Fate / 「さぁ、プリズマ☆イリヤを始めよう」   作:必殺遊び人

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プリズマイリヤの方を早く見たいという方、申し訳ありませんm(__)m
今回は御都合を入れなんとか書き上げました!
少し長いと思いますがよろしくどうぞ!



8話目とかとか〜♪ stay night編 アーチャー

 

 

 

 

「士郎それはあまりにも危険すぎます。ギルガメッシュと戦うなど・・・・・・」

 

 そんなセイバーの言葉に、士郎は苦笑したように顔をそむける。

 まさに予想通りな言葉過ぎて逆に言葉を失いそうだった。

「大丈夫だ。俺本来ならともかく、衛宮士郎なら負けないさ。俺は物語をなぞるだけだ」

 根拠などない。

 それでも、この生き方を選ぶしか士郎にはできなかった。

「セイバーは俺を信じて聖杯を破壊してくれ、それ以外に道はない、何か一つでも道が違えばそれで世界は終わりだ」

 それでも、納得ができないのだろう。いいや、士郎のことが心配なだけかもしれない。なぜならセイバーは知っている。アーチャー――ギルガメッシュの力を。

「しかし、凛や他のサーヴァントの力を借りれば・・・・・・それに、それでは死ぬ人間が出てきてしまいます」

 確かに、士郎もその方法を考えなかったわけではない。

 イリヤの犠牲も入ってしまう。

 そもそも、特にキャスター《メディア》の力を借りれば、聖杯すらどうにかできるかもしれない。

 だが無理なのだ。

 今回の参加者では、それをすることができない。

「・・・・・・可能性は低いと思う。まず、マスター同士だが慎二とイリヤ、言峰とはどうあっても組めない。イリヤは俺と敵対してるし殺すことに躊躇がない、慎二は向こうがあれだし、言峰に関しては言わずもがな。なら、どうにかなるのは凛か、キャスターだがそれも難しい、凛の方はアーチャーがどうあっても俺を殺すために敵になるし、キャスターはそもそも俺と組むメリットがない。令呪を奪えばそれで済む話だ」

 

 もしかしたら良いやつかもしれない、助けてくれるかもしれない、そんな甘い考えでは失敗する。聖杯戦争とは、みんな何かしらの願いを持って参加している。

 もちろん原作通りにいけるかもわからない、しかし、それが”一番可能性”がある。

 そう言うと、今度こそセイバーは言葉を紡ぐ。

「わかりました、ですがこれだけはお願いします。・・・・・・死なないでください」

 セイバーは先程よりも重い空気でそう言った。

「死なないために今までいきてきたんだ。失敗なんか許さない。だから・・・・・・まかせろ」

 

 ――そして物語はイレギュラーを作りながらも進んでいく。

 

「佐々木小次郎、アサシンのサーヴァント」

(なるほど、士郎のいった通りのようですね)

「いやぁお見事、その首七度は落としたつもりだが・・・・・・未だついていようとは、西洋の棒振りにも術理があったのだな」

「・・・・・・聞いていた通りのようだ、私も本気で相手をしましょう」

「ほぉ、聞いていた、か・・・・・・気になるところだが、今はそのことに感謝しようか。さてセイバー、続きを始めようか」

 

 ――同時刻、柳洞寺。

 

「どぉ? 動けて、アーチャー? 悪いけどこれ以上あなたにかける時間はないの」

「戯け、避けろと言っている!」

 

「あなた、私の仲間にならない、私なら今のマスターより優れたものを用意できる」

「断る、君の陣営は戦力不足だ。仲間になるほどの理由はない。だが、この場にいあわせたのは私の独断でね、君を討つ理由はない」

「なんだって? なんで逃がす、街で起きてる事件はあいつの仕業なんだぞ!」

「キャスターにバーサーカーを討伐させるには、必要なことだ」

「ふざけるな! 勝つために関係ない周りの人間を犠牲になんてできない!」

「やはり貴様はそれを選ぶのか、少し”期待”していたのだがな」

 

 ――くしくも士郎は助けられる。

 

「邪魔をするか侍」

「貴様こそ、逃がすと言った私の邪魔をするきか」

 

 ――藤村大河は連れ去られ。

 

「宝具『破戒すべき全ての符』あらゆる契約を無効化する裏切りと不浄の剣」

「キャスターあなたセイバーを!」

「手始めに、そこの小娘を殺しなさい」

 

 ――セイバーは教会に・・・・・・。

 

「令呪の縛りに一晩中抗うなんてね」

「こっこれも私たちには必要なことなので・・・・・・」

「必要?」

 

 ――アーチャーは凛と敵対する。

 

