ソードアート・オンライン ~時を越えた青薔薇の剣士~   作:クロス・アラベル

114 / 119
遅くなりました。クロス・アラベルです。
戦闘描写難しい(クソデカボイス)
今回の総字数は1万3千となりました(新記録更新)
ユージオ君が主人公します。
ゲストのレプラコーンさんも負けじと戦います。
では、本編どうぞ。

追記:レインさんの誕生日にレインの戦闘シーン投稿することになるとは(白目)


逆転劇

 

 

『どんな界隈にも、化け物はいる』

 

そんな事をどこかで聞いた事があった。

言葉通りの意味だろう。

確かに、いるんだろう。俺も何度かバカみたく強い奴らと鉢合わせたことがあった。

武器の扱い、立ち回り、勝負の掛けどころ。全てにおいて秀でた、猛者。

だが、そんな猛者でさえ、物量には勝てなかった。フルパーティ7人と数人にボコされたのを見た。

個は群を超えることは無い。

それが俺の見てきた、経験則。

 

だが______そんな俺にとっての絶対が。

覆されようとしていた。

 

フルパーティ7人対ソロ。

勝てるはずのない状況を覆す奴がいた。

 

それが、あのウンディーネだ。

フルパーティでボコす予定が、奴の頭おかしい強さに全て狂った。

立ち回りが他と違う。

フルパーティに襲われれば、逃げるのが普通だ。俺だって逃げる。なのにコイツは、前衛中衛の4人を見事に屠って見せた。

ギリギリ魔法による回復が間に合い、包囲網を敷くことが出来たが、かなり危なかった。

 

オマケに何処からかやって来た援軍。

このパーティ自体、例のレプラコーン狩りのために募集されてた即席パーティだ。何人か知り合い同士で参加してる奴がいるようだが、俺は少なくとも知らない奴ばかりだ。

 

 

「____お前ら、油断すんなよ!」

 

喝が飛ぶ。

リーダーは両手剣使い。ソイツが今ふたつのパーティに指示を出している。

アレがどれだけ強いかは知らない。

普通、前衛が半分以上居れば負けることは無いが、あのウンディーネは別だ。

 

嫌な予感がした。

 

多分、アレが世にいう《化け物》だろう。

そういう化け物が出たって話は大抵、数で押そうと無駄なことが多い。

 

「…頼むから、やられてくれよ」

 

そう、ボソリと呟いた直後、ウンディーネは動き出した。

計4人の前衛が一気に襲いかかる。

中衛である俺は、その後ろ_____4人の魔道士(メイジ)を守るように陣取る。

 

とにかく、そのウンディーネは速かった。

1ヶ所に留まらず常に移動し、包囲網を崩そうと剣を振るう。

 

とらえどころの無い動きと凄まじい反応速度、そして、臨機応変さ。

あんな戦い方をする奴は初めて見た。

少しでもこちらが隙を見せれば待っていたと言わんばかりに攻撃してくる。しかも一撃が武器からは考えられないほどに重い。こちらの鎧の装甲ももろともしない。

たった一撃、二撃で七、八割削られる。

 

が、俺達にはメイジがいる。例えダメージを受けようと回復が出来る。

メイジは今4人。回復スピードも、回復をかける人数もさっきとは比べ物にならない。

どれだけ削ろうと、ダメージを受けたら即下がり、回復してもにらうから奴の猛攻も意味をなさない。

いつか、アイツも集中力が切れてやられるのが運の尽き。

 

_____だと言うのに。

アイツの目は、諦めようとはしていない。

諦めの悪い、()の目だった。

 

 

 

 

 

 

 

ほぼ六人同時に相手取る。

ハッキリ言って、無理難題もいいところだ。

いくらユージオであってもほぼ不可能だった。

しかも、後ろから弓兵による援護射撃とメイジ4人による敵の回復付き。

既に相手はユージオの強さを知ってしまった。先程の戦闘のように舐めてかかることは無い。

 

キリトから教わった戦略も、この人数差では出来るとは思えない。

 

_______なら、全員相手取るまで。

 

覚悟は既に決まっていた。

相手が何人いようとやることは変わらない。

 

既に戦闘が始まって2分。

人数差にも関わらず、接戦を繰り広げていた。

 

「____ふッ」

 

片手剣使い4人による同時攻撃。それを倒れ込むように姿勢を落として回避し、一人に狙いを定める。

 

「はッ!!」

 

袈裟斬りを狙った一人の盾に叩き込み、吹き飛ばす(ノックバック)。直後、後ろから繰り出される三回の斬撃を一回回避し、残り2回を剣で受け流す。そして、牽制として大振りの斬撃を防がれることを承知で繰り出した。

