しかも結構時間を縫って書いたので、クオリティがのう……。
とりあえず対人訓練の終わりまでは投稿しますね。
批判や誤字報告ばんばんお待ちしています!でもできたらお手柔らかに……。
「えぇー!?じゃあ三人は幼馴染なん!?」
ヒーロー側になった忠助たちは、準備ができるまでビルの前で世間話に興じていた。そんな中でポロッと出久がもらした言葉に、麗日が思い切り食いついた。
「う、うん、ずっと一緒だよ、それこそ物心ついた時から」
「俺も引っ越すまではよく遊んでたぜ~、懐かしき思いでってやつだよなァー?」
「君とかっちゃんが喧嘩するたびに止めてた僕の身にもなってよ……」
東方忠助という人間は今でこそ飄々として掴みどころのない、髪型のことを除けば滅多なことでは怒らないできた人間だが、ずっと幼い頃はそうではなかった。
三歳から反抗期を迎え、同じく三歳で反抗期を迎えていた爆豪と凄まじい喧嘩をしていたものだ。お互いまだ個性が発言していなかった時代だったから良かったものの、そうでなかったら大惨事になっていただろう。
「まァだ言ってんのかよ、そんな昔のことなんか覚えてねーっつってんだろ~?」
「踏んだ方は気楽だよ、すぐに忘れるんだから」
「……はー」
気まずそうにすっとぼける忠助に、じと目を向けて非難する出久
麗日はそのやりとりに、不思議なものを見るように目をぱちくりさせていた。
「……ん?俺らの顔になんかついってかあ~?」
「ううん!そうじゃないんだけど、なんていうか、東方君と話してる時のデク君って、こう、ほら!いい感じやね!」
「い、いい感じ?」
「うん!遠慮がないっていうか、きちっとし過ぎてない感じが!」
「そ、そうかな……別に、意識とかは全然してないんだけど」
「絶対そうだよ!いいなぁ、私にももっとそんな感じでいいのに」
「え!?い、いや、それはちょっと、その……いや別に麗日さんと仲良くしたくないってわけじゃないしむしろ仲良くなりたくて必死だけど――」
「落ち着けって、墓穴掘りぬいて地球の裏側まで行く気かよ~?」
「は、半分忠助のせいだろ!?」
「ほらそういうの!いいなぁって」
頬を膨らませて抗議しながらも、どこか微笑ましそうに口元を緩めるという地味に器用な表情を作りながら、麗日は二人を指さす。
出久と忠助は互いに顔を見合わせると、揃って苦笑した。
「ま、こればっかりはオサナナジミのキョリカンってやつだからよ~~、長く付き合ってりゃいつの間にかなってるもんだぜ?」
「そ、そうだね、しようって言ってするもんじゃない、と思うよ」
「そんなもんか、うん!じゃあ私デク君とも東方君とも仲良くなれるように頑張る!」
「頑張るもんでもねーと思うけどなァー」
それに、もう仲は良い方だと忠助は思う。
というのも、先ほどから麗日が出久のことを『デク』と呼んでいるからだ。忠助の記憶通りなら出久はあの呼ばれ方が嫌いである。
にも拘らず、麗日は何の気なしにデクと呼び、出久は特に嫌そうな顔もせずに応じている、付き合いの長さから分かるが我慢している風でもない。
昨日の帰りは、結局飯田の監視もありどこへも寄らずに家へ帰ったわけだが、出久と麗日は最後まで同じ道だった。あの後何か言われたのかもしれない。
(おいおいおいおい、まさか俺を差し置いて一足先に春到来ってことかよ~)
太陽のように笑う麗日と、よく分らない動きで照れくさそうに顔を隠している出久を交互に見ながら、忠助は祝うべきか、妬むべきかを考えた。
『さて、そろそろ準備はいいかな少年少女!』
近くに会ったスピーカーから聞こえるオールマイトの声に、出久と麗日は一気に顔を引き締める。
授業だから、訓練だから、そんな言い訳は利かない。これから始まるのはれっきとした戦いなのだ。
「よし!行こう、二人とも!」
「うん!がんばろうね!」
「あ、わりーんだけど、ちっと待ってくれ」
胸一杯の覚悟と緊張感をもって、室内に踏み込もうとする二人の後ろから、どこか緊張感のない制止の声がかかる。
決意を込めた一歩目を邪魔された二人が、不思議そうに忠助に視線をやる。
忠助はそれを軽く無視すると、二人に背を向けて入口から遠ざかった。
「東方君?早くいかんとヒーローチーム時間制限あるよ?」
「ルールは把握してるぜ~、ただ覚えとけ麗日、戦いってのは準備の段階からから始まってるもんだぜ――ま、受け売りだけどな」
忠助がいい終わると同時に、彼の隣に現れたクレイジーダイヤモンドが、全身の筋肉をフルに使った動きで思い切り拳を振りかぶった――!
