ソードアート・オンライン ~時を越えた青薔薇の剣士~ 作:クロス・アラベル
ちょっと私事でありますが、卒論と就職活動で執筆活動が遅れております。すいません。今回はストックしていたものを投稿します。
時間軸は少しズレてはいますが、そろそろ彼女達目線での話を入れないといけませんね。
ということで、タイトル通りです。
どうぞ〜
ロニエの誕生日が少し前にありましたね。おめでとう、ロニエ!
○
妖精国の中心に聳え立つ巨大樹。
このALOにおける最大のグランドクエスト。
世界樹。
その上には、空中都市が広がっており、世界樹の攻略を目指す妖精達はその空中都市に辿り着き、
そのハズだった。
それはただの謳い文句。
空中都市なぞ、ないのだから。
世界樹の上に空中都市は無く、大きな鳥籠が一つあるだけであった。
その世界樹の巨大な枝で出来た道を悠々と歩く男がいた。
背中には、巨大な蝶のような羽根が生えている。細かい装飾が入った長衣を身に纏い、その頭には白銀の円冠。
造り物としか思えない程に整った端麗な顔立ち、切れ長の双眸は羽と同じエメラルドグリーン。
まさに『王』と呼ぶに相応しい格好である。
向かう先は、鳥籠。
自らが捉えた麗しい小鳥とそれに着いてきた者が囚われた、檻。
扉の横にあるメルヘンチックな世界観とはかけ離れたキーボードを指で叩く。パスワードを入れた。
カシャン、と音を鳴らし鉄格子の扉を開く。
そこに居たのは______2人の少女だった。
「_______ご機嫌よう、ティターニア」
その片割れの少女に声をかけた。
《
「今日もいい青空だ。僕達の出会いを祝福しているかのようじゃないか」
「_________」
「____いい表情だ、その表情が1番美しいよ。ティターニア」
少女は見向きもしない。
そんな彼女に男は語り続ける。
「今にも崩れそうな、その泣き出す寸前の顔がね。出来ることなら凍らせて飾っておきたいくらいに」
「_______したいならそうすればいいでしょう」
そして、初めて少女が答えた。
凛とした声。
「あなたならなんだって思いのままでしょうに。そうでしょう?システム管理者さん」
そう、吐き捨てた。
それに対し、男はやれやれと溜息をつきながら言葉を続けた。
「つれないことを言わないでおくれよ、ぼくが今まで君の手を無理矢理触ったことがあったかい?ティターニア」
「
そう言って、
彼の端正な顔立ちは既にその下卑た笑みで台無しとなっている。
「いいじゃあないか。ぼくは《妖精王オベイロン》、君は《女王ティターニア》。
君もいつになったらぼくに心を開いてくれるのかな_____ぼくの
「寝言は寝て言いなさい。せいぜい、あなたに向けるだろう感情は軽蔑と嫌悪____それくらいよ」
毅然とした態度で彼の言葉を拒み続けるアスナ。
それを見てニヤリと口角を上げた須郷は右手でアスナに触れようとして______パンッ、と払われた。
「______穢らわしい手でアスナさんに触らないで」
須郷の手を引っ叩いたのは、アスナの前で座るもう一人の少女だった。
アスナと違い、優美な服装ではない彼女。しかし、彼女にも2人と同じく羽根が生えていた。
焦げ茶の髪の少女。
「________君も手厳しいな、
そう呼ばれた少女はキッ、と彼を睨みつけた。
「私は《ムリアン》なんて名前じゃない」
彼女の名はロニエ。
何故かアスナと共にこの鳥籠に囚われてしまった一人だった。
「ふん……まぁ、君に関しては別にどうでもいいんだ。何せ、ティターニアが大事にしているからしょうがなく居させているだけでね」
ため息をつく須郷。
彼にとって、もう一人の彼女は想定外の存在だったらしい。
「まぁ、君も例外じゃないさ。君達はいずれ自分からぼくにその身を差し出すことになる。ぼくの思うままにね」
「気が触れたの?精神科に行った方がいいんじゃないかしら」
「ふふ、そんな事が言えるのも今のうちだ。すぐに君の感情はぼくの意のままになるのさ」
そう言って須郷は鳥籠の外____世界樹の下を見下ろした。
「この広大な世界に今や数万人の人間がフルダイブ技術を使ってログインしている。けど彼らは知りやしないだろうさ。フルダイブシステムが、ただの娯楽のためだけのものじゃないってね!」
彼は両手を広げ、芝居のように大袈裟に声を上げた。
