初恋は叶わない   作:音槌和史

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 えっと……謎のタイトルで申し訳ない。
 まあ、中を見れば分かるということで、いってらっしゃ〜い


Season6 つかの間の平穏
part1 広樹は拳骨から逃げる


「かえりのあい、さつ」

『さよなら〜』

 妙な間の号令に、皆が合っていないあいさつを返す。

 康多の号令はなぜ、変なところで途切れるのだろうか……ってそんなことはどうでもよくて。

 今日も宿題やってから帰るかぁ。

 そう思って、いわゆるcampusの大学ノートと、地理の教科書を出す。

 小学生の頃から、自由に書く宿題は社会科が多かった。

 で、筆記用具を出し、書こうとしたその時

「あ、高城くん」

 担任の下山先生から呼ばれた。

 何かと思ったら……。

「今日から、用もないのに学校に残ってはいけないことになってね」

 なるほど……。きっと隣のクラスの副担任で学年主任のあの先生が言い出したのだろう、と勝手な憶測をする。

 しかし……。

「用はありますよ。勉強をする、という用事が」

「宿題は、昔で言う所の宿、つまり家でやるものです」

 あっさり切り捨てられた。

 仕方なしに家へ帰ろうとする。

 その間に先生は教室を出て行った。

 で、ようやくずっと黙っていた康多が口を開く。

「家は宿かぁ〜。金はらいたくねえな」

 そう言って笑う。

「まあ、康多の場合部屋に閉じこもってそうだから金もなにもないのかな」

「俺は引きこもりか!!」

「いえ〜す!!」

 軽く言ってみたら……。

「よし一発な、帰りの準備するから覚えとけよ」

「い〜やいや、いくら記憶力がなくても数分では忘れませんよ」

 覚えとけよ、と言われたら僕は必ずこう返す。

 で、

「よし、一発後回しにするの止めた」

 怒らせる。で、

「おわわわ〜」

 ダッシュで逃げる。

 いつも、階段降りた先で、どこにいくか迷うが、今回はもう決めてある。

 階段を降り、玄関へ向かう。

 康多は階段の折り返し一個分後ろにいる。上履きをはいたまま、運動靴を取り出し、体育館の影に隠れてから靴に履き替える。

 給水タンクらしきものがあるので生徒玄関の方からは見えない。

 しかし、自転車小屋の方に行ってから引き返して来ると完全にバレる。

 なので、先生の車の影を移動しながら、体育館の影から生徒玄関まで行く。

 で、靴を履き替え、教室に向かう。

 机の上に載せていたカバンを教壇の下に隠し、自分は黒板の影のカーテンに隠れる。

 康多もカバンを置きっぱなしだからいずれは教室に戻ってくるだろう。

 と思った矢先康多が戻ってきた。

 無表情で帰りの用意をし、教室を出て行こうとする。

 慌ててカーテンから出ていこうとした瞬間

「広樹、教室の鍵閉めよろしく」

 康多が言った。

 どうやらバレていたようだ。

 鍵閉めをするはめにはなったがどうにか康多の思い出すだけでも痛い拳骨は避けることができたかと思うと、とてもホッとした。


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