ソードアート・オンライン ~時を越えた青薔薇の剣士~ 作:クロス・アラベル
今回はサブタイトルで御察しの通りのお話となっております。意外な人物も登場します!
それでは、どうぞ!
○
「………」
フィールドボス攻略後、攻略組一行は主街区への帰路をたどっていた。
ロニエは俯いたままで表情は見えない。ユージオ達は
今回のフィールドボス戦は死者は出なかったものの、危なかった場面がいくつもあった。キリトの死は予想以上に攻略組へ影響を及ぼしていた。
「ディアベル。どうするんだい?このままじゃ……」
「……今日のままで迷宮区のボス戦に挑めば攻略が総崩れになる可能性があるからな……だが、いつまでも引きずってられない。いつかは訪れる筈の事実だったんだ。死と隣り合わせということは分かっていても、いざ初めて人の死を目の当たりにしてみんなパニックに陥っている……」
「解決策、あるんですか?ディアベルさん」
ユージオの問いにディアベルは現状を把握し、解決策を模索する。アスナもどうすればいいか見当がつかないのか、ディアベルに聞くことしか出来ない。
「…………俺達じゃどうにも出来ないよ。キリトの死を無かった事になど出来ない。だから、時間に任せるしかない」
「……そいつぁ、歯痒いな。なんとかしなきゃならねぇってのに、何も出来ないのは」
ディアベルの言葉にエギルも苦虫を噛み潰したような表情を浮かべた。
「……取り敢えず、今はゆっくり休んで明日も攻略が出来るようにしないとな…」
とその時だった。前を歩いていたプレイヤー達が足を止めていた。
「…?どうしたんだ、みんな?」
ディアベルが前のプレイヤー達に聞くと、キバオウの声がする。
「なんや、おまんら。退いてくれんか?」
静かな声だが、ドスが効いているように聞こえる。
ユージオは何だろうかと、前に進んでキバオウが話しかけた者と対面する。
「……?」
40人程の団体だった。目立つのは真っ黒な装備。そして、それぞれに持つ、抜き身の武器。そして、先頭に立つプレイヤーはナイフをくるくると回しながら佇んでいた。身に纏うのは、真っ黒なポンチョのようなフード付きのマント。
「申し訳ないけど、退いてくれないかな?僕らはフィールドボス戦を終えて帰るところなんだ」
ユージオはそう言って退くように促した。だが、そのプレイヤー達は退こうとはしなかった。
その時、ユージオは気づいた。攻略組全体が真っ黒な装備をしたプレイヤー達にいつの間にか囲まれていることに。
「……何がしたいの?」
ユージオは訝しげに尋ねた。するとようやく相手側に動きがあった。
「流石は攻略組だ。フィールドボスを早くも屠って来るとは!尊敬に値する……偉大な勇者達」
「……なんや、そんなこと言うために囲っとるんか?なら早よ退いてくれへんか?わいらは疲れてんねん」
「…いや、ここで言わなければ意味がない。ここで会ったんだ、そうしなければ感動は冷めてしまうだろう?ことが起こった時に言うべきなんだ。そう________人が死んだ時、別れの言葉を告げるように」
「……何が言いたい?」
ユージオもこの遠回しな言い方に苛立ちを覚えて、言葉遣いが変わった。
「…別れの言葉を告げにきたんだ______お前達、攻略組にな」
『⁉︎』
その言葉に攻略組は驚愕した。そんな言い方は、まるで自分達を_____
「_______その通りだぜ、攻略組の皆さん。俺達はあんたらを殺すためにstand-byしてた訳だ」
「じゃあまさか、キリトを殺したのは……ッ‼︎」
「Of course‼︎俺が殺した」
その言葉を聞いた瞬間、攻略組全員が得物を手に取り構える。
「……お前が………キリトを_______ッッ‼︎」
ユージオも殺気を抑えられず、剣の柄を握りしめる。
「いやぁ、良い最期だったぜ。死ぬのは避けられねえのに、必死に俺の事を睨んでやがった。俺が初めてかもなぁ、この世界でプレイヤーを殺したのはよ。俺が
「アナタ、絶対に許しまセンっ!キリトの仇を今ここでとります……ッ‼︎」
キバオウを筆頭に攻略組全体が感情的に動く中、ディアベルは違った。
「待て、みんな!一旦冷静になれ!このまま戦えば______」
