ソードアート・オンライン ~時を越えた青薔薇の剣士~ 作:クロス・アラベル
それでは14話、どうぞ!
3日間で体術スキルをしてから次の日の午後四時。私達はクエストを受けるために第二層主街区《ウルバス》に来ていました。その中心部の広場で次は何のクエストを受けるかをみんなで話し合っていた時、
『ふ、ふざけんなよッ⁉︎』
誰かが、裏返ったような大声を出しました。足を止める私達のパーティ。
キリト「……」
ユージオ「……どうしたんだろう……何かあったのかな?」
ティーゼ「…喧嘩ですかね?」
ロニエ「……喧嘩?と、止めに行かないと……」
キリト「……そういうわけでもないみたいだぞ?」
ユージオ「……どういうこと?」
キリト「見ろ、喧嘩じゃなくて一方的なものらしいな……」
キリト先輩が指をさしたところを見てみると、一人の男の人が鎧に身を包んだ人に怒鳴られているところでした。
ロニエ「何があったんですかね……」
『……何の騒ぎ?』
落ち着いた声でこう聞いてくるプレイヤーがいた。灰色のフーデットケープを被った、女性プレイヤー。
ロニエ「あっ、アスナさん!お久しぶりです!」
アスナ「久しぶり、ロニエ、ティーゼ。」
ティーゼ「元気にしてましたか?」
アスナ「ええ、おかげさまでね。キリト君、ユージオ君も久しぶり。」
ユージオ「アスナ!久し振りだね。」
キリト「よ、よう、アスナ。」
アスナ「……それで、キリト君。どういう状況なの?」
キリト「さあな、そこまではわからないよ。」
『どっ、どうしてくれるんだよッ‼︎プロパティ無茶苦茶下がってるじゃねーかよ‼︎』
ユージオ「………あの装備、凄く強そうだね…」
ティーゼ「あっ、あの剣、アニールブレードですよ。」
キリト「……そういうことか……」
ロニエ「どういうことですか?」
キリト「多分、あいつは持ってるアニールブレードの強化をあの鍛冶屋プレイヤーに頼んだんだ。それで、連続で失敗したんだろうな……それで血が上ってるんだろ…」
『四連続失敗だぞッ‼︎0で強化エンドしちまったじゃねえか!どうしてくれるんだ⁉︎責任取れよ、クソ鍛冶師‼︎』
ユージオ「………よ、四連続失敗か……確かに悲しいね……」
ティーゼ「だったら、また強化し直せばいいんじゃないですか?」
キリト「いや、ティーゼ。武器の強化は無限に出来るわけじゃないんだ。」
アスナ「………『強化試行上限数』ね……」
キリト「その通り。アニールブレードは上限数が8回だったから、四回連続で失敗して、元々+4だったアニールブレードが残り強化回数を全部使い切った。っていうことは……」
ロニエ「………もうそれ以上、強化できない……」
キリト「……そういうことだ。」
ティーゼ「……残念ですね…」
アスナ「でも、失敗の可能性がある事を頼む側は了承してるはずでしょ。あの鍛冶屋、お店に武器の種類ごとの強化成功率一覧を張り出してるじゃない。しかも、失敗した時は強化用素材アイテムぶんの実費だけで手数料はとらないって話よ。」
キリト「ほー、そりや良心的だな……」
ユージオ「……でも、何で止めなかったんだろうね?」
キリト「……そりゃ、一回ミスって頭に血が上ってもう一回、もう一回って歯止めが効かなくなってくるんだよ。アツくなるとドツボにハマるのは、どこのギャンブルでも、一緒だよなあ……」
ロニエ「……なんか、妙に熱の入った言葉ですね……」
アスナ「……妙に説得力があるわね……」
キリト「……こりゃただの一般論ですよ。」
少し、怪しいですね……
『まあまあ、リュフィオール。しょうがないだろ……失敗しないなんてことはないんだからさ……』
『また、一緒にあのクエ受けに行こう。一週間もあればクリア出来るしな。』
『次は頑張って+8にしようぜ!』
『……ああ……』
ユージオ「えっ?アニールブレードの獲得クエストって一週間もかかるの⁉︎」
キリト「……俺たち、ラッキーだったな…」
ロニエ「……いいお友達ですね…」
ああやって支え合える友達って……大切ですよね……
アスナ「……」
『す、すいませんでした…』
『……いや、すまない…俺も頭に血が上っちまって……あんたは悪くないさ……』
『あ、あの……お詫びといったらなんですが、そのアニールブレード、8000コルで買い取らせてもらう……って言うのはどうでしょう……』
『……本当か⁉︎』
キリト「ま、マジか⁉︎」
ユージオ「そんなに高い?安いようにも思えるけど……」
キリト「……いや、そんなことはないぞ。エンド品って言えば、高くて4000コルくらいだからな……その倍だぞ?」
ユージオ「へぇ……」
すごく良心的ですね!
