ソードアート・オンライン ~時を越えた青薔薇の剣士~ 作:クロス・アラベル
実習を終えたのでようやく投稿出来ました。
本編のほうを、どうぞ〜
○
「_____犠牲者は!?」
ボスがポリゴン片となり爆散した直後。
キリトはディアベルに問う。
「ゼロ…の筈だ。人数は減っていない……俺たちの勝利だ!!」
ディアベルの勝利宣言に全員がわっと湧く。
ディアベル自身、《完全勝利》と言いたかっただろうが、先遣隊が全員死亡しているが故に、そうは言えなかった。
「_____せ、先輩」
「ああ。お疲れ様、ロニエ………毎度の如く疲れるな…」
「そうですね…あ、先輩、とりあえず回復を…!」
「ん、そうだな。ボス戦終わったとはいえ、最低限回復しておかないと」
キリトはロニエに言われて2人一緒にポーションを飲み干す。そこで初めて、今飲んだポーションが最後の一本だったことに気が付いた。
攻略組全員が激しく疲弊しているようだったが、それでも死闘の果てに手にした勝利に皆が諸手を挙げて喜んだ。
ハイタッチしたり、抱きしめあったり。
それぞれが喜びを分かちあった。
「_____お前も生きてて良かったよ、相棒」
「_____うん。ありがとう、キリト」
「何言ってるんだよ。礼を言うのは俺……いや、俺たちの方だぜ?」
キリトとユージオはへたり込みながらもハイタッチして勝利を喜んだ。
「お前があの時______時間を稼いでくれなかったら、間違いなく全員死んでた」
事実、あの時間稼ぎが無ければ、確実に全滅していただろう。全滅を逃れたとしても、逃げ道のないこのボス部屋で半分以下になったそのメンバーでは、勝つ事など出来なかった。
「____まぁ、馬鹿みたいに無理してた件については後で説教するとして」
「え」
「当たり前だろ」
「うっ」
「ティーゼがあんなに心配してたんだぞ……もう、目を離したら飛び込んで行きそうで怖かった。いや、俺も人の事言えないんだけどさ」
キリトにデコピンされて思わず額に手を当てるユージオ。
彼もわかっている。
彼女にどれだけ心配をかけさせたか。心配性のティーゼには、心臓に悪かっただろう。
「______しかし、これじゃ先が思いやられる」
「……確かに。あと25層もあるんだよね」
「いつか、犠牲者が出るだろうからな。そうならないように、頑張りたいけどさ」
懸念があるとすれば_____まだ、4分の1が残っているこの現状。
まだ、100層には程遠い。
今回のボス戦よりも、強いボス達がこの上で待ち構えているのだ。ここで躓いている訳には行かない。
「_____」
攻略組の面々のHPゲージを見てみると、ユージオ達に負けず劣らずの減り具合だった。
攻撃を受けないように気をつけているとはいえ、掠る程度は受けてしまう。
それに、タンク隊は特にHPが減っている。
完全な防御を何度も成功させてきた猛者達だが、その防御時の余波ダメージは相当なものだった。
ほとんどの者がHPを減らし、疲れを顔に隠せない中______
一人、毅然と立ち、攻略組の面々を俯瞰する男が居た。
ヒースクリフ。
彼だけは、消耗している様子はなかった。
確かに彼もHPがかなり減っているが、半分以下にはなっていない。
いや、そもそも________
ユージオ達でさえ、2人がかりで防いでいたあの大鎌をたった1人で防ぎきっていた。
確かに、彼なら出来なくもないだろうが_______しかし。
ユージオには、何か漠然と頭の中に残る違和感があった。
例え彼がどれだけ強くても______初見のボスの攻撃を防ぐことは出来るだろうか?
