ソードアート・オンライン ~時を越えた青薔薇の剣士~ 作:クロス・アラベル
今回から次回も立て続けにシリアスです。
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「____おりゃぁぁぁぁぁぁあ!!」
薄暗いダンジョンの中。
斬撃が緑色の生き物を吹き飛ばした。
「おらぁぁぁぁぁあああああ!!」
十体以上いたカエル型モンスターはキリトの二刀流によって蹂躙されていた。
エリュシデータで吹き飛ばし、残りをダークリパルサーで切り刻む。
「___このままのペースなら、すぐ追いつけそうですね」
ロニエがユイをおんぶしながら言った。
「確か、ここのダンジョンに前に来たのが4ヶ月前だったわよね。その時は私達もそんなにレベル高くなかったからレベル的にいい塩梅だったんだけど……今となっては、全然ね…」
「…やっぱり凄いですね。あれだけいたモンスター達をものの一分で…!」
ユリエールが感嘆する。
あれから、最後の少女《ミナ》の救助のためにすぐさまダンジョンに乗り込んできた一行。
サーシャ達はそこまでレベルが高くないので同伴はしなかった。
しかし、ユリエールはついて行かせて欲しいとのことだったのでパーティに加えている。
ユリエールのレベルは70を少し超える程度。
対してここのダンジョンのモンスターの平均レベルが60を超えるくらい。
なので安全マージンのレベル____適正レベルの10超えは達成しているし、モンスターも倒せるが、それは一対一の話。ここのダンジョンは特にモンスターの湧きが多く、少し彼女には荷が重い。が、ユリエールの上司であり恋人であるシンカーという幹部からの頼みで『これもこちらの仕事だったものだからね、一応一人は付いていて欲しい』とのこと。
因みにシンカーは他のオプリチニクへの対応で東奔西走している。
彼も苦労人だ。
そして、このダンジョンに似合わない子供が二人。
ユイとシャロである。
この二人は、キリト達に着いていく!と珍しく頑固に言って聞いてくれなかったので、仕方なくだ。
絶対にロニエとティーゼの言うことを守るように、と強く言われている。
「___やっぱり、これは捨てましょう」
「え、なんでだよ!いいじゃん、スカペントードの肉…ゲテモノ程美味いって言うし…」
アイテムストレージを見ながら無慈悲に先程のカエルのドロップアイテム___《スカペンジ・トードの肉》をゴミ箱へと入れるロニエ。キリトは思わず悲鳴をあげた。
「駄目です!私達だけだったらともかく、ユイにもシャロちゃんにも教育によくありません!!先輩がこれを食べてるってユイが聞いたらどう思いますか!?」
「えぇ……いや、うん。確かにそうだけどさぁ…」
が、ロニエのド正論に対して答えあぐねるキリト。
流石にユイのことを思うと、少し戸惑いがあるようだ。
「後で隠してアイテムストレージに入れようとしてとダメですからね!」
「…はーい…」
「キリトってば、こういうの好きだよね。随分と前にも気持ち悪いの食べてなかったっけ?確か____《アースワームの腸》…だよね」
「_____思い出すだけで寒気がします…」
キリトのゲテモノ好きはユージオ達も引くレベル。
47層攻略時にドロップした《アースワームの腸》。それを見た時は女子達は卒倒しそうになったという。
「いや、あれはかなりのレアアイテムなんだって!!俺が馬鹿なこと言ってそのまま食べようとしてたけど、アレ乾燥させて潰して粉にしたら5種類くらいバフかかる漢方に早変わりしてたんだぜ!?」
「いや……さすがの僕も生理的に受け付けないよ…」
「もう!こんなのはダメです!料理する側のことも考えてください!」
「…すいません」
怒られてシュンとするキリト。
それを見て「ふふふ」とユリエールは笑った。
「___さて、早く進まないとな。まだ生命の碑の名前に線が引かれていないとはいえ、怖い筈だ。ちょっとスピード上げるぞ!」
