ソードアート・オンライン ~時を越えた青薔薇の剣士~   作:クロス・アラベル

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予告通りに投稿出来ました、クロス・アラベルです。
この回で現実世界の話は一旦切り上げになります。
次回からようやくALOへ…!

FGOにロニエ(中の人)とユイ(中の人)が進出です。親子で行くとはびっくり(ニッコリ)

アンケートのご回答ありがとうございました!
アンケートの結果、ゲーム版からの特別ゲストはレインに決定致しました。
レインさんの登場はもう少し先になりますが、頑張って書いていきます。

ユージオ、アリス、お誕生日おめでとう!


手がかり

 

 

 

 

 

 

『和人に呼ばれたから、少し行ってくるよ』

ティーゼにそう言って病院を後にした。

時間はかかるだろうけれど、ごめんね、と謝った。ティーゼは快く許してくれた。

 

駅へ急ぐ。

駅は近い訳では無いし、あまり時間をかけたくないので、駆け足で駅へと向かう。このままのスピードで公園を突っ切ってしまえば30分くらいで着くだろうか。

 

着いた。

時刻は9時前。

人は多く、駅に入っていく人、駅から出てくる人、駅で誰かを待っている人…たくさんいる。

そして、ここではたと気付いた。

 

「_____電車って、どうやって乗るの…?」

 

普通なら有り得ないけれど、僕にとっては至極真っ当な疑問だった。

僕自身、駅に来たことはあった。ウォーキングがてら、ここまで歩いてきたことがあったから。電車の実物や駅の人の多さを知ったのはこの時だ。

が、肝心な乗り方を知らなかった。

 

「…と、とりあえず駅の中に入ってみよう」

 

まずは駅の中に行かなければ始まらない。

ちょっぴり怖いけれど、思い切って駅の中へと踏み込んだ。

 

駅の中に入っても人の多さは変わらない。

周りを見ると、何人か同じような服を着ている人たちがいる。学生、だろうか。もしかするとあれが制服なのかもしれない。

 

キョロキョロと周りを見回す僕を、不審そうに見る人たちもいる。

誰かに、聞かないといけない。

しかし、皆一様にそそくさと駅の、その奥へと入っていく。

みんなが通っていくのは、僕のお腹辺りくらいの銀色の平べったい金属の何か。

それに、ほとんどの人が自分の手をかざして通っていく。その度に、ピッと音を鳴らして。

よく見ると、みんななにか手に持っている。

 

「…どうやって、通るのかな」

 

多分、無料では無いはずだ。

どこかでお金を払わなければならない。けれど、どこで払えば…?

 

『どうか、しましたか?』

 

その時、声をかけてくる人がいた。

 

「え…?」

 

紺色のスーツに同色の帽子をかぶった男の人。

帽子には、何か紋章のようなものが着いている。

左胸には名札か何か。

 

もしかすると、この人が『駅員』という人なのだろうか…?

 

「あの、電車にどうやって乗ったらいいのか分かんなくって…」

 

『どこに行くご予定ですか?』

 

「あ、えっと、『御徒町』って所なんですけど」

 

「御徒町ですね。御徒町だと……乗り換える必要がありますね。まず池袋行きの電車に乗りましょう。今は、9時8分ですし、9時15分発の電車に乗れば大丈夫ですね」

 

「イケブクロ行き…ですね」

 

丁寧に説明してくれるその人の話を聞きながら、ポケットからメモ帳を取り出す。

さっき病院から出ていく時に王滝さんから貰ったものだ。余っていたから使ってください、との事。

 

メモ帳にペンでイケブクロ行き、と書く。

 

『池袋駅で降りて、そこで電車を乗り換えます。JR山手線の上野東京方面の電車に乗れば行けますよ』

 

「イケブクロ駅で降りて、じぇいあーる、ヤマノテセン……ウエノ、トウキョウ方面……」

 

残念ながら、地名の漢字はまだまだ知らないのでカタカナで書く。今はとりあえずメモを残す事だけに集中する。何せ分からないことだらけの僕は、この程度の話で頭が精一杯だ。

 