初めてのボスに対して、彼は果敢にも全ての攻撃を防いでいた。
まるで。
「______知っ、ていた…?」
全て知っていたかのように、思えて。
直後、
「____ぅっ…!!」
ユージオを襲う頭痛。
再び、
キリトと向かい合うのは_____ヒースクリフ。
周りには攻略組の面々が倒れている。
そんな中、二人は剣を交える。
キリトは、ヒースクリフを『敵』として。
ヒースクリフは、キリトを『好敵手』として。
完全なる護り。
磐石なる絶対の壁を前に、焦りを募らせるキリト。
苦し紛れに放たれた剣技は全て受け止められ、最後の一撃を正面から止められて_____剣の刀身が、半ばからへし折れる。
完全に防御され、行き場を失った力は失速し、使い手に一瞬の______しかし、大き過ぎる
ヒースクリフがその隙を逃す筈もなく。
ソードスキルを回避行動すら取れないまま_______
受けなかった。
いや、アスナが庇ってしまった。
キリトはアスナを抱きとめるが、アスナのHPゲージはゼロになり____
「______っ!?」
ユージオは、遂に真相に辿り着いた。
キリトの記憶は、映像、音声がバラバラに伝わる。大体は映像が必ず入って、音声が欠けていることが何度もあったが_____今回は所々、声が聞こえた。そして_____キリトが感じた、激しくも荒々しい感情が。
《殺意》、《怒り》、《悲哀》。
キリトの記憶が正しければ。
彼こそが。
______本当の、敵。
「_____ユージオ」
「____もしかして、キリトもかい?」
キリトに声をかけられて、ユージオはようやく、キリトも同じ人物を見ていることに気がついた。
そして____キリトがその可能性に辿り着いてしまった事も。
「…俺が仕掛ける」
「ダメだよ。やるなら僕もやるさ」
「けど、間違ってたらお前まで…」
「その時は……そうだね、謝るしかないかな」
キリトはユージオにそう諭されて、決心して剣を掴む手に力を入れる。
「____もう一度、アレを使うよ。キリトはヒースクリフの背後から、僕は回り込んで斬り掛かる」
現在、ヒースクリフはキリト達とは真反対の方向を向いている。キリトならば、最速で一撃を取れるかもしれない。しかし____相手はあのヒースクリフ。最強の護りを持つプレイヤーだ。
故に、万全を期すために、ユージオが裏を取る。
今のヒースクリフはギリギリ半分を保っている状態。
今攻撃すれば____化けの皮が剥がれる。
静かに剣を抜き、左手に突き刺す。
それと同時に、スキルが発動し、剣が紅く染まる。
「___先輩?」
「ティーゼはここにいて。僕らだけで、行けるから」
ユージオは首を傾げるティーゼにそう言って_____
「______ッ!!」
駆け出した。
それと同時にキリトの剣が光を帯びる。
片手剣ソードスキル《レイジスパイク》、射程距離が優秀でなおかつ、発動までの時間が短い突進系ソードスキルだ。
「_____おおおッ!!」
最速の攻撃に___
「___!?」
ヒースクリフは、反応してのけた。
盾をすぐさま構え、右側へ回転するように振り返りキリトの剣を止める。
しかし_____キリトの攻撃がバレて防がれるのは承知の上だった。
当然だ。キリトにとっての本命は、ユージオなのだから。
「_____はあッ!!」
既に、背後には《血薔薇》を使ったユージオが回り込み、斬撃を放っていた。
「な_______!?」
キリトとの攻撃の誤差は一瞬。
剣は盾の中にしまっているので、剣では防げない。
ヒースクリフは、ユージオの一撃を防ぐことは出来ず、それを右肩に受ける____筈だった。
ギィィイイイイン!!
