ソードアート・オンライン ~時を越えた青薔薇の剣士~ 作:クロス・アラベル
今回はお察しの通りユイちゃん編です。短めではありますがね…そして、ちょっと1つお話を繰り上げて書いていきたいと思います。
あのお話はユイちゃんが居なくなったあとの話ですが、ユイちゃんが居たらどうなるのかなー…と思いまして。そんなに変わらないとは思いますが…
○
「……ん、む…」
次の日のお昼。
キリトはロニエが用意してくれたサンドイッチを食べていた。
視線の先には___
「どう?美味しい、ユイ?」
「ん、ん、ん……ぉ、いしい…!」
「そっか!良かった」
まるで母娘のように食事を共にするロニエと件の少女___ユイの姿があった。
「…ホント、
と、キリトは呟いた。
「先輩?」
「あ、いや、何でもないよ」
首を傾げてこちらを見るロニエ。
「…ぱぱ?」
「……ん?どうした、ユイ」
キリトを『ぱぱ』と呼ぶ彼女は、キリトが予想していたよりもかなり幼かった。
昨日、森の中で保護した彼女は今朝、目を覚ました。
名前はユイと言うらしく、それ以外についての記憶は一切憶えていなかった。
何故、この森で一人彷徨っていたのか。家族の安否は。
聞きたいことは色々あったが、最終的に自分の名前しか憶えていないことが分かってからは質問をすることははばかられた。
『記憶喪失』という物か。今の彼女に何を聞こうと無駄だ。何せ、憶えていない事を何度も、沢山聞かれても怖いだけだろう。
そして、初対面であるキリトとロニエを『ぱぱ』、『まま』と呼んだ。居ないはずの両親。それの面影を無意識に二人に重ねているのか。
それが、一番堪えた。
「……駄目だ。考えすぎて頭痛くなって来た」
辛すぎる現実。仮想世界にいるというのに、こんな非情な現実に晒されようとは。
とりあえず、ユイについての情報を集めに第1層の始まりの街へ行くことはもう決まっている。が、今日目覚めたばかりのユイをいきなり始まりの街に連れていくのは、精神的に難しいのではないか。何せあの街は他の街よりも人が多い。前線に立てない人達が暮らす街。今では1000人以上のプレイヤー達がそこに留まっていると聞く。今は____静かなこの家で様子を見よう。そうキリトはロニエに提案した。
やがては始まりの街で情報収集を始めなければならないが、まずは人混みに慣れさせなければ。明日にでも村に出向こう、と心に決めるキリトだった。
「ぱぱ?」
「ん?」
と、考え事をしているとユイがこちらの顔を覗いていた。
「先輩、どうかしたんですか?」
「あ、ごめんごめん。ちょっと考え事してた」
キリトは謝りながら、ほいっ、とユイを抱っこして膝の上に座らせた。
「ユイ、ママのお昼ご飯は美味しかったか?」
「うんっ!おいしかったぁ!」
「そっかそっか!良かった」
「…ぱぱは、たべないの?」
「ん、勿論食べるよ。パパは食いしん坊だからなぁ!」
「…」(¯•ω•¯)じー
「…どした、ユイ」
「…ぱぱの、ゆいとままのとちがう」
ユイはキリトの手にあったサンドイッチ____ロニエがキリトのために作ったスパイスの効いた辛子マヨネーズいりの照り焼きサンドイッチを指さした。
「お、気付いたか。その通り。パパのは特別なんだ」
「……とく、べつ…!」
キリトの特別、という言葉にキラキラと目を輝かせる。
「…んっ!ゆいもほしい!」
「え」
「えっ」
そんなユイの要望に二人は困った声を漏らした。
「…ユイ。これはな、特別ではあるけどもだな。辛いぞ?舌がピリピリするぞ?」
「そ、そうなの!ユイ、これはパパにしか食べられないの。ユイはもうさっきママと一緒にパンケーキ食べたでしょう?」
「…むぅ……ぱぱとおんなじのがいい」
「む、ぬぅ…」
二人の制止を振り切って、両手でキリトのサンドイッチに手を伸ばす。