『切符はそこの機械で購入します。池袋駅までですから、350円ですね』

 

「350円……コインあったかな」

 

値段もメモして、改めてポケットに入れた封筒を出し、中身を確認する。

中にはコインも入っているけれど、ピッタリは無かった。仕方無く、1000円札を取り出す。

 

駅員さんに案内されて壁に取り付けられた機械で電車に乗る為に必要な切符を買った。

 

『後はその切符を改札に入れて、受け取ってくだされば電車に乗れますよ』

 

「すみません、何から何までありがとうございます!」

 

『いえいえ、仕事ですので』

 

駅員さんにお礼を言って、『改札』というものに先程買った切符を入れる。すると、前を塞いでいた板が音もなくぱたりと折りたたまれた。向こう側には僕が入れたであろう切符が出ている。

ちょっと不安になりながらも『改札』を通り過ぎ、切符をとる。この切符はイケブクロ駅で降りた時にまた必要になるらしい。

 

そして、電車が来るらしい、3番ホームに行こうとして再度振り向き、駅員さんにお辞儀をする。駅員さんは笑顔でお辞儀を返してくれた。

 

 

その数分後、駅員さんが言っていた電車が到着し、それに乗り込む。

なんというか、一気に沢山の人が乗り込んでいくのを見て、本当に乗れるのだろうかと思ってしまう。

 

電車はゆっくりと出発した。やがて自動車と同じかそれ以上の速さで街を駆け抜けて行く。

がたん、がたん、と揺れる電車。移り変わっていく景色に心奪われながら、イケブクロ駅の到着を待った。

 

そして、電車に揺られること約20分。

イケブクロ駅に到着した。

 

また駅員さんにどの電車に乗ればいいかを聞いて切符を買った。

その電車が来る駅のホームへと行ってみると、見なれた顔を発見した。

 

「あ、和人!」

 

「_____ユージオ!」

 

電話の張本人だ。

こちらへと駆け寄ってくる。

 

「急に済まないな、ユージオ。ちょっと俺もまだ状況が飲み込めてないんだが…とりあえず、お前にも来て貰った方がいいかって思ったんだ」

 

「急な呼び出しはいいけど、手がかりって?」

 

「ああ、ユージオはパソコンとか携帯持ってなかったっけか。ならエギルがメールも出せない訳だ」

 

「…エギル、から?」

 

「…説明するより、見てもらった方が早いな」

 

キリトはズボンのポケットから掌ほどの薄い四角の黒い板を取り出した。

アレが世界のどこにいようと連絡をとることが可能になる『携帯電話』だ。

すまーとふぉん…だっただろうか。黒い画面に触れると、アインクラッドの時のメニューのように反応するらしい。

 

「これだ」

 

パッと光る画面を見せてきた。

そこには______僕の見知った人が映り込んでいた。

 

「____これって」

 

「ああ、多分ロニエとアスナ…だろうな」

 

「こんなモノ、何処で?」

 

「俺が撮った訳じゃないんだ。撮ったのは別のヤツ。んで、これを送ってきたのがエギルって訳さ」

 

「エギルが…?」

 

「だから、詳細を今から聞きに行こうって話だよ。俺が伝えた住所はアイツがやってる店だ」

 

この写真の情報源はエギルらしい。

どのようにしてこの写真を手に入れたかっていうのはかなり気になる。何せ、これは今の僕らにとって最もロニエとアスナ達に近い手がかりだ。

なんのヒントもない僕らには藁にもすがる思いで飛びついている。

 

丁度、電車が到着した。扉が開き、それに乗車する。

 

「まぁ、話は目的地についてからな」

 

気になることは山ほどあるけれど、今は考えたって仕方がない。

様々な考えを頭に巡らせ、僕らは電車に揺られた。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

「よし、ここだな」

 

辿り着いたのは、街の裏通りにある煤けたお店。

黒い木造の建物。

ドアの上に2つのサイコロをかたどった看板がある。

『Dicey Cafe』と、書いてある。

 

「ここが…エギルのお店…?」

 