「言っておくがね、こんなゲームはただの副産物にしか過ぎないのさ。フルダイブ用インタフェースマシン、つまりナーヴギアやアミュスフィアは電子パルスのフォーカスを脳の感覚野に限定して照射し、仮想の環境信号を与えているわけだが…もし、その枷を取り払ったらどういうことになるか、分かるかい?」
振り返りざまに見開かれる双眸。エメラルドグリーンに輝く瞳、その狂気じみたそれに、2人は恐怖を覚えた。
「______脳の感覚処理以外の機能、つまりは思考や感情、記憶までもを制御出来る可能性があるってことさ!」
「____!?」
彼の口から出たその言葉を理解したアスナは絶句せざるを得なかった。
ロニエはまだ理解しきっていない。というより、理解したくなかった。
彼の言う可能性とは______人の心を操ることが出来るということだったから。
「そんな、非人道的な行為許されるハズが無いでしょう…!」
「許される…?一体、誰が許さないのかな?各国で実験が進められているよ、既にね。アメリカ、中国、ロシア、イギリス、ドイツ、フランス、北朝鮮!至る所でね。
けど、この計画には残念ながら天井が存在する。言ってしまえば、技術を高めようとも、それを実際に使うことが出来ないんだ。この技術の実験ばかりはマウスで代用出来ない。人間の心を使わなきゃならないからね。何を感じ、どんな副作用があるのか、それを言葉にして言ってもらわないと困るからねぇ!」
イヒヒヒ、と甲高い声で笑いながら饒舌に話す須郷。しかし、彼の妄言はそこで止まらない。
「脳の高次機能には個体差が大きい、1人より2人、2人より4人、4人より10人、10人より100人……どんな実験であれ、大量の被験者が必要だ。けど普通に考えて、人体実験なんてどこの国でも出来ないんだ、勿論日本でもね。だからこの研究は全く進まなかったんだ_____でもある日ニュースを見たらさぁ、いるじゃアないか!格好の研究素材が、一万人もさァ!!」
「一万人……?それって、あのアインクラッドの…」
「あなた、まさか___!」
「その通りだ!!まったく、
とまぁ、息巻いたはいいものの…肝心のSAOサーバーに手を出すことは出来なかったが、別にそんな事する必要はなかった。あの世界からプレイヤー達が解放されたと同時に、その一部をぼくの世界に拉致してしまえばいいだけの話なんだからルーターに細工する程度なら、難しくはなかったよ」
興奮を隠せないのか、気持ち悪い笑いを止めようともしない。
彼はそのまま続けた。
「クリアされるのが実に待ち遠しかったよ!生き残った8000人弱全員、とは行かなかったが、400人と32人もの被検体をぼくは手に入れた!現実であれば都内の国立病院の病床のほとんどを使う程の人数を一瞬でね!
まったく、仮想世界さまさまじゃアないか!!」
気が触れたのかと勘違いする程に饒舌に言葉を紡ぐ須郷。
「その400人弱のお陰でこのたった2ヶ月でぼくの研究は大いに進展した!人間の記憶に違うものを入れてそれに対する情動を誘導する技術は大体形が出来たよ………魂の操作、実に素晴らしい!!」
「そんな事___そんな研究、お父さんが許す筈がないわ!」
アスナの父がそんな非人道的な行為を許す筈がない。経営者としても人としても彼は出来ている。
みすみす、こんな非道を見逃すはずが無い、とアスナは考えた。
が、しかし、現実は非情であり、須郷は狡猾だった。
「ン勿論、あのおじさんは知らないよ。私を含めた極小数のチームで極秘裏に進められているからね。そうじゃなけりゃ、
「商品…!?」
「どこに売ろうか迷ったんだがね、一ヶ月前に決めたよ。アメリカの___名前は言えないが、某企業が餌を待つ犬みたいに涎を垂らして待ってるよ、研究終了をね。まぁ、せいぜい高値で売付けるとするよ。この《レクト》ごとね」
「____よくもそんな事を言えるわね、私達の前で」
「ぼくも、結城家の人間になるのさ。今は養子からだが、名実ともにレクトの後継者になるだろう_____君の配偶者としてね。
いいじゃないか、今からその時の為の予行演習をするのもね」
粘り着くような視線にゾクリと冷たいものを感じながらもロニエはアスナを守るように前に立ち、アスナは須郷に毅然と言い放つ。
「ふざけないで。絶対にそんなことさせないわ。いつか現実世界に帰ったら、真っ先にあなたの悪行を暴いてあげる」
睨みつけるアスナとロニエ。
しかし、笑いながら気にしていない素振りを見せる須郷。
「分かってないなぁ、君たちのような子供の言うことを真に受けると思うかい?実験についての話もどうして話したと思う?