 

いくら攻撃しても、後ろのメイジ4人による回復が重複して即回復してしまう。

これにはユージオも舌打ちしてしまう。

ほぼ無限ループだ。

魔法を使うにも限度があるのはユージオもシャルから聞いているが、それでもまず勝てない。

メイジ4人のMPが完全に切れるまで戦い続けるのはナンセンス。

 

故に、1人ずつ確実に殺す。

回復ならさほど時間はかからないだろうが、()()なら回復よりも時間がかかるのではないか、とユージオは考えた。回復がかかる前にとどめを刺す。

先程の戦闘では完全に倒すこと_____殺す事に躊躇してしまった。アンダーワールド出身であり、アインクラッドで命のやり取りをし続けてきた彼にとって現実と繋がらないと聞いていたが、殺すことに戸惑いがあった。

しかし、シャルは言った。

『ここで死んでも現実世界じゃ死なないよ、おとうさん。安心して』

愛する娘がそう言ったのだ。

 

吹き飛んだ片手剣使いに斬りかかる。

吹き飛ばされた彼は既に守りの姿勢を崩している。盾を吹き飛ばすくらいなら、可能だった。

一閃。

 

盾を吹き飛ばされ、がら空きとなった胴体に一撃。

先の後方に吹き飛ばした一撃を防ぎきれていない彼は今の一撃で6割もHPゲージが削れている。

あと一撃で、殺すことが出来る。

 

覚悟は______決めた。

 

「_____はァッ!!」

 

首元への容赦のない突き。

叩き込まれたそれは、相手のHPゲージを全て削り取った。

 

「く、そ______!!」

 

悔しげな男の声。

ゲージが消えたサラマンダーは後ろの木に背中から叩きつけられた。直後、体が燃えて、紅い炎を残して彼は消えていった。

その紅い炎がシャルが言っていた《妖精の残り火(リメインライト)》だと悟った。

これで、彼は蘇生魔法でしか復帰できない。

 

後ろを振り返る。

残るサラマンダーは、13人。

 

「______一人目」

 

その全員を屠ることを決意し、剣の柄を握りしめる。

後衛にいるメイジ4人を倒さなければ時間がかかっても蘇生される。早急に、前衛を突破するか、メイジの詠唱を妨害しなくてはならない。今倒したサラマンダーはメイジからそれなりに遠い為、蘇生魔法の効果範囲内にいるかどうか怪しい。

戦線を、後ろへ。今倒したサラマンダーから遠ざける必要がある。

 

ユージオは再びサラマンダー達へと走り出した。

 

 

 

 

 

「____マジかよ」

 

自分の口から呆けた声が出てしまったことに気づく。

たった今、前衛の一人が死んだ。

まともに受けた攻撃は2回。盾で防いだ攻撃がいくつもあるとはいえ、あの包囲網を無理矢利突破し、一人殺してのけた。

死んだ奴はメイジから遠く、蘇生魔法の効果範囲外だ。

リメインライトを回収するしかない。

だが_____

 

「…それを許しちゃくれなさそうだ」

 

あのウンディーネが確実に阻止してくる。

あの人数に囲まれて尚そんなことが出来るかと言われれば出来ない、と答えるだろうが、《アレ》は別だ。

 

とりあえず、回復魔法を今いる奴にかけ続ける方が良いだろうか。

 

「ぅ、おおおお!?」

 

また1人、死んだ。

片手剣使いが2人目の脱落。

雲行きが怪しくなってきた。流石にこれは不味い。

どうするか迷っていた、その時。

 

「クソっ、もういい!!()()をやれ!!」

 

大剣使いが叫ぶ。

《アレ》とはなんだろうか。

もとよりこの2パーティのメンバーについてあまり知らないから、そんな隠語で言われても俺にはさっぱりだ。

 

その時、一人の弓兵がメインメニューを弄り出した。

パッと、弓が消える。

 

そして、その弓兵が弓の代わりにアイテムストレージから取り出したのは_____1本の長い鎖だった。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

「チィッ_____!?」

 

「せァッ______!!」

 

また一人、倒した。

これで3人目、残るは片手剣使いが一人と大剣使いが二人。

前衛突破まであと少し。なんなら前衛を無視してメイジ達に突っ込んでもいい。

槍兵も弓兵も置き去りにしてメイジ達へ斬りこめる自信がユージオにはあった。

 

最後の片手剣使いが斬りかかってきた。袈裟斬りを片手剣で受け止める。鍔迫り合いは一瞬。

斬り返し、片手剣使いへ一撃を喰らわせようと剣を振ろうとした。

 