「ああ、そうだ。俺も1度来た事があってな。つい5日前のことだけど…まぁ、アインクラッドの時と変わらないな、店構えと言い雰囲気と言い…」

 

「…僕は、こういうの好きだよ」

 

「静かでいいよな」

 

扉を押し開けるとカランカラン、と乾いた鈴の音が響いた。

店の中はガランとしていて、見る限りお客さんは居ない。いるのは_____カウンターの向こうでニヒルな笑みを見せる巨漢が一人。

その見知った顔を見て、思わず声を上げた。

 

「エギル…!」

 

「よぉ、早かったな。それと久し振りだな、ユージオ。2ヶ月ぶりか」

 

「…うん、久し振り!もう退院してたんだね」

 

「おう。お前ら若いヤツらにも劣らんくらい、早くな」

 

「全く、相変わらず不景気な店だな。向こうと変わらない」

 

「うるせぇ、これでも夜は繁盛してんだよ」

 

向こうでのやり取りを思い出した。

今も変わらない、こんな関係に笑みがこぼれる。

 

「ユージオは現実(こっち)じゃ初めてだったな。じゃあ、改めて自己紹介だ。俺はアンドリュー・ギルバート・ミルズだ。この通り、この店の店主をしてる。まぁ、約1年半も留守にしてた訳だがな」

 

「ユージオ・ツーベルクです。また、よろしくね。えっと……」

 

「エギルでいいさ。何せ呼びにくいだろう?慣れた方でいい」

 

「___うん、エギル」

 

「さて…自己紹介も済んだし、早速本題と行こうぜ」

 

和人がカウンター席に座り、エギルに例の件についての話をしだした。

そう、彼との再開も嬉しいけれど、本題はそっちだ。

僕も和人に習って隣の席に座る。

 

「_____アレは、どういうことなんだ」

 

単刀直入に和人の疑問が飛ぶ。

僕だって知りたい。アレは____ロニエとアスナで間違いない筈だ。

しかも、あれに映っていた2人は覚醒している。少なくとも、現実世界で取られたものとは考えにくい。

 

すると、エギルはカウンターの下から長方形の何かを取り出して、僕らには手渡した。

 

「……何、これ…?」

 

「ゲームソフトか。えっと……聞いたことの無いハードだな…ァ、アムス___」

 

「《アミュスフィア》って言うらしい。俺たちがアインクラッド(向こう)にいる間に開発、発売されたんだとよ。言ってしまえば、ナーヴギアの後継機だ」

 

エギルから渡された長方形の薄い板___と言うより、何かの箱。

そこには、深い森の中から2人の少年少女が巨大な満月に向かって翔んでいる様が描かれていた。

《ALfheim Online》と書かれていた。

 

「…じゃあ、これもVRMMOって訳か」

 

「SAOと同じって事?」

 

「…アルフ…ヘイム・オンライン?これ、どういう意味なんだよ」

 

「アルヴヘイムって発音するらしいぜ。妖精の国という意味らしい」

 

()()

SAOでも何度も聞いた単語だ。意味はだいたい理解出来る。

アンダーワールドには無かった言葉だ。

 

「妖精、ね。名前からしてほのぼのしてるな…まったり系のRPGか」

 

「いや、それがそうでもなさそうだぜ?ある意味では、えらく()()()だ」

 

エギルはそう言って、僕らにコヒル茶_____ではなく、コーヒーを出してくれた。

僕の方にはミルクと砂糖が付けられている。

コーヒーが苦手なことはエギルも知っているので、飲みやすいようにしてくれている。

和人はコーヒーを普通に飲めるのでそのまま、僕はミルクと砂糖を入れてかき混ぜる。子供舌だ、なんて言われるかもしれないが、中々慣れないんだ。

 

厳しい(ハード)って、どんな所が?まさか、SAOと同じようなデスゲームじゃないよね…?」

 

「そういうのじゃないぞ、安心しろ。言わば、ドがつくほどのスキル制でな。プレイヤースキル重視のPK推奨と来た」

 

「ドがつくほど、か」

 

ミルクと砂糖を入れたコーヒーを恐る恐る一口。

……うん、大人な味わいだ。まだミルクと砂糖を入れているのでふんわりとした苦味になっている。これなら…飲めるかもしれない。

いつか、慣れたいな。

 

