ソードアート・オンライン ~時を越えた青薔薇の剣士~ 作:クロス・アラベル
戦闘後のお話です。短めなので次は早めに投稿……出来るといいのですが…
どうぞ〜
○
「…もう抵抗の意思はないよ。流石にこの惨劇を見れば誰だってやる気失せるだろ。無駄死にはしたくないんだ……デスペナが惜しい」
「デスペナ…なんと言うか、潔いいですね」
サラマンダーの槍兵の降伏を受けて、武装を解除したユージオとレプラコーンの少女。
勿論、槍兵も武装を完全解除し、鎧さえも装備していない。現在正座中だ。
「…ちょっと待ってくれ。話は1分ほど待ってくれないか」
急に周りを見つつそう告げられ、ユージオとレプラコーンの少女は彼を見張りながら1分間待った。
周りにあったリメインライトは次々と消えていき、最後の一つと消えていった。
「……ふぅ、これで聞かれることは無いな」
「聞くって…?」
「当たり前だろ?HPゲージを全損して
「…そうか、死んだこと無かったから知らなかったよ」
初めて聞くその情報に内心驚きながらも頷きながらそう答えた。『死んだことないって、そんな事…』と呟いく槍兵。
完全に初心者という事がバレるのはあまりよろしくない。舐められてしまうのは避けたかった。
「……いや、アンタなら有り得そうだな」
「…なんて言うか、そんな目で見ないで欲しいかな。元から強かったわけじゃないよ。2、3ヶ月前まで別のゲームをやってたから、体の動かし方は知ってたからね。このゲームを始めたのもそれくらい前だし…」
バレない程度の嘘をつく。2、3ヶ月前まで別のゲームをやっていたのは本当だ。まぁ、誰もそれが
「実を言うと、臨時で組んだパーティに参加しただけでな、別に知り合いじゃない……だから、逃げようとしてたんだ。運悪くレプラコーンの姉ちゃんと鉢合わせたりはしたがな。
分かりやすく言えば、命乞いだよ」
「はぁ…」
「一応、俺として殺さないでくれると助かるんだが…アンタが言うなら金もアイテムも置いてく」
「…えっと、それは僕が決めることじゃないかな」
ユージオはそう言うと、チラリと後ろのレプラコーンの少女の表情を伺う。
何せ、今回の本来の被害者は彼女だ。ユージオとしては勝手に助けて勝手に戦っただけなので、彼を許すかどんなペナルティを貸すかは彼女が決めるべき事だ、というのが彼の考えだった。
「あ、ああ、確かにそうだな」
「……ありがとう、私に振ってくれて助かるよ」
後ろで様子を見ていたレプラコーンの少女が前へ出てくる。
「とりあえず…私は別にあなたを恨むつもりはないから、安心して。これはゲームだし、それに私も全く対策してなかったのも悪かったから」
ユージオは彼女が狙われた理由は知らないが、ここはあまり聞く事はやめておいた。
「ペナルティも無し、でいいよ」
「…マジ?」
「…マジ。実際、私は襲われただけでアイテムは奪われなかったし、死んでもないし…まぁ、そこは彼に助けて貰ったからだけど」
「あ、ありがたい。さすがに何もお咎め無しとは思わなかった」
「…それでいいかな?」
こちらの様子を伺うレプラコーンの少女。それにユージオは頷いた。ユージオとしては意見しようとは思っていない。
それが被害者たる彼女の総意なら、それでいい。
流石に、殺すと言い出したら止めようとは思っているが。
「……ありがとう」
「じゃあ、早めに帰ってね。流石に私も完全に怒ってないって訳じゃないから」
「ああ、そうさせてもらうよ」
その槍兵は立ち上がり、そのまま羽を出して空を飛ぼうとして、振り返った。
「そうだ。アンタ、名前は?」
「僕の事…?」
「ああ、流石にアンタとまた殺り合うのは嫌なんでね。知り合いにも知らせておきたい。初期装備のウンディーネには近付くなってな」
「別に、初期装備以外にもあるけどね。僕はユージオ」
「…ユージオ、か。
分かった。それと、アンタは?」
「…私?私は、レイン」
「レイン、だな。なんと言うか、すまなかったな」
「…次は返り討ちにするからね」
槍兵は2人の名前を聞いて、そのまま夜の空に消えていった。
「…改めて本当にありがとう。助かったよ」
「気にしないで。僕が勝手に首を突っ込んだだけだから」
静かになった林の中、2人は改めて向き合って挨拶を交わした。
2人が顔を合わせたのは、1分程で、会話もほとんど交わしていなかった。
「____ふぅ」
どさり、と木を背にして座り込んだユージオ。
集中力がプツリと切れたらしい。先程まで神経を尖らせていたが故の反動だ。
「だ、大丈夫?」
「大丈夫、心配しないで。ちょっと集中力切れてちゃってね。流石に1対14は厳しかった」
「…本当にフルパーティと真正面から戦ってたの…?」