と、その時だった。

ジャラジャラ、という音とともに、右手に違和感を感じた。

 

「_____?」

 

パッと剣を見ようと振り返る_____その直前。

右手から剣が()()()()()()

 

「_______!!」

 

辛うじて視界に入った。

(チェーン)だ。

唯一の武器であるショートソードを鎖で掠め取られた。

 

つい先程、大剣使いが『アレをやれ』と叫んでいたがこういうことらしい、とユージオは冷静に考える。

 

不味いな、とユージオは顔をしかめた。

それを見てか、先程指示を出していない方の大剣使いが突っ込んでくる。頭上にその大剣を振り上げて、そのままユージオを斬るつもりらしい。

 

確かに、勝つ方法としては卑怯とも言えるが、実に合理的だ。

相手が強いなら、武器を取り上げればいい。

しかも、彼らは知る由もないが、ユージオは魔法が使えない。

唯一の攻撃方法は今失われた。

 

 

______少なくとも、そう考えているのは相手だけだが。

 

瞬間、ユージオは大剣使いから逃げるのではなく、自分から駆け出した。

大剣使いが驚愕する。

何せ、武器を失ったプレイヤーは例外なく、次の武器を出すか、逃亡するかの二択だ。

魔法は詠唱が間に合わないし、武器を出そうにもメインメニューを触る時間が今はない。故に、大剣使いはユージオが必ず後ろへ下がると考えていた。

 

その予想を裏切り、ユージオは大剣使いの斬撃を躱して_____

 

「_____ふッ!!」

 

「ぎッ______!?」

 

()()()()

渾身の右ストレートを大剣使いの顔面に叩き込んだ。

 

被っていた兜が外れ、自分自身も吹き飛ぶ大剣使い。

HPゲージは____なんと、二割減った。

 

この世界ではソードスキルがない為、武器無しでの攻撃は1割も減ることは無い。

が、アインクラッドでの時代、ユージオの体術スキルの酷使で補われた身のこなしと体術独特のブースト技術の再現によって、普通ではありえない高火力が出た。

 

驚愕し、詠唱する忘れあんぐりと口を開けるサラマンダー達。

その場で動いたのは、ユージオだけだった。

 

追撃せんと、吹き飛んだ大剣使いを追う。

地面に叩きつけられた大剣使い。状況を完全に理解出来ない_____というよりも、理解したくないこの現状に舌打ちする。

早く立ち上がりユージオを殺さんとするが、

 

「はァッ!!」

 

体を起こした直後に顔面に、ユージオの左アッパーが炸裂する。

頭が地面に叩きつけられる。

 

そのまま、連打、連打連打連打連打。

合計8発の拳を喰らい、大剣使いは紅いエンドフレイムに焼かれて息絶えた。

はァ、と息を吐く。振り向いて敵を視界に入れた。

4人目。残り、10人。

 

正気を取り戻すサラマンダー達。

自分達が、何に喧嘩を売ったのかを悟ってしまった。

 

「_____もう、遠慮するな!どんな卑怯な方法を使ってでも殺せ!!」

 

リーダーのもう1人の大剣使いが突っ込む。

片手剣使いも同じように走り出した。

 

大剣使いの一撃を紙一重で回避し、左フックで牽制。片手剣使いは無視して、メイジ達へと駆ける。

 

後方の鬱陶しい回復役は早めに対処しなければ、せっかく減らした敵が増えることになる。

ユージオの回復阻止を阻止しようと剣を振りぬこうとした片手剣使い____直後、急ブレーキをかけて振り返ってその一太刀を左手で()()()()、そのまま顔面に右ストレートを見舞う。

 

「____しッ!!」

 

「ゔ!?」

 

メイジ達へと走ると見せかけた罠。

邪魔な盾を前に出させない為の(ブラフ)

まんまと騙された片手剣使いはユージオの打撃に怯み、そのままユージオは攻撃を続行する。

 

「おおおおおおおおおおッ!!」

 

7発の打撃で瀕死となった片手剣使い。手放された片手剣。

回り込んできた槍兵へと瀕死の片手剣使いをぶん投げた。ぶつかる2人。

その2人に向かって、片手剣を投擲する。

 

投げた片手剣が2人を串刺しにした。

片手剣使いは炎に包まれ、消えていく。残り9人。

まだ生きている槍兵を蹴りで吹き飛ばし、そのまま追撃せんと駆ける。

 

勝てる可能性が見えてきた____その時。

 

再びあのジャラジャラ、という金属音が響く。

咄嗟に回避しようとして______右手首に巻きついた。

 

「_____またか!」

 

