東方忠助の奇妙なヒーローアカデミア   作:寅猛

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※ 注意!
 緑谷微強化の要素があります。


雄英入試 その③

「ああくそ、気にしてる場合でもねえってのによ~」

 

 分かっていたはずだ、受かるのは一部の人間だけ、他は落ちる。

 自分が受かると言うことは、誰かが落ちると言うことだ、分かっていたはずだ、はずだが――。

 

「なんかよ~嫌な気分だぜぇ!!」

 

 正面から現れた二ポイントのロボをすれ違いざまに破壊し、忠助は走る。

 制限時間は十分間、体感時間的にはもうずいぶん経ったように思う。もういつ終わってもおかしくは――。

 

 地響きが、忠助の足に届いた。

 それは徐々に大きさを増していく。徐々に、徐々に、やがて体全体に振動が伝われ程になった時、それは現れた。

 

 市街地のビルをその身で破壊しながら、他のものとは比べ物にならないほど巨大なロボットが、生徒たちの前に現れた。

 

「な、な、な、な、なんじゃこりゃ~~~~~~!?こんなの相手にしろってのかぁ――!?」

 

 プレゼントマイクと飯田のやり取りを聞いてなかった忠助は思わずその場に立ちつくす。顔を歪めながらも、彼は既にこのロボをどうやって相手取るかを冷静に考えつつあった。

 

「正面からじゃあ相手にならねえっ!どっかから上に登って――」

「何をしているんだ君!早く逃げないか!」

「ああ?逃げるぅ?」

「君は説明の時に何を聞いていたんだ!あれは倒してもポイントにならない、ただの障害物だと先生が言っていただろう!?」

 

 近くにいた眼鏡をかけた生徒――飯田――が、懇切丁寧に、身ぶり手ぶりまで含めて忠助に状況を説明してくれる。

 

「なるほどな、どうりで皆逃げてるわけだぜ、ありがとな、助かったぜ~」

「い、いいから早く逃げたまえ!」

 

 普通の人間ならば恐怖に逃げ惑うだろう場面にも関わらず、どこか呑気な忠助の態度に飯田は調子を崩されながらも叫んだ。

 忠助も流石に何のポイントにもならない相手と戦って時間を潰すのはごめんだ。急いでその場から退避しようとして――見つけてしまった。

 巨大ロボの足元に、瓦礫に足を挟まれて逃げ遅れた女子生徒がいることに――。

 

「……ったく、見捨てて逃げるわけにも、いかねぇよなぁ~~~~~!!」

「おい、君!?」

 

 飯田の制止も聞かずに駆けだした忠助の真横を、誰かが通り過ぎた。

 その見覚えのありすぎる後ろ姿に、忠助は目を見開く。

 忠助の横を駆け抜けた緑髪の影は、駆け抜けた勢いを殺さないまま全身全霊を込めて、跳んだ。

 

 一瞬でロボの眼前まで跳んだその影を、忠助は眩しそうに眺めている。

 自分の知っているあいつにあんなことができるわけないとか、そもそも危険だとか、そんなことは一切気にならず、忠助は自分でも無意識のうちに呟いていた。

 

「変わんねぇな……お前はよ~~」

 

 響き渡る『SMASH!』の掛け声とともに、巨大ロボは機体をひしゃげさせて沈黙させられた。

 

※   ※   ※   ※   ※

「――っっつぅ~~~~~~~!!」

「だ、大丈夫?どこか怪我した?」

「あ、いや、大丈夫、です……」

「で、でもめっちゃ汗だらだら出てるよ!?顔青いよ!?」

「大丈夫、だから――」

 

 落下のことを一切考えてなかった出久は、女子生徒――麗日お茶子――の『物を浮かせる個性』のおかげで無事に地上に戻ってきた。

 辺りを囲んでいるのは、一部始終を見ていたせいでその場を動けないくらい唖然としている生徒たちだ。

 

 そして状況は良いとは言い難い。付け焼刃の『ワン・フォー・オール』はやはり出久の体を大きく痛めつけていた。

 出久は幼少期より忠助との約束を守るために一心に体を鍛えてきた。それに加えてこの十ヶ月はオールマイトの指導を受けて、死ぬような思いで体を痛めつけてきた。

 ――それでも、それでもまだ足りないのか。

 

(いや、違う!後ろ向きになるな、酷く痛むけど折れてはない、多分ヒビですんでる。きっと鍛えてたおかげだ、だからこれから、全部これからだ――!)

