来ず、それを右肩に受ける____筈だった。

 

 

ギィィイイイイン!!

 

そんな音と共に、ユージオの斬撃は何かに防がれた。

 

「えっ_____!?」

 

紫色の、半透明な障壁によって。

 

Immortal Object(不死存在)》。

紫色のシステムカラーによって障壁に書かれたその文字。

その名前の通りの効果を発揮する。通常ならば、街の中の建物や家具、街中のNPCなどに付与されるもの。

プレイヤーには、絶対に付与されることの無い属性。

 

誰の口から出た声だったか。

全員の時が止まる。

 

キリトとユージオを除いて。

ユージオはヒースクリフの横を通り過ぎてキリトの元へと跳びずさる。

 

「_____伝説、とまで言われてたアンタの正体が()()か。聞いて呆れるな」

「…説明をお願いします、ヒースクリフさん」

 

2人に睨めつけられて、驚愕するヒースクリフ。

「お、おい!キリの字……どういうことだよ!?」

クラインの悲鳴に近い声に、キリトが答える。

 

「クライン、この男には《伝説》とまで言われている逸話があるだろ。《HPゲージを1度も半損させたことがない》…ってやつさ。俺もすごいと思うよ。ダメージディーラーの俺だってレッドゾーンの全損ギリギリまでいったことがあるのに、タンクであるアンタが半損さえしないなんて考えづらかった。

まぁ、尾ひれがついた噂だって思えばなんともない。けど_____アンタ、特に今回は()()()()ぜ」

「____ヒースクリフさん、貴方は今回のボス戦で何度も単騎でボスの攻撃を防いできた。僕らからすれば感謝の念しかありません。けど______あなたは強すぎた。プレイヤー(僕ら)の域を超えてるんですよ」

 

2人の言葉を静かに聞き届けたヒースクリフは、ふむ、と頷いて2人を真っ直ぐに見つめて言った。

「続けてくれたまえ」

 

「……まず、アンタの《伝説》の正体はシステムによって半損(イエローゾーン)にまで落ちないように保護されているからこそだった。大方、元々アンタのHPゲージは俺たちより減りにくくなってるのもあるんだろう。

それでも即死攻撃に近いボス達の攻撃には耐えられないし、約半分まで減らされた状態で一撃を貰えば、イエローゾーンに入る。だから____より強い守りを設定した。それが、この《不死属性》の付与だった」

 

「ちょ、ちょっと待って、キリト君!なんで、そんな……!!」

アスナはまだ状況を飲み込めていないようだった。

当たり前だ。さっきまで仲間として戦っていた人が、同じ仲間によって敵の如く睨みつけているのだから。

「《不死属性》なんて、NPCや街のオブジェクト以外にはほとんど付与はされない______一部、例外を除いてな」

「____待ってくれ、キリト。その例外は、まさか」

ディアベルが、気付いた。

もう、この場のほとんどのプレイヤー達が気づき始めている。

 

「その例外っていうのが______この世界(アインクラッド)の唯一の管理者である()()()()、ただ一人だ」

 

「前から思ってたんだよ。茅場晶彦(アイツ)は今どこから俺達プレイヤーを観察し、世界を調整してるんだろうって。

確かに全ての調整をするのはいくら茅場晶彦でも不可能だ。だから何かの自立システムを使ってるんだろう。でも、どうやって見ているかは見当がつかなかった。

けど、良く考えれば分かる事だった。簡単な話________()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()…どんな子供だって知ってる。そんな心理を、俺は忘れていた。

どうなんだ______ヒースクリフ、いや、()()()()!!」

 

凍てつくように、静寂が訪れる。

全員が息を飲む。

「だ、団長……キリト君の言っていることは…本当なんですか…?」

恐る恐る、アスナが口を開く。

次の彼の行動で、全てが決まる。

いや、何を言おうと、決別してしまった。

 

既に、逃れられない《証拠》を、全員が見てしまった。

 

「______何故気付いたのか、参考までに聞かせてもらっていいかな?」

 

()()()()()

肯定しているのと変わらない台詞に、絶句する攻略組たち。

 

「……元より、アンタの《伝説》はあまり信じてなかったんだ。けど、ボス戦の度にイエローゾーンに入らないアンタを見て、眉唾物じゃなかったって分かった。純粋にすごいと思ったさ。けど______考えが変わったのは、例の決闘(デュエル)の時だ。アンタ、あの一瞬だけ速すぎたぜ」

 

「やはりそうだったか…私も不味いとは思っていたんだ。ユージオ君はどうなのかね?」

 

「______僕も、そこからです。キリトとあなたのデュエルを見て違和感に気付き始めて、そして、実際に剣を混じえて確信に変わった」

 

「…私としたことが、同じミスを2度も繰り返すとは、私も考えていなかったんだよ。2人の動きに圧倒されて、ついシステムのオーバーアシストを使ってしまった。キリト君の時は、対ソードスキルだったからね。一度使って、技後硬直にはまった君を攻撃すれば終わりだったんだが……

ユージオ君、キミは少し例外だったよ。あの戦い方には私も堪えた。純粋に敗北したと痛感したんだ」

苦笑いをしながら饒舌に話すヒースクリフ。

「…あれは、初見殺しっていうやつですよ。2度目になれば、僕は勝てない」

「いや、何度やってもアレに完全対応するのは不可能だ。アレも君の強さだとも」

 

まるで、何でもなかったかのように話を続けるヒースクリフに全員が畏怖した。

「いやはや、予定では95層に到達するまでは明かさないつもりだったのだがね。良い意味で予定が崩れたよ。これ程、看破されて嬉しく思ったことは無い」

ヒースクリフは攻略組のメンバー達を見回し、超然とした笑みを浮かべてこう宣言した。

 

 

「正解だよ、キリト君、ユージオ君。私こそが、《茅場晶彦》だよ。そして_______このアインクラッド100層の紅玉宮で君達を待つ筈だった、正真正銘《ラストボス》だ」

 

 

 


▲ページの一番上に飛ぶ
X(Twitter)で読了報告
感想を書く ※感想一覧 ※ログインせずに感想を書き込みたい場合はこちら
内容
0文字 10~5000文字
感想を書き込む前に 感想を投稿する際のガイドライン に違反していないか確認して下さい。
※展開予想はネタ潰しになるだけですので、感想欄ではご遠慮ください。