「SAOと違ってレベル制じゃない。あの世界での理不尽が解消されてるわけだ。各種スキルが反復使用で上昇して行くだけで、ヒットポイントはろくに上がらんらしい。戦闘もプレイヤーの運動能力依存……言うなら、ソードスキル無し、魔法有りのSAOってとこだ。グラフィック、動きの精度共にSAOに迫るスペックらしい。

まぁ、SAOの実際を見た事あるやつは殆どこれをプレイした事は無いだろうがな。こうやって俺たちも復帰出来た訳だが、何せ色々と忙しい。ALOをプレイするのはキツい」

 

「数字の上ではって話か」

 

「…」

 

エギルのする話は僕にはかなり難しい。

英語も、それなりに教えて貰ってはいるけれど、それでも分からない。

 

「エギル、PK推奨ってどういうこと?」

 

「このALOじゃ、キャラメイクで色んな種族を選べる訳だが、違う種族間ならキル有りらしい」

 

「種族…」

 

「まあ確かに、ハードだな。けど、いくらハイスペックだとは言え、それだけじゃ人気出ないだろ」

 

「だよなぁ。俺も思ったんだが……ここからがこのゲームの醍醐味だ。なんと、このゲームの中じゃ、『飛べる』らしい。そのおかげで、発売当初から人気なんだとよ」

 

「跳べる…?」

 

「ああ、ニュアンスが違うな。『ジャンプ』じゃなくて、『フライ』だ。本当に空を飛べるらしいぜ」

 

エギルはニヤリと笑いながらそう言った。

空を飛ぶ。

僕にとっては全く想像が付かない。跳ぶ、ことはあっても、空を飛ぶことはなかったSAOでは考えられない。アンダーワールドでセントラルカセドラルに飛竜で連行された時はそれらしい体験をしたけれど。

 

「妖精だから、羽根がある。『フライト・エンジン』とかいうのを搭載しているらしくてな、慣れるとコントローラー無しで自由に飛び回れると来た。そりゃ、人気になるよな。

本当に、童話で出てくる妖精見たく、空を飛ぶんだから」

 

「でも、その羽根はどうやって操作するの?コントローラーって、操作のための機械でしょ?それ無しでも飛べるって、どうやって…」

 

「さぁ、俺もプレイしたことが無いから分からんな。だが相当難しいらしい。始めたての初心者(ニュービー)はスティック型のコントローラーを片手で操るんだと」

 

「…まぁ、大体そのゲームについては理解出来たよ。けど、本題のアレについてまだ説明がされてないぞ」

 

「分かってる、今のは前説だ。あの写真、それを説明するのに必要なファクターだからな」

 

エギルが表情を変えた。

アインクラッドの攻略会議の時のような真剣な眼差し。

エギルはカウンターの下から紙を取り出した。

 

「______どう思う」

 

出されたのは、和人が見せてくれたあの写真と同じもの。

写っているのは_____ロニエとアスナらしき人の姿。少し、ぼやけてはいるけれど、しっかりと分かる。

 

似ている、なんて言葉で済まされるようなものじゃない。

彼女達そのものだ。

 

「ロニエとアスナだ。他人の空似なんてレベルじゃない」

 

「うん、本人だと思うよ」

 

「だよな、俺もそう思ったよ。ゲーム内のスクリーンショットだから、解像度が足りてないのは事実だが…」

 

「エギル、勿体ぶらないで教えてくれ。これ、何処で撮ったものなんだ?」

 

「……この中だ」

 

「この、中…?」

 

「アルヴヘイム・オンライン……そのゲームの中だよ。正確には、世界樹っていう巨大な木の上。」

 

エギルは渡してきたALOのパッケージに指を差して言った。

 

「世界樹って、何?」

 

「パッケージの裏にあるだろう?大体のマップが」

 

エギルに言われて裏返すと、そこには何やら大雑把な地図が記されている。

そして、その中央には_____『世界樹』の文字が。

 

「これか」

 

