ソードアート・オンライン ~時を越えた青薔薇の剣士~ 作:クロス・アラベル
今回は彼女達の今を書きました。
続けて設定(追加①)を投稿しますので、今回出た新情報についても補足しておきます。設定は♦(最新話マーク)は付けない予定です。
ハチャメチャな設定となりますが…
アンケートのレインの選択肢の《二刀流》ですが、正しくは《多刀流》になります。間違えました…
アンケート、まだまだ受けます。是非ともよろしくお願いします!
では、どうぞ。
○
10時半。
ティーゼのリハビリの前半である1時間半を終え、休憩として彼女が休んでいる間に、病院の中にある図書館にいた。
「……これがいいかな」
パラパラと本をめくり、大雑把に内容を把握する。
文庫本、と言う物。本来なら小学生というもっと年下の子供が読むであろうそれを借りる予定の他の本の塔に積み上げる。
ティーゼのリハビリは順調だ。
僕が早過ぎただけなのだが、もう後1週間ほどで退院出来るだろうと、お医者さんは言ってくれた。
しかし、問題は残っている。
僕が生きていること自体、異常だ。
僕は元より、この世界の人間ではない。
では元より存在していなかった者がいきなりこの世界にやってきたらどうなるのか。
普通、矛盾が生じる。
僕らには、アンダーワールドでの記憶がしっかりと残っている。
アンダーワールドで生まれ育った幼少期の記憶もばっちり。
しかし、現実世界での記憶などもちろん無い。しかし僕は成長した姿でこの世界に存在している。
ならば、僕がここまで成長した《現実世界での》記録はあるのだろうか。
菊岡さんに色々と調べて見た結果、僕らの経歴は全て白。
2022年11月末までの殆どの経歴は不明のままだった。
どこで育ち、どの学校に行っていたか。
そのほとんどが白紙となっている、との事だった。
病院に運ばれてきた時の状況は、とあるアパートの一室から少女二人少年一人がナーヴギアを装着し、SAOをプレイしていた______とのこと。
周りに保護者や家族らしき人は見当たらず、本人達だけが取り残されていた。
その状況に、不明な点ばかりとは言えナーヴギアを使用し、SAOをプレイしている事が確認されたので急遽あの病院に搬送された。
アパートのその一室は既に解約されており、もう違う誰かが住んでいるそうだ。お金を払えないから当たり前だけれど。
戸籍はあった。
しかし、その経歴が無いという本来ならありえない状況に総務省SAO事件対策本部の面々は頭を抱えた。
他にも、SAO事件の1年半の中で、家族が死別して天涯孤独となった人が少なからず存在していたので、後にそれらのSAO事件における被害者の中で支援が必要とされる人々への支援を義務付ける法律が定められた。
それによって、僕らは入院して尚且つ1年半もの間、生きることが出来た。
そして、今も尚その支援に守られている。
僕らが病院にいられるのもこの支援のおかげだ。
しかし、後ろ盾がないのもまた事実。
ずっと支援が続く訳では無いので、いつかは自立しなければならない。
当たり前だけど、僕らに家はない。元より別世界から来た者です、なんて言えるはずも無い。
どうにかして、住む所を探さなくては。
総務省SAO事件対策本部の菊岡さんという人がそれも援助してくれるそうだが、援助してくれるのは住む場所を探す事と職探しだけ。
しかし、菊岡さんによると僕らはまだこの現実世界で言う『学生』に入る歳らしい。
僕が16、ティーゼが15歳。
歳の差が幾つか埋まっている。
僕らの歳は働くことも出来るらしいが、1人で生活をやりくりしていくのはほぼ不可能らしい。
家族もいない、身寄りもない僕らでは、生きていくのは難しいようだった。
しかも、現実世界についての知識もほとんど無い。ユウキとラン、アスナ達にも教えて貰っていたが、それだけでは圧倒的に足りない。
なら____自分で取り入れるしかない。
ティーゼはまだリハビリ中だ。身体的にも精神的にも疲れているであろう彼女にそんなことはさせられない。
リハビリが終わっている僕が、何とかしないと。
「……日本、史。数学、理科、社会……国語。参考書、よし」
ティーゼには軽い気持ちで読めるような楽しい物語を。
僕は、この世界の歴史書や法律、数学などの本を借りていく。
カバンを特別に借り、目一杯の本を詰め込んでティーゼの病室へと歩き出した。
この量の本を全て読み終わるのはかなり骨が折れるだろうが、今日中に1冊位は読み切れるだろうか?