「……しょうが無いな。ユイがそこまで言うならあげよう。ただ、一口だけだぞ?パパもお腹すいてるからな」
「うん!」
「ちょ、先輩っ!」
「大丈夫、一口だけだから」
「ひとくち、だけ、だから!」
と、娘に甘い
ああっ、とロニエが声を上げる。
ロニエは知っているのだ。
キリトが辛いものが好きだということを。結構な辛さに味付けしてあるので、子供には辛いはずだ。
「_____っ、!!」
「…どうだ?」
「____お、ぃしい」
なんとも言えない表情で答えるユイ。
「そうかそうか!ユイもイケる口か!」
「そんなわけないじゃないですか!!」
キリトが笑顔で言うとロニエがキリトを叱り付ける。
「……んぅ…んっ」
もぐもぐ、とゆっくり辛いサンドイッチを咀嚼するユイ。
「ユイ、あんまり無理して食べちゃダメ。パパのはママも食べないんだから…!」
「…ぅん」
「ミルク飲む?」
「うんっ」
ユイはロニエに手渡された温かいミルクを飲む。
「先輩…夜ご飯作りませんよ?」
「すみません私が悪かったです申し訳ありませんでした猛省しております」
「……なら、いいですけど」
ジト目で怒られて早口で謝るキリト。ロニエには頭が上がらないようだ。
「…さて、ロニエ。ユイの事だけど」
「はい」
「…始まりの街に行くのは少し後にしたいんだ。今日はここで様子を見よう。何せ、ユイもあの人混みに突っ込むのはちょっと避けたい。パニックになってもおかしくないからさ」
「賛成です。いきなりは不味いです」
「ああ」
ロニエはキリトの提案に直ぐに同意してくれた。
「…これからどうする?ロニエ」
「そうですね…やることもありませんし、家でゆっくりしませんか?」
「んー…そうだなぁ…でも、それじゃあユイが暇だろ?」
「?」
「確かに…」
「…良かったらなんだけどさ、釣りいかないか?」
「釣り?」
「うん。昨日、釣りしてる人達がいたろ?俺も1回行っておきたいんだ。釣れれば今夜の夜ご飯にもなるし、一緒に行かないか?」
「うーん……やめておきます。私、今日の夕食の準備をしたくって」
SAOにおいて、料理とは実に短時間で出来る。いや、出来てしまう。その為、下準備という一つの工程が大幅にカットされるのだ。しかし、カットされないものもある。それが、食材に味を付け込ませる工程だ。肉などに味を付け込ませようとするとこちらでもかなり時間がかかる。
あとは、調味料の調合など。醤油やマヨネーズなど、女子達が作り上げたものは定期的に造り足していかなければならない。しかも、特定の味を再現するのはかなり複雑な調合を繰り返さなくてはならず、結構な時間がかかってしまう。
「…そっか。じゃ、ユイはお留守番かな」
「ぱぱ、どこかにいくの?」
「ああ。大っきい魚を釣り上げて美味しい晩飯をママに作ってもらうんだ。それまで待っててくれるか?」
身振り手振りでユイにも分かるようにキリトは説明する。
「ゆいもいっちゃ、だめ?」
「む。来てもいいけど、暇だぞー?何せ待ってるだけだからなぁ」
「ぱぱといっしょにいたい!」
「…可愛いこと言ってくれるな、ユイ…!」
と、釣りに一緒に行きたいとキリトの手を握るユイ。
「いいんじゃないですか、先輩。家にいてもユイが楽しめるようなことなんてないと思いますし、外の空気を吸う…いえ、気分転換にいいですね」
「暇なら湖のほとりで昼寝するのも一興だな」
「ぱぱといっしょに、おでかけ…!」
キラキラと目を輝かせるユイの頭を撫でるキリト。ロニエはそんな2人を微笑みながら見つめていた。
何かと心配していたのだが、そんな心配は無用だったらしい。まるで
「ん、じゃあ早速行くか。夕方には戻ると思うから」
「はい!楽しみに待ってますね♪」
「まま、いってきまーす!」
「うん!パパの言うことちゃんと聞いていい子にしてね?」
「うんっ!」
「よし、準備するものもほとんどないし、行こうか。ユイ」
「うん!」