ソードアート・オンライン ~時を越えた青薔薇の剣士~   作:クロス・アラベル

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大変長らくお待たせしましたっ
スランプから舞い戻ったクロス・アラベルです!
今回のお話……原作を読んで理解しながら書こうと思っていたのですが、アレンジはどこで入れるかなどで結構悩んでしまいました。
さて、それではどうぞ~


事件発生

 

 

 

 

ユージオとティーゼが結婚し一時的に攻略組を離れて三日後。キリトとロニエは57層にて、「昼寝」を口実に惰眠を貪ろうと町外れの草原、その小柄な木の下で横になっていた。

「いやー、やっぱり気持ちがいいなぁ……最高の気温、湿度、風、太陽の光……!」

ロニエは寝そべるキリトを見て「もう、慣れた筈なのになぁ…」と呆れ気味だ。

「……」

「これぞ、昼寝日和だな」

「……先輩」

「ん?どうしたのかね、ロニエ君」

ロニエは少し不機嫌気味にキリトに意見する。

「今日は確か通常通り攻略する筈だったと思うんですが…」

「よく考えたまえ、ロニエ君。これ程の昼寝日和、1年に5日と無いだろう。ならば昼寝に徹するのが人の性だとは思わんかね?」

「いえ、その理屈を通すとなると…仕事を休むのに『今日は昼寝日和だから』なんて言う理由を上司に言うのと同じかと…」

「………いや、まあそうだけど…」

正論過ぎるロニエの言葉に詰まるキリト。

「…でも、大丈夫だよ。だって攻略組は俺とロニエだけじゃないだろう?ユージオとティーゼが一時攻略組を休んでるとしても沢山いる訳だし……例えば、ユウキとか、ランとか………あと、アスナとかさ」

子供の言い訳の如く口篭りながら話すキリトの後ろから新たな声が、キリトを追い詰めた。

「私が、何?キリト君」

「!?」

「あ、アスナさん!こんにちは」

ご本人登場である。

「よ、よう、アスナ。血盟騎士団の副団長様がなんでこんな所に…,」

「あなたを探しに来たに決まってるでしょう?」

「えっ……いや、なんで俺なんかを…」

「攻略組トッププレイヤーとして、攻略に参加しないってどういう事!?ロニエちゃんから聞いたわよ!!確かに今日は全体で参加する日じゃないのは分かるわ!けど、こんな所で呑気に昼寝って……!!」

ロニエはちゃっかり、アスナにチクっていたようだ。

「ろ、ロニエ……!言っちゃったのかよ…」

「はい、勿論です♪」

爽やかな笑顔で____目は笑っていないが_____ロニエは答えた。

「……ロニエの鬼ぃ…」

「さあ!今からでも来てもらうわよ!!!!」

アスナが頭に角を生やしそうなレベルで怒っている。攻略の鬼はここに健在していた。

「いやいやいや!休む日くらいは自分で決めたっていいだろう!?」

「何言ってるの!?ティーゼちゃんとユージオ君が休暇をとってからずっと休んでるじゃない!!」

「そ、それは……」

その通りである。ユージオが休みをとってからキリトは攻略に参加していない。やはり、キリトのストッパーはユージオが担っていたようだ。

「観念して下さい、キリト先輩。チェックメイトです」

「ぐっ……」

トドメの一撃に、キリトは唸る。

「お、俺だって昼寝したくてしてる訳じゃないって!」

「「どこがよ(ですか)!?」」

考えも無しに出した言葉にとうとう2人がキレる。

「今日の気温、湿度、太陽の光、風……全てにおいて完璧だからこそ俺は昼寝をせざるを得ないんだ!!2人だって横になれば分かる!!そんなに俺の事を攻めるなら、俺と同じように寝っ転がってみてくれ!それで10分間寝転がって二人とも寝なかったら俺は今からでも攻略に参加する!」