「以前の話、受けることにするよキャスター」

「一度は断っておきながら、腰が軽いことね」

「なに、状況がかわった。セイバーがそちらにある以上、勝機はそちらにある」

 

 ――同時刻。イリヤとギルガメッシュの戦闘が幕を開ける。

 

「バーサーカーは誰にも負けない・・・・・・世界で一番強いんだから!」

 

 ――ランサーが仲間に加わり。

 

「よぉ、てめぇの相手はこの俺だ」

「数日と経たずに別のサーヴァントと契約したか。私もそうだが、君のそれもなかなかだ」

 

 ――来るべくしてそのときはやってきた。

 

 セイバーを助けた士郎は、アーチャーに凛を連れ去られた。

 これも予定通り、しかしすで衛宮士郎として行動している少年にそんな打算はない。ただ凛を助けたい、今の士郎にあるのはそれだけだ。

 その感情はもはや演技ではなく、侵食と言っていいものだ。

 それを見て、セイバーは悲しい表情を浮かべている。

(士郎、あなたは本当にそれで良いのですか?)

 セイバーと士郎は、凛の助けに加わったランサーとともに、アーチャーの待つ城へとやってきた。

 ランサーは凛の救出に向かい、士郎とアーチャーは向かい合う。

「私の真名はすでに知っているのだろう?」

「・・・・・・ああ、遠坂の家にあったあのペンダント、あれは本来一つしかない」

「そう、あれは凛によって命を助けられた衛宮士郎が、生涯持ち続けるものだ」

「ならばやはりお前の真名は・・・・・・衛宮士郎そういうことだろ」

 そこでセイバーは声をあげた。

「ならばなぜ・・・・・・あなたは理想を叶え『正義の味方』になれたのではないですか。士郎を殺す理由はないはずだ」

 セイバーは士郎からすでに聞いているが、それでも聞かずにはいられなかった。

「・・・・・・理想を叶えたか・・・・・・たしかに俺は理想通り『正義の味方』とやらになったさ、だがその果てに得たものは後悔だけだった。」

 その後も、アーチャーの後悔の念はかたられた。

「何度も、何度も、何度も、何度も戦った。だが終わることはなかった。俺はただ、自分の知りうる世界では、誰にも涙してほしくなかっただけなのにな。そこでようやく悟ったよ、衛宮士郎と言う者が抱いていたのは、都合のいい理想論だったのだと・・・・・・」

「・・・・・・全ての人間を救うことはできない。全体を救うために、少量の人間を見殺しにするしかない。セイバー、君にも覚えがあるだろ。・・・・・・守護者と言うものが自動的な装置であることは知っていた。人類史を守る道具になるのだと、それでも誰かを・・・・・・窮地にある誰かを救えるのならそれでいいとそう思っていた。だが実際はちがう! 守護者は人など救わない、霊長の世に害を与える人々を、善悪何の区別なく処理する殺戮者。馬鹿げた話だ・・・・・・私は、私が救いたかったものをこそを、この手で削ぎ落としてきたのだからな」

 アーチャーは士郎に一振りの剣を投げる。

「自害しろ衛宮士郎、貴様のような男は今ここで死ぬべきだ。・・・・・・どうした? 自分の未来を知ってなにを何を悩む」

 士郎は動かない、こうなることはしっていた、そしてセイバーも。

「アーチャー、あなたは間違っている。今の士郎を殺したとしても、英霊となったあなたは消えない。英霊とは、すでに時間の輪から外れているのです」

 アーチャーはそれでも揺るがない。

 だが――。

「そうだな、だが可能性のない話ではない。すくなくとも潰えるものが肉体だけでなく、精神を含めるのなら、この世界に『正義の味方』などという間違いは現れまい」

 全ては筋書き通り。

 アーチャーが裏切ることも。衛宮士郎を殺そうとすることも。

 

 何もかも、うまく行っていたはずだった。

 

「――と、ここまでは、筋書き通りか、衛宮士郎? ・・・・・・いや、衛宮士郎を演じるものといったほうが良いかな?」

 そこで初めて士郎は動揺を見せた。もちろんセイバーもだ。

 

 ――気づかれていた!? しかしなぜ?