ガチリ、としっかりと巻きついたそれ(チェーン)は、ちょっとやそっとではとれそうにない。

そのチェーンの先には弓を使っていたはずの弓兵。先程剣を奪ったサラマンダーだ。

チェーンを取ろうとした直後、三度のチェーンの音。

今度は左手首に巻きついた。

直後、

 

「_______っ!?」

 

強い力で左右から引っ張られて、十字架のように両手を広げてしまった。

ギチギチ、とそれでもなお強く引っ張られる。

左側にもチェーンを持ったサラマンダー。

 

______拘束された、とユージオは臍を噛んだ。

チェーンで武器を取られるのなら、こういうことも予想出来た筈。

もっと対処にしようがあったと悔やむ。

 

「よし、そのままだ………そのままだぞ………!!」

 

大剣使いが大剣を拾い上げ、真っ向斬りの姿勢で再び突撃してくる。

両手は使えない。

 

なら_____

 

「_____ああああッ!!」

 

「ぅげ_____!?」

 

脚を使うのみ。

逆上がりの要領で蹴り上げる。大剣使いの顎に右足のつま先がクリーンヒット。ズガッ、という子気味いい音。

後ろへ吹き飛ぶ大剣使い。

その時、大剣が手から滑り落ち、地面に突き刺さった。

 

「ま、まだやるのか……!?」

 

メイジ達から声が上がった。

チェーンで両腕を拘束された状態で尚攻撃を止めないユージオの覇気に、思わず怯む。

 

「クソッ、魔法だ!遠距離から丸焦げにしてやれ!!」

 

吹き飛んだ大剣使いのサラマンダーが起き上がりながら指示を飛ばす。

怯んでいたメイジ4人も、すぐさま詠唱に入る。

使うは勿論、火炎系上位魔法だ。

その分詠唱に時間がかかるが、拘束しているのなら問題は無い。

 

______筈だった。

 

それをすぐさま悟ったユージオが、両腕に力を込める。

左右のチェーンをユージオ側へと引っ張ろうとしている。

まず、拘束を解かなければ抵抗すら出来ない。

迅速な判断だった。

 

「ぐ、ぅぅうう_____!!!!」

 

全力で左右のチェーンを引っ張る。普通はたった一人、それも片手だけでこの拘束を解けるとは思えない、しかし。

 

「おいおいおい、マジかよ……!?」

 

「なんだ、この馬鹿力…!!」

 

左右から拘束のために引っ張りあっているサラマンダーの弓兵が驚きの声を上げる。

少しずつ、引っ張られている。動くとは思えないその位置関係が、覆される。

 

メイジの詠唱が完成するまで、残り7秒。

 

「何やってる!死ぬ気で引っ張れ!!」

 

「やってるっ…ての…!!」

 

大剣使いが癇癪を起こしたように叫ぶ。

弓兵が怒鳴り返した。

 

しかし、どんどん引っ張られていく。

 

痺れを切らした大剣使いが再びユージオに特攻する。

今、拘束から逃れようと全力を出し、意識をそちらに回しているのなら、反撃は無いと大剣使いは判断した。

それは正しい。

ユージオも流石にそこまで意識は裂けない。

今攻撃されればまともに攻撃を受ける。

 

詠唱完成まで、残り5秒。

 

「______ぅぁああああッ!!!!」

 

「なっ______!?」

 

「うお!?」

 

ユージオが雄叫びを上げて一気にチェーンを力強く引いた。

弓兵が完全にその力に負け、チェーンに引っ張られて宙に浮く。そのままユージオの元へ飛んで_______

 

「はァッ!!」

 

渾身の打撃を左右に振り抜く形で2人の弓兵の顔面に叩き込んだ。

吹き飛ぶ弓兵達。手放されるもののユージオの腕に巻きついたままの左右のチェーン。

 

残り3秒。

 

「____巫山戯んなァ!!?」

 

大剣使いが斬り掛かる。

ユージオはそれを間一髪で回避し、大剣使いの顔面に2発拳を叩き込んだ。

 

「ぐ、ぇ______!?」

 

後方へ吹き飛ぶ大剣使い。

手から離れ、地面に突き刺さる大剣。

 

残り2秒。

 

ユージオはチェーンが巻きついたままの右腕を落ちた大剣へと振るう。

それに伴って、チェーンも大剣へと伸びていく。

そして、チェーンは大剣の柄にしっかりと巻きついた。

少し引っ張り、巻き付きが強固であることを確認する。

 

残り、1秒。

 

直後、()()()()()()()()()()()()()()、メイジ達へと振るった。

 

「_______ステイパ・ランドr____え?」

 

詠唱完成まで後1句に迫った0.5秒前。

メイジ4人を大剣による斬撃が襲った。

 

