東方忠助の奇妙なヒーローアカデミア   作:寅猛

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 今回出しているキャラクター、名前は明かしてませんが、ジョジョファンならば多分わかるであろうと信じます。
 ジョジョはいい敵キャラが多いもんで、ちょっとした敵キャラに使いやすいのがいないのが辛い。


USJに行こう! その④

 時間はほんの十数秒前、忠助が飛び出して言った直後だ。

 残された口田は、物陰で頭を抱えていた。

 原因は、忠助が去り際に残した言葉。

 

『常闇を頼むぜ〜〜』

「ど、どうしよう、頼むって言ったって……」

 

 迷っている時間はない。それはわかっている。

 しかし、方法がまるで思いつかない。

 この状況で、女の手に握られている常闇を助け出す方法などーー。

 

 頭を抱えて考え込む口田の耳に、銃声が飛び込んでくる。

 慌てて現場を見てみれば、銃を構えた女とその正面に立つ忠助が見えた。

 忠助の体から出血は見られない。

 状況はわからないが、まだ大丈夫のようだ。

 あくまで、『まだ』でしかないがーー。

 

(どうする? どうするどうする! 考えろ、考えるんだ僕!)

 

 後ろから回り込む?

 無理だ、自分は体が大きい方だし、外見も比較的目立つ。

 何より、バレないようにゆっくり動いて回り込む時間なんてない。

 

 何か盾になるものを持ってーー。

 だめだ、それじゃ状況は変わらない。

 だいたい盾でなんとかなるなら、忠助がなんとかしている。

 

 助けを呼びにーー。

 不可能だ、今からじゃ明らかに間に合わない。

 

 何か、何か、何か。

 状況をひっくり返すような一手をーー。

 考えて、考えて、考えている口田の視界に、あるものが写った。

 

 それは黒かった。

 それは小さかった。

 それはカサカサという擬音語が似合いそうなやつだった。

 それは、三億年以上姿を変えずに生きている生物の大先輩だった。

 

 ――要はゴキブリだった。

 

「〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜っ⁉︎」

 

 状況も忘れて、声にならない悲鳴をあげる口田。

 何を隠そう、彼は虫が大の苦手だった。

 触るのはおろか、見るのさえ無理なほどにーー。

 甲虫でさえ無理なのに、ゴキブリなど言うまでもなく大の苦手である。

 

 ガタガタと震えながら、尻もちをつく口田。

 できる限りゴキブリから距離を取ろうと後ずさりーー口田の脳裏にひらめきが訪れる。

 電球がパッとつくような閃きだ。

 

(これなら、多分……で、でも)

 

 

 作戦は閃いた。

 あとは実行に移すだけだ。

 口田は、体に走る怖気をこらえて、一歩ゴキブリへ近づく。

 ゴキブリは接近する口田に気づき、そちらへ向き直った。

 目――目なのかわからないがーーが会ってしまった口田は、一瞬動きを止めてしまう。

 

 嫌だ嫌だ嫌だ、本当に近づきたくない。

 湧き上がる恐怖に足が一歩下がりそうになる。

 だが、足が一歩下がるよりも先に頭の中に声が響いた。

 

『口田、誰だってよ〜〜、戦うのが恐ろしくねーわけねーんだ』

 

 聞こえてきたのは、今もなお必死に戦っている友の声だった。

 

『ただ、引くわけにゃいかねーだけだ、今日を守ろうとして、昨日死んだ人たちのためによ〜〜』

 

(僕だって、僕だって……引きたくない、前に進みたいーーさらに向こうへ(プルスウルトラ)!)

 

 ※   ※   ※

 

 凌いだ銃弾は、十一発。

 一発防ぎきれずに銃弾がかすってしまった頰から、一筋の血が流れる。

 女はニヤニヤと下卑た笑みを浮かべている。

 

「次が最後の一発だ、約束通り、ちゃぁぁぁぁぁぁんと当たれよ?」

「ひ、東方、俺のことはいい、もういいんだ!」

「余計な心配をよ〜〜〜〜、してんじゃあねーぜ」

「いひひひひひひ! 美しい友情じゃねーか……ヘドが出るんだよ!」

 

 女は突然激昂すると、銃口を忠助の頭へと定めた。

 さすがにこの至近距離だ、外すのを期待するのは賭けとしては部が悪すぎる。

 避ければ常闇がただでは済まず、受ければ自分がどうなるかわからない。

 女は、余裕の笑みを浮かべて引き金にかかった指に力を入れる。

 

