東方忠助の奇妙なヒーローアカデミア   作:寅猛

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USJ編は書き終わったので、この話を含めて3話は毎日更新します。
そのあとはまたしばらく期間が開くと思います。



USJに行こう! その③

「な、なにぃーーーーー!! バカなっ! 常闇!」

 

 いたはずだ。

 ついさっきまでそこに、常闇踏陰は確かに存在していた。

 いくら口田と会話していたいとはいえ、人一人がいなくなればそれなりに音がする。

気配が消える。

 しかし、そう言った痕跡をいっさい残さず、常闇は消えていた。

 煙にように、忽然とーー。

 

 慌てて二人は辺りを見渡す。

 あるのは瓦礫の山、倒れているヴィラン達、そこは変わらない。

 変わっているのは、一人の人物が増えていたこと。

 それなりに離れたところにそいつはいた、おそらく忠助達から見て、三十メートルは離れている。

 

 人影は、ゆっくりと忠助達の方へと歩き出し、十歩ほど歩いたところで再び立ち止まった。

 この距離までくれば、外見もそれなりに確認できる。

 外国人の女だった。

 随分ラフそうな格好をしていて、ニット帽をかぶっている。

 そして左右の目の下には、三つずつ点のような刺青が彫られていた。

 警戒する忠助達の前で、女は口を開く。

 

「あのさぁ〜〜〜〜、あんた達がユーエーハイスクールの生徒ってことでいいのよねぇ?」

「なんだって?」

「いやさぁ、アタシ集合場所に遅れちゃって、今ついたとこなのよ、だから何もわかんなくって」

 

 淡々と、やけに自然な様子で話しかけてくる女に、忠助達はむしろ不気味さを感じた。

 女は黙っている忠助達を見て、ふっと微笑みながらなおも語る。

 

「あー、そんなに怖がらなくて大丈夫だってばぁ、アタシってば、今日は機嫌がいいのよ、そう、とっても、とぉぉぉぉっぉぉぉっても機嫌がいいの、だから優しく聞いてあげるからさぁ」

「……あ、あなたも学校を襲いに来たんですか⁉︎」

「そうよぉ、黒いやつに、手伝うなら刑務所から出してやるって言われたから」

 

 最悪だ。

 どうやらこの女は収監されていたらしい。

 街のチンピラレベルではなく、れっきとした危険人物。

 

「でもね、安心して、アタシはもう十分なの、十分な成果を手に入れたのよ?」

「成果だぁ……?」

「そう、ここには新しいピーちゃんを探しに来たの、前のピーちゃんはちゃんと言うこと聞かないから、殺しちゃったし、新しい友達が欲しかったのよ」

 

 晴れやかな顔で物騒な内容を語る女に、忠助の頭中にある警報は鳴り響きっぱなしだ。

 だが、それでもなぜこの場から逃げないのか、離脱しないのか。

 それはある種の直感が働いたからだ。

 忠助は、女を睨みつけながら口を開いた。

 

「常闇を、どこにやった?」

「トコヤミィ? 誰よそれ?」

「しらばっくれてんじゃあねーぜ! この場におめー以外の人間はいねえ! だったらおめーが犯人だと考えるのが、トーゼンのキケツってやつだろーがよ〜〜!!」

 

 忠助の背後に現れたクレイジーダイヤモンドがファイティングポーズをとる。

 口田も、同じ考えだったのか咄嗟に戦う構えを作った。

 女は、そんな二人を見てクスクスと笑いながら、ポケットを探った。

 

「トコヤミなんて知らないけど、紹介してあげるわ、アタシの新しい友達、ピーちゃんをねぇ!」

 

 そう言って女がポケットから取り出したのはーー。

 

「と、常闇くん⁉︎」

 

 手のひらサイズにまで小さくなった常闇踏陰だった。

 常闇はぐったりとした状態で女に握られている。

 気を失っているようだ。

 

 瞬間的に頭に血が上る。

 忠助は衝動のままに駆け出そうとしてーー。

 

「動くんじゃねぇーー!! 状況がわかってねーのかクソガキがぁーーーーー!!」

 

 女は、さっきまでの上機嫌が嘘のような形相になると、常闇を握っていた手を前に突き出して、強く握りしめた。

 マッチ棒が折れるような音が忠助の鼓膜を震わせ、次の瞬間―ー。

 

「ぐああああああああああああ!」

「と、常闇ぃーーーーー!!」

「うわああああああ⁉︎ 常闇くん!」

 

 強制的に覚醒させられた常闇が、激痛に悲鳴をあげる。

 咄嗟に足を止める忠助達を見て、女はさらに激昂した。

 

「今、私が喋ってんだろーが! ええ⁉︎ 人が喋ってる最中に邪魔しちゃいけませんってママに教わんなかったのかぁ⁉︎」

「テメエ! 常闇を離しやがれ!」

「まぁだ命令できる立場だと勘違いしてやがんのかゲボカスがぁーー!!」

 

 女は懐から取り出したものを忠助に向ける。

 黒光りするそれがなんなのか察知するよりも先に、本能が働いた。

 クレイジーダイヤモンドが、忠助の前に飛び出す。

 