「………」

「………」

なんだか最もな(全くもっともではない)理由を付けて試してみろとキリトが言う。

「……わかりました。寝なければいいんですね?」

「いいでしょう、受けて立つわよ。それで貴方が納得するなら」

2人は呆れ返って、キリトの言葉に従った。まぁ、寝ることなんてないだろう。そう、鷹を括って______

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

「おいマジかよ……」

5分後。2人は寝入ってしまった。熟睡も熟睡、アスナに至っては爆睡である。

アスナは血盟騎士団の副団長を務めるようになってから、あまり寝ていないとは聞いていたものの、そんな即落ちするのか……とキリトは内心驚いていた。

それより驚いたのがロニエだ。

「いや、君は充分寝てるよね?えっ、寝てないの?」

凡そロニエは疲れていたアスナとは違い、この天候に誘われて寝てしまったのだろう。泥のように眠っているアスナに較べて、ロニエは顔にも疲れがなく、気持ちよさそうに眠っている。

「…………くっ」

キリトはロニエの寝顔を見て、左胸に両手を当てて苦しそうにする。

「……可愛すぎんだろ…!」

コミュ障のキリトにとって今の状況はかなり不味い。耐性がついていないので、1番心にくる。確かにアインクラッドに来てからまだ耐性がついた方だが、やはりキリトには厳しかったようだ。

「このまま放っておく訳にも行かないか…」

そう、少し前……殺人犯したいわゆるレッドプレイヤーを集めたギルド「ラフィンコフィン」がまた新たにプレイヤーを圏内で殺す方法を編み出した。それが睡眠デュエルPK……殆ど失神に近いレベルで深く眠っている場合、少しのことでは起きないことが多いことを狙って、寝ているプレイヤーに《完全決着モード》のデュエルを申し込み、相手の指を動かしOKのボタンを押す。あとはトドメを指すと言ったところだ。その他にも担架(ストレッチャー)系アイテムに乗せて圏外まで移動して殺すという手段もある。

そんな恐ろしい手段が半年ほど前に見つかった為、殆どのプレイヤーへドアをロックすることが可能なプレイヤーホーム、または宿屋で寝るように、と攻略組から通達された影響か、宿代を節約しようと公共(パブリック)スペースで寝ようとするプレイヤーは激減した。

今、ロニエとアスナはおおよそ、熟睡…アスナに至っては睡眠デュエルPKの対象となり得る。そんな2人を放っておく訳には行かない。そう、キリトは判断した。

「心頭滅却心頭滅却………」

キリトは2人のそばでアイテム欄の整理を始めたのだった。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

赤い夕日が一帯を照らす、夕方の5時。

「ふえ……?」

眠たげな声と共にロニエが起きた。約8時間寝たことになる。

「おはよう、ロニエ。お昼寝はどうだった?」

「おはようございます……はい、気持ち良かった、で……………す……!?」

自分が寝てしまった事にようやく気付いたようだ。

「……ううっ……//////」

「まあ、俺が寝てみろって言った訳だし、ロニエは悪くないぞ。ただ、8時間は寝すぎだと思うけどな」

「しゅみません……」

まだ起きたばかりで呂律が回っていないような気もするが、ロニエは完全に起きた。

「うみゅ…………」

続いて、アスナも起きた。

そして、周りを見渡し、状況をその一瞬で把握したらしく、ばっとキリトの方に振り向いて、顔を赤くしたり青くしたり赤くしたりと、忙しそうな反応をする。

「……な………アン……どうっ……!!」

「……おはよう。よく眠れたか?」

謎の言葉を話すアスナに向かってキリトは渾身のドヤ顔と、ニヤニヤ顔を御見舞するのだった。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

「ホントにいいのか?」

「ええ。守ってくれたのは確かだし」

アスナが起きて30分後。キリト達はとあるレストランへ来ていた。

「はあ………ホントに寝ちゃうなんて…!」

「まあ、その事は忘れるとして…ロニエ、何頼む?全部アスナの奢りらしいし、この際1番高いやつ一緒に頼もうぜ」

「……先輩、それ本人の目の前で言うことじゃないですよ」

寝てしまったアスナをキリトがガードしてくれた事に最低限の感謝はするべきだ、とのアスナの計らいによって今晩の夕食はアスナの奢りとなった。

「ありがとね……ガードしてくれて」

「いや、いいよ。流石にあれは放っておけないさ」

「私からもありがとうこざいます、先輩」

「いいさ。そういや、アスナ。やっぱり寝れてないのか?」

「まあ…ね。不眠症……ってわけじゃないと思うんだけど、ちょっと怖い夢を見て、飛び起きちゃったりするから、あんまり寝れないのよね……大抵長く寝ても3時間くらいだから…」