ティーゼ「……これで丸く収まったみたいですね。」
○○○○○○○○○○○○○○○○○○○○○
そのあと、街の西側にある公園で一休み。
ロニエ「……それで、キリト先輩。強化どうするんですか?」
キリト「……それなんだが……ちょっと不安になってきてな…」
ティーゼ「じゃあ、素材を集めて成功率を上げたらどうですか?」
キリト「…………だよなぁ……」
ユージオ「そう言えば、アスナは何をしに来たの?」
アスナ「私も武器の強化を依頼しに来たのよ。」
キリト「……やっぱ、成功率高い方がいいよな?」
アスナ「…まあ、ね。」
キリト「素材を集めてきたらどうだ?万が一失敗したらって考えると……より成功に近い方がいいだろ?」
墓穴を掘ったと思ったのは私だけですかね……
アスナ「そうね、私は妥協は嫌いだわ。」
キリト「だろ?」
アスナ「でも、私は人に言っておいて、口だけで行動しない人はもっと嫌いよ。」
キリト「⁉︎」グサッ
ロニエ「……ですね…キリト先輩?」
キリト「……」アセタラタラ
ユージオ「……じゃあ、みんなで手伝おっか?」
ティーゼ「賛成です!」
ロニエ「私も賛成です!」
アスナ「もちろん、私もね。」
キリト「……はいはい…分かりましたよ……やればいいんだろ?やれば……」
こうして、私たちは強化の素材集めをすることになりました。
○○○○○○○○○○○○○○○○○○○○○
迫り来る蜂モンスター。その攻撃を読み、避けながらもすれ違いざまに一閃。
ロニエ「やッ‼︎」
ザシュッ
『ピギャァァァァッ⁉︎』
パリィィイン!
ロニエ「……ふう……32!」
私は今、ティーゼとアスナさんとトリオを組んで蜂モンスターを倒している。キリト先輩とユージオ先輩もコンビで蜂モンスターを倒し続けている。私が倒した数は32匹。ティーゼも同じくらいで、アスナさんはさっき「39!」と叫んでいたので、3人の中では一番多く倒している。
キリト先輩たちはどれくらいかは知りませんが、側から見るとキリト先輩達の方が時間がかかっているように思えます。
あれから1時間弱狩り続けています。
何故分かれて狩りをしているか、それは1時間弱遡る。
アスナ「ねえ、みんな。ちょっと勝負しない?負けた方は勝った方の欲しいものを奢るっていう事で。」
キリト「…勝負?」
アスナ「ええ、ルールは簡単よ。2時間で指定された数のモンスターを早く狩った方の勝ち。」
ロニエ「……勝てる気がしないんですが……」
アスナ「大丈夫よ、ロニエ。これは団体戦、いわば『チーム戦』よ。」
ユージオ「……じゃあ、どんな分け方をするの?」
アスナ「………そうね……女子チームと男子チームに別れましょう。」
キリト「待て!それだと俺たちが不利すぎる。」
アスナ「大丈夫。キリト君達は一人100体ずつで……私が100体、ロニエとティーゼは75体ずつでどうかしら?」
キリト「……でも、」
ユージオ「それは……」
アスナ「あら?あなた達の事をロニエ達は『先輩』って呼んでるのよ?年下でなおかつロニエ達はあなた達の後輩なんだから……少しはハンデがあってもいいんじゃない?」
「「⁉︎」」
ロニエ「……で、です…よね…」
ここは乗ってみた方がいいですね。
ティーゼ「はい、その通りです!」
アスナ「……どうなの?」
「「……」」コクッ
アスナ「はい、それじゃあ狩りを始めましょうか!」
と、いうことがあったので私たちは必死に蜂モンスターを狩っているところです。
私たちも先輩達には負けられないので、先日獲得したあのスキルを使ってみましょう。
蜂モンスターが針で刺そうとするのを避けて、バーチカル・アークの二連撃で怯ませた所で……
ロニエ「ハァッ‼︎」
ズガッ!
『ギシャッ⁉︎』
体術ソードスキル『閃打』。左拳を蜂モンスターの弱点に当てた直後、蜂モンスターが砕け散りました。
ロニエ「ふう……取っておいてよかった……体術スキル…」
あのスキルのおかげで片手直剣ソードスキルの直後に体術ソードスキルを放てるので、早くモンスターが倒せます。
アスナ「どう、ロニエ?」
ロニエ「いい感じです!」
ティーゼ「このまま頑張って、ユージオ先輩達に勝ちましょう!」
アスナ「ええ!…後、二人が使ってるその素手スキルについても教えてね?」
ロニエ「はい!」
よし……先輩達には悪いですが、勝たせてもらいます!
