ソードアート・オンライン ~時を越えた青薔薇の剣士~   作:クロス・アラベル

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さて、アニメ後半が始まりまして1話を見て早くも涙腺が崩壊寸前のクロス・アラベルでございます(泣)
それでは続きをどうぞ!


専門家の意見

 

「……ふむ、圏内殺人事件か。確かに不可解だ」

とあるアルゲードの小料理屋。そこに、キリト達とヒースクリフはいた。

「だろ?そもそもこの圏内ではHPゲージを1ポイントも減らすことは元々出来ないはずなんだよ」

「団長、どう感じますか?」

「……その前に、キリト君。君の推測から聞こう。君は今回の事件について、どう考えているのかな?」

ヒースクリフは自分の意見からではなく、キリトの憶測から聞くと言った。まるで学校の教師のようだ。

「俺が考えてるのは三つ、1つ、正当なデュエルによるもの、2つ、既知の手段を組み合わせたシステム上の抜け道。三つ……犯罪禁止区域(アンチクリミナルコード)を無効化する未知のスキル、またはアイテム、だな」

「では、3つ目の可能性については除外して良い」

キリトが三つの可能性を言った直後、彼は即座に3つ目の可能性を否定した。

「ヒースクリフさん、どうしてそう思ったんでしょうか」

「よく考えるといい。君たち自身がこのゲームを作るとしたら、そのようなスキル、武器を作るかね?」

「……まあ、無いな」

「理由は?」

ヒースクリフの言葉にキリトは渋々認め、理由を言った。

「理由は1つ。認めるのも癪だけど、このゲームは地獄が始まったあの日からこのSAOのルールは基本、公正さ(フェアネス)を貫いてきてる。それを急に覆すのは考えられないな。例外として、あんたの《神聖剣(ユニークスキル)》を除いてはな」

キリトはニヤリとしながらヒースクリフを見た。がヒースクリフの表情からは何も伺うことは出来なかった。

「流石に今の段階で3つ目の可能性について討論するのは無理があるかと……なので今回は1つ目の正当なデュエルによるPKについてから検討しましょう」

「よかろう……しかし、この店は料理が出てくるのが遅過ぎないか?」

やはりヒースクリフも気になったようだ。料理を頼んでかなり時間が経っている。

「俺はここのマスターがアインクラッドで1番やる気のないNPCだと確信してるね。まあ、そこも含めて楽しむといいよ。はい、氷水」

「ありがとう」

「ほら、アスナも」

「あ、ありがと」

「先輩、お水飲みすぎてお腹いっぱいになっちゃいますよ?これで3杯目ですし…」

まるでお母さんのような心配の仕方に少し口を尖らせてキリトは言った。

「これしかないし、しょうがないだろ」

そして、キリトは自らが見たことを説明し始めた。

「圏内でプレイヤーが死んだんなら、それこそデュエルの結果、ってのが常識だ。でも……これは断言する。カインズが死んだ時、WINNER表示はどこにも出てなかったぜ。そんなデュエル、あるのか?」

「そもそも、WINNER表示って、どこに出るものなの……?」

アスナの疑問にヒースクリフはすぐに答えた。

「決闘者同士の中間位置、あるいは決着時、2人の距離が10メートル以上離れている場合は双方の付近に2枚のウィンドウが表示される」

「なんでそれ知ってんだよ。まさか何回もデュエルして調べたのか……?あんた意外と暇人だったりして…」

半分ディスったようなセリフにアスナがキリトをギロリと睨む。

「そもそもあの広場でウィンドウを見た人はいなかったですし、アスナさんも教会の中でWINNER表示を見なかったんですよね?」

「ええ」

「じゃあ、デュエルの結果……とは言いづらいよな。ってことは…」

「ねえ、キリト君。店の選択を間違ってない?注文してから10分は経ってるよ?」

「……まあ、首がキリンになるまで気長に待とうぜ」

「先輩、それはそれで困ります」

真面目な話の合間合間に行われるコントに少し笑うヒースクリフ。

「気を取り直して……残るは2つ目……システム上の抜け道、だな。まあ、そうだろうとは思ってたけど…」

「……私、引っかかるのよね」

「何が?」

「《貫通継続ダメージ》よ。あれ、公開処刑の演出として……だけだと思えないの」

「……でも、1件だけだと判断しにくいな。これが立て続けに起こって全て貫通継続ダメージが利用されているとすれば確かに検討する価値はあるけど……確かに気になるっちゃあ、気になるなぁ…」