「はいっ」
キリトは再び現れたカエル型のモンスターを一掃して、駆け出した。
パーティ的にはキリトが前衛、ユイとシャロの面倒を見なければならないロニエとティーゼ、ユリエールは中衛、ユージオが後衛を務めている。
このダンジョンは六十層程度のレベルなのでキリトたちからすれば結構楽勝だ。
今は人命救助。スピードが優先される。
お喋りの余裕はない。
ミナ、という女の子はオプリチニクの連中に連れていかれてしまった。
情報によるとオプリチニクの平均レベルは60を超える程度とそこまで高くない。故にこのダンジョンで生き残れるか怪しい。
運が悪ければ_____オプリチニク諸共、少女まで死んでいる可能性もある。
さすがのキリトも焦りを隠せなかった。
「______索敵スキルに反応ありだ!!」
「数は一人……もしかして…」
「急ぐぞ!!」
その数分後。
一行は第4層目までやって来た。
「キリトさん!その先はマッピングがまだされていない、未開拓領域です!気をつけてください!」
「ああ!」
索敵スキルにプレイヤー反応あり。
そのプレイヤーはまだマッピングされていない通路の先にいた。
ダンジョンを攻略するにあたって、マッピングはかかせない。
ダンジョンは複雑かつ、広い。
この地下ダンジョンは特にだ。
このダンジョンを後から攻略するプレイヤーに対しての助けになるように、と各ダンジョンのマッピング情報は無料で配布されている。
このような高難易度なダンジョンの場合は話はべつだが。
「____一人、か」
そして、この状況で疑問を持つべきものは一つ。
女の子を連れ去ったのは五人。
なのに反応は一つだけ。
隠蔽スキルがどれだけ高くても、索敵スキルを
「____見えたよ、キリト!」
「!」
通路の先、1箇所だけが明るい。
よく見ると、扉のような形をしている。
そこに立つ____人影。
いや、立っているのではない。
へたりこんでいる。
「____あれ、子供だ」
近付くにつれて見えてくるその人影は、大人とはかけ離れた、子供のものだった。
泣いているのか。
「キリト、急ごう!!」
「ああ!!」
急ぐ一行。
と、その時。
「_____ッ!!」
ユージオの頭に頭痛が走った。
そして、頭に流れ込んでくる記憶。
その濁流に飲まれそうになりながら、ユージオは見た。
見えるのは、黒いローブを着た巨大な何か。
翻る大鎌。
黒光りする刃。
倒れ込むアスナ。
そして_____
「_____不味い…っ!?」
ユージオは咄嗟に剣を抜き、およそ
直後。
「____ぎッ!?」
重過ぎる一撃がキリトを庇おうとしたユージオを吹き飛ばした。
「___ユージオ!?」
視界外へ消えるユージオにキリトは愛剣を抜剣し、戦闘態勢へ。
「先輩っ!!」
ティーゼの悲鳴。
駆け寄るロニエ。
ユリエールもそれに続くがキリトが対峙しているものを見て、戦慄した。
どこからともなく現れる、黒く大きな影。
黒光りする刃。
漆黒のローブ。
フードの影、その向こうで_____頭蓋骨が笑っている。
カタカタ、と。
がらんどうのハズの目は紅く光り、その骨しかない体では扱いきれない筈の巨大な大鎌が振り上げられる____
「____っぐ、ぉ!?」
その一撃を二刀をもってギリギリで受け止めるキリト。しかし___
「がァ____!?」
拮抗するのも一瞬だけだった。
ユージオと同じようにキリトは吹き飛ばされた。
「____ユリエールさん、二人をお願いします」
ロニエは咄嗟にユイをユリエールに投げ渡し、抜剣した。
ティーゼも同じく。
「____ぁ、はいッ!?」
子供二人を一気に受け取ったユリエールは光の見える向こう____おおよそ女の子が泣きながら待っているであろう場所へと走り出した。
「…っ!!」
「…やぁッ!!」
2人は直感で理解した。
故に狙うは討伐ではなく、キリトとユージオが撤退又は復帰出来るまでの時間稼ぎ。
