東方忠助の奇妙なヒーローアカデミア   作:寅猛

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 すんません!ちょっと忙しくて書く暇ない日々です!
 ホントはUSJあたりまでドバっと書いて書きあがったらちょっとずつ投稿するっていう作戦だったんですけど、全然かけないのでとりあえずかけたらさっさと投稿する作戦に切り替えました。

 というわけで超短いですけど明々後日まで連続で上げます


運命の入り口

クレイジー・ダイヤモンド。

 東方忠助が、個性に目覚めた四歳のころからの変わらぬ相棒。

 凄まじいパワーとスピードを誇り、さらには殴ったものを直す能力まで持っている。

 それは忠助自身の誰よりも深い優しさと、誰よりも固い信念を体現したかのような、鋼の戦士だった。

 

 その戦士がいま、地面に倒れ伏している。

 スタンド型の個性には、説明を外せない特徴が一つあった。即ち、スタンドの負傷と本体の負傷は連動するということ――。

 その説明通りに、隣で地面に伏せっているのは、その本体である少年――東方忠助だった。

 あおむけに倒れている忠助の焦点があっていなかった瞳がようやく安定し、その瞳が光を取り戻す。

 

 同時に忠助は息も絶え絶えに地面に右手を着くと、決死の思いで力を込める。

 がくがくと腕が震える。腕だけじゃない、足もか。

 

(ランキング作るとしたらよ~~、こりゃ間違いなく俺の人生で五本の指に入る痛みだぜ……)

 

 敢えて下らないことを考えることで痛みを紛らわせようとしてみるが、一向に効果はない。

 不意に、コツコツと軽い足音が聞こえてきた。

 まずい、距離を詰められている。今の状態で二発目をもらえば忠助の敗北は間違いないだろう。

 

 近づいてくる足音が、自分の目の前で止まった瞬間、忠助は迷わず横に転がった。

 バランスなど何も考えてない、無様にも程がある回避行動、その代償が壁に頭を打ち付けるだけで済んだのは幸運だろう。少なくとも、自分が居た位置に黄金色の拳が直撃したことを考えれば――。

 

「大人しくしてくれませんか。大丈夫テープを巻きつけるだけですから」

「ばーか、そりゃ大人しく負けろっつってんのと同じだろーがよ~~」

「そう言っているんです」

「だったら当然断るぜ~~、負けるつもりはさらさらねーんでなぁ~」

「……同じことを二回言うのは嫌いだ、無駄ですから……でも死なないで下さいね」

「くそ、正に『やれやれだぜ』ってとこか~?」

 黄金のスタンドを侍らせて、こちらを見下ろす少女――汐華春乃を睨みかえしながら、忠助は知り合いの口癖を借りて毒づいた。

 

※   ※   ※   ※

 その男と出会ったのは本当に偶然だった。

 誰よりも朝の準備に時間がかかってしまう都合上、忠助の朝は早い。

 五時に目を覚まし、二時間かけて髪型を整え、家から一時間の距離にある学校に向かう。そうやって登校している最中のことだった。

 

(ん?)

 

 ふと何かを感じて視線をずらした忠助は、ビルとビルの間にある朝だと言うのに暗い路地から聞こえる呻き声を聞いて立ち止まった。

 持っている個性の都合上人の怪我には誰よりも敏感な忠助だ、一応警戒しながらもその路地へと入っていった。

 

「あの~、誰かいるんすか~?」

 

 返事はない、だがうめき声は確かに近づいている。

 更に警戒を強めながら、路地の奥へと踏み込んでいった忠助の前に、そいつは現れた。

 薄汚れたゴミ箱にもたれかかって、呻き声を上げているのは一人の男がいた。

 

「ああくそ……朝から最悪の気分だ――最高の気分だ……ああうるせえっ!黙れ!黙ってろ!――静かだな、静かすぎるぜ!」

(……なんだってんだぁ~~?こいつぁよ~~~)

 

 一人でブツブツと呟いている男は傍から見れば酷く不気味だ。それでも一応ヒーロー志望としては放っておくわけにもいけない。

 

「大丈夫っスか?」

「――!?なんだテメエ――知ってるぜお前」

「へ?」

「ああいい、気にするな――超気にしろよ!……ああくそ、何か用か」

 

 そう言って顔を上げた男の額には、痛々しい縫い跡がしっかりと残っていた。

 事故か何かだろうか、残念ながらクレイジーダイヤモンドは既に塞がってしまった傷を治すことはできない。そしてぱっと見たところそれ以外の外傷はなかった。

 念のため本人に確認を取ることにする。

 

「用っていうか、声が聞こえたんで気になって来ただけなんすけど、気分が悪いんだったら病院に行ったほうがいいっすよ~~よかったら俺が――」

「なるほど、ただのお節介か――マジでいいやつだな……面倒かけたな、気にしないでくれ、少し気分が悪くなっただけだ、持病みたいなもんでな」

「……そっスか、まあでも気分が悪くなるようだったら無理しないほうがいいすから、気をつけてくださいね」

「最近の高校生は、ずいぶん親切だな」

「これでも一応ヒーロー志望っすから」

 

 途端に、ぴくりと男のこめかみが動いた。同時に鋭くなった視線が忠助を突き刺す。しかし暗さも手伝ってか忠助はそのことに気づいていなかった。

 

「この近くっていうと、雄英の生徒か、お前」

「はい、人のピンチをほっとけねー男、東方忠助って呼んでください」

「東方、ねぇ……」

 

 サムズアップしながら、ニッと笑う忠助の前で男の左手がゆっくりと膨らんだポケットに向かう。

 その手がポケットに入った瞬間、忠助の背後から新たな声が響いた。

 

「何をしてるんですジョースケ?」

「お?汐華じゃねーか、おめーこそ何してんだこんなとこでよ~~」

「登校中ですよ、君こそちゃんと時計を見るべきだ、もう時間ぎりぎりですよ」

「おわぁっ!?マジかよ!!じゃ、じゃあ気をつけてくださいね!行こうぜ汐華~~!!」

 

 猛然と駆けだした忠助の姿が、あっというまに路地から消える。

 汐華はそれを見て薄く微笑みながら、ゆっくりと後を追おうとして――ふと振り返って男に言った。

 

「こんなところで人を殺して、逃げきれると思わない方がいい。確かにこのあたりは治安が悪いけど、この時間帯はヒーローが動き始める時間ですから」

「……何の事だか――ばれちまったか!?……ああちくしょう!黙れ!」

「……僕も朝から面倒はごめんだ、失礼します」

 

 ゆっくりと遠ざかっていく少女の姿を見ながら、男はポケットから取り出したマスクをかぶる。

 最悪だった気分が、一気に覚醒する。

 

「あああああああ!!チッキショウ!なんだあのガキは!――最高の女だ!ガキがする目じゃねえぞ!――子どもの瞳そのものだ!」

 

 矛盾する内容を堂々と叫びながら、男は苛立ちを隠そうともせず地面に転がっていたビール瓶を蹴飛ばして歩き出した。

 

「くそったれが――イカしてる、ありゃヒーローの目じゃねえ、どっちかつうと俺たちの側じゃねえか――最高のヒーローの目だな!!」

 

 この時はこの男――トゥワイス――も気づいていなかった。

 あの二人組、ひいてはそのクラスとこれから浅からぬ因縁で結ばれることになることなど――。


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