「……?」

その時、ロニエは何かを思い出したような気がした。

「どうした?ロニエ」

「いえ、その………何かを、思い出せそうな気がしたんですけど…いえ、何でもないです」

「何か思いついたら言ってくれよ?」

「そう言えば、貫通継続ダメージが圏内で続かないのは、さっきも試したから分かったことでしょ?」

「ああ、まあだいぶ前に俺が敵MOBの剣刺さった状態で圏内入ってもダメージ止まったしな」

「あれは心臓が止まりそうになりましたよ、先輩」

2ヶ月前、フィールドを攻略時、キリト達は偶然完全武装した人型MOB30体以上に総攻撃を受け、命からがら圏内に逃げたことがあった。その時もダメージは剣が背中に刺さっている状態でも止まっていた。

「でも、あれを転移結晶や回廊結晶で試したらどうなるのかしら…?」

「無論、ダメージは止まるとも」

アスナの疑問に再び鋭く答えを返すヒースクリフ。

「徒歩や回廊などのテレポートであろうと、あるいは誰かに投げ入れられたとしても……つまり街の中に入った時点でコードは例外無く適用される」

「……じゃあ、上はどうなるんだ?例えば上空100メートル以上…プレイヤーが落下ダメージで即死する高さからテレポートとした時、コードは発動するのか?」

純粋なキリトの疑問に今回は少し考えるような仕草を見せたが、ものの数秒で答えた。

「………厳密には《圏内》は街区の境界線から垂直に伸び、言うなれば空の蓋……つまり次層の底まで続く円柱状の空間を指す。その三次元座標に移動した瞬間、《コード》はその者を保護する。それが例え即死に値する高さからのテレポートであっても落下ダメージは発生しないことになる。」

「「へえー…」」

「……?」

すべての疑問に答えてみせたヒースクリフに感嘆の声を漏らすキリトとアスナ。ただし、ロニエはヒースクリフが何を言っているのかあまり理解出来なかったようだ。

「なら、こういうのはどうだ?」

「「?」」

「物凄い威力のクリティカルヒット食らった時って、HPバーってどうなる?」

「ごっそり減りますね」

「違うって。俺が言ってるのはその減り方だよ。このSAOは他のゲームと違ってHPゲージが一瞬で消えるんじゃなくて、右端からゆっくり減るだろ?つまり、ダメージを受けた瞬間とHPゲージが減るのにはちょっとしたタイムラグがあるわけだ」

ふたりはキリトの推理に耳を傾け、ヒースクリフも目を閉じ静かに聞いている。

「例えば、圏外でカインズのHPをあの槍の一撃で全部吹き飛ばしたとしよう。カインズはおおよそ壁戦士(タンク)だ。HPの総量を考えれば、HPが全て無くなるまで……5秒かかるかもしれない。その間に……」

「先輩、カインズさんは壁戦士(タンク)です。攻略組ではなかったにせよ、中層でもトップクラスと聞きました。そんな人のHPゲージを単発ソードスキルで削り切るのは無理があるかと…」

「…まあ、そこだよな。まあ、このSAOには何千人というプレイヤーがいるんだぜ?俺達…ひいては攻略組にも所属していない俺達も知らない、レベルが遥かに上の剣士がいないとも限らないだろ?」