「まぁ? どっちにしろこれで終わりだ! くたばりやがーーれ?」

 

  

  ゾ     ゾゾ      ゾゾゾゾ

 

 違和感は足元だった。

 靴の上、ズボンの上、何かが這っている。

 あまりにも不快な感触に、女は恐る恐る視線を自分の足元へとやった。

 

 ゾゾゾゾゾゾゾゾゾゾゾゾゾゾゾゾ

 

 

 大量のゴキブリが、女の足を登ってきていた。

 

 

 

「ぎ、ギニャアアアアアアアア⁉︎」

 

 生理的嫌悪感。

 理性や判断力ではどうにもならない、本能的な恐怖。

 今まさに右足を太ももまで埋め尽くそうとしているゴキブリの大群に、女は全てを忘れた。

 

 向けていた銃口のことも、握っていた常闇のことも一瞬頭から消える。

 その隙に、足を覆っていたゴキブリの一匹が、常闇の元へと飛んでいった。

 

「なるほど、そう言うことか! ダークシャドウ!」

「ジブンデモテヨオオオオオオ!!!」

 

 飛んできたゴキブリの足をダークシャドウが器用につかむ。

 ゴキブリに引っ張られるように、常闇が女の手の中から脱出した。

 そして人類史上、最も羨ましくない空の旅の終着点はーー。

 

「常闇くん!」

「口田、助かった」

 

 クラスメイトの掌の上。

 それを確認した口田は、女の足へ向けて叫んだ。

 

「多大な尽力に感謝申し上げます小さなものたちよ、ここは危ない、早く逃げるのです!」

 

 ゴキブリたちは一斉に女の足から飛び立っていく。

 ようやく黒い数の暴力から逃れた女だったが、当然一息つく暇などない。

 今度は眼前に、白い個の暴力が迫っているのだからーー。

 

『ドラァ!』

「ブゲエッ⁉︎」

 

 真下から食らったアッパーカットは、女を真上へとかちあげた。

 数秒ほど浮遊していた女は、重力に引っ張られて地面に叩きつけられる。

 痛みと衝撃で個性を維持できなくなったか、忠助の背後では常闇が元の大きさに戻っていた。

 

 

「あ、あがが、ヒィィ、血が、こんなに血が……ヒィ!」

「懺悔はよ〜〜、すんでんだろーなァ!!」

「ままま、待っておくれよぉ〜〜、ほら、みて、見てください〜、こんな血が、顔から血がぁ〜〜、ヒィィ、歯だって、こんなに折れて、もう戦えねーよ〜〜〜」

 

 ずりずりと後ずさりしながら必死に許しを乞う女を、忠助は表情を変えずに眺めていた。

 その視線からは油断は一切感じられない。

 このまま女をたたきのめすという()()がある!

 そのことに気づいている女は、いっそう声高に喚きちらした。

 

「ほらぁ⁉︎ 落ちた時に腕も、折れてるからぁ〜〜、頼むよ〜、もう殴らないで〜〜」

「ひ、東方くん、そこまでにしといてあげようよ……降参してるのに痛めつけるのは、ヒーローの仕事じゃないよ!」

 

 あまりにも惨めな姿に、同情心が抑えきれなくなった口田が、忠助を止める。

 その言葉を受けた忠助は、軽く嘆息するとクレイジーダイヤモンドを消して言った。

 

「……拘束だけはさせてもらうからよ〜〜、警察が来るまで、そこでじっとしてなよ」

「ああ、ありがとう、ありがとうございますぅぅぅぅ!」

「常闇ぃ、口田ぁ、何か縛るもんとかーー」

 

 忠助がほんの一瞬、女に背を向けた瞬間だった。

 泣きながら地面に頭を擦り付けていた女が、ニヤリと笑みを浮かべてバッと顔を上げた。

 

「グー・グー・ドールズゥゥゥゥゥ!! そのガキを小さくしろおおおおおおおお!!」

「――っ! 東方! かわせ! スタンド型の個性だ!」

 

 常闇の警告は、一瞬ばかり遅かった。

 女の方から飛び出したのは、頭から突起を生やしている不気味な人形だった。

 そいつは飛び出した勢いのまま忠助にしがみつく。

 