※ ※ ※ ※
一方そのころ、ヴィランチームの三人はミサイルの置かれている部屋に居座っていた。
もっとも、それも今まさに過去形になりそうなのだが――。
「爆豪君!あまり勝手な真似はやめたまえ!訓練だからといって緊張感を忘れてはプロとしての資質を疑われるぞ!」
「一番手っ取り早い方法言ってるだけだろが黙ってろカス!俺が行ってデクもチュースケも、まとめてぶっとばしゃ終わりだろうが!!」
「だからそういうところが真剣さが足りてないと言うんだ!」
準備の段階から始まった争いが、まだ続いていた。
内容と言えば聞いての通り、出久を一刻も早く叩きのめしたい爆豪と、あくまで冷静に戦略を立てて進むべきだと諭す飯田との見事な平行線だった。
しかし、開始のアナウンスが流れた今これ以上言い争っている暇もなく、飯田も流石に焦り始めていた。
そんな中――。
「あの、それなら提案があります」
黙っていた汐華が、静かに、それでいてはっきりと手を上げた。
その口から淀みなく言葉が流れてくる様子は、まるでこの事態を初めから予測していたような口ぶりで――。
「――ということならどうでしょう?」
「いやいやいや君ぃ!それでは何の根本的な解決にもなっていたいじゃあないか」
「飯田君、君の言いたいことはわかりますけど、どうせこのまま話し合っていてもそのうちに爆豪君が勝手に動き出します。それなら多少状況をコントロールできた方がいい、そう思いませんか?」
説得と言うよりは、どちらかと言えば脅迫に近いものだったが、飯田はその言葉を聞き、今にも飛び出しそうな爆豪を見て、大きく肩を落とした。
「……説得が不可能なら次善策に出るのもやむなしと言うことだろうか」
「わかってくれたようで何よりです」
「つか俺を無視して話を進めてんじゃねえ!!」
自分抜きで展開が決まっていく不満に、爆豪が絶叫する。
とはいえ汐華の作戦は彼の要求を満たすものであったため、暴れるようなことはなかったが……。
※ ※ ※ ※
「……なんか今爆豪君の声聞こえんかった?」
「さぁな、いっつも叫んでるよ―な奴だからよ~~、そーいうこともあるんじゃねーか?」
「二人とも静かに、あと曲がり角の確認忘れないで」
どこからか聞こえてきた怒号に、麗日がおっかなびっくり問いかければ、忠助は差して気にした風もなくそれに答える。
それをすかさず注意した出久に、二人は軽く頭を下げて再びビルの中を進む。
三人分の足音が、ビルの中にこだまする。できるだけ足音をたてないように気をつけてはいるものの、物音ひとつない室内ではどうしても移動の音を消しきれなかった。
「……誰もいないね」
「セオリー通りいくなら、多分五階のミサイルのある部屋に皆で固まると思うよ、けど――」
二階への階段を上りながら、麗日が不気味なほどの静けさに眉をひそめた。
大して出久は独り言とも返答とも取れるような呟きを洩らしつつ、一段ずつ階段を上がっていく。
「けど?なんか引っかかることでもあんのかよ?」
忠助は出久の歯切れの悪い呟きに、目ざとく食いついた。
出久は重々しく頷くと、自分の中でまとまりつつある推測を二人に話す。
「かっちゃんの性格からして、じっと待ってるなんてあり得ない、ただでさえ僕と忠助が揃ってるんだ、確実に何か仕掛けてくるよ。」
「ま、だろーな」
「……二人とも断言しちゃうんだ」
「そういうやつだからね、それでかっちゃんは飛び出すよ、飯田君は真面目な人だからミサイルの所に残る、これも多分確実、不安なのは――」
「……汐華ってわけかよ?」
「うん、彼女に関しては情報が少ないし、どんなタイプなのかもよく知らないから……そうだ、忠助は汐華さんと何回か話したんだよね?どんな人だった?」
「どんな、って言われてもよ~~」
正直なところ分からないというのが本音だ。
忠助だって知りあってまだ数日の仲でしかない。偶然が重なって他のクラスメイトよりは会話もしているが、逆に言えばその程度でしか無い。
