雑誌の方で出たばかりの単語やら設定やらを本編で使っています。単行本派の人はお気をつけてください。
スタンド型の個性、その存在が確認されたのは第三世代、所謂今を生きる少年少女たちの祖父祖母の世代だった。
その特徴は『スタンド』と呼ばれる精神力を糧にしたエネルギーの像を作り出せること、そして能力が非常に独特なものが多いということ、他には突然変異的に発生するもので、両親の個性などに左右されないことなども挙げられる
とはいえ親族にスタンド型がいれば生まれる確率は高くなるので、あくまでそうでない家庭からでも生まれる可能性もあると言う話だ。
元来個性というのは大まかに三つに分類されている。
任意のタイミングで使用するか否かを選べる『発動型』
自身の意志で肉体を変化させる『変形型』
生まれた時から常時個性が発動状態になっている『異形型』
あとは、上記三つの特徴の内二つ以上を持っているものを『複合型』という。
スタンド型と呼ばれる個性は、発見当初発動型の一種と考えられていた。
能力こそ独特であるものの、それ以外には取り立てておかしいところなどなかったからだ。自分以外の生き物を体内に宿している個性などが、少数ながら既にいたことも勘違いを生んだ遠因かもしれない。
それが大きな間違いであると分かったのは、ふとしたきっかけだった。
スタンド型の個性が散見されるようになって数年後、一人のスタンド型の個性の持ち主が交通事故にあって病院に運ばれた。それなりに大きな事故だったらしい。
その彼はその時まで大きなけがも病気もしたことがない人間で、安全面を考慮して治療の前に複数の検査が行われた。
その最中だった、検査に携わった一人の医師が異変に気づいたのは、個性が生まれてから検査の項目に含まれるようになった一つの項目、即ち『個性因子』
人間の体に『個性』を発現させるその因子が、極端に少ないのだ。それこそ、無個性の人間に近いと言ってもいいくらいには――。
通常、個性因子とは『無個性』の状態からかけ離れていればいるほど、検査での値が高くなりやすい。
物を引き寄せる発動型の個性よりも、全身が生まれた時から岩のようになっている異形型の個性を持っている人の方が、明らかに値は高くなりがちなのだ。
ここで疑問が生まれた。
体内から別の生命体――この時はまだ精神エネルギーのヴィジョンだとは思われてなかった――を生み出すなんてあまりにも人間からかけ離れた個性の持ち主の個性因子が、無個性の人間に近いなどということはあり得ない。少なくとも当時の医学的見地からすれば――。
当時の研究者たちが頭を悩ませ、知恵を絞り出した結論は非常に革新的なものだった。
個性因子が『肉体』に深く影響を及ぼしたものが、異形型とするならば。
個性因子が『精神』に深く影響を及ぼしたのものこそが、スタンド型なのではないかと――。
しばらくして、本人の精神状態とスタンド型の能力の出力との間にかかわりが見受けられて、この説は信憑性を帯びてきた。
そこからの研究は非常に熱心に勧められたといえるだろう。それはそうだ、もしもこの仮説が本当だとすれば、スタンド型の個性を使っている最中に、個性因子が活発に働いている部位を発見できれば、人間は科学的に、完璧な形で証明できるのだ。
精神の、心のありかを――。
※ ※ ※ ※
本当に突然のことだった。
入試が終わった後、東方忠助は何事もなく家に帰った。家とは言っても家賃格安の風呂なしアパートだ。築何十年なのか分からない、もはや法律に抵触するのではないかと疑わざるを得ないボロさだ。住人も話を聞く限り忠助ともう一人しかいないらしい。
しかしこれも仕方のないこと、悲しいかな母子家庭である東方家の財力では、入学金に回す分を捻出するので精いっぱいだったのだ。
ゲームが趣味の忠助にとって、テレビさえ持ち込めないのは辛いものがあった。もっといえば壁の薄さゆえにもう一つの趣味である音楽鑑賞も封じられている。