ロニエ「セヤァ‼︎」
私のアニールブレードが青い薄い青の光を放ち、蜂の腹を一閃。
ズバッ!
○○○○○○○○○○○○○○○○○○○○○
「「はあ、はあ、はあ……」」
アスナ「お疲れ様、キリト君、ユージオ君。」
ロニエ「お疲れ様です、先輩。」
ティーゼ「……惜しかったですね、先輩。」
「「………体術スキルも使ったのに……」」
アスナ「まあ、負けたのには間違いないわよね?」
「「……ハ、ハイ………」」
アスナ「じゃあ、行きましょう。楽しみだわ……ウルバスで知る人ぞ知るって言う、あの『トレンブルショートケーキ』!」
キリト「なっ…なんでっ⁉︎」
ロニエ「トレンブルショートケーキ?」
アスナ「ええ。すごく美味しいって、アルゴさんが…」
ティーゼ「良いですね、早く行きましょう!」
ユージオ「何それ?どこにあるの?
アスナ「確か、ウルバスの奥の路地にあるらしいのよね…」
ユージオ「……じゃあ、行こうか?男らしく、潔く、行くよ…」
キリト「ちょっ、待てって、ユージオ!」
ユージオ「あれ?キリト、君は来ないの?君だけ来ないなんて、男らしくないなぁ……」
キリト「……!」
ユージオ「……どう?」
キリト「……分かったって!行くよ、行く行く!」
アスナ「それじゃあ、行きましょうか!」
○○○○○○○○○○○○○○○○○○○
賑やかなウルバスの街並み。もうすぐ午後七時とあって、人が圏外から帰って来る時間帯みたいです。
キリト「……そういや、ウルバスっていつも夜こんな感じなのか?」
アスナ「……まさか、夜の街を見たことなかったの?」
ユージオ「…うん、見られなかったと言うか……」
ロニエ「凄いですね。第一層ではこんな風景見られませんよ。」
キリト「なんで、こんなに賑やかになるんだ?」
アスナ「…それは君たちのおかげでしょ?」
ユージオ「そう、なのかな?」
アスナ「ええ、その通り。それより早くレストランへ行きましょう。」
キリト「……ホントに行くのか……」
○○○○○○○○○○○○○○○○○○○
キリト「……アルゴめ…なんでここのことを教えるんだよ……よりによって、ここを……!」
アスナ「さて、入りましょう。」
ロニエ「……結構、奥にあったんですね…」
ティーゼ「迷っちゃいそう……」
人気のない路地を進んで、もっと人気のないレストランを見つけました。入って大丈夫かな?
レストランのテーブル席に五人全員が座ったところで、アスナさんが店員さんにいくつか料理を注文してから言いました。
アスナ「…シチューセットを…みんなこれでいい?」
ロニエ「はい、それでお任せします。」
キリト「……一思いに頼んでくれ……どうせ、俺たちは負け犬だしな……」
アスナ「ひとつ言っておくけど、夕食の方は私が奢らせてもらうからね?シチューセットを五つお願いします………それじゃあ、キリト君、ユージオ君、お願いね?」
キリト「ハイハイ……エット、ト、トレンブルショートケーキヲ……ミッツオネガイシマス。ユージオトワリカンデ……」
ユージオ「キリト、大丈夫?」
NPC店員『かしこまりました。少々お待ちください。』
キリト「……ユージオ、トレンブルショートケーキの値段を見てみろ。」
ユージオ「値段?……どれどれ……ハァッ⁉︎な、ひとつ7000コルッ⁉︎ふ、ふざけてるでしょ、この値段⁉︎」
驚いて、珍しく大声をあげるユージオ先輩。
ロニエ「7000コルって……あと少しで新品のアニールブレードが買えるじゃないですか⁉︎」
キリト「……」チーン
ティーゼ「あ、死んだ。」
ロニエ「…えっと、なんかすいませんっ!」
ユージオ「いいよ、負けた方が奢るっていう約束だったしね。」
アスナ「ロニエ、謝らなくていいのよ。私たちは勝ったんだからね!」
……キリト先輩、ごめんなさい…
そのあと届いた夕食はとても美味しかったです。シチューとサラダは久しぶりに食べました。みんな夕食を堪能していました。……キリト先輩以外……
NPC店員『お待ちしました、トレンブルショートケーキでございます。』
シチューとサラダ、パンを食べ終えた頃にいよいよ、アスナさん念願のトレンブルショートケーキが来ました。
アスナ「あっ、来た!」
ユージオ「トレンブルショートケーキ……どんなのなんだろ…………⁉︎」
ロニエ「えっ⁉︎」
ティーゼ「はっ⁉︎」
キリト「来た……来てしまった……」
運ばれて来たのは、赤い果物が沢山盛って、一瞬美味しそう、と思ったが、しっかり見ると、大きさが凄い。半径25セン、ケーキの厚さが10セン、上には三角錐になったクリーム、高さはもう40センを超えるものでした。結構クリームが多い……と、いうよりほとんどがクリームだった。
アスナ「それじゃあ、頂きます!」
ロニエ「えっと……い、頂きます…」
ティーゼ「頂きます!」
ユージオ「どうぞ、僕らのことは気にせず、食べてよ。特に、キリトを。」
キリト「き、気にせず食べてくれ……」
そんなキリト先輩とユージオ先輩を見てたら……食べられませんよ、先輩?