「わり―けど話せることはなにもなさそうだぜ」
「そっか……」
「ただ、確実に言えることが一つあるとするならよ~、あいつは見た目ほど冷めてねーってことだろーぜ」
「冷めてないって……どういう意味?」
「――ギラギラしてんだよ、目の奥がよ~~、ありゃ、大人しいだけの奴がする目なんかじゃあねーぜ!」
優等生の眼ではない。
何が何でも目的を達成する、戦う意志を秘めた瞳だ。
忠助の実感のこもった言葉に、出久と麗日はごくりと唾を呑む。
だが同時に出久は思考を巡らせることを忘れない。
もし、忠助の勘が当たっているとすれば、汐華がその性格なのだとするなら――。
(仕掛けてくるのは、僕たちの予想以上に早い可能性が――)
その直後だった。
目の前の曲がり角から、ギラギラとした目の爆豪が飛び出してきたのは――。
爆豪はその手榴弾型のガントレットを思い切り振りかぶると出久めがけて一直線に振り下ろす。
しかしその攻撃を既に予想していた出久は、麗日に飛びつくようにしてその攻撃を回避した。
外れた攻撃はそのままの勢いで壁に激突し、爆音と共に壁に穴を開けた。
壁の向こうに見える外の風景に、出久は改めて肝を冷やした。相変わらずの高威力だ。
「避けきれなかった……! 麗日さん、大丈夫!?」
「う、うん……」
「ヤロウ、デク……避けてんじゃねえよコラ――中断されねえ程度に叩きのめしたらあ!!」
掌からバチバチと火花を散らし、イズクへと最短距離で駆けていく爆豪は――自身が起こした爆炎の中から出てきた特徴的すぎるリーゼントに気づかなかった。
「油断してんのは、どっちだっつー話だよな~~~~勝己ぃ!!」
「ドララララララララララララァ!!」とクレイジーダイヤモンドが人間には視認することすらできない高速の拳を爆豪めがけて叩きこむ。
――しかし爆豪は、拳が当たる直前に自身が起こした爆発を利用してクレイジーダイヤモンドのラッシュ範囲から抜ける。
着地と同時に分かりやすく舌打ちをかました爆豪が、忠助に吠える。
「邪魔すんなチュースケェ!! テメエの相手はデクをぶっ殺してからだ!!」
「だったら邪魔しねーわけにもいかねーだろーがよ~~!」
クレイジーダイヤモンドが再び爆豪へ拳を突き出す。
爆豪は、何度も小規模な爆発を起こして、縦横無尽に飛び回りながらそれを回避していた。
(……なんて戦いだよ)
離れたところからそれを眺めている出久はあまりに過激な戦闘に、冷や汗を流した。
クレイジーダイヤモンドの拳速は最低でも二百キロ超えている。忠助の調子がいい時ならば三百だって届かない数字じゃない。
当たり前だが、拳を視認してからでは確実に回避は間に合わない。
では爆豪はどうやってこのラッシュを回避しているのか――簡単なことだ。打たれて間に合わないならば打ち始める前に射程距離から抜ければいい。
たとえクレイジーダイヤモンドのスピードが優れていようと、それを打ち始める起点となる忠助の反応とスタンドの初動にはほんの少しのタイムラグがある。
脳が体に命令を出してから、実際に体が動き始めるまでのほんの少しの時間。
ならば、付け入る隙は当然そこになる。
――とは言ったものの……。
(それはあくまで理屈の上で可能って話……!誰にだってできることじゃない!)
幼馴染二人と自分との間にある高い高い壁に、出久は歯嚙みする。
悔しいと思う。
追いつきたいと思う。
だからこそ――こうやって悩んでいる暇はない。
出久は同じように目が離せなくなっていた麗日に呼びかけた。
「麗日さん! 今のうちに!」
「え……あ、うん、わかった!」
「テメエ!! 逃げてんじゃねえぞクソナード!!」
その場に背を向けて走り出す二人の姿を見た爆豪が、目を怒らせて吠える。
しかし出久は振り返らない。
今は何と言われようと、ただ進み続けるのだ。いつか追いつくその日を目指すために――!