こんな場所で洋ロックなんぞ流そうものなら隣の住民の拳が、壁を突き破って出てくるだろう。
仕方なく柄にもなく読書なんてものをして暇を潰していたある日の昼下がり、突然それはやってきた。
きっかけは窓の外で車の止まる音を聞いたことだ。続いてアパートのぼろぼろの階段を上がってくる複数の足音、こんな場所に配達など珍しいと首を傾げていると、突然部屋の扉が大きく開けられた――勿論鍵なんて気の利いたものはない。都会とは思えない――
「おうわっ!?なんだよあんたら!?」
忠助の驚愕の声に耳も傾けず、入ってきた黒ずくめの男たちはてきぱきとした動きで、部屋の中に何かを組み立てていく。
あっという間に完成したのは、薄型のテレビだった。
茫然と見ていた忠助の横で、コンセントを探していた一人が、部屋の隅に見つけたコンセントにプラグをさした。
「おいおい、勝手に電気使ってんじゃねえぜ、こちとら毎月かつかつなんだからよー!」
怒りを覚えるポイントがずれている気もするが、忠助は困惑と怒りに顔を歪めて、男に掴みかかった。
途端、忠助の視界がぐるりと一回転する。投げられたのだと気づいた時には地面に転がされていた。
痛みはないが、こんなにもあっさりと無力化されたと言う事実に頭が追い付かない。
そうこうしているうちに、黒ずくめの一人が忠助の目の前で、手にしたリモコンをテレビに向ける。
テレビのスイッチが入ると同時に、その画面にでかでかとある人物が映し出された。
『わ~た~し~が~映った!!』
この画風を間違えたような顔面、スーツがはち切れそうな肉体、見間違える筈もない。何せ子供のころから飽きるほど見させられてきた。
忠助はため息交じりに画面に映った人物に語りかける。
「これ、こっちからは聞こえてんすか、オールマイト?」
『ああ、勿論だとも!』
「だったらよぉ~俺にのしかかってるこの人たちに退くように言ってくれませんかねぇ、あんたの知り合いっすよねぇ~?」
『あ、ああすまない、サプライズのつもりだったんだが、思ったより受けていないようだね』
「どこの世界にいきなり部屋に飛び込んできた黒づくめの連中を歓迎する高校生がいるんすか、恐いだけですよ」
『それはすまない、皆撤収だ!』
オールマイトのその言葉に、忠助を抑えつけていた男やその他の黒づくめたちがぞろぞろと部屋から出ていく、みんな一様に申し訳なさそうに一礼してから帰るところを見ると、指示されただけだったのだろう。気の毒に。
「……で、こんな良く分らないサプライズまでかまして、俺に何の用っすか?」
『相当腹に据えかねているようだね……』
大きな体を小さくするオールマイト、知ってはいたが随分気さくというかコミカルというか、良くも悪くも見た目と印象が違うと言うか……。
「……怒ってるわけじゃないですから、早く話を進めましょう」
『そうかい?それなら、単刀直入に言うのだがね。私が今年から雄英の教師になったと言うのは知ってるかな』
「ええ、よく知ってますよ。どこもその噂でもちきりじゃないっすか」
『それでね、今年はサプライズも兼ねて合格者には私自ら合格発表をしているのだよ。ま、言いかえれば体よく使われてるってことだね!!』
「ってことは、俺合格っすか?」
『ああ、撃破ポイントもレスキューポイントも高水準、極めて優等生だ。』
「レスキューポイント?」
『ああいやこちらの話だ、それとも評価の内容を詳しく聞きたいかい?』
「いいや、興味ねっす」
評価に関わることというなら無理に聞いても学校を困らせるだけだろう。それに大事なのは合格したと言う事実だけだ。他人の順位も自分の順位も正直対した問題ではない。
そういえばと、忠助はダメもとでオールマイトに訊ねた。
「あの~、オールマイト?ちょっと聞きたいことがあるんですけど」
『うん!?私の身長かね、それなら――』
「二二〇センチ、ついでに体重は二七四キロですよね」
『お、おおぅ、よく知っているね君……体重は公式発表のものだが』
「うん?なんか言いました?」