 変化は一瞬だった。

 忠助の体が急激に小さくなる。

 女はその一瞬をも逃さず、小さくなった忠助の体を掴み取った。

 

「ブァァァァァァァカ!! 降参なんてするわけねーだろうが! 所詮はガキの甘ちゃんよ!」

「くっ、貴様! 東方を離せ!」

「頭沸いてんのかぁぁぁぁぁぁ⁉︎ 離すわけねーだろ! こいつを人質にしてこっから逃げるんだよぉぉ!」

「そんなことさせない!」

「おっと、お前はもう喋るな! またゴキブリまみれにされたんじゃたまんねーからな!」

 

 銃はもう手元にない。

 しかし、半狂乱状態になっている女は、きっかけさえあれば忠助を躊躇なく潰すだろう。

 口田は、歯噛みした。

 自分が余計なことを言ってしまったせいだ。

 最後まで、忠助に任せてきっちりと再起不能(リタイア)にしておくべきだったのだ。

 

 何か、何か方法はーー。

 そう考えていた口田は、気づいた。

 女の手にいる忠助の表情に、なんの焦りもないことにーー。

 女も、遅れてその事実に気づいたようだった。

 

「てめえ、何余裕ぶった態度とってんだぁ⁉︎」

「……」

「なんだよ、なんか喋れよ」

「……」

「やめろ、こっちを見るな! 私を蔑むような目で見るなああーッ!!」

「蔑み? 違うなぁー、こいつは哀れみの視線だぜ! 俺を小さくしちまった、おめーに対するよ〜〜〜〜〜!!」

 

 

 

 

            ゴシャ!

 

 

 

 

 

「――あ、グェ? な、なん、で……」

 

 場に響いた鈍い音の正体は、女の頭に落ちてきた瓦礫。

 落下のエネルギーも手伝った一撃は相当に強力で、忠助はあっさりと女の掌から脱出した。

 そして、ダメージで集中が乱れたか、その大きさも一気に元に戻る。

 驚いたのは、それを見ていた口田だった。

 

「い、いったい何が⁉︎」

 

 口田の視点からは、突然瓦礫が降ってきたようにしか見えなかったのだ。

 困惑する口田に、隣に立っていた常闇が告げる。

 

「見ろ、口田、あれだ」

「あれ……? 壁が壊れた、ビル?」

 

 突如、口田の頭の中で、ついさっき大量のヴィランと戦っていた光景が蘇る。

 ヴィランの一人が投げていた巨大な球体をーー。

 クレイジーダイヤモンドが、それをそらして背後のビルにぶつけていた光景をーー。

 

「そ、そうか! あの時のビル!」

「ああ、おそらくだが、東方はあのビルを敢えて()()()()()()()にしておいたんだ」

「ご名答だぜ〜〜、常闇ィ〜〜、小さくなればよ〜〜、個性の出力は落ちる、修復のエネルギーは不足して、物体は壊れた状態に戻るッ!!」

「で、でもいつの間に瓦礫を触ってーー」

 

 言いかけて、口田は思い出す。

 忠助がビルの影から飛び出して女に殴りかかった時、常闇を盾にされたせいで外れたパンチがあったことを、それはーー()()()()()()()()()()()()()()()()!

 

「ただの保険のつもりだったけどよ〜〜、だがまあ、効果はあったよーだなァーー」

 

 忠助は、この期に及んでこっそりと逃げようとしていた女の肩を掴んだ。

 

「ま、待ってーー!」

「おめーによ〜〜、かけてやる情けは残ってねーぜッ!!」

 

 

 

 

ドララララララララララララララララララララララララララララララララララララ!!

 

 

 

 

 岩石のような拳のラッシュが空中に白い軌跡を描く。

 一筋一筋が、圧倒的な破壊力を持って敵を粉砕する。

 

「ブゲラッダァアアアアアアアアアア!!」  

 

 悲鳴とともに宙を飛んでいった女は、近くにあったゴミ箱に頭から落ちた。

 忠助はゴミ箱に指を突きつけて、言い放った。

 

「今度はよ〜〜、おめーがそこで小さくなってな!」

 




 図らずも口田くんの期末試験難易度が低下しました。
 今回の話で、常闇くんの扱いに不満がある方がいたら申し訳ない。
 彼って安定感があるし、活躍の場面を作り出しやすいキャラクターので、今回は口田くんのイベントのためにピンチになってもらいました。
 ごめんね常闇くん。

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