「ぎァ____!?」

 

「いぎィ____!?」

 

4人のうち、2人が斬撃に巻き込まれた。巻き込まれた2人は吹き飛ばされてしまった。HPゲージは7割消し飛ばされている。

後ろにいた二人は攻撃を免れたが、急な斬撃に詠唱を途中で止めてしまった。彼らの周りに展開されていたスペルが霧散すした。

ズドン、という鉄塊が地面に勢いよく地面に落ちる音が響く。

 

ALOにおいて、魔法の詠唱は完全でなければならない。詠唱の1句でも間違えれば、その魔法は失敗(ファンブル)する。勿論、失敗した場合は最初から詠唱し直さなければならない。

システムが反応するように一定量の声量と、正しい発音で詠唱する必要がある。

故に____完全に詠唱し終わった魔法を1つストックする方法はあるものの、途中で詠唱を止めてしまったり、誰かと会話してしまおうものなら即座に失敗する。

 

 

彼らの上位火炎魔法も、詠唱中断により失敗(ファンブル)した。

大剣使いは武器を失い、弓兵はまだ弓を背中に装備したまま。槍兵はフォローしようとこちらに向かってくる。

しかし。

 

それはユージオの右手の一振りで止まった。

 

「ひぃ!?」

 

「う、おお!?」

 

槍兵二人ギリギリに大剣の斬撃が飛んでくる。

 

「________!!」

 

再び、ズドンという鈍い音。

大剣の本来の攻撃範囲は広くて半径2mあるかどうか。槍兵二人とユージオの距離は6m以上離れている。

しかし、ユージオは大剣とチェーンを組み合わせることで、射程を本来の3倍まで伸ばすことに成功した。

 

接近戦しか出来ない筈のユージオは、6mもの攻撃範囲を得た。

緊張が走る。

与えてはならないもの(武器)を与えてしまった。

後にあるのは____

 

「_____はぁぁぁあッ!!」

 

 

()()である。

 

 

振るわれる鎖で繋がれた大剣。

超火力の大剣が最大6メートル____両手槍以上の攻撃範囲を持って一方的な蹂躙を開始した。

右手に巻きついたチェーンを右手で持ち、片手で回し続ける。

少しでも近付けば体を両断されるだろう。

 

圧倒的な暴力。

竜巻の如く、ユージオを中心に斬撃の嵐が巻き起こる。容易に近づくことはできない。

敵の攻撃や拘束を自分の味方につけて利用し、ユージオはラストスパートをかける。

 

「ぎゃああああ!?」

 

「ひぃあ!?」

 

振るわれる大剣にまた斬られて一瞬でリメインライトへと変わるメイジ二人。

残るは7人。

メイジは半分消え、もう半分のメイジもHPはほぼレッドゾーンギリギリ行かないくらいの虫の息。ユージオの攻撃ならあと一撃で終わる。

 

左手を小刻みに揺らし、左腕に鎖を一気に巻き付けた。

 

「______ちっ、要は大剣を避ければいいんだろ…!」

 

その時、先程大剣を奪われた大剣使いが予備の武器を携えて駆けてくる。

彼が言いたいのは、攻撃として気をつけるべきは鎖の先端にある大剣のみであり、それさえ回避してしまえば後はダメージを喰らわない鎖だけという事。

鎖で繋がれているが故に遠心力で通常の大剣の倍以上の重さをユージオが耐え続けていると見抜いた。ならば、中々動くことは出来ないはずだ…という事だ。

 

「お前ら、こいつに移動させるな!!」

 

檄を飛ばす。

鎖を手放してしまった弓兵達も弓を再度とり、狙撃してくる。

 

死点は、大剣による攻撃1つのみ。

それさえ躱してしまえば接近は容易い。

自分のみに攻撃の焦点を絞ってしまえば周りへの攻撃が疎かになる。ユージオが1番避けたいのは多数からの同時攻撃又は飽和攻撃。

なら、もしかすると彼が優先するのは周りへの牽制ではないかと考えついたのだ。

 

「_____ッ!!」

 

「_______く、ぉ……!?」

 

大剣使いはユージオ渾身の一撃をスライディングでギリギリ躱した。

後は、鎖に巻き込まれないように避けて斬りかかればほぼ勝ちだ。

 

走る大剣使い。振るわれる鎖に繋がった大剣。

3度鎖を避けて、ユージオへの辿り着く。

 

「これでも食らって死ねや_____!!」

 

最後の一撃。

大振りの一撃にユージオは____左腕をかざした。

 

ギャリン、という金属音が響く。

 

「_______は?」

 