多分、甘く見過ぎなんだろうけど。
1階にある図書館を出て、階段へと足を進める。
『エレベーター』なるものは、少し怖いので使わない。
今にも落っこちてしまいそうで…
僕はどうやら高いのは、苦手らしい。
エレベーターを通り過ぎようとした____その時。
『_____ユージオ』
彼に呼ばれた。
「…キリト」
黒髪に、黒い裾の短いシャツ。
面影はそのまま。
共に最前線を駆け抜けた_____親友。
「_____おはよう」
「うん、おはよう」
「…後、俺キリトじゃないぞ。今は」
「………和人、だったね」
現実世界での名前呼びに未だ慣れない僕は、照れくさくなりながら、彼の本名を口にする。
「ん、それでよし」
キリト_____和人は、寂しげな笑顔で応えてくれた。
「ティーゼのリハビリは終わったのか?」
「今日の分は半分だけ終わったよ。後半は午後から」
「そうか。図書館で本を借りてきたのか?」
「うん、ティーゼに何か読む物があってもいいかなって」
「…にしても、量多いな。それ全部ティーゼが…?」
「違うよ。ティーゼのは3冊、その他は全部僕だよ」
「……10冊は軽くありそうだが…」
「まぁ、ね」
エレベーターの中、二人で話しながら到着を待つ。
上へと変な力によって上がっていく。なんと言うか、無理やり引っ張られて、身体がちょっと沈みそうな感じだ。
うん、ちょっと苦手かも。
僕は和人に誘われて、彼女の見舞いに行くことになった。
ティーゼの病室があるのが6階。今7階にまで来たが、和人の目的の階は後2階ほど上だ。
彼の目的は_____一つ。
彼の想い人の、お見舞い。
彼が愛した人。
その人が、眠る場所へ。
チーン、という音の直後、『9階です』という女性の声と同時に扉が開く。
「…荷物もあるんだし、無理はしなくてもいいんだぞ」
「……君がそんなに言うなら、分かったよ。病室に置いてくるから、君は先に行ってて」
「分かった、急がなくていいからな。すぐ帰る訳じゃないし」
「…うん」
キリトにそう勧められて、僕はエレベーターに乗ったまま和人を見送った。
……エレベーターに乗るのが怖いから、一人は避けたいんだけどな。
数分後、またエレベーターに乗って9階へとやってきた。
…怖いけど、いつかは克服しなきゃいけない。
エレベーターをさっと降りて、左に曲がり、病院の奥へ。
彼女の病室は、この9階の1番東側にあった。
毎日のように和人が通っている。
廊下をゆっくりと歩く。走ると叱られるから。
そして、辿り着いた。
彼女の
「_______」
ここに来るのは、何回目だろうか。
現実を受け入れられなくて、何度も来た気がする。
その病室は_______
異質過ぎる静けさ。
まるで、ここには誰もいないのではないかと錯覚してしまう程に。
いや、いる。
事実、ここには4人の病人が眠っている。
但し_______未だに覚醒している人間はいない。
左右を見れば、眠っている女性が二人と奥にも二人。そして、奥の左側のベッドの横に置いてある椅子に、彼は座っていた。
「………」
言葉は出ない。
この静寂に言葉を、音を響かせることすら
何度来ても、寂しい。
まるで、墓場のようだった。
「______ロニエ」
和人の視線の先には_________死んだように眠るロニエの姿があった。
彼は、そっとロニエの手を両手で包み込む。
まるで、帰ってきてくれと懇願するかのように。
ロニエは、目覚めていなかった。
いや、アインクラッドから帰還したの約八千人(正確な数字的には7897人)全員が現実世界で覚醒する_____ハズだった。
なんの手違いか、その一部が未だに眠っているままらしい。
総勢432人。
その中に、ロニエが含まれていた。
未だに帰ってこない400人弱。
原因は不明。
アインクラッド_____ソードアート・オンラインは終わった筈だと言うのに。
ロニエは、今どこにいるのだろうか。
和人に、声をかけられない。
彼は、ロニエの事で精一杯だ。
今にも崩れてしまいそうな心の奥底で、必死にロニエを呼び続けている。
僕は。
何も、出来ない。
「……ほら、ユージオ。立ったままじゃ、なんだ。座れよ」
和人はそう言って僕を見る。
分かった、と言って和人とは反対____カーテン側の椅子に座った。
「………ごめん、ユージオ。変な空気になっちゃったな」
「いいよ。君が謝ることじゃない」