『いいや、それで私のプロフィールでないのなら君の質問とは何かな?』
「緑谷出久って生徒、合格しましたよね?」
その言葉に、オールマイトの笑みが凍りついた。
とはいえ彼もヴィラン荒れ狂う世界の中でナンバーワンヒーローとして生きてきた男である。表面上にはそれをださないようにすることくらい朝飯前だ。
オールマイトは浮かべた笑みを崩さないまま逆に忠助に尋ねる。
『……何故、それを私に訊くんだね?』
「オールマイトにって言うか、先生なら知ってるかなと思っただけなんすけど……俺の幼馴染なんで」
『なるほど、そう言うことだったのか。しかし申し訳ないが生徒の個人情報を漏らすわけにはいかないんだよ』
「そりゃそうか、すみませんっす、無茶言って」
本音を言えば出久も、その母親である引子も聞いたのが自分であると知れば文句は言わないと確信しているが、それをオールマイトにわかれと言うのはそれこそ無茶な話だ。
それに、あいつは受かっていると言う確信が忠助にはある。今訊いたのは教えてもらえるなら教えてもらおうと思っただけだ。
「それで、合格発表だけっていうなら用はこれで終わりっスよね?この為だけに四十人分こんな事するなんて流石雄英って言うか――」
『おっと、本題を忘れるところだった。』
画面の向こうのオールマイトはぽんと手を打つと、短く咳払いをして話し始める。
『実はね、今年のヒーロー科合格者は四十人じゃないんだ』
「……俺が知ってる情報だと、二クラスで各クラス二十人って話ですけど」
『今年は少し事情があってね、Aクラスだけ二十二人なんだ』
その言葉に忠助は首をかしげた。
合格者が二人増えると言うのは、学校の都合と言われれば納得するが、それならば各クラス一人ずつ増えた方がいいのではないだろうか、人数のバランス的に。
『君言いたいことは分かる、何で片方のクラスが二人多いんだってことだろ?』
「まぁ、そうですね、言い辛いことって言うなら聞きませんけど」
『答え辛いと言うほどでもないさ……といっても情けない話でね、単純に決めた順番のせいでそうなっただけなんだよ』
「順番~?順番で人数が変わったって言うんですか」
『二クラスとも二十人までは順調に決まっていたんだ、しかし最後の二人になったところで諸事情会って議論が白熱してしまってね……それが、君ともう一人なんだけど』
「お、俺っすか~?そりゃまたなんで」
『詳しい事情は入学した時に説明する、とにかく君ともう一人の処遇で悩んでいたんだが、とある先生からの要望でね、二人とも同じクラスにしてほしいと、それで二人とも同じクラスになったんだが、他の生徒はしっかり決定した後だったから、動かすのも面倒だと言う話になってしまってね』
「おい」
『そう怖い顔をしないでくれたまえ、私も初めて知ったんだが、先生ってこの時期めっちゃ忙しいんだ……』
そう言って溜息をつくオールマイト、忠助自身、別にそれで困ることは何もないので別に構わないと言えば構わないのだが、しかし、それを告げるためだけに自分の所にテレビ電話なんぞを用意したのだとすれば、やはりやり過ぎな気がしないでもない。
と思っていると、話はこれで終わらないらしい。
『それでだね、東方少年、話はこれから何だが』
「まだ何かあるんですか、今年立て込みすぎじゃないっすか?」
『いや、これで本当に最後だ。実は少し学校側で手違いがあってね、制服の発注を間違えてしまったようで、君ともう一人の制服の到着が、しばらく遅れそうなんだ。だからしばらくは中学の時の服装で来てくれたまえ』
「はぁ……」
『では以上だ、君に会えるのを楽しみにしているよ!東方少年』
ブツンと、真っ黒になった画面に映る自分の呆れ顔を見ながら、忠助は自然と呟いていた。
「やっぱりよ~、手紙で済む話じゃあねえかこれ?」
合間を縫って書いているとは言え一ヶ月かけたクオリティではない……しかし深く考えると尚更筆が止まってしまうので、そのうちゆきちゃっぴーは考えるのをやめた。