彼の一撃はユージオに届かなかった。

斬撃を受けたのは、鎖がぐるぐる巻きになった左腕。

鎖が______即席のチェーンアームとして機能した。

大剣を左腕で受け流す。

 

「なん、だよそれェ___!!」

 

大剣使いは思わず怒鳴ろうとして、ユージオの正拳突きを顔面に食らった。

吹き飛ぶ大剣使いへ、ユージオは逃さずそのまま大剣の斬撃を食らわせた。

 

「ぎぃ、あ___」

 

直後、大剣使いも紅い炎を撒き散らして、エンドフレイムとなった。

残り、6人。

 

そこからは、ほとんど消化戦に近い。

連携は木っ端微塵に砕け、半分以下となったパーティメンバー。そのほとんどが手負いであり、ユージオに対し恐怖心を抱いていた。

無理もないだろうが。

 

「____油断はしない」

 

残りのサラマンダーを視界に収める。

弓兵が2人、術士が2人と_____槍兵が1人。

考えていた残り人数と計算が合わないことに疑問を抱きながらも、攻撃を再開した。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

「____アレは、関わっちゃいかん奴だな」

 

森の中、走る人影があった。

先程まで戦闘に参加していたはずの槍兵の1人。

彼はリーダーの大剣使いが死んだ直後にパーティから抜ける事を決めた。勝てないのは明らかだ。もとより14対1で善戦していた化け物に、その半分の人数で勝てる筈がない。

 

彼は、冷静に物事を考えられる男だった。

ビギナーっぽいプレイヤーに負けかけているから、と頭に血が上って負け戦に挑むような男ではなかった。

 

自分の実力にはそれなりに自信はあった。別にサラマンダーの戦士の中で一強い…なんて、変な驕りはない。ただ、中堅クラスの上位に食い込めるくらいの実力があると自負していた。

 

しかし、今回の実質的敗北。

明らかに勝てない。

 

白兵戦を挑んだが、戦えたのはたった数秒。

ひたすらに相手の攻撃を捌くだけだったが、それだけでも実力は計り知れた。

自分がアレに勝てない側の存在であることは彼がよく理解していた。

 

「運が悪かった、としか言えない」

 

エンシェント・ウェポン欲しさに即席パーティに参加したが、これでは割に合わない。

もとよりパーティメンバーに知人はいない。

 

厄介事には首を突っ込まない、彼のモットーだった。

 

 

しかし、彼にも誤算があった。

 

ユージオが逃がしたレプラコーンの少女。

_____彼女がユージオを助けようと森に戻ってきていたこと。

 

「「________」」

 

()()()()()

 

視界が良好とは言えない林の中、ばったりと。

一瞬の硬直。

考えていなかったプレイヤーとの遭遇に思考が停止する。

 

少女の方は既に戦う準備が出来ていたようだが。

 

「____やァ!!」

 

「ぅ、お!?」

 

槍兵の首元へ一閃。

辛うじて避けた槍兵は即座に距離を取ろうと後ろへと跳んだ。

 

「_____アンタ」

 

ウンディーネに逃されていたハズの少女に目を見開く。

彼女の右手に握られているのは無骨な片手剣。彼女が打ったであろうそれ。

 

槍兵も槍を構える。

武器のグレードとしては槍兵の方が上回っていた。

そして、スキル熟練度的にも。

 

「____はァッ!!」

 

「____シッ!!」

 

振るわれる剣、それを防ぐ槍。

 

彼女にとっての戦いが幕を開けた。

 

 

 

 

 

 

 

ほぼ互角。

 

スキル値や武器のグレードに至るまで全て槍兵が上回っているというのに、それをかの世界での記憶が______技が、足りない物を補う。

 

「___っ!!」

 

しかし、それでも彼女にとっては厳しいものだった。

彼女は《ソードアート・オンライン》の世界を生き、生還したいわゆる《SAOサバイバー》な訳だが、もとより最前線で戦っていた訳ではなく、SAOクリア時には鍛治スキルを鍛えるためNPC鍛冶師と共に山に篭ろうとしていた所だったので他より戦闘経験があるという訳では無い。

『切り札』と言えるものもあるにはあるが、付け焼き刃で通じるかどうか怪しい。

 

彼女がこの世界に来てからというと、約一週間の間ログインした時間は殆どを鍛冶に使ってしまっているのもあってALOでの戦闘経験はお世辞にもあるとは言えない。

魔法の使い勝手も知っている訳でもない。

使ったことのある魔法は、戦闘に使えない鍛治魔法くらいだった。

 

「_____せやぁ!!」

 

いずれ集中力が切れれば彼女が負けるのは目に見えている。

 

しかし、彼女の注意は既に散漫になっていた。

今考えているのは、この状況を打破する方法について。

自分に出来る精一杯の抵抗は白兵戦だけなのか。

 

逆転出来る何かを、探している。

 

彼女には《切り札》を持っているが、それを使うにはメインメニューの操作が必要になる。

武器をもう一振り取り出す必要がある。彼女は今一振りしか剣を装備していなかった。

ほんの数秒でいい、相手の攻撃を止める何かが欲しい。

 

彼女の技術では正面切っての先頭では隙が作れない。スキル熟練度、武器の性能、両方相手に分がある。

では何がある?

