東方忠助の奇妙なヒーローアカデミア   作:寅猛

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 出久と仲のいいヒーラーポジションが欲しいな→でも一緒に戦える奴がいいな→そうだ!あいつしかいない!←今ここ。

 完全な思い付きなので、プロットもそんなに遠くまでは作ってません。ストーリーは原作尊重で進めていきます。

 あと他のサイトでオリジナル小説を書いているので、こっちは息抜き、不定期更新です。


東方忠助!再会を誓う

「ううっ……ぐすっ、えぐっ――」

 

 目の前で滝のように涙を流す幼馴染に、少年はやれやれと頭を振った。

 今日少年は、生まれてこの方十年を過ごしたこの町に別れを告げる。学校への挨拶を済ませ、ご近所へのあいさつを済ませ、今から出発と言う準備が整ったところで、十年間懇意にさせてもらっていたお隣さんに挨拶に来たという場面なわけだが――。

 

 子供同士で話したいこともあろうと、気を使った親が離れたところで会話を始めたとたんにこれだ。

 長い付き合いだが、この幼馴染の泣き虫はどうにかならないものか。少年は深いため息をつきながら。目の前の緑髪の少年に語りかける。

 

「あのよ~~~~、みんな隠してるだけで、実はお前死んだりすんのか」

「し、死なないよ!?」

「だったらぴぃぴぃ泣いてんじゃあねーぜ、別に今から人類を救うために隕石に突っ込むってわけじゃあねえんだからよ」

「そ、それは、わか、わかってるけどぉ……じょーくんは悲しくないの?」

 

 悲しくないと言えば勿論嘘になる。目の前の少年――といっても自分と年齢は変わらないわけだが――とはそれこそ言葉通り生まれる前からの付き合いだ。

 明日から一緒に学校に行くことも、休日にゲームをすることも、このオタク気質のヒーロー談義を聞くこともなくなるのだと思うと、それなりの喪失感と言うものがある。

 

 が、それを顔に出すわけにはいかないのだ、何故ならここで少年が寂しさに顔をゆがめようものなら、ただでさえ泣いている幼馴染は、堰が外れたように号泣し始めるだろう。  

なにせ涙腺がぶち壊れているのかと疑いたくなるほど涙を流すのだ。通行人の邪魔になること請け合いだ。

 

(発つ鳥跡を濁さずって言うしよ~~、道に水たまり作ってくわけにはいかね―ぜ……)

 

 故に、少年は無理やり頬を上げて笑みを作り上げると、目の前の緑髪に手を置いてぐしゃぐしゃと掻きまわした。

 

「う、うわ、やめてよぉ」

「うっせぇ、止めてほしけりゃ少しは強くなれってんだよ」

「ぼ、僕前より強くなったよ?ちゃんとジョギングも続けてるし……」

「ばぁーか、そういうでけぇ口はせめて俺に勝てるようになってから言えよ」

「そ、そんなの一生かかっても無理だよぉ!」

「個性がないから、とか言うんじゃあねぇだろーな?」

 

 事の発端が中国の軽慶市で発光する赤ん坊が生まれたこと、なんていうのももはや昔話だが、とにもかくにもそれを皮切りに世界には特異体質を持った人間が次々と生まれ始めた。『個性』名付けられたそれも、今では総人口の八割が持っているいうのだから、生物の進化というのは面白い。

架空が現実に、超常が日常に変わったこの世界で、その二文字がもつ意味は想像以上に大きい。ある職業を目標にする人間にとっては特に――。

 

緑髪の少年の表情が急激に凍りついた。それだけでこの話題は彼にとって地雷とも言うべきものなのだと理解できる。よしんば少年は彼の幼馴染だ、普段ならばこんなことは絶対に言わない。

それでも今回口火を切ったのは、言っておかねばならないことがあるからに他ならない。少年は年に似合わない鋭い眼光を、幼馴染に向けて放つ。

 

「出久、おめー、俺との約束忘れたんじゃねぇだろーな~~」

「わ、忘れてないよ!……忘れるわけ、ないよ」

 

 出久――緑谷出久はその小さな手を精一杯握り締める。

 その瞳に宿るのは、小さくとも強い輝き、何よりも尊く、ともすれば吸い込まれてしまいそうな、黄金の灯火だ。

 それを確認して、少年は今度は作り物ではなく、本物の笑みを顔全体に浮かべた。

 そう、これだ、この輝きだ。この弱くて泣き虫で、情けない表情の緑谷出久がふとした拍子に浮かべる表情――守りたい何かを背にした時に、無意識に浮かべている輝き、自分は、ずっとこの輝きに――。

 

「君が、僕を救けてくれたから、僕は今ここにいるんだ、だから、忘れないよ、あの約束だけは、何があっても忘れない……!」

「……グレート、だったら心配いらねぇな」

「だから、だからじょーくんも、もう一つの約束忘れないでね」

「それこそ、マジにいらねぇ心配だぜ?俺が嘘ついたことがあったかよ」

「毎年てきとうなこと言って僕のお年玉とっていってたじゃない」

「……過去を振り返るのは虚しい行いだと思うぜ~~俺ぁよ」

「いつか絶対に返してもらうからね」

 