無言の決意を無視と受け取った爆豪は、額から血管が切れる音を響かせながら一際大きい爆発を起こして出久たちに跳びかかる。
――自分がいま誰と戦っていたのかも忘れて。
「頭に血が上りやすいとこはよ~~、変わってねーようだなァっ!!」
無駄のない動きで、宙を舞う爆豪の前に一度った忠助――その隣に立つクレイジーダイヤモンドが、岩のような拳を握りしめる。
限界まで張りつめた糸が切れるように、その拳が一直線に爆豪の顔面へと向かう――その、とてもヒーローとは思えない笑みを浮かべる爆豪のもとへと。
何かがまずい。
それに気づいた時には遅かった。
忠助から見て左側の壁、見取り図上は小部屋になっているその壁から、突然大量の蔦が伸びてきて忠助を絡め捕る。
「う、うおおおおおおおおお!?」
「――ったく、これで満足かよ。ネクラ女」
蔦に引っ張られる形で部屋に引きずり込まれる忠助は、最後にそんな不機嫌そうな声を聞いた。
出久たちが走っていったほうへ走っていく爆豪を見ながら、忠助は心中で出久に謝罪する。
(わりーな。後は任せるぜっ! 代わりに、こっちは俺が引き受けるからよ~~)
蔦の役目は忠助を部屋におびき寄せるところで終わったらしい。
部屋の中に着くと同時に、蔦から解放された忠助は、部屋の中を軽く見渡した。
広くはないが、何も置いていないせいか見た目よりも広く感じる。
記憶が正しければ、ここは二階の隅の部屋。
忠助が連れ込まれたのと逆の壁は、建物の外に繋がっていたはずだ。
そんなことを考えながら、ポケットから取り出した櫛で髪を整えていた忠助は、正面から歩いてくる人物に声をかけた。
「ここまで全部おめーのお膳立てってわけかよ?」
「別に、たいしたことはしていませんよ。緑谷君と戦いたい爆豪君、麗日さんと一対一になれば守りきる自信がある飯田君、つまりそうだな――利害が一致しただけです」
汐華が、忠助の正面で立ち止まった。
ここはもう、クレイジーダイヤモンドの射程距離だ。
いつでも拳を打ちこめる。
それを承知の上で、忠助は汐華に言った。
「さっさと出しなよ。おめーの
「……気づいていたんですね」
「気付かねーわけあるかよ。まさかおめー、隠し通したまま俺に勝つつもりだったんじゃねーだろーなァ~~~」
「そうだと言ったら、どうしますか」
直後だった。
忠助は何の前触れもなくクレイジーダイヤモンドを出現させると、何の手加減もなく右ストレートを汐華めがけてはなった。
常人ならば顔面の褒めを陥没させながら吹き飛ばされてもおかしくないその攻撃は、同じく突如汐華の隣に現れた金色の人影に阻まれた。
「ゴールドエクスペリエンス」
小さく動いた汐華の口から発せられたのは、おそらくそのスタンドの名前。
それは、忠助のサイボーグのような印象を受けるクレイジーダイヤモンドとは違い、生物らしさを感じさせる見た目をしていた。
黄金に輝くスタンドを侍らせた汐華と、クレイジーダイヤモンドを傍らに置く忠助の睨みあいは、一瞬だった。
「ドラララララララララララララララララララララララ――!!」
「無駄無駄無駄無駄無駄無駄無駄無駄無駄無駄無駄無駄――!!」
最初のラッシュ合戦に打ち勝ったのは――忠助。
汐華は、辛うじてゴールでエクスペリエンスの腕を交差させて被害を逸らしたが、吹き飛ばされて背中から壁に叩きつけられた。
咳こみながら、壁に手をつく汐華に、忠助は油断なく視線を送る。
「おめーのゴールドエクスペリエンス、スピードはたいしたもんだが、ちとパワーが足りてね―みてーだなァーー!!」
すかさず放たれる拳を、ゴールドエクスペリエンスでいなしながら、汐華は狭い部屋の中を駆け回る。
その眼は、未だぎらぎらとした、静かな炎を灯したままだ。
油断など、できるわけもない……。