「ああ。このゲームの《グランドクエスト》はな、この世界樹の上にある城に他の種族よりもよりも先にたどり着くことらしい」

 

グランドクエスト。SAOにおける100層到達とラストボスであるヒースクリフを倒すこと。

言わば、最終目的にして全プレイヤーの共通目標だ。

 

「……なら、飛んでいけばいいだけじゃないの?」

 

「まぁ、そんな簡単な事だったらいいんだがな」

 

「まぁ、完全に自由に飛べる訳じゃないってことか。制限がある訳だな?」

 

確かに、普通に考えればそうだ。空を飛ぶための羽があるのだから、それを使って飛べばいい。けど、グランドクエストはそれでクリア出来るような簡単なものじゃない。和人曰く、『プレイヤーにゲームを続けさせる為のグランドクエストだからな。そう簡単に終わるようなものは設定しないさ』、との事。

 

「その通り。滞空時間ってのがあって、それにも限界がある。無限には飛べない。例え、ギリギリまで飛んでも樹の一番下の枝にすら届かんらしい」

 

デメリットがあるらしい。SAOの時のソードスキルと同じく、何か制限がかけられているのだろうか。

しかし、それではどうやってあの写真は撮られたんだろう?

 

「…でも、さっき《木の上》って言ったよね?ならどうやって…」

 

「どこにでも馬鹿な事をやらかそうとする奴がいるんだよ、ユージオ。迷宮区の塔の壁をダッシュで登ろうとした奴がいるように、な」

 

「………なんか、悪意を感じるぞ」

 

ニヤケながらそういうエギルに、顰めっ面をする和人。

多分、和人のことだろう。そのことなら僕もよく覚えている。何せ急にあんなことするなんて思わなかった。

あの時は和人は思いっきりロニエに叱られていたっけ。(勿論僕も叱った)

 

「…じゃあ、誰かがそんな無茶をしたってこと?」

 

「いや、そこまで無謀じゃない。ちゃんと頭使っての作戦だった」

 

「……」

 

和人は『お前は頭使ってない』と暗に言われている事に気付いているので顰めっ面のまま黙り込んだ。

 

「一人一人に最大滞空時間が設定されているのなら、それを利用しようとした奴がいたんだ。こう、背丈の大きい奴が土台になって肩車して、より小さい奴を上に乗せていくっていう戦法だ」

 

「へぇ、それは馬鹿だけど確かにキレてるな。理論上、肩車した人数分飛距離が伸びていくわけだ」

 

「目論見通り枝にかなり近づけたらしい。ギリギリで到達出来なかったそうだが、5人目_____最後の一人だな。そいつがそこまで到達したっていう証拠を残そうと写真を何枚も撮った。ぐるぐる回って色んなところをな。それでその1枚に奇妙なものが映り込んでいた。それが____」

 

「___これ、なの?」

 

ぼやけた写真。上から下へ何かが真っ直ぐ写っているのを見るに、檻のような感じだろうか。2人とも寄り添っている。

 

「ああ。枝からぶら下がる、巨大な鳥籠。写真を最大まで引き伸ばして拡大したのがこの写真って訳だ。にわかに信じ難いが、証拠(写真)がある。完全否定はできないよな。

それに、偶然アスナとロニエ似のNPCがほぼ同時に同じ場所で生成されるとは思えん」

 

「…これをその、警察に渡して通報するっていうのは…?」

 

「流石に取り合って貰えねぇよ。何せゲームの中の写真だ。現実世界ならまだしもな……それに、合成写真だって言われればもう何も言い返せん。今じゃ、そういうのも本物と見分けつかなくなるくらいだからな」

 

合成写真。

そんなものもあるんだ。言うなら、写真を捏造するってことだろうか?