そして、この戦闘において最重要とすべき事。それは
キリトとユージオがどれだけダメージを受けたかは、パーティを組んだので視界右上を見ればわかる。
たった一撃____それも二人の凄まじい反射神経と瞬発力で防御し、流すように受けてダメージを受けないように最大限の判断をした上で、このダメージ量。
マトモに受ければ、即死も有り得る。
『______ !!』
______
「「_______!?」」
たったそれだけで、2人は吹き飛ばされた。
防御姿勢をとって、吹き飛ばされぬようにと構えた筈が___均衡したのはやはり一瞬。
レベルが120を超えている4人でさえ、一撃で押し負ける相手。
ここまでで、10秒。
ユリエールと二人の娘の逃げる時間を稼ぐのには充分だった。
「_____っ、!!」
ロニエとティーゼと入れ替わるように戦線に戻るキリト。
「___キリト!!」
「ああ、コイツ______ヤバい奴だ、俺の識別スキルでもレベルが分からない」
「少なくとも、90層レベルではあるよね」
「ユイ達は……逃げ切れたよな?」
「うん。後は、僕らが撤退するだけ……」
ユイ達は既に目的地に辿り着いた。
多分、あの場所は《安全地帯》だ。
今キリトたちの目の前で立ちはだかる
しかし、あの子は死んでいない。
何故なのか。
それは、あの場所がモンスターが入って来れない《安全地帯》だからだ。
そして____何故あのオプリチニクの男たちが居ないのかに関しては……およそ、あの安全地帯にたどり着くまでに、殺されてしまったか。
自業自得、それ相応の最期だ。
しかし_____このままでは、キリトたちもその後に続いてしまう。
「_____ロニエとティーゼが撤退するまでの時間、稼ぐか」
「うん、そうしようか」
だから_____己の愛する人を守る。
今は、それだけ。
『_______』
からから、と骨を揺らして不気味に嗤う死神。
まるで、二人の覚悟を嘲笑うかのようだった。
奴の一撃の重さは埒外。
防御姿勢のまま、最大限にダメージを抑えたというのにそれでも5割を削ってくる。
およそ_____次受ければ、死ぬ。
回復の隙は無い。
「____っ」
思わずユージオは唇を噛んだ。
条件が揃えば、ユージオの
条件と言っても、システム的に絶対必要になる訳では無い。が、それを満たしていないと、1分と保たない。
現時点で使うのは自殺行為だった。
思考を巡らせていたユージオ。
それを遮るように、彼女は声を上げる。
「_____嫌」
「___ティーゼ……?」
吹き飛ばされた彼女はユージオを守ろうと、剣をとる。
「もう_____あたしが何も出来ないせいで、先輩失うなんて……嫌です___!!」
吼える。
彼女にとって_____ユージオの死は防ぎようのないものだった。
しかし、防げたとしたら。
あの結末を回避出来たのなら。
セントラルカセドラルの戦いへと行かなければ。
_____自分たちが、
あんな離別など、無かったかもしれない。
しかし、過去を嘆いても何も変わらない。
故に、彼女にとって《今》こそが最も護るべきもの。
あの時の弱さは___彼女にとって忌避するものだった。
『力が無かったから、愛する人を守れなかった』
そんなこと、彼女はもう許容出来ない。
「死ぬなら_____足掻いて、抗って、先輩を守りたい……!!」
《後悔》なんて、もうしたくないから。
「_______ありがとう、ティーゼ」
「ロニエ、駄目だ!逃げ____」
「嫌、です」
ロニエも同じだった。
「でもっ」
「先輩は……1人で背負い過ぎなんです。何時もいつも、辛いことを自分だけで背負おうとして……挫けそうになって」
アンダーワールドではあまり見れなかったその素顔。
代表剣士として、アンダーワールドを統べようと東奔西走した日々。
その中で時折見せた、辛そうな表情。
それを見てきたから。
だからこそ______
「___別に、俺は…」