「そうか……ま、また昼寝したくなったら言ってくれ。またガードしてやるよ」

「その時は、ユウキ達も誘おうかしら」

「いいですね…みんなでお昼寝!」

「なんなら攻略組全員でやるか?」

と笑いながら話していた、その時_________

 

「きゃああああああああああああ_______」

悲鳴が、街に響いた。

 

 

「「「!?」」」

3人同時に剣の柄を握り、立ち上がる。

「先輩、店の外です!!」

「分かってる!!」

3人は店を飛び出し、悲鳴が聞こえた場所まで走る。

やがて3人は街の広場にたどり着いた。そこにはありえない光景が広がっていた。

広場の北側、教会らしき建物の2階から何かが、ぶら下がっているあれは______

「__________!?」

一人の男だった。間違いなくプレイヤーだ。分厚いフルプレートアーマーで全身を包み、大きなヘルメットを被っている。よく見ると男の首にロープが巻きついている。そして、より目を引くのが___

1本の赤黒い、短槍(ショートスピア)だ。

槍などの貫通(ピアース)系武器には貫通継続ダメージが設定されている。男から赤いエフェクトの光が明滅していることから、貫通継続ダメージが発動し、男のHPを削っているように見える。

「早く引き抜け!!!!」

キリトが叫ぶも男の行動は遅く、そして男も死への恐怖からか、手に力が入っておらず、一向に槍は抜けない。

「キリト君とロニエちゃんは下で受け止めて!!」

「はい!」

アスナは咄嗟の判断で教会へと走り出す。

「待てアスナ!走ってじゃ間に合わないってのに…!」

キリトが咄嗟にアスナを止めようとするが、止まらずに教会へ走っていった。ロニエに言った。

「ロニエ!無理矢理《ソニックリープ》でロープを切り落とせ!!俺が受け止めて槍を抜く!」

「分かりました!!」

キリトはそうロニエに指示し、アスナが教会に入ろうとしたと同時に男の視線がどこかへと向いた。それはプレイヤーのHPゲージが表示されている所。

そして、ちらりとキリトとロニエを見た。恐怖に歪んだ目。

多くのプレイヤーの阿鼻叫喚の中、男が小さく何かを囁いた。

キリト達からは悲鳴のせいでよく聞こえず、かき消されてしまった。

直後、ガラスのワイングラスが砕け散るような音を響かせ、男は青いポリゴン片を散らし、跡形もなく消えた。

この世界の、死を迎えた。

男の首を絞めていたロープがくたりと、教会の壁へと垂れ下がり、男の腹を鎧ごと貫いていた赤黒いショートスピアは思い金属音を響かせてレンガの街道に突き刺さった。

 

「みんな!デュエルのWINNER表示を探してくれ!!」

即座にキリトが叫ぶ。

圏内で殺人が起こったということ、それ即ち完全決着モードのデュエルが行われたという事だ。このアンチクリミナルコード有効圏内であるこの街でHPの減らすような行為はそれしかない。キリトはそう予測を立て、有るべきもの___ある筈のものを探した。そう、デュエル勝利(WINNER)宣言メッセージ_______勝利したプレイヤー名、試合時間が書かれた大きなシステムウィンドウ_____それが、犯人の近くに現れる筈なのだが……

「…どこにあるんだ……!?」

そのメッセージを見ることができれば、即座に犯人を特定することが出来る。

だが、キリトの探すそれは、一向に見つからない。

キリトとロニエは焦る。それは勝利してから30秒程しか表示されない。もう既に25秒過ぎている。

「アスナ!WINNER表示はあったか!?」

「ダメ!システム窓どころか、中には誰もいないわ!!」

「なっ!?」

「駄目です、先輩……30秒、経ちました…!」

惜しくも30秒が過ぎ去ってしまったのだった。

 

 

 

 

 


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