ロニエの最もな意見に挫けず反論するが、やはり説得力がイマイチだ。

「そんな人が犯人だったら、私達じゃ止められないんじゃ…」

確かに、そんなプレイヤーがいたら恐怖でしかない。

「手法としては不可能ではない。だが、無論君を知っているだろう。貫通属性を持つ武器の性質を」

「…えっと、確か…リーチと装甲貫通力に特化している武器、ですね」

一年前にキリトに習った知識を使ってヒースクリフの言葉に答えるロニエ。

「その通りだ、ロニエ君。はっきり言って打撃武器や斬撃武器には単純な威力で劣る。重量級の大型ランスならともかく、ショートスピアなら尚更ではないかね?」

痛いところを突かれたな、とキリトは渋い顔をする。

「そのショートスピアが高級品ではないのだとして、ボリュームゾーンの壁戦士を一撃で即死させようと思えば……そうだな、現時点でレベル140はないと不可能だろうね」

「140………私達でさえレベル100になってまだ時間経ってないのに……!?」

140という誰も到達しえないであろうレベルにアスナが震えながら呟く。因みに攻略組のトッププレイヤー達は軒並みレベル90、キリト達に至っては2週間程前に100に到達したところだ。中層のプレイヤーも過去とは違い、平均レベルはかなり上がっている。

「十中八九そんなプレイヤーはいないだろうね。私もここまでレベルが高くなるとは思っていなかったのだよ」

ヒースクリフも同意見のようだ。最後の一言に鍵っていえば、製作者(茅場晶彦)としての感想も入っている。

「ならレベルじゃなくて、スキルって線はどうだ?……2人目の《ユニークスキル》の使い手が現れたってのは?」

「そんなプレイヤーがいたなら、私が即座にKoBに勧誘しているだろうね」

全ての推理を真っ向から全否定されたキリト。少し落ち込んだ。

「無理があるよなぁ……」

「……お待ち」

すると店の奥からおぼんに丼を4つ乗せて運んできたこの店の店主が現れた。いつも通りの接客態度で客に安心しているキリトとロニエ。

「おっ、キタキタ」

「15分もかかるってどういうことなの…?」

「シラネ」

「いつも通りですねー…」

アスナの疑問にふたりは遠い目をしながら答えた。

「……これは…」

「……ラーメン、なの…?」

「正確にはラーメン、のような何かだな」

4人は一斉にラーメンのような何か……通称《アルゲードそば》を啜る。勿論味はキリトの台詞を肯定するかの如く、なんとも微妙な味だ。常に表情が崩れないポーカーフェイスのヒースクリフも流石に顔をしかめた。

「さて、団長殿。閃いたことはあるかい?」

「……ふむ」

五、六分後。そのラーメン擬きを完食したヒースクリフは顰めた顔の状態で、答えた。

「一つだけ言えることは……これはラーメンでは無い」

「全く持って同意見だけどそっちかいな」

意外にも(ヒースクリフ)は天然なのかもしれないと4人は思った。

「ではこのラーメンもどきの味の分だけ答えることにしよう」

そして、彼は割り箸を丼に置き、答えた。

「今出揃っている材料のみで《何が起きたか》を断定することは不可能だ。だが、これだけは言える。この事件に関して絶対確実と言えるのは君らがその眼で見、その耳で聴いた一次情報のみである」

「は?」

キリト、特にロニエからすれば難し過ぎて何を言っているのか意味不明な説明だった。

「つまり、アインクラッドにて直接見聞きするものは全てコードに置換可能なデジタルデータであるということだ。そこに幻覚や幻聴が入ることはないと言っていい。だがしかし、その他のデジタルデータでない、あらゆる情報には常に、幻や嘘である可能性がある。この事件を追いかけるのならば、己の目や耳、つまるところ己の脳がダイレクトに受け取ったデータだけを信じることだ」

彼はそう言い残し、ご馳走様とだけ言って店を後にした。「なぜこんな店があるのだ…」とも言い残して。

「……どゆこと?」

「多分、自分たちがその場で見て、聞いた事だけを信じなさいって事じゃないかしら」

「…他の人から入手した情報は虚偽が入り込んでいる可能性が十分にある、ということですね」

「分かりやすく言ってくれよ……」

テーブルに突っ伏しながらキリトは帰ってしまったヒースクリフに愚痴を零した

 

 

 




ユージオを生き返らせる神聖術とかありませんかね(白目)

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