 

 その為にも、今は動かねば――。

 痛みと悔しさで滲んだ涙をごしごしと擦る。

 死ぬほど痛いが我慢すれば動ける。動けなくても動いて見せる。だから時間の限り悪あがきをせねばならない。

 

「ごめん!僕もう行く……ます」

「ええ!?絶対休んだ方がいいよ!やっぱりひどい顔色だよ!?」

「で、でも、せめて一ポイントだけでも――」

 

 心配して止めてくれる麗日をかわして、出久は痛む足を引きずりその場から離れようとして――きりきりという嫌な音を聞いた。

 バッと頭上を見上げる。そこにあるのはつい今しがた自分が破壊したロボット、その場に直立する形で機能を停止していたそれの、巨大な装甲が今まさに取れかけていた。

 数センチの接着面だけで耐えていた装甲板は、ついにその自重に負けて落下する――出久と麗日目掛けて。

 

 破片のくせに大き過ぎる、自分たち二人を押しつぶすには足り過ぎている。

 

(どうする!?もう一発耐えれるか……無理だ!でも――)

 

 極限状態で加速した思考の中、出久の決断は早い。

 元より、迎え撃つしかないのだから――。

 万が一を考えた時、隣に立つ女子生徒だけは絶対に守らねばならない、出久は万全を期すために無事な左腕に力を込める。

 上手くいってもいかなくても、これで試験は絶望的だ。それでも、構わない。

 

 左手を力強く握りしめようとした出久の隣に誰かが立つ気配があった。麗日ではない。背丈が違いすぎる。

 というよりも、それが誰なのか、もはや確信に近いものが出久にはあった。

 

「よお~イズクぅ、おめー、やっぱかっこいいじゃねーか」

「じょう、すけ……?」

「今度は俺の、出番だぜぇっ!!――クレイジー・ダイヤモンド!」

 

 忠助の叫びと共に、彼の体が輝き始める。

 視覚化される程のエネルギーを纏った忠助の体から、そいつは現れた。

 それは一見人間に見えた。しかし頚部から幾重にも伸びているチューブや、体のあちこちにあるハートをあしらったような装甲が、機械のような印象を与える。

 それでも、甲冑のような被りものの隙間から見える瞳は、本体である忠助同様、強い意志を感じさせるものだった。

 

 生命のエネルギーを、感じさせるものだった。

 

「スタンド型の個性!?」

 

忠助に先を越された形で、離れたところから見ていた飯田が驚愕の声をあげる。

 それをゴング代わりに、現れたクレイジーダイヤモンドがすぐそこまで落ちてきていた装甲板に突進した。

 『ドラララララララララララララララ!!』という掛け声とともに数十発じゃきかない拳が叩きこまれる。

 しかし――。

 

「だ、ダメだぁっ!!壊れてねえ!」

 

 遠くから見ていた学生が悲鳴をあげる。

 その言葉通り鋼のように握りしめられた拳でも、分厚すぎる装甲を破壊するには至らない。落下を止めることすらできていない。

 絶体絶命の危機の中、忠助の顔に浮かぶのは――笑み。

 

「壊すぅ~?違うな、直すんだぜっ!!」

 

 直後、落下していた装甲板が空中で静止した――かと思えば次の瞬間には落ちてきた方向へと上昇していく。

 見ていた全員が呆然と装甲板を見上げる中、装甲板は巨大ロボの表面に張りつくと、新品同然の状態に戻った。

 

「じょ、忠助……」

 

 一番最初に動き出したのは出久だった。

 当然だ、だってこうなることがよく分かっていたから、驚きなんてないのだ。

 出久は足を引きずりながら、返事を返さない幼馴染へと近寄りながらもう一度声をかける。

 

「忠助――」

「クレイジーダイヤモンド!」

「ぐぁえぇぇ!?」

「うええ!?なんで!?」

 

 完全に不意打ちだった、のこのこと寄ってきた出久の腹にクレイジーダイヤモンドの拳が突き刺さる。

 数メートル転がっていく出久を見ながら、すぐ傍で見ていた麗日が驚愕の悲鳴を上げた。

 しかし殴られた出久はすぐさま立ち上がると、青白かった顔色が嘘のように血色のいい顔を歪めて、忠助に突撃した。

 

「ちょっと!?何で殴るのさ!?」

「悪い、手加減間違えちまってよ~、反省してるぜ?」

「絶対嘘だ……」

「ったく、お前のせいで俺の再会プランがよ~、台無しじゃあねえか」

「な、何の話……?ていうかやっぱりわざとやったんじゃないか!」

 

 脱力したように大きく肩を落とした出久は、しかし次に顔を上げた時には、嬉しさと、懐かしさとが混じったような笑みを浮かべて、目には涙を浮かべた。

 忠助はその様子を見て、笑いながらその頭を小突く。

 

「泣き虫は治せなかったみたいだな~、昔っから失敗してっけどよ~」

「ほっといてよ……久しぶり、忠助」

「おう、久しぶりだな」

 

 指し出された手と手ががっちりと組まれる。五年ぶりの再会は、忠助の予定とは大きくずれたが、十分にドラマチックだった。

 そして――。

 

『終~了~!!』

「あ……」

 

 聞こえてきたアナウンスに緑谷出久は再び顔を青くした。

 




 具体的には緑谷の強化具合は、一発なら全力攻撃にも耐えらえれる(但しだいぶ大きな亀裂が骨に走る)といった感じです。二発目を打つと原作と同レベルのダメージを受けます。

 あ、お手数おかけしますがもしも誤字ありましたら、ぜひ報告お願いします。

 続きはかけたらまた!

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