東方忠助の奇妙なヒーローアカデミア   作:寅猛

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対人訓練その①

 ヒーロー科の花型ともいえるヒーロー基礎学の授業、ヒーローの素地を作るための様々な授業であり、単位数も最も多い。

 災害救助や、戦術指南、さまざまな授業があるのだが――。

 

「まっさか、一回目から戦闘訓練とはな、気合入ってるにも程があんじゃねーか」

「HAHAHA!この方が一気に目が覚めていいだろう?午後の授業ってことで眠気覚ましの意味も込めてね!」

「そんな理由で決めたんすかァ?」

「まさか!今考えたのさ!」

 

 白い歯を見せて豪快に笑うナンバーワンヒーローを華麗に無視して、忠助は目の前に広がる風景を見る。

 ビル群が並ぶ風景は間違いなく入試の時に使った市街地演習場だった。またここで似たようなことをするのだろうか。

 

「先生!ここは入試の演習場ですが、また同じことを?」

 

 と、忠助が考えていたのとまったく同じ質問をしたのは、随分凝った作りのコスチュームに身を包んだ飯田だった。

 

「いや、今日はその一歩先、屋内での対人訓練だ!」

 

 オールマイトの説明を聞きながら、それにしても皆凝ったコスチュームを作るものだと、忠助は辺りを見渡した。

 ちなみにこの町に久々に来た忠助は知らないが、飯田のコスチュームは兄であるインゲニウムとよく似たつくりになっている。

 

 今さらだがヒーロー学は基本的に、入学前に本人が希望を提出して作るコスチュームを着て行う。被服控除と呼ばれるこのシステムは個性社会においてはとても重要なものだ。

 肉体的な差異が多く現れる個性社会では、全員同じ体操服など無理があるからだ。

 『創造』の個性のために露出が多めのコスになっている八百万や、個性である『レーザー』を全身から放つ工夫を凝らした青山などを見れば分かる通り、コスチュームと個性を括って考えることも、必要な思考なのだろう。

 

 そういう意味では、忠助は二十二人の中でも少し、いやだいぶ浮いていた。

 隣に立つ出久が、小声でそのことに触れる。

 

「忠助、分かってたけどやっぱりその服装で行くんだね」

「ったりめーだろ~、俺がこれ以外の格好なんてできっかよ!」

 

 出久の苦笑に胸を張って答える忠助のコスチュームは、なんと教室にいる時と一切変わらない学ランのままだった。

 

「それにただの服って点では、おめーのとたいしてかわんねーだろーが」

「ま、まあそうなんだけどね」

 

 出久が身を包んでいる緑色のコスチュームは、本人から聞いた話によれば母親に作ってもらったものだとか。

 出久が子供のころからあこがれていた雄英に入学して、居てもたっても居られなくなって作ったのだろう。まだ忙しくて会えていないが、出久の母親の引子さんの性格を考えれば容易に想像できる。

 

 というわけで実用性皆無な服装に身を包む二人だったが、例外はもう一人だけいた。

 忠助は林立するクラスメイトの中に、教室と全く同じ服装に身を包んだ女子生徒を発見する。

 忠助の視線が向かう先に気づいた出久もまた、彼女を見て呟いた。

 

「汐華さんも、学ランのままなんだね」

「ま、学ラン改造してるからコスチュームみて―なもんだけどな」

「それこそ忠助もだろ」

「まぁな、でも服装自由にできんのは俺たち(スタンド型個性)の特権だろ~~?」

 

 先述したとおり、ヒーローのコスチュームは自身の個性を強化、効率的に運用するために工夫されているものが多い。

 そんな中、スタンド型の個性だけは勝手が違う、なぜなら彼らは肉体的にはほとんどただの人間であるがために、コスチュームに仕掛けを作る必要がないからだ。

 結果としてスタンドヒーローのコスチュームは単純にお洒落にこだわっているだけのものになりがちである。

 

(つっても、スタンドヒーロー自体が少ねーから参考にできる人がいねーんだよな~~)

 

 そう、忠助の考えている通りスタンド型の個性を持ったヒーローは少ない。

 理由は単純、能力が独特過ぎて、オールラウンドに活躍できるスタンドが少ないからだ。例えば最近発見されたもので言えば、『地面に手を付いている間だけ無敵になれる能力』の持ち主が発見された。

 

 能力としてはもちろん強い、本人が体術を磨き、一心に努力を重ねれば並大抵のヴィランには負けないだろう。

 だが言ってしまえばそれだけだ。

 災害救助に役立つわけでもない。地面に手をつている間は動けなくなるから後ろにいる人を守れるわけでもない。

 

