待ってくださっている方がいれば幸いです。
それでは、忘れられているかもしれませんが、大雨・雷雨ルート開幕です。
ここまで時間が空いてしまった埋め合わせはいつか必ず!
目を開けていられないほどの豪雨が、顔と言わず全身を襲う。
眼に写る範囲がすべてこれだと言うのだから、雄英がいかにこの施設に力を入れているかがわかろうと言うものだ。
本来ならば、ここで行われるのは雷雨の中で人を救助する訓練だったのかもしれないがーー。
「ダークシャドウ‼︎」
『アイヨォ!』
鋭い叫びとともに、常闇の胴体から漆黒の影が飛び出した。
彼の個性である『黒影』だ。
ダークシャドウは素早い動きで、離れたところにいた男にーー自分たちを取り囲んでいるヴィランの一人にーー肉薄して、殴りつけた。
「ぐあぁー⁉︎」
「ちくしょう! スタンド型の個性か⁉︎」
「ばか! そんなの気にしてる場合じゃーーがっ!」
驚愕して動きが鈍ったヴィランの一人を、またもダークシャドウが殴りつける。
中距離に関しては無類の強さを誇るダークシャドウに、ヴィラン達は圧倒されていた。
ーーが。
「強力な個性だがーー」
ギリギリ、ダークシャドウの射程距離の外にいた男が思い切り屈む。
見ればその足はバネのように変形していた。
とくれば次の一手は当然ーー。
「懐がガラ空きだぞ、ガキィ!」
男が宙高く跳ねた。
そのまま、ビルの壁面を蹴った男は、一直線に常闇に狙いをつける。
勢いを殺さずにぶつかるつもりだろう。
確かに数の利はヴィラン側にある。一瞬でも常闇が倒れれば、あとは囲んで叩かれて終わりだ。
どんな強個性だろうと、抵抗する間も無く叩かれ続ければ負ける。
そして、正面を捌くことに手いっぱいの常闇に、この攻撃を防ぐ手立てはない。
ーーあくまで、常闇には、だが。
常闇は一歩後ろにずれた。
そしてその背後から入れ替わるように現れたのは、非常に不機嫌そうな顔の少年。
「ったくよ〜〜、髪型が崩れるからさっさと屋根のあるとこに行きてーってのによ〜〜、わらわらわらわらーー」
少年の背後に現れた白い巨体が、岩のような拳を振りかぶった。
「うっとうしーぜ! てめーら!」
「ぶげらぁッ! バああああああーーーー⁉︎」
突撃してきた男に顔面にクレイジーダイヤモンドの拳が突き刺さる。
ただでさえ強力なクレイジーダイヤモンドのパワーに、自身の突進の威力まで加算された一撃だ。
男はおかしな体勢になって、錐揉み状に回転しながらビルの壁面に叩きつけられた。
壁にヒビを入れる勢いでぶつかった男を見て、忠助のさらに背後にいた岩石のような顔をした少年があわあわと手をバタバタさせていた。
『あれ、大丈夫なの?』
「心配するな口田、東方がその程度の加減を忘れるはずもない」
『そ、そっか、そうだよね』
口田のジェスチャーに、淡々と常闇が答える。
当の忠助は、一刻も早く屋内へと向かいたいのか、一心不乱に湧いてくるヴィラン達を叩きのめしている。
近いてこない相手にはダークシャドウが、近いてきた相手にはクレイジーダイヤモンドが、その拳を振るう。
即席ながらあまりにも隙のない布陣だ。一山いくらのヴィラン達に突破できるものではない。
しかし、その中でも果敢に挑もうとする者もいる。
「そこをどけぇ!」
身の丈三メートル近い大男が、どこから持ってきたのか自分の五倍近くありそうな球体を持ち上げていた。
すぐそばのビルの壁面が大きくかけているところを見るに、物体を球体する個性だろうか。
しかしおそらく本人は増強系なので、協力者がーー。
なんて、冷静に分析している時間はなく、上半身を捻ったその体勢から、男が次に何をするのかは火を見るより明らかでーー。
「まずい! ダークシャドウ!」
「くらえええええ! ーーグフゥ!」
ダークシャドウの容赦ない一撃が男の腹に直撃したが、ほんの一瞬遅かった。
巨大な球体は、一直線に忠助達の方へと飛んできた。
回避も間に合いそうにない。しかも大きさ的にラッシュで破壊しきれないかもしれない。
忠助は二人の前に飛び出ると、クレイジーダイヤモンドでその球体を受け止める。
『ーードラアアアアアアアアアアアアアアアアアア‼︎』