 

 その可能性を考えなかったわけじゃない。ギルガメッシュならありえると思っていたし、アーチャーなら違和感ぐらい見つけるだろうとも。

 だが、アーチャーはピンポイントで自分の事を言い当てた

 士郎は驚いた表情をアーチャーに向ける。

「何をそんなに驚いている。バレないとでも思っていたのか? ・・・・・・と言っても、私が気づけたのも偶然なのだがな」

「偶然、だと・・・・・・」

 士郎は衛宮士郎の演技すら忘れて問いかける。

「そう、偶然だ。たまたま見ていたのさ、君とセイバーの会話を。私は目に自信があってな。凛と貴様が協定を結んだ時、違和感を感じて様子を見ていれば案の定・・・・・・いや、それ以上のものが出てきたものだ」

 士郎は自分の甘さを呪った。一時の感情、それに流された結果がこれだ。後悔をするつもりはない、ただ自分の警戒の甘さに腹が立っただけだ。

 最初の一手で打ち間違えていた。ならばその勝負はすでに負けている。

 そこでセイバーが声を上げる。

「だ・・・・・・だったらなぜ今の士郎を殺そうとするのですか? 士郎を殺してもあなたに利はない!!」

「利ならあるさ。さっきも言っただろう、この世界に『正義の味方』を作らないと・・・・・・まぁいい、どちらにしろ衛宮士郎はここで死ぬ」

 話など意味はないそういうようにアーチャーはこちらへと歩いてくる。

 有無を言わさないアーチャーの姿に、セイバーは士郎の前に出て剣を構える。

 そんなセイバーの肩をひき、士郎はセイバーの前へ出る。

「ここは俺がやる。ここで戦わなければこの先が崩れる。・・・・・・大丈夫、俺がアーチャーに勝てばいいだけだ」

 最初の一手で間違えたのならばそのあとの手でその失敗を無効にする。今の士郎にできることはそれだけだ。

「しかし士郎、もうそんなことを言っている場合では・・・・・・」

 セイバーの言うとおりだろう、ここで今戦う必要はない。セイバーと逃げ、この先のことは他の方法を考えたほうが得策だ。

 それでも士郎は引くことはしない。

 二人は目を合わせ、そして武器を構える。

 

「『投影_』」 

 

 重ねるように――。

「『開始』」

 

 士郎も構える。

 同時に。合図があったわけではない。それでも二人は示し合わせたかのように、剣を合わせた。

 

 黒と白、四つの剣が衝突する。

 

 状況だけを見るならば、士郎は、何とかアーチャーと渡り合えていると言えるだろう。未来を知っていたが故、この時のために剣を磨いてきたことが幸いしたのだ。

 だが、その程度では本来勝負にすらならない。『干将・莫耶』の投影による憑依経験、アーチャーと打ち合うたびに得られる、前世の自分の交霊による技術の習得。

 それをして、士郎はやっとここまで来れる。

 

「――ッ!!」

 士郎の額を剣が斬る。

 

(どんどん速度が上がってやがる・・・・・・!! このままじゃ――っ!) 

 それでも、せいぜい打ち合えるだけ。

 剣を弾かれ、壊される。

 投影技術も、剣の技量も、単純な力や速さに至るまで、士郎はアーチャーには及ばない。

 その戦いを見ているセイバーからすれば一方的以外の何物でもない。

 それでも、アーチャーの攻撃に耐えれなくなっても体をひねり、『干将・莫耶』を攻撃と体の間に挟むことで戦いを続けている。

 そんな中、

(しまっ・・・・・・!?)

 自覚してしまうほどの隙。

 ギリギリで戦っていた。にもかかわらず、そんな隙を作ってしまえば・・・・・・。

「ぐ・・・・・・ぶぅッ・・・・・!??」

 骨がきしむ音がする。肺から空気が抜けるのがわかる。

 おそらく、アーチャーからしたら普通の蹴り。それでも、士郎の体は数十メートル吹き飛ばされた。

 これが英霊との戦い。

 そのすべてが、人間などと言うちっぽけなものとはかけ離れている。

 腹を抑え苦しむ士郎に、アーチャーは追撃せずに剣を下した。

「なるほどな、しぶといわけだ。前世の自分を降霊、そうすることで技術の向上を可能にするとはな」

「・・・・・・はは。それでもこれがやっとだ・・・・・・。アーチャー、一つ教えてくれ。衛宮士郎でない俺を、まがい物である俺を殺す理由はなんだ?」

 それだけがわからない。士郎は最初、衛宮士郎のトレースによる精神の影響で、アーチャーの言葉を素直にうけとったが、冷静になった今だからこそ思う。

 なぜ、『正義の味方』を作らないことが、今の士郎を殺すのとイコールになるのか・・・・・・。

「俺は衛宮士郎とは違う。俺は自分のために、生きるために戦っている。『正義の味方』になることはない。お前と俺は違うんだ」

「・・・・・・貴様は、自分のことが何もわかってないようだな。生きるために衛宮士郎を参考にする。それだけなら問題はない。しかし貴様は衛宮士郎の模倣をとった。たとえその道に自分の死があろうとも、他人の死があろうともだ。わかってないなら私が教えよう・・・・・・貴様のそれは、狂っている」