ロニエ「……やっぱり、一緒に食べましょう!キリト先輩。」
キリト「ええッ⁉︎い、いいのかッッ⁉︎」
ロニエ「はい、もちろんですよ!」
ティーゼ「まあ、私達だけだなんてあんまり美味しくないでしょうから!ね、ユージオ先輩?」
ユージオ「いいの?」
アスナ「…そうね。私からも、四分の一くらいならいいわよ?」
キリト「あ、ありがとう!ロニエ‼︎」
ユージオ「ありがとうね、ティーゼ、アスナ、ロニエ。」
アスナ「それじゃあ……」
「「「「「頂きます‼︎」」」」」
○○○○○○○○○○○○○○○○○○○○○
トレンブルショートケーキを食べ終えて、お店を出るともう夜七時を回っていました。この世界は時告げの鐘はありませんけど、『でじたる時計』があるお陰で時間がわかりやすいですね…
アスナ「……美味しかった…」
ロニエ「ですね……」
キリト「いやぁ……頑張った甲斐があったぜ…まさか、幸運アップのバフが付くとはな…」
私達の視界の端には、幸運アップの効果が効いていることを示す、四つ葉のクローバーの印があります。
ティーゼ「凄い美味しかったですよ!甘すぎず、あっさりしすぎず……こんなの、アンダーワールドにもなかったです…」
ユージオ「うん……また食べたいね…」
キリト「これからどうする、みんな?」
アスナ「そうね……強化は明日にして、私、今日は休もうかしら……」
ティーゼ「私も、休みましょうか……」
ユージオ「僕も疲れたし宿をとって休むよ。」
キリト「そうか……じゃあ、ロニエはどうする?」
ロニエ「そうですね…」
…そうだ、今が二人きりでいるチャンス………ティーゼも『積極的にグイグイ押していきなさい!まずは攻めて見ないと…グイグイいきなさいよ!グイグイ、分かった⁉︎』って言ってたし……
ロニエ「……き、キリト先輩がよければ、私の、あああアニールブレードの強化に、付き合っていただけませんか?」
キリト「…!…い、いいけど……俺で良いならな。」
ティーゼ「っし‼︎」
ティーゼは思わず、ガッツポーズ。
キリト「…あのプレイヤー鍛冶屋で良いか?」
ロニエ「はい!」
キリト「ここで別れるか。じゃあな、みんな。」
ユージオ「うん、また明日、キリト、ロニエ。」
アスナ「おやすみ。」
ティーゼ「…頑張れッ!」
ロニエ「てぃ、ティーゼッ‼︎///」
キリト「?行くぞ?」
ロニエ「は、はい!」
そして、私達は初のプレイヤー鍛冶屋の元に行くことになりました。
○○○○○○○○○○○○○○○○○○○○
『い、いらっしゃいませ。メンテですか?それとも、買い取りですか?』
少し小柄な男の人が店員らしく、私達に聞きました。眉は八の字のように下がっています。
ロニエ「えっと…アニールブレードの強化をお願いします。種類は正確さで……」
『ッ……分かりました。えっと……強化素材は…』
私がそう言った途端、一瞬、痛みを我慢するような苦しそうな顔をした気がしました。そして、眉が八の字よりもっと下がっていきました。
ロニエ「90%のブーストでお願いします。」
『……かしこまりました。」
私のアニールブレードと強化素材を鍛冶屋さんに渡して、いよいよ強化が始まりました。
ロニエ「……き、キリト先輩、あのっ……」
キリト「どうした?」
ロニエ「……えっと……先輩の幸運、少し分けて、下さいっ…!////」
キュッ
私はそう言って、キリト先輩の手を握る。
キリト「ッ⁉︎ろ、ロニエッ⁉︎///」
ロニエ「……////」
は、恥ずかしい……っ
カンッ、カンッ、カンッ、カンッ!
始まった強化。その時、少しキリト先輩がブルッと震えた…気がしました。
そして、10回目の槌の振り。
そして、強化が成功する…そう思った。
パリィィィィィィイイインッ‼︎
その時、私のアニールブレードが粉々に砕け散った。
次回『砕かれた剣の行方』