 

魔法か?

それは無い、と彼女は選択肢を捨てる。

彼女は攻撃魔法も防御魔法もどちらとも覚えていない。しかも使うにはそれなりに詠唱に手間がかかる。

 

出来ても、時間がかからない3つ以下の単語で完結するような初級魔法でしかこの場では使えないだろう。

 

彼女が覚えていてなおかつそれなりに使ったことのある魔法は、一つしかない。

《鍛治魔法》。

種族《レプラコーン》特有の魔法で、釜に複数の武器を同時投入が可能なものだ。

知り合いの話だと、この魔法の熟練度を高めれば高めるほど収納出来る武器の数が多くなるらしい。

 

この魔法が今、役に立つだろうか。

剣を振るいながら思考する。

しかし、このジリ貧の状況を乗り越えるには何かキッカケが無ければ。

 

「_____はッ!!」

 

考えていても仕方が無い。

やれるだけやってやる、と息巻いて相手の槍を全力で弾いた。

 

瞬間、槍兵に向かって手をかざし、()()()

 

「____ek(エック) kalla(カッラ) maekir(メキアー)!!」

 

「__________!!」

 

魔法の発動に驚くも冷静に対応する為後ろへ下がろうとする槍兵。

彼は瞬時に考えた。『今の魔法の効果は一体何なのか』と。

彼もこのゲームを初めてそれなりに長いので魔法の詠唱の単語単語の意味は代表的なものならば知っている。

ek(エック)は『私、我』、kalla(カッラ)は『呼ぶ』という意味だ。maekir(メキアー)の意味は忘れてしまったが。

 

直後、何かが彼に飛来する。

 

ドスッ、という鈍い音。

 

「な_______!?」

 

右肩に突き刺さった何か。

それは、鈍色のショートソードだった。

HPゲージは2割削れた。奇跡的に鎧の隙間を縫うように突き刺さった。

彼はmaekir(メキアー)の意味が《剣》であることを悟った。

 

「ぅ、あっ…!?」

 

咄嗟に槍で払おうとするも、右手から槍が滑り落ちる。

直後、少女の一撃が腹を斬り裂いた。

 

「_____!!」

 

「___ちィ!?」

 

即座に足で槍を蹴り上げて左手で受け止める。しかし、槍兵の使う槍はどちらかと言うと両手槍____片手で扱えるものではなかった。

取り回しは通常より何倍も難しく、攻撃速度は見る影もない。

 

辛うじて攻撃をするも、簡単に防がれた。直後、

 

ek(エック) kalla(カッラ) maekir(メキアー)!」

 

第2射。

左胸に命中した。

 

「ぎ_____!?」

 

速度としては速い訳では無い。防ごうと思えば出来るだろう。しかし、1射目は不意をつかれ、2射目は槍を落とし拾ったものの迎撃出来るような状態ではなかった。

 

これは、彼女が未来辿り着くであろう技術_____《多刀流》の始まりの一歩となる事を、彼女自身知らない。

 

少女の記憶ではこの鍛治魔法にしまっている剣の本数は三本。残弾数___()()()は一本のみ。

使い切れば後がない。できるだけ切り札は温存する。

 

「____畜生ッ!!」

 

第2射を受けた槍兵が空を飛んだ。

勝てる見込みが無いのを悟って撤退するつもりか。

 

「____逃がすかっ!」

 

彼女も羽を出して空を駆ける。

 

確かこの先で戦闘音が鳴り響いていた。助けてくれた彼がまだ生きているとは考えにくいが、一刻も早く彼を助けなければ。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

メイジ2人と弓兵も既に1人残り火(リメインライト)となっている。

残るは槍兵と弓兵のみ。

弓兵はユージオの視界内に入っているので攻撃タイミングは分かる。槍兵も先程から接近してきていない。

 

まずは、厄介な弓兵から。

 

「_____はッ!!」

 

上から叩きつけるような斬撃。それを弓兵はギリギリで回避した。

しかし、ユージオの攻撃はそれで終わらない。

竜巻の如くユージオを中心に斬撃が繰り出される。

 