ディアベルは冷静な判断を皆に促すが、もう一度ついてしまった火は、もう止められない。
「いいねぇ……ここで殺り合ってもいいぜ。まあ、結果は見え見えだけどな」
火に油を注ぐように焚きつけるその男。そして、攻略組は謎の集団との戦いが_______
「ド阿呆ッ‼︎こんな時にやりあってどないすんねん‼︎」
_____始まらなかった。
キバオウの怒鳴り声で攻略組だけでなく相手側も怯んだ。
「よぉ考えてみぃ!わいらは確かに強いわ。けどな、それはモンスター相手だけや‼︎向こうは多分人との戦いに慣れとる。慣れとらんわいらが向こうと戦っても負ける未来しか見えへんわ‼︎」
「で、でも僕らの方がレベルは上かも知れないんだ!やるなら今しかないんだよ‼︎」
ユージオもキバオウに負けじと反論するが、キバオウは毅然として続けた。
「
キバオウの饒舌な説教にユージオは少しずつ落ち着いたようで、剣を握る力を少しずつ抜いていく。
「……」
「……私怨は捨てなあかん。今はみんな生きて帰ることを考えて欲しいんや」
「……ごめん、キバオウさん。ありがとう」
「その台詞は帰ってから言うてや」
そのやりとりに他の全員も落ち着いたのか、改めて剣を握り直す。
「………ヘイ、俺はそんな吐き気のするような友情を見たくて来た訳じゃねぇんだ」
男は苛立ちながらそう言った。
「……まあ、1人_____冷静になれてねぇ奴がいるがな」
「______ 」
その時、ユージオとキバオウの間を凄まじい速さで駆ける姿があった。
「_______あああああああああああああああああッッ‼︎‼︎‼︎」
「ロニエ⁉︎」
ユージオが呼び止めようとするが、もうロニエは止まらなかった。すでに空中で《ソニックリープ》を発動させており、その黒ポンチョ男に特攻をかけていた。
「やっぱこういう奴がいないとな。面白くならねぇ…!」
その男もナイフを構えてロニエの攻撃を受け流し、攻撃を始めた。
「はあああああああああッ‼︎」
「おいおい……キレすぎだろ…だが、まあ______」
「ッ‼︎」
「俺は一発当てればいいんだ」
「っ⁉︎」
ロニエが男の一撃をかすりながら避けた直後、彼女は地面に倒れこんだ。
「ロニエ⁉︎」
「まさか、麻痺毒⁉︎」
「おぉっと……ユージオさん達はここにいてもらいますよぉ〜………こんな楽しいパーティで無粋な行動は厳禁ですからぁ」
ユージオ達が気付いて駆け寄ろうとするも他のプレイヤー……片手剣を持ったモルテに道を阻まれる。
「さぁて、犠牲者第2号は……ロニエって言ったか。お前さんに決定だ!」
「……っ」
男はナイフでロニエを何度も斬り裂き、HPをギリギリまで減らしていく。ユージオはモルテを強行突破しようと剣を振るうが、モルテはそれを許さない。
「まあ、あの世で楽しく黒の剣士と遊んで来いよ_______じゃあな」
最後の一撃とばかりに男はソードスキルを発動させ、ロニエにとどめを刺そうとした。
「___________先、輩____」
ロニエにその刃が突き刺さり、ロニエのHPゲージを削り取る______
ガキィィィィイイインッ
_____事はなかった。
そのナイフはロニエに当たることなく一本の両手剣によって止められていた。
「_____ハア?」
その直後、男はその両手剣の一撃を食らって吹き飛ばされた。
「_____」
そこにいたのは、フルプレートの男。そう、フィールドボス戦でロニエを助けたプレイヤーだった。
「………全く、手間をかけさせる女だ」
呆れたような口調で金属質な声をロニエへ浴びせる。
「___あな、た、は………」
「……動くな。俺だけで充分だ」
フルプレ男は両手剣を右に払いながらそう言った。
「おいおいおいおい‼︎なんなんだ、お前は」
黒ポンチョの男が起き上がって苛立ちを隠せないのか、少し声に怒りがこもっている。
「随分と無粋な真似をしてくれるな……? ここからが一番楽しいpartyだってのに!」
「パーティか。それにしては物騒なパーティだな」
ぶっきらぼうに返すフルプレ男。
「ふざけんじゃねぇぞ!邪魔しやがって!」
「ヘッドの邪魔すんじゃねえよ!」