 ヒーローとは――得意苦手はあれども――どんな状況においてもある程度の成果を出さなければならない職業だ。

 故に『状況が能力に合っていないとただの人間と化す』能力者は、一般的には役に立たない者として扱われる。

 

 自慢するわけではないが、忠助のように傷も癒せてその上パワーもあるという使い勝手の良すぎるスタンドはそうはいないのだ。

 

(ま、『あの人』みて―なのは例外だろーけどよォ)

 

 内心苦笑する忠助の心に浮かぶのは、知りあいである、特殊な能力のない(・・・・・・・・)ただのパワー型スタンドにも関わらず、凄まじい実力を持つスタンド使い。

 

「ちなみにコンビも対戦相手もくじだ!さぁ引いてくれ!!」

(追いつく追いつかねーは後々になるとしてよ~、今はとりあえず目の前のことってか)

 

 ちなみに忠助は余計なことを考えてはいたものの話自体はちゃんと聞いていた。

 ヴィランチームとヒーローチームに分かれてミサイルの取り合いをするんだそうだ。

 ヴィラン側の勝利条件は制限時間までミサイルを守ること。

 ヒーロー側は時間内にミサイルに触れること。

 ちなみに両者ともに確保テープなるものを持たされていて、これを相手の体の一部に巻きつけてもいいらしい。

 

 単純だが、確かに頭を使わないと勝てなさそうな――。

 

「先生、質問いいですか?」

「ん?何かな汐華君!」

 

 それまで一言もしゃべっていなかった汐華の突然の挙手に、オールマイトは笑顔で応じる。

 

「このクラスは二十二人ですよね?二人組だと、一組余るのでは?」

「おっと気づいてしまったのか、組を作ってから明かすつもりだったんだが、サプライズは失敗したようだね!!」

「それで、どうするんです」

 

 HAHAHAと豪快に笑うオールマイトにも、いつもどおりの淡々とした口調で応じる汐華。

 オールマイトは少しさみしそうな顔をしながらも、一足早くなってしまった種明かしを始めた。

 

「一組は三対三でやってもらう!だから三人になった組同士はその時点で対戦相手になるからね、いやぁくじ引きのドキドキを奪ってしまって申し訳な――」

「わかりました、ありがとうございます」

「お、おう、結構淡白だね君」

 

 汐華のペースにやり辛そうにしながらも、オールマイトはすぐに笑顔に戻ると生徒たちにくじを引かせていく。

 それにしても汐華は大丈夫なのだろうか、入学式以降彼女が誰かと喋っているところを見たことがない忠助は、心配することでもないと分かっていながらもつい気になっていた。

 

「東方少年!次は君の番だぞ!」

「あ、はいっす」

 

 引いたボールにはでかでかとAの文字が書かれている。その瞬間後ろから聞こえた「あ!」という二人分の声に、忠助は振り返った。

 

「お?もしかしておめーらかよ~、つくづく縁があるよなァ――」

「それさっき二人でも話してたんだ!まさか東方君まで同じとは……」

「ま、大船に乗ったつもりでいろよな、この忠助君と組むんだからよ~」

「うん!私も頑張るね!デク君も――」

「忠助が入ってくれたのは正直にありがたいぞ作戦も立てやすいしなにより正面突破じゃなくて搦め手が使えるようになるから作戦の立て方によってはだいぶ楽になるけどまずは相手が誰なのかを――」

「……グレート」

 

 相棒の病気を見て見ぬふりする分別はあるつもりだ、目の前で見たのは初めてなのか麗日が目を丸くしているが、まあいいだろう。

 忠助は改めて辺りを見渡せばまだ三人組は一つしかできていない、さて相手は言った誰になるか――。

 

「お!三人組は二つできたみたいだね!」

 

 オールマイトの声が耳に飛び込んできて、忠助は咄嗟にそっちを見た。

 考え事をしていた出久も、同様に相手を確かめるべく視線を動かして――固まった。

 

「それじゃあ君たちはもう準備をしておいてくれ、順番も最初にするから!」

 

 憧れのオールマイトの声も対して耳に入っていないようだ、それも仕方ないだろう。

 忠助は固まってしまった出久に代わって、対戦相手となる三人に宣戦布告代わりの軽口を飛ばした。

 

「縁があるって意味じゃあ、おめーらも大概って話だよな~~」

「何見てんだコラ殺すぞチュースケ!」

「こら止めないか爆豪君!だがそれはそれとしてよろしく頼むぞ東方君!」

 

 暴れる爆豪、諌める飯田、そしてもう一人は――。

 

「……僕は別にバトルジャンキーってわけじゃないんですけど――君とやれるのは、少し楽しみだ」

 

 真っ向から忠助を見据えている汐華春乃だった。




 さて次は何か月後かな(嘘にしたい……)

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