しかし、何を考えたか、弓兵がなりふり構わず突進してきた。

 

「うおおおおおぉ____!!」

 

あからさまな突撃に瞬間様々な可能性を考えたが、すかさずユージオはその弓兵に鎖付き大剣で斬撃を食らわせる。

 

「げ、ァ______!?」

 

真正面からの一撃。

先程とは違い、回避行動無し。

おかしい、とは理解しているが、無視することも出来ない。

 

と、その時。

 

「かかった、なァ_____!!」

 

「____!?」

 

ニヤリ、と弓兵が嗤う。

嫌な予感がして、鎖を思いっきり引っ張って戻そうとしたが、既に遅かった。

 

弓兵が手を伸ばして大剣に繋がった鎖に触れる。そして、何かメニューを開いた。直後_____()()()()()

 

「な________」

 

ユージオの右手に絡みついていた筈の鎖が一瞬で消えた。

 

「まさか____!」

 

ユージオは遅れて理解した。

あの弓兵こそが、ユージオの右手に鎖を巻き付けた張本人だ。

ならば、アイテムの所有権は彼が持っている。先程鎖が消えたのは、持ち主たる弓兵が鎖を直接アイテムストレージにしまったから。

 

大剣が腹に突き刺さったままの弓兵は笑ったまま、炎に包まれていく。

 

「____ナイスガッツ…!」

 

突撃してくる槍兵。

武器を持たないユージオ。

 

「___しまった」

 

相手は中距離武器の両手槍。大剣を失ったユージオは体術で戦うことしか出来ない。少し相性が悪い。

左手の鎖は完全に巻き付けてチェーンアーム代わりにしているため、武器に出来るくらい解くには時間がかかる。少なくとも、槍兵と接敵するまでに解くのは不可能だ。

 

一撃目を屈んで避けて、二撃目を後ろに飛んでやり過ごす。

ユージオのHPは攻撃をほとんど食らっていないとはいえ、反動でここまで7割以上削れている。

防戦一方となれば、鎖で防げるとは言ってもあまり保たない。

 

逡巡したその時、後ろから気配を感じた。

そして、飛行音。

先程見失っていた槍兵が戻ってきたのか、と驚くユージオ。

 

「使ってぇ_____!!」

 

しかし、聞こえた声は知らない少女のものだった。

直後、飛来する何か。

その少女の声に敵意がないことに気付き、ユージオはその飛来する何かに右手を伸ばし_____掴んだ。

 

「______な」

 

ユージオが掴んだのは、長剣だった。

土壇場で手に入れた武器。

誰が渡してくれたのかは分からないが______ユージオはそのままその長剣を肩に担ぎ、左手を槍兵へとかざし狙いを定める。

アインクラッドで何千回と放ってきた、片手剣ソードスキル。この妖精の国ではソードスキルは発動しない。

 

「畜生ォオォォ____!?」

 

「______はァァァァァ!!」

 

だから、()()()()()()()

片手直剣突進技《ソニックリープ》。

最速の剣撃を相手に見舞う。目にも止まらぬ一撃が______両手槍諸共、槍兵の左肩から右腰まで斬り裂いた。

 

「_____く、そ…」

 

槍兵はその一撃でリメインライトへと変わっていく。

そして、ユージオは背後から飛んでくる誰かに向かって____剣を突きつける。

 

「_____マジ、かよ」

 

驚愕しているのは、先程見失っていたもう1人の槍兵だった。右肩と左胸にショートソードが突き刺さっている。

 

後ろから追ってきているのは、先程逃がした筈のレプラコーンの少女。彼女も流石に驚いている。

周りには、まだ消えていない《残り火(リメインライト)》計9個。

 

「僕の勝ち______で、良いかな」

 

そう問いかける。

 

「………降参だ」

 

HPゲージが既にレッドゾーンへ突入した槍兵は槍を手放し、両手を上げて降伏を告げた。

 

 




各々の信念が、意地がぶつかり合う。
その果てに______終わり(勝利)がある。

ALO編に突入致しました。このALO編にて特別ゲストとしてテレビゲーム版のキャラクターを登場させる予定です。もし登場させるなら…?

  • 鍛冶師の二刀流使い《レイン》
  • 天才科学者のVRアイドル《セブン》
  • 自称トレジャーハンター《フィリア》

▲ページの一番上に飛ぶ
X(Twitter)で読了報告
感想を書く ※感想一覧 ※ログインせずに感想を書き込みたい場合はこちら
内容
0文字 10~5000文字
感想を書き込む前に 感想を投稿する際のガイドライン に違反していないか確認して下さい。
※展開予想はネタ潰しになるだけですので、感想欄ではご遠慮ください。