他の暗色装備のプレイヤーもヤジを飛ばしてくる。そして、ついには切り掛かって来ようとする者もいた。
「お前なんかヘッドが殺る程でもねぇよ!さっさとくたばれ‼︎」
その剣がフルプレ男に襲いかかる。だが、その剣は真後ろへ弾き飛ばされた。
「はぁ⁉︎」
突然のことで驚いた様子のプレイヤーはこのフルプレ男が剣で弾いたのかと思った。だが、フルプレ男は剣を動かすそぶりを見せていなかった。男は考えるのをやめ、予備に装備していたナイフを取り出し、フルプレ男を殺そうとした。だが、これも阻まれる。
「ちっ、しつけーことしてんじゃ_______うお⁉︎」
男は見た。弧を描きながらどこかへ飛んでいく
「お待たせしましたっ‼︎」
そう、ネズハだったのだ。男の武器を落とさせたのは
彼らはユージオ達の元へ駆けつけ、ユージオ達を守るように剣を構えた。
「ね、ネズハ⁉︎どうしてここに…⁉︎」
「僕ら《レジェンドブレイブス》は攻略組の皆さんに仲間入りしたくて来たんです!あんなことがあったので入れてもらえるとは思っていませんが……それでも僕らは決めたんです!あの罪をずっと償い続けると‼︎」
「……‼︎」
ネズハの言葉に攻略組全員の心に温かいものが込み上げてくる中、ネズハは続けた。
「でも、僕らだけじゃ無いですよ!」
「え……?」
その時、黒装束のプレイヤーの後ろから聞き慣れた声が聞こえた。
「______退けぇぇぇぇぇえええッ‼︎」
両手剣を装備して包囲網を無理矢理破り走ってきたのは茶髪に赤い目の少年。第二層の攻略を機に姿を消していたベルだ。そして、隣にはもう1人のプレイヤーがいた。最低限の鎧に、レイピアを右手にした少女。紫色の長い髪に同色の瞳。誰かに似ているような気もする。
「__________姉ちゃん⁉︎」
「本当に久し振りね、ユウキ」
「べ、ベル………⁉︎どうしてここに…」
「色々話さなきゃ行けないことがありますけど……それは後っスよ」
驚く攻略組の面々。レイピアを携えた少女はロニエに回毒薬を飲ませて、ロニエに微笑みかけた。「もう大丈夫」と。彼らは状況説明をしている暇はないと言い、各々の武器を構える。
「……美しい友情だな、本当にめでたいめでたい……でもな、俺達はそんなのを見にきたんじゃねえよ。お前達の顔が恐怖に染まる瞬間が見たかったんだ_____変な邪魔してくれるな?お前」
黒ポンチョの男はフルプレ男を睨みつける。ジョークを織り交ぜた先程の会話はどこへ行ったのか。彼は殺意を隠すことなく出していた。
「………」
「お前はフルプレートで顔が見えねぇし………いっそ剥がしてやろうか?」
「……いや、その必要はない。自分で外す」
「なら、外してみろ。お前の顔を絶望の色に染めてやる」
男はそう言い放ち、ナイフを構えた。フルプレ男はメインメニューからステータス画面へ移行し、そこから鎧を外していく。ブーツからプレートアーマーそして、ヘルメット。両手剣はストレージに一瞬で消えていった。
クイックチェンジを使用したのか変化は一瞬だったが、そこにいた一部を除いた全プレイヤーにとっては永遠にも感じられた。
「お前は今
黒いジーンズタイプのズボンに黒いコート。
「それは間違いだ。お前は人一人殺せていない」
背中に引っさげるは、一本の片手剣。
「お前は自分自身を『殺す』ことでしか表現出来ない、ただの《
夜空のような深い黒の瞳、同色の髪。
「_________ただいま、ロニエ」
「_______き、りと___先輩_______っ」
ロニエはキリトを見て、涙を零した。
「キリト⁉︎」
「どうしてここに……⁉︎」
攻略組も驚きを隠せない。
「キリト、お前……‼︎」
「遅くなったな、相棒」
ユージオが感情を抑えきれずに一筋の涙を流す中、キリトは不敵な笑みでユージオを呼んだ。
「何故、お前がここにいるッ‼︎キリト⁉︎」
その時、黒ポンチョ男が今までにない焦りと驚きを見せた。
「何故?決まってるだろう。お前が殺し損ねたんだよ」
「ッ⁉︎そんな筈がない‼︎お前は俺が殺した!お前がポリゴン片になって散っていくのも見た………‼︎」
「ああ、そうだ。確かに見ただろう。ポリゴン片が散るところはな」
キリトは叫ぶ黒ポンチョに淡々と話した。