 藪を突いてしまったようだ、すっかり元気になった緑谷は、少年の深いため息に思わずと言った風に笑いを零した。

 これでいい、湿っぽいお別れなんてごめんだ。自分たちにはこの方があっている。なにより、約束を守るのならば、遠からず再会することは確実なのだから――。

 少年は、ふと頼み忘れていた大事を思い出した。これだけは言っておかねばなるまい。

 

「おい出久、忘れてたけど約束じゃなくて頼みごとの方も――」

 

 その言葉が最後に到達するよりも前に、少年の耳を何者かがつかんで引っ張り上げた。

 

「いでででででで!!何すんだよお袋!!」

「ほら、そろそろ行くわよ!車に乗った乗った!」

「口で言えば、十分に伝わるだろーがよ~~~~~、わざわざ息子痛めつけて何が楽しーんだよ……」

「ナマ言ってんじゃないの!今日中に行けるとこまで行く必要があるんだからね!ダメだったらあんたのせいよ」

「ったく、じゃあな出久、頼みごとも任せたぜ」

「う、うん!任せて、じょーくんと同じ髪型した人を見つけたら連絡するからね!」

「おうよ、これで後顧の憂いのねぇってやつだぜ」

 

 そう言って胸を張る少年の頭には、まるで軍艦をそのまま乗せたかのような、よく言えば古き良き、はっきり言えば完全に時代遅れなリーゼントが鎮座していた。

 当然小学生の中にこんな髪型をしている子供はいない。なんなら異形型の個性を持っている生徒よりも目立っている始末だ。

 

 こんな髪型の男がいれば一発で見つけられるだろう。緑谷は口には出さないがそう思う。

 

「にしても、引っ越しも急に決まったのに、別れも最後まで待ってくれねぇなんてちょっと器が小せぇんじゃねぇの~~?」

「仕方ないじゃない、お父さん、アンタのお爺ちゃんが具合悪くなったんだから、着いててあげたいのよ」

「気持ちは分かるけどよぉ~~~、大体どこだよ杜王町って……」

 

 ぶつくさと文句を言う少年の目に、塀に掛ったままの表札が目に入る。

 

「お袋、表札外しちまって良いんだよな?」

 

 ひらひらと手を振って返事に代える母親にムッとしながらも、少年は『東方』と書かれた表札を外して手に持った。

 先に運転席に乗り込んだ少年の母親は、緑谷の母親である緑谷引子と話していた。引子は目の端に涙を浮かべて別れを惜しんでいる。

 その涙脆さは息子に遺伝したのだろう、知っていたが。

 

「東方さん、本当にいろいろありがとうございました」

「止めてよ、私が一方的に助けたことなんてなかったでしょ、持ちつ持たれつでやってたじゃない」

 

 そう言って優しげな笑みを浮かべる母親を、少年は助手席から不思議そうに眺めていた。

 少年から見て、緑谷の母親と自分の母親は気が合うタイプには見えなかった、しかし蓋をあけてみれば母親が一番リラックスして話すのが、この人なのだから人間というのは分からない。

 

「……でも、出久があそこまで元気になれたのは、友達がいてくれたからだと思うから――」

「良いってば!こいつだってどうせ細かいこと考えずに過ごしてただけよ、ねぇ?」

「さぁな、いちいち覚えてねーよ」

 

 実際その通りなのだ。特別なことをした記憶なんてないのだから、威張る必要も誇る必要もない。

愛想のない反応を返す息子に、呆れた視線を向けながら、母親は最後に軽く引子に微笑みかけると車のキーを捻った。

使い古されたエンジンが、長距離を走れる喜びに震える。

ゆっくりと動き出した車は、周囲の景色を徐々に後ろに流していく。不意に窓の外から聞こえた音に、少年は窓を開けて身を乗り出した。

 

走っている、緑谷出久が走っている。

走りながら、叫んでいる。

 

「じょーくん!僕、僕約束守るから、絶対に守るから!」

 

 考えるよりも先に、少年は叫び返した。

 

「おう!疑ってこともねェよ!!」

「だから、だから絶対にまた会おうね、忠助(じょうすけ)ぇ!!」

「――ああ!ったりめぇよ、俺たちは無敵のコンビだからな!!」

 

 初めて自分を呼び捨てにしてきた幼馴染に、東方忠助は楽しげに声を張り上げた。端から心配などしていなかったが、これなら出久が約束を忘れる心配はなさそうだ。

 忠助が出久とした約束は二つある。

 

 一つは、緑谷出久がヒーローになることを諦めないこと――最高のヒーローになることを諦めないこと。

 

 もう一つは、東方忠助が最高のヒーローになった緑谷出久の相棒(サイドキック)になること

 

 そして忠助は出久と再会する場所をもう決めている。言葉にしたことは無いが、出久もまた分かってくれていると信じている。

 再会の場所は、雄英高校ヒーロー科、最高のヒーローを目指す緑谷出久ならば確実にそこに現れるはずなのだから――もしかするとサイドキックを目指す忠助がヒーロー科に行く意味などあるのだろうかと問われるかもしれない。

 しかしそう言われた場合忠助ははっきりとこう応えるつもりだ。

 

「最高のヒーローのサイドキックならよ~~~~、そのくらい出来て当たり前だからなぁ」

 

 この物語は、緑谷出久が最高のヒーローになるまでの物語だ。

 そして同時に、東方忠助が最高のヒーローのサイドキックになるまでの物語でもある。

 

                 To be continued

 




次回、雄英入試

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