 次の瞬間、乾いた破裂音とともに発射された弾丸が一直線に忠助の頭を狙う。

 間一髪で、クレイジーダイヤモンドの剛腕がその弾丸を弾いた。

 

「口田! 隠れろ!」

 

 叫びながら、忠助も駆け出す。

 二発、三発と響く銃声をかわしながら、口田とともに近くにあったビルの陰に飛び込む。

 

「出てこいクソガキがぁー! 死にかけのジジイの痰壷に詰まった痰よりも汚らしいクソどもが! アタシのピーちゃんを奪おうたってそうはいかねぇぞぉぉぉぉぉ!」

「自分で傷つけといて何言ってやがる!」

 

 聞くに耐えない罵詈雑言を浴びながら、忠助は歯噛みした。

 状況は最悪だ。

 常闇は捕らえられ、相手は銃を持っている。

 人質を取られている状況では、何もできやしない。

 

「ひ、東方くん! さっきの音! 常闇くんの骨が、骨が!」

「わかってるっつーんだよ〜〜!」

 

 確実に折れた音が聞こえた。

 怖いのは折れたのがどこかわからないことだ。

 腕や足なら後でいくらでも直す。

 だが万が一、万が一さっきの音が背骨や腰骨だった場合、急がねば命に関わる。

 

 タイミングを見計らって、どうにか接近するしかない。

 忠助は、ビルの陰からチラッと女を見る。

 女は、辺りに散らばった瓦礫をめんどくさそうに跨ぎながら、ゆっくりとこちらに近づいてきている。

 もうすでに、さっき忠助が立っていた辺りまできている。

 

「ど、どうしよう! こんなのどうしようもないよ!」

 

 ゆっくりとこちらに近づいてくる女に、口田は軽くパニックになりかけていた。

 さっきやっと決意したばかりなのに、命の危機に晒されればこんなにも脆い。

 自己嫌悪と焦燥が口田甲司の頭の中を満たしていくーーその時だった。

 

「イテッ!」

 

 女の声が聞こえた。

 その声に驚いてのぞいてみればーー。

 

「ダーク……シャドウ……」

『ハナシヤガレェ……』

 

 小さくなった常闇が、ダークシャドウが、女の手のひらの中から必死の抵抗を続けていた。

 ノロノロとした動きで、必死に手のひらを殴りつけるダークシャドウ。

 しかし悲しいかな、効果はあまりに薄く、買った怒りはあまりにも大きい。

 

「小さくなれば個性の出力も落ちる……そんなこともわかんねーのか!」

「わかっていても、抵抗はできる……!」

「この……! せっかく後で治してやろうと思ったのに! おめーまでアタシをバカにすんのか!」

「……友の、足手まといには、ならん!」

 

 常闇の決意も、女からすれば癪に触るものでしかなかった。

 顔を怒りに歪ませて、ヒステリックに叫ぶ。

 

「もういい! こんな反抗的なピーちゃんはいらない! 全身ぐちゃぐちゃに潰れて死にやがれ!!」

 

 女が再び手に力を入れようと、常闇を両手で握ろうとした。

 訪れる凄惨な結末に、口田がとっさに目を瞑ろうとした時だった。

 

「常闇を頼むぜ〜〜」

「え?」

「気合入れろよ〜〜〜口田ぁ!」

 

 言うが早いか、忠助はビルの陰から飛び出すと一直線に女の方へと向かっていった。

 最短距離を、最速で突っ込んで行く忠助。

 その背中からは、撃たれたらどうするなんて迷いは微塵も見えない。

 

「なにぃ⁉︎」

 

怒りのままに常闇に集中していた女は、とっさにことに銃を向けることができなかった。

忠助は、怒りの形相で吠える。

 

「クレイジーダイヤモンド!」

『ドララララララララララララララララララーーーーー!』

「ひ、ヒィィィィ!」

 

タイミングは完璧だった。

しかし弱者の本能か保身の才能か、女はとっさに握っていた常闇をクレイジーダイヤモンドの方へと突き出した。

忠助は舌打ちとともに、クレイジーダイヤモンドの拳の軌道をそらす。

必殺の一撃となるはずだったそれは、女の足元にあった瓦礫に直撃した。

 

「は、ははははは! ザマァ見ろ! 外しやがった!」

「今ので方がついてりゃあ楽だったのによ〜〜」

「黙れ! もう喋るな! 隠れることも許さねぇぇ!! さっさと離れやがれ!」

 

女は、弾が切れたのか持っていた銃を捨てると、懐から新しい銃を取り出して忠助に突きつけた。

忠助は、苦虫を噛み潰したような顔で数歩下がる。

クレイジーダイヤモンドの射程距離の外へと。

 

「へ、へひひ……! アタシは優しいからなぁ〜〜、この世にお別れする時間をやるぜ! 一発ずつゆっくりと撃ってやる、防ぎたきゃ防ぎな、ただし、最後の一発を防いだら、こいつを握りつぶしてやる」

「うだうだ言ってねーでよ〜〜、撃ちたきゃ早く撃ちなよ」

「強がってじゃあねーぞぉぉぉぉ!!」

 

銃声、クレイジーダイヤモンドの腕がそれを弾く。

――残り時間は、短い。

 




しばらく書いてなかったから、技術の劣化がひどい……。
頑張ります。

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