「うん。1対4くらいなら経験あるんだけど、今回は数が多過ぎたね。投降したとはいえ、みっともない姿を見せるのは避けたかったんだ。見栄を張っておいて正解だった」
目を閉じて頭を片手で抑える。過度な情報処理は仮想世界であっても身体____脳に悪い。現実世界でも少し彼の顔が険しくなっているかもしれない。
空中戦ではなかった為360度全方向を注意することは無かったが、それでも目紛しい視界の情報処理にユージオもダウンしてしまった。
頭の次はこめかみを抑える。別段、こんなことをしても意味は無いが、現実世界での名残りだ。
「じゃあ、改めて……私はレイン、レプラコーンだよ」
レイン、と名乗る少女は手を差し出してきた。
笑顔で握手する2人。
「丁寧にありがとう。僕はユージオ、種族は……そう、ウンディーネ…だったよね?」
「…どうして疑問形?」
「えっと、その……実を言うと、30分前に初めてこの世界に来たばかりなんだ。種族云々も選んだのついさっきだし…」
「え!?び、ビギナーなの!?」
今の今までフルパーティを完全迎撃しておいて初心者宣言はあまりにも説得力が無い、と彼女は言いたいのだろう。
確かに、実際フルパーティを2つ壊滅させた人がそんなことを言っても信じる人は少ない。
「ほら、装備は初期のままでしょ?武器だって、ショートソード一本だけだったから」
「…うーん……嘘は、ついてないんだね」
「本当だよ。初めてログインしたら、なんでかよく分からない林の中に落っこちちゃって…」
「バグかな?あんまりこのゲームのバグは聞いたことないけど…まぁ、私もこのゲーム長くやってる訳じゃないし私にわかることなんてほとんど無いけどね」
首を傾げるレイン。基本、この手のゲームはシステムがほとんどコントロールしているため、バグは見つけ次第修正される。ゲームの攻略サイトやSNSなどでバグを発見したと書かれた1時間以内にはすでに修正されているだろう。
「確か、ウンディーネの領地って結構遠いよね?」
「え?いや、その……バグでここに来たから、ウンディーネの領地も行ったことがないなぁ」
「うーん…これから君はどうするの?私的には何かお礼したいんだけど…」
「お礼は別に気にしなくていいんだけど…」
レインが助けてくれた礼をしたい、と言ってくれたが、ユージオにとって別段このゲームの中でレアアイテムが欲しい訳では無い。彼の目的は____世界樹へと辿り着くこと。
「あ、じゃあ、お礼の代わりだと思ってくれればいいんだけど、世界樹のある街……確か《アルン》だったっけ。そこまでの道を教えて欲しい。用があってそこに行かなきゃいけないんだ」
「アルンに用?」
「うん、会いたい人がいてね。レイン、君が良ければの話なんだけど…」
「いいよ、私が案内してあげる!私も目的地がアルンだから」
「え、いいの?会ったばかりなのに…」
ユージオも流石に断られるかと考えていたが、レインは快く応じてくれた。
「行きたいんでしょ?アルン。私もアルンにお使いクエストでいかなきゃいけないしさ。ちょっと…というか、かなり時間がかかるけどね」
「時間がかかるって……どれくらい?」
「うーん……ここからだと、3時間かからないくらいかな。ユージオ君は時間大丈夫?」
「大丈夫だと思うよ」
ユージオはメインメニューを開き、時間を確認した。現在の時刻は12時37分。昼食も既に済ませてあるし、今から3時間ならば病院での夕食にも間に合うだろう。
ティーゼを一人にするのは心苦しいが、彼は後で謝り倒すことにしようと心に決めた。
「分かった。私もアルンに辿り着く予定で来てたから」
そう言って、メニューを閉じて羽を展開するレイン。
ユージオもコントローラーを左手に呼び出して羽を展開する。
「あ、そうだ。この剣、返さないと」
先程の戦闘でなんやかんやあって使っていた彼女の長剣。それをレインに手渡そうとするユージオ。
「それ?大丈夫、持ってて。流石にショートソード1本じゃこれからの道中厳しいだろうから。私も、アルンへは戦闘は避けたかったんだけど、出来れば君に戦闘を担当してもらいたいと思ってるしね」
レインはそう言ってふわりと空へ浮かび上がる。
ユージオは頭を掻きながら照れくさそうに、ありがとう、と言って空へと上がって行った。
勝利の余韻に浸ることはなく、進み続ける。
次の戦いへ。
ALO編に突入致しました。このALO編にて特別ゲストとしてテレビゲーム版のキャラクターを登場させる予定です。もし登場させるなら…?
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