「
大人なキリトを見てきたロニエにとって、
必死に自分を取り繕おうと、背伸びしても。
彼女にとって、それはあまりにも痛々し過ぎた。
今の彼の正確な年齢は分からないけれど。
彼はまだ、
ならば____
今、
「___ロニエ」
「私は____もう、何もしないまま…後悔したくない!!」
彼女は決めた。
キリトの隣にいると_______彼を支えたい、その重荷を一緒に背負いたいと。
「_____ユイ達に謝らないとな」
「___はい」
『_____ !!』
振り上げられる黒い刃の大鎌。
刻一刻と迫る、死。
「____行くぞ」
死を覚悟し、剣を構える。
死神は、無慈悲にその
しかし、届かない。
キリトたちを殺すハズの刃は_______何かにぶつかるようにして止まっていた。
「何、が……」
___起こったのか。
理解が追いつかない4人を後目に_____小さな身体が躍り出る。
「______ユイ?」
「______シャロ…?」
死神の刃を止めたのは。
「_____ 」
「_____ 」
《安全地帯》に逃げ込んでいる筈の、ユイと、シャロだった。
「どうし、て……!?」
キリトが振り向く。キリトたちの後方___安全地帯で一緒にいたはずのユリエールは、既にいなかった。
その向こうには黒いワープゲート。
回廊結晶を使ったのだろう。しかし、あれは一方通行だ。回廊結晶を使った方からしかゲートを通ることは出来ない。
もしかすると、回廊結晶を使ってゲートを開け、ユリエールが先頭をきって入ったまま……ユイ達がゲートに入らなかったんだろう。
しかし、それよりもおかしいのは_____目の前の死神の大鎌を紫色の半透明な壁で防ぎきったユイとシャロだ。
ユイとシャロには大鎌の斬撃は届いていない。
その紫色の壁。
それに、キリトたちは見覚えがあった。
「ぃ、《
そう、NPCやプレイヤーハウスに攻撃した時などに出る、保護システムの表示。
圏内であれば出るだろうが、ここはダンジョン。圏外だ。
理解が追いつかない4人をおいて、ユイとシャロは行動を開始した。
「_____オブジェクト、《Atlach・Nacha's knife》を
そう、シャロの口から流暢な英語が聞こえた直後。
シャロの右手から黒いナイフがどこからともなく現れた。
ぴちょり、と何か黒い液体が滴り落ちる。
それを____死神の大鎌を持っていた腕に突き刺した。
『___________!?』
直後、死神が
ジュウ、と何かが焼けるような、溶けるような音がダンジョンに響く。
次に動いたのは____
「
ユイがふわりと飛び上がり、炎と共に何かを呼び出した。
大剣。
ユイの倍はあるだろう刀身___炎を纏ったそれを、悶え苦しむ死神に無慈悲に振り下ろす。
『~~〜~~~〜~~ッッ!?』
それを脳天に受けた死神は、断末魔を上げながらその剣に一刀両断され、燃え尽きて行った。
「____ぁ」
誰の口から零れたものだったか。
呆然とする四人。
この状況に理解が追いつかない。
しかし、これだけは悟ってしまった。
______嗚呼、あの今までの時間はもう。
終わってしまったのだと。
「_____ごめんなさい、パパ、ママ。全部…思い出したよ」
ユイの舌足らずなあの声は既に無く。
悲しげな表情で、キリトとロニエに振り返る。
「________ 」
無言で消えていった死神、その残り火を見つめるシャロ。
その横顔は、ティーゼの知らない顔で_______ユージオにとって、どこかで見たことのあるようなものだった。
「シャロ…」
「_________ごめんなさい、
「___ぇ?」
幼い声、では無い。
落ち着いた、大人の女性の声。
申し訳なさげなその表情。
それが二人にとって。
____1番悲しかった。
茅場さん、攻略組の皆さんがレベル上がりすぎて急遽死神さんのレベルバカみたいに上げてます(白目)
次回は____遂に、あの子の正体が明かされる。