 

「…ユージオ、これ」

 

「…?どうしたの、和人」

 

和人がそのパッケージの裏______説明書きの1番下に書かれている文面を指さしている。

________《Lect・Progress》

 

「レクト、プログレス…?」

 

「ユージオ、昨日のことを思い出してくれ。須郷は……何をやってるって言ってた?」

 

「ロニエやアスナを…」

 

「違う、そっちじゃない。重要なのは、アイツがどこで仕事をしているかだ」

 

「どこで…?」

 

あの男____須郷はアスナの父である結城さんの会社で働いていると聞いた。

確か、その会社の名前は…

 

「______レクト」

 

「ああ、これで確定だ。アイツが関与してるのは間違いない。アスナを仮想世界に幽閉する理由はあるからな。昨日聞いた話だ……後は____」

 

「…ロニエや他のSAO帰還者をも眠ったままにする理由だね」

 

「そこの所が分からない。結城家に入り込もうとするだけなら、こんな大々的にやる必要はない筈なんだが…もしかすると、それにも訳がありそうだ」

 

そう、須郷の目的は結城家にアスナとの結婚を利用して養子になって入り込むこと。でも、あの男のことだ。それだけでは終わらないのではないだろうか。

 

「でも、今はアスナとロニエがこの、妖精の国にいるってことだけは分かった。なら、僕らがやる事は一つだよね」

 

「……まぁ、そういうと思ったぜ、お前ら」

 

2人で話していると、エギルが溜息をつきながら笑った。

そして、僕に向かってもうひとつ何かを投げ渡してきた。

 

「ほれ、持ってけ」

 

「え!?で、でも…」

 

「そう言うと思って2つ、用意しといたんだよ。お前らなら言いかねないな、と思ってな」

 

エギルはそう言ってニヒルに笑った。

この世界の『ゲーム』というものがどれだけ高価なものなのかというのは実際にお店で見てしまったので知っている。かなり高い、と僕は思う。

本体はその何倍も高いわけだけど。

 

「安心しろ、この2つはコネで手に入れたもんでな。ああそうだ、本体ゲーム機は買わんでもいいぞ。何せ、アミュスフィアはナーヴギアのセキュリティ強化版でしかない。ナーヴギアでも起動はできる」

 

「そりゃ助かる。今から電気屋行く手間が省けた」

 

そう言って、ありがたく受け取り、カバンに入れる和人。

僕も一応持っていた布のバックに入れる。

 

「…しかし……本当に行く気なのか」

 

「ああ。ロニエとアスナを助けられるのなら、何度だってナーヴギアを被ってやる。

それに_______()()()()()()()()()()()()()()()()()()()?」

 

「____違いない」

 

「僕からしたら、死んでもいい…なんていう感覚が分からないんだけどね」

 

実際そうだ。

死んでもいい、というよく分からない感覚に少し苦笑いする。

 

「…ご馳走様、中々美味かった。じゃあ、俺は帰るよ。早速、ログインしたい」

 

和人はコーヒーをグビッと飲み干してテーブルに五百円玉を置く。

僕もそれに習って五百円玉を置いた。毎度、とそれを受け取るエギル。

 

「また、それらしい情報があったら和人に知らせて。僕、携帯電話持ってないからさ…」

 

「分かってる。病院に直接かけるのはあんまり良くないからな」

 

「ありがとう」

 

「______二人を救い出せよ。そうしなきゃ、俺達のデスゲームは終わらねぇからな」

 

「ああ、いつかここで……皆で盛大にオフ会をしよう。その時は、頼むぜ」

 

「またね、エギル」

 

僕らは互いに拳をうちつけ合って、そのまま店を出た。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

「_______さて。

俺も、アイツらには負けてられないな」

 

店の主たる巨漢はニヤリと笑ってカップを洗う。

 

「アイツらにはアイツらの戦いがある。なら、俺はそれを俺なりに助けないとな」

 

洗い終わり手を拭いて、携帯電話を手に取る。

彼も前へと進むべく、携帯に指を滑らせた。

 

 




細い蜘蛛の糸を手繰り寄せる。
ゼロから、1へ。
まだ彼らの反撃は_____始まったばかり。

ALO編に突入致しました。このALO編にて特別ゲストとしてテレビゲーム版のキャラクターを登場させる予定です。もし登場させるなら…?

  • 鍛冶師の二刀流使い《レイン》
  • 天才科学者のVRアイドル《セブン》
  • 自称トレジャーハンター《フィリア》

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