「俺もあの時死んだと思ったよ。けど、お前には予想できなかったことが三つあった」
「……」
「一つ。俺に対して行った攻撃が無効化されていたこと」
「む、無効化……だと⁉︎」
「そうだ。俺の装備していたアクセサリーの一つ。この《エーヴィゲ・リーベ》には特殊効果が付与されてた。それは、『これを装備したプレイヤーのHPが全損するに至る攻撃を一度だけ無効化する』というものだ。ただし制限があってこれは対となるもう一方のものと共有される。だから、片方を装備している奴がその効力を使ってしまえばその効力は失われるし、宝石も割れる」
キリトいた砂漠へ行く途中にロニエがしていたアクセサリーの宝石がひび割れたのはそれが原因だった。結構レアアイテムだったんだぜ?と惜しそうに言った。
「なッ……⁉︎」
「二つ目、俺のこのコートの耐久値に限界が迫っていたこと。そして、最後の三つ目……それは、俺が転移結晶を持っていたってことだ」
「……まさかッ」
「そうだ。お前が攻撃した瞬間、俺のコートの耐久値がゼロになりポリゴン片となって散る瞬間、この《エーヴィゲ・リーベ》が攻撃を無効化し、俺は転移結晶を使って始まりの街まで飛んだ。咄嗟ことだったからほぼ賭けだったんだ。お前達はその時、俺のコートが耐久値を全損してポリゴン片となって散る現象を俺が死んだ時のエフェクトだと錯覚した訳だ」
「………‼︎」
「キリト‼︎何故生きてるのに僕らに知らせてくれなかったんだい⁉︎」
ユージオも驚きながらもキリトにそう問うた。
「……『敵を騙すならまず味方から』って言うだろ?」
「じゃあ、キリト。君は彼らを欺くために……‼︎
「そうだ。こいつらは神出鬼没。それに加えて詳細が不明ときてる。なら、どういう風にこっちを観察しているかも分からない。だから少しの間、雲隠れさせてもらった」
「………お前……ッ‼︎」
「随分と悔しそうじゃないか。
「_______ 」
キリトにプレイヤーネームを言われて絶句する男。
「図星らしいな。時間がかかったぜ?お前のプレイヤーネームを調べてもらうのはな」
「ちょっと待って!調べてもらうってどういうことよ!」
「…情報売り買いするなら誰に相談する?」
「‼︎」
アスナの問いに対してキリトが答える。
「そうだヨ。オレっちがやったのサ」
それと同時にユージオの隣から音もなく現れるアインクラッド初にして最高の情報屋、《鼠》のアルゴ。
「ホントに、骨が折れたんだゾ?名前がわかったのだってつい昨日サ」
「じゃあ、アルゴはん……アンタだけ知ってたんかいな⁉︎」
「そうだヨ。嘘とかは得意だからネ」
「流石に誰一人知らないというのも俺一人だけで全て調べるには無理があったからな。アルゴにだけは話してあった。アルゴにはあれからお前らPK集団についての情報収集を依頼した。そして、やられたままじゃ納得出来ないと思ってな。少し人を集めた。ネズハ達とラン、ベルが協力者だ」
「……」
「さて、
「……ッ」
「戦るならいいぜ、相手してやる。ただ________士気が最高に上がった攻略組を今、お前らが果たして殺せるか否か………見物だな」
牽制しながらも今までにない程挑発するキリト。それに切れる寸前の
「………
だが、彼の頭は冷静に事を判断して、攻略組と戦って勝てる確率が低すぎる事を悟ったのか、後ろに退いていった。
「………覚えてろよ、黒の剣士。必ずお前を殺してやる」
「……負け犬の遠吠えにしか聞こえないな」
「ッ」
PK集団が消えるとそこはとても静かになった。そして、攻略組の緊張が解けたせいか、何人かのプレイヤーが座り込んでしまった。
「……キリト先輩…‼︎」
「…ごめんな、ロニエ」
「…………っ‼︎」
ロニエは感情を抑えきれず、キリトに抱きつき静かに泣き始めた。キリトは彼女を優しく抱いたのだった。
ロニエ「皆さん、あけましておめでとうございます!」
ユージオ「お正月などとっくに過ぎていますが新年のご挨拶をさせていただきます」
ティーゼ「今年も本作『ソードアートオンライン ~時を超えた青薔薇の剣士~』、そして、原作アニメとともによろしくお願いします‼︎
「「「次回も楽しみに〜‼︎」」」