正解はね、このことを話したところで君達がすぐ忘れてしまうからさ!ここでの会話も、あのSAOでの記憶も、ねェ!後に残るのは僕に対する______」
と、ここまで饒舌に言葉を続けていた須郷の口が止まった。
チッ、と舌打ちをして左手を振り下ろしてメニューを出し、それに向かって誰かに応えた。
「_____分かった、今行く。指示を待っていろ」
底冷えした声。
アスナの知らない、科学者としての彼の一面。
先程との温度差にゾッとする。
「___邪魔が入ったが、そういう訳さ。君が僕の事を盲目的に、ただ一途に愛し、服従する日も近いということが……分かって貰えたかな?
勿論、君を…もとい、君の脳を早期の実験に使うことはぼくも望まない_______まぁ、そこの部外者は別に何とも思わないがね。
次また会う時はもう少し僕に対して従順であることを祈っているよ、ティターニア。そして、
須郷はそう言って身を翻し、扉へと向かった。
扉の横にある小さな数字のキーボードを数回叩き、扉を開けて外に出る。
カシャン、という音と共に扉の鍵がシステム的に閉まった。
カツカツカツ、という足音を鳴らして、オベイロンと名乗った須郷は鳥籠から去って行った。
「____アスナさん、大丈夫ですか?」
「…ええ、ありがとう。ロニエちゃん」
須郷が去った後。
2人きりとなった鳥籠の中でロニエとアスナは言葉を交わした。
「無理はしないでくださいね。あの男の言葉を真に受けていたら身が持ちません」
流石のロニエも須郷には心底嫌悪しており、初対面ですら、気持ち悪いとすら思った。
そして、あの男が何処ぞの貴族と同じようなどうしようもない人間であることを理解した。
「……ロニエちゃんこそありがとう。我慢してくれて」
「我慢、出来てませんでしたけどね」
我慢、というのは、須郷に対する反応や行動を全て抑制して欲しい、というものだった。初対面後、アスナはロニエに『須郷に対して反応を出来るだけしない』ように求めた。
理由は二つ。一つは初対面後、須郷の去り際には既に拳を須郷に振るう寸前であったからだ。アスナは知らないが、整合騎士として使命を全うしたロニエにとってあそこまでの吐き気を催す下劣な悪は許せなかった。あの時、殴りかからなかったのも、アスナが寸でで止めてくれたおかげな訳だが。
二つ目はこれ以上自分達の自由を奪わせない為であった。須郷は感情の起伏が激しい男であることをアスナは知っていた。先程のロニエの反撃には少しビビっていたようだが、彼はアスナ達が反抗するのを待っている節があった。
二人が嫌がることを堪能した上で反抗した事を理由にシステム的に束縛してから実力行使を…と考えているのだろうが、アスナにはその考えが読めていた。
それ故に彼の罠にかからないようにしなければならない。彼がシステム的な束縛をしようものなら、ベッドに縛り上げるなんてことや件の実験をやっぱりやる…なんて言いかねない。
今はまだ、この鳥籠の中だけとはいえ、自由を確保しておかなければならない。
脱出の可能性を捨てる訳にはいかないのだ。
ロニエは終始無視を貫こうとしたが、流石にアスナへの接触は看過できなかった。
「……ロニエちゃんがいてくれるだけでも心強いわ。独りだったら、頭どうにかなっちゃいそうだった」
「____必ずお護りします。私は、その為にここにいるんですから」
そして、ロニエがここにいる理由。それは、アスナを守る為。
SAOのログアウト時に見た、アスナが黒い影に囚われてしまう光景。ロニエは、アスナが何か危険な状態にあるのではないかと踏んでアスナについて行った。
結果、奇跡的にアスナと同じ場所に辿り着いた訳だ。
「……ありがとう、ロニエちゃん」
しかし、それがここに来てアスナにとっての枷となった。
先程須郷が吐き捨てて言ったこと。
『勿論、君を…もとい、君の脳を早期の実験に使うことはぼくも望まない_______まぁ、
ある意味、須郷にとってのとっておきのジョーカーな訳だ。
『下手な行動を取ってみろ、お前の大事な友達の脳を弄くり回すぞ』
という、警告。
「……諦めて、やるものですか」
しかし、闘志は揺るがない。
アスナはこの状況から脱するべく、思考を巡らせるのだった。
天空に囚われた二人。
虐げに耐える______チャンスが来るその時まで。
Twitterサブ垢作りました。詳しくは私のユーザー情報にて。
pixivでウマ娘関連のSS投稿してますので、良かったらどうぞ〜
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