そんな音と共に、ユージオの斬撃は何かに防がれた。
「えっ_____!?」
紫色の、半透明な障壁によって。
《
紫色のシステムカラーによって障壁に書かれたその文字。
その名前の通りの効果を発揮する。通常ならば、街の中の建物や家具、街中のNPCなどに付与されるもの。
プレイヤーには、絶対に付与されることの無い属性。
誰の口から出た声だったか。
全員の時が止まる。
キリトとユージオを除いて。
ユージオはヒースクリフの横を通り過ぎてキリトの元へと跳びずさる。
「_____伝説、とまで言われてたアンタの正体が
「…説明をお願いします、ヒースクリフさん」
2人に睨めつけられて、驚愕するヒースクリフ。
「お、おい!キリの字……どういうことだよ!?」
クラインの悲鳴に近い声に、キリトが答える。
「クライン、この男には《伝説》とまで言われている逸話があるだろ。《HPゲージを1度も半損させたことがない》…ってやつさ。俺もすごいと思うよ。ダメージディーラーの俺だってレッドゾーンの全損ギリギリまでいったことがあるのに、タンクであるアンタが半損さえしないなんて考えづらかった。
まぁ、尾ひれがついた噂だって思えばなんともない。けど_____アンタ、特に今回は
「____ヒースクリフさん、貴方は今回のボス戦で何度も単騎でボスの攻撃を防いできた。僕らからすれば感謝の念しかありません。けど______あなたは強すぎた。
2人の言葉を静かに聞き届けたヒースクリフは、ふむ、と頷いて2人を真っ直ぐに見つめて言った。
「続けてくれたまえ」
「……まず、アンタの《伝説》の正体はシステムによって
それでも即死攻撃に近いボス達の攻撃には耐えられないし、約半分まで減らされた状態で一撃を貰えば、イエローゾーンに入る。だから____より強い守りを設定した。それが、この《不死属性》の付与だった」
「ちょ、ちょっと待って、キリト君!なんで、そんな……!!」
アスナはまだ状況を飲み込めていないようだった。
当たり前だ。さっきまで仲間として戦っていた人が、同じ仲間によって敵の如く睨みつけているのだから。
「《不死属性》なんて、NPCや街のオブジェクト以外にはほとんど付与はされない______一部、例外を除いてな」
「____待ってくれ、キリト。その例外は、まさか」
ディアベルが、気付いた。
もう、この場のほとんどのプレイヤー達が気づき始めている。
「その例外っていうのが______この
「前から思ってたんだよ。
確かに全ての調整をするのはいくら茅場晶彦でも不可能だ。だから何かの自立システムを使ってるんだろう。でも、どうやって見ているかは見当がつかなかった。
けど、良く考えれば分かる事だった。簡単な話________
どうなんだ______ヒースクリフ、いや、
凍てつくように、静寂が訪れる。
全員が息を飲む。
「だ、団長……キリト君の言っていることは…本当なんですか…?」
恐る恐る、アスナが口を開く。
次の彼の行動で、全てが決まる。
いや、何を言おうと、決別してしまった。
既に、逃れられない《証拠》を、全員が見てしまった。
「______何故気付いたのか、参考までに聞かせてもらっていいかな?」
肯定しているのと変わらない台詞に、絶句する攻略組たち。
「……元より、アンタの《伝説》はあまり信じてなかったんだ。けど、ボス戦の度にイエローゾーンに入らないアンタを見て、眉唾物じゃなかったって分かった。純粋にすごいと思ったさ。けど______考えが変わったのは、例の
「やはりそうだったか…私も不味いとは思っていたんだ。ユージオ君はどうなのかね?」
「______僕も、そこからです。キリトとあなたのデュエルを見て違和感に気付き始めて、そして、実際に剣を混じえて確信に変わった」
「…私としたことが、同じミスを2度も繰り返すとは、私も考えていなかったんだよ。2人の動きに圧倒されて、ついシステムのオーバーアシストを使ってしまった。キリト君の時は、対ソードスキルだったからね。一度使って、技後硬直にはまった君を攻撃すれば終わりだったんだが……
ユージオ君、キミは少し例外だったよ。あの戦い方には私も堪えた。純粋に敗北したと痛感したんだ」
苦笑いをしながら饒舌に話すヒースクリフ。
「…あれは、初見殺しっていうやつですよ。2度目になれば、僕は勝てない」
「いや、何度やってもアレに完全対応するのは不可能だ。アレも君の強さだとも」
まるで、何でもなかったかのように話を続けるヒースクリフに全員が畏怖した。
「いやはや、予定では95層に到達するまでは明かさないつもりだったのだがね。良い意味で予定が崩れたよ。これ程、看破されて嬉しく思ったことは無い」
ヒースクリフは攻略組のメンバー達を見回し、超然とした笑みを浮かべてこう宣言した。
「正解だよ、キリト君、ユージオ君。私こそが、《茅場晶彦》だよ。そして_______このアインクラッド100層の紅玉宮で君達を待つ筈だった、正真正銘《ラストボス》だ」