クレイジーダイヤモンドが吠えた。
忠助は受け止めた瓦礫を、勢いを殺さないようにして進路をずらして投げ飛ばす。
上方向へと飛んで行った瓦礫は、忠助の背後にあったビルへと直撃した。
最上階近くの壁が崩れ、ガラガラと地面に落ちていく。
直撃していたら危なかった……。
「ひ、怯むんじゃねえ! まだ数はこっちの方が上なんだ! やってやれ!」
「お、おお‼︎」
ことごとく攻撃を回避され、消沈しかけていたヴィラン達が一斉に飛びかかってくる。
全方向からの、単純だが効果的な圧殺。
ーーが、それはもっともやってはいけないことだ。少なくともこのメンバー相手には。
「ダークシャドウ!」
「クレイジーダイヤモンド!」
黒と白の守護神が、それぞれの体から飛び出した。
『カズソロエリャカテルッテオモッテンノガ、サンシタナンダヨー‼︎』
『ドラララララララララララララララララララララララララララァ‼︎』
すべての方向から迫るヴィラン達を、四つの拳が尽く迎撃した。
※ ※ ※ ※
「全員片付いたようだな」
「ったくよ〜〜。数だけは多い連中だったぜ」
死屍累々となった通りを眺めて、生き残りがいないことを確認した常闇と忠助は、ようやく息を整える。
轟々と降りしきる雨に打たれながら、それでも忠助は懐から櫛をだして髪を整える。
雨でも崩れない強力なワックスをつけているとは言え、この豪雨はさすがに辛い。
(あの黒モヤ野郎、狙って飛ばしたんじゃあねーだろうな〜〜)
体が黒いもやで覆われていたーーもしかすると異形系かもしれないがーーあのヴィランのモヤに包まれたと思ったら、次の瞬間にはここに飛ばされていた。
空間を移動する系の個性、それも相当に強力なやつだ。
だが、だがそれにしては、そんなに強力な個性を持っているものがいるにしてはーー。
「それで、ここからどうするつもりだ東方?」
考え事をしていた忠助は、常闇からの呼びかけで我に帰る。
「ん、ああ、とりあえずよ〜〜、さっさと中央に戻るぜ」
『え、ええ!? 戻るの!?』
手足をばたつかせて、うろたえているのは口田だ。
口田はそのままの勢いで、手話を続ける。
『で、でもさ、今戻ったところで足手まといになっちゃうんじゃない? 僕たち本来は戦闘行為認められてないし!』
そう、口田の言う通り、天下の雄英生といえど、今はまだ学生の身分だ。
ヒーロー仮免許すら持っていない自分たちには、本来戦闘行為は認められておらず、個性の無断使用に当たってしまう。
それに、今なお現役で働き続けているイレイザーヘッドや13号と、まだ学び始めたばかりの自分たちではあまりにも差が大きい。
おそらく共闘なんてしようにも、足を引っ張ってしまうのが関の山だ。
だがーー。
「口田、オメーの言いてーことはよーくわかるぜ、けどよ〜〜、なんつーか嫌な予感がすんだよ」
『嫌な、予感?』
「ああ、考えてもみろよ、ここは雄英だぜ〜〜? 授業中を狙って襲ってきたところで必ずプロのヒーローがいる、しかも今では
にもかかわらず、白昼堂々と襲撃に来た。
これが意味するところはつまり……。
『それだけされてもなんとかなる自信が、ある……?」
忠助は、頷きを持ってそれに応える。
切り札があるのか、増援があるのか、それともあの黒モヤか、手の男が相当に強い個性を持っているのか。
どれかまではわからないが、必ず何かある。
そして、忠助の考えうる中で最も最悪の展開はーー。
(あいつらの中で、オールマイトを倒せる目算があるってことだぜ〜〜)
少なくとも、今雄英を襲うというのはそう言うことだ。
平和の象徴を地に落とす計画が、すでに立っていると言うことに他ならない。
それだけは何としても阻止しなければならない。
『東方くん……』
「心配そーな顔してんじゃねーぜ、何も行って戦おうってんじゃあねえ、俺は回復役に徹する、それだけでもジューブンに戦いやすくなると思うからよ〜〜」
不安げに俯いている口田を安心させるように、忠助はニッと口角を上げる。
しかし、それを見た口田はさらに俯いてしまった。
忠助は、苦笑まじりに口を開く。
「心配ならおめーはここに残っててもいいんだぜ〜〜? 誰も責めやしねー、むしろ賢い判断だろーぜ」