和人は視線を移さずに謝った。
僕らではどうしようも出来ない。
どうすればいいのか検討もつかない。
この世界では、僕らはあまりにも無力だった。
「……やっぱり、席を」
「いや、ここにいてくれ。頼む」
「…二人きりの方が、いいんじゃ…」
「……………他に誰かいてくれなきゃ、俺の心が折れちゃいそうなんだ。ユージオ、お前だから頼んでるんだぜ」
そう言う和人の声には、覇気はなかった。
心ここに在らず。
確かに、消えてしまいそうに見えてしまった。
あの、アインクラッドで散々見た《黒の剣士》の姿は無かった。
既視感。
何故か、僕は和人のその姿にどこか既視感を覚えた。
何故、だろう。
ああ、そうか。
あれは、あの時の僕だ。
アリスが王都に連行されキリトも消え、全てを失ったあの時の僕。
愛する人を失うその哀しさを、僕は人一倍知っていた。
だから______彼に。
何を言っても、慰めにもならない事を知っていた。
_________ああ、なんて僕は無力なんだ。
○
「……キリト、時間はいいの?もう、12時前だよ」
「ん…………ホントだな。流石に、長居し過ぎたか」
アレから、1時間以上経った。
無言、言葉を交わし合うことすらほとんどしなかった。けど、和人もここまでそれなりに時間がかかると聞いた。お昼ご飯はどこで食べるのかは分からないけど、早めに家に帰れるようにした方がいい。ロニエの傍に少しでも長く居てあげたいのは、痛いほど理解出来るけれど。
それに____見舞いたい人はもう一人いる。
「…最後に、アスナの顔を見て帰ろうか」
「そうだね」
彼はそう言って立ち上がり、肩からかけていた小さなカバンを背負い直した。
僕もそれに同意し、椅子から立ち上がる。
「______また来るよ、ロニエ」
和人はそう微笑んで、病室を後にした。
殆どリハビリが終わってから毎日のように来ているとはいえ、別れるのは彼にとっては辛いだろう。
「…またね、ロニエ」
僕は、同じ病院だから毎日会えるけれど、様子を見に来ることは無い。
だって、信じられないから。
世界線は違ったとしても、同じアンダーワールドからやってきた側の存在だと言うのに、何故彼女だけ取り残されているのか。
どうして______僕らだけが現実世界で生きているのか。
分からないから、遠ざけた。
けれど、もうそれも止めるべきだ。
向き合うべき問題だ。
僕に、何が出来るだろうか。
○
アスナの病室は18階_____この病院の最上階にあった。
18階。
……行くのが毎回、ちょっぴり怖い。
セントラルカセドラル程でないが、それ相応に高い。
考えないようにしよう。
「……」
「……」
無言。
言葉は、出ない。
交わす言葉がない。空気が重く感じられる。
エレベーターは最上階へ到着し、扉が開いた。
降りて、彼女の病室へと向かう。
アスナの病室は、個室になっている。曰く、アスナのご両親がお金持ちだそうで、大部屋ではなく個室を選んだらしい。
僕らが扉前まで行くと、無機質な白い扉は音もなく独りでに開いた。
そのまま病室へと入る。
その部屋のベットには、一人の少女が眠っていた。
栗色の長い髪の彼女。
アスナ。
本名を、『結城明日奈』。
アインクラッドが崩壊した今も尚、仮想世界に縛り付けられてしまった、被害者の一人だ。
ロニエと同じく、目を覚ますこと無く意識不明のまま。
「………アスナ」
彼女は未だに帰ってきていない。
「…まだ、お寝坊さんのままって訳か。揃いも揃って、
キリトはそう呟いた。
あの時、と言うのはいつなのかは僕には分からないけど、いつしかそんなことがあったんだろう。
「……いつか、オフ会でもしたかったんだけどな。これじゃ、出来ないな」
オフ会。
向こうで散々会っていたけど、現実世界でもまた会って話したりするらしい。
僕も出来たらなって思ってた。
けど、ロニエやアスナが帰ってきていない。そんな状況で呑気にオフ会なんて出来ない。やるなら、みんな帰ってきてからだ。
と、その時。
後ろの扉が開き、誰かが入ってきた。
彼との再会。
帰らぬ人。
果たして______救いはあるのか。
ALO編に突入致しました。このALO編にて特別ゲストとしてテレビゲーム版のキャラクターを登場させる予定です。もし登場させるなら…?
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