『違うんだ……怖いのはもちろん怖いんだけど、それだけじゃなくて、東方くんはすごいなぁって』
「ああ?」
口田は視線を地面に向かわせながら、弱々しくジェスチャーを続ける。
『東方くんだけじゃない、常闇くんもだよ、こんな時なのに冷静で、あんなにたくさんのヴィランに囲まれても怖がったりしないで立ち向かって行って……僕には、とてもじゃないけどできない』
「何言ってんだよ、おめーだってちゃんとーー」
『いいんだ、気を使ってくれなくても、僕は個性だって戦闘向きじゃないし……そもそも、臆病だ』
雄英に受かって嬉しかった。
これで自分もヒーローの第一歩を進めるんだと思っていた。
しかし、本物の恐怖を、安全の保証されない世界を片鱗を見て、あっという間に自分は震えていた。
思ってしまうのだ。
これが実戦だったならばもう終わっていたとーー。
もしも1人で飛ばされていたら、為すすべなくやられていたとーー。
こんな自分が、ヒーロー目指して大丈夫なのかとーー。
「口田よ〜〜」
「……? あいったー!」
呼びかけられて顔を上げた瞬間に、口田の額に激痛が走る。
デコピンを食らったのだと思った時には、とっさに声が出ていた。
あまりに痛みに涙目になりながら顔を上げると、そこには先ほどまでと変わらずニッと笑っている忠助がいた。
「おめー、随分ヨユーじゃねーかよ〜〜、こんな時に先のこと考えるなんてよ〜〜」
「そ、そんなつもりじゃ……」
「ーーそれにおめーが思ってるほど、俺は強いわけじゃあねーからよ〜〜」
「え?」
「ここに来る前よ〜〜、俺ぁ杜王町ってとこに住んでたんだ……そこで、じいちゃんを失った」
突然のカミングアウトに、口田は息を飲んだ。
「じいちゃんは警察官だった、無個性だったけど、町の平和をずっと守り続けて……昔捕まえた凶悪犯に、逆恨みで殺された」
「そんな……」
「俺は、じいちゃんに代わりに町の平和を守るって意気込んで……その犯人、アンジェロを見つけて戦ってよ〜〜、危うく殺されかけた」
忠助は後悔と懐かしさが同居しているような笑みを浮かべて、虚空を見つめる。
「グーゼン、別件で町に来てたじょうたーー知り合いのヒーローがいなかったら、そこで死んでただろーぜ」
「……」
「口田、誰だってよ〜〜、戦うのが恐ろしくねーわけねーんだ」
「だったら、なんで? なんでそんな恐ろしい目にあったのにーー」
「ただ、引くわけにゃいかねーだけだ、今日を守ろうとして、昨日死んだ人たちのためによ〜〜」
引き継がれていく意志を、自分のところで途絶えさせるわけにはいかない。
強いものは弱いものを守り、弱いものはいつか強くなって自分より弱いものを守る。
そうやって脈々と引き継がれて来た命のリレーを、続けていくだけなのだ。
「東方くん……」
口田は忠助をみて、素直に眩しいと思う。
その精神を、在り方を、黄金のように輝いていると思う。
自分も、そう在れるだろうか。
いや、在れるかではなく、そう在りたいのだ。
ならば、迷っている時間もない。
「ーー行こう東方くん」
「おう! それと口田」
「なに?」
「おめー、そんなに喋れたんだな」
「あっ……」
先ほどからジェスチャーを忘れて自分の口で喋っていたことに気づいた口田は、顔を真っ赤にして俯いた。
忠助は、そんな口田を見て苦笑しながら、肩をたたく。
「照れんなよ、そっちの方がよ〜〜、俺ぁいいと思うぜ〜〜?」
「そ、そうかな?」
「ああ、クラスのみんなもよ〜〜、絶対にその方がうれしーだろーからよ〜〜」
忠助は、後ろを振り返って言った。
「おめーもそう思うだろ? 常闇ぃ〜〜」
そこには、誰もいなかった。
忠助のアンジェロ戦の流れ
・丞太郎、諸事情あって杜王町への到着が遅れる。
・アンジェロ脱獄、じいちゃん死亡
・忠助、自力でアンジェロを発見
・もう少しで倒すところまで行くも卑怯な手を使われて負けそうになる。
・丞太郎到着、アンジェロを一方的にタコ殴り
・アンジェロ、最後の悪あがきでアクアネックレスを忠助の体内へ、からの原作通りの展開で敗北
と言った感じです。ちなみに岩にはならずに普通に捕まりました。
忠助はヒーロー志望なので私的制裁は行わなかった模様