 予想外のその言葉に、士郎の呼吸が止まる。

 聞きたくない。聞いてはいけない。そんな士郎の心の内を笑うように、アーチャーは続ける。

  

「――普通の人間なら、助かると知っていても自分の死など回避するにきまっている」

(まて・・・・・・その先を言うな)

「だが貴様は違う。死すらも必要のためだと許容する。貴様は生きる為に、自分のためにこれから先も衛宮士郎を演じ続ける。なぜならそれしか生き方を知らないからだ、『正義の味方』など夢見なくても、その道を貴様は辿るだろう。ならば私のすることは変わらない、貴様を殺し、ここで『正義の味方』を終わらせる」

 

 その事実は、士郎にとっては認められないものだ。

 今まで知らないふりをしてきた。隠してきたと言ってもいい。

 

「お前に何がわかる・・・・・・・・・・・・お前に俺の何がわかるってんだ!!」

 

 感情が抑えられるわけがなかった。

 自身の弱さを提示されて、今までのことを否定されて。黙ってることなんてできなかった。

「いきなりこんな世界に飛ばされて、その未来は地獄しかなくて、でもそれ以外に道はなくて、命がいくつあっても足りないようなことに巻きこまれて、最後には俺のやり方は狂ってる? 間違っている? 俺だってわかってんだよそんなこと! それでも生きたかったんだよ、死にたくないんだよ!! 魔術? 聖杯? サーヴァント? 俺がいた世界にそんなのねぇんだよ! いきなりありえない現実突きつけられて、俺が世界なんか救えるわけねぇだろ!・・・・・・お前は『正義の味方』なんだろ? なら俺の代わりに戦えよ・・・・・・! 世界なんて片手間で救ってみろよ!!!」

 今まで飲み込んできた自分の感情が泥のよう溢れ出す。

 

 ――ふざけるなよ。俺は間違ってなんかいない。 

 

「・・・・・・できないならここで倒れろ『正義の味方』。過去に後悔を抱えてるなら、抱えたまま溺死しろ。同情なんてしない・・・・・・お前の地獄は俺より上か、今ここで見せてみろ」

 アーチャーは何も言わない。

 

「それでも俺は――『衛宮士郎』だ」

 

「・・・・・・そうか、ならば見せてやる。俺の行き着いた世界を、俺が見た地獄を」

 その言葉を聞いて士郎は微かに笑みを浮かべている。それこそ士郎の見たかったものなのだ。

「――I am the bone of my sword」

(さぁ見せろ俺にお前の世界を)

「――Unknown to Death」

(負けるわけには行かないんだ、失敗なんて起こしてたまるか)

「――Nor known to Life」

(俺のためにここで倒れろ)

「――Unlimited blade works!!」

 

 瞬間。世界が変わる。

 その世界は空が紅く、先の見えない丘には無数の剣が刺さり。大地の奥には巨大なは歯車が浮遊していた。この剣が数がアーチャーの生きた時間だとでもいうように。

 

「な、んだ・・・・・・これ、は・・・・・・」

 

 それは士郎の声だった。

 知っていた。衛宮士郎はこの光景を知っていたはずだ。

 

「どうした? 貴様はこの光景を知っていたのだろう? かかってこい、お前の生き方が正しいか今ここで見せてみろ」

 士郎は動かない――否、動けない。言葉を紡ぐことさえできない。

 流れ込んでくる”まだ知らない知識”を見て。

 無限の剣を解析し、自身の固有結界に登録するたびに、アーチャーの・・・・・・未来の自分の後悔すべて、士郎にのしかかる。 

「うっ、うわぁぁぁぁぁぁあああああああああああ!」

 それは否定の叫びだったのかもしれない。

 アーチャーの言葉が正しかったと、その証明たるこの現状それの否定。その叫び。

「どうだね、衛宮士郎の皮を剥がされ、自分の心で戦ってみた感想は。今の貴様がこれから先、衛宮士郎なしで生きていけるか?」

 士郎はそれでも剣を振るう。そこに先程のような勢いはない。

 その剣は呆気なく弾かれ、アーチャー剣は士郎の腹を貫く。

「ぐふっ・・・・・・がはぁッ・・・・・・!??」

 自分から流れる血と、その痛みに頭が狂いそうになる。

「感づいてはいたようだが知らなかったと見える。いや、この状況にならないようにしていたのか。『お前の地獄は俺より上か』だったか? 笑わせるな、貴様は自分の地獄すら直視できない臆病者だ!!」

 士郎は苦痛に顔を歪めている。体の痛みにも、心の痛みにもだ。

「俺の何がわかるかだと? わかりたくもない! 貴様のやってきたことは私以上に愚かな行為だ」

 アーチャーの剣は士郎の足を刺し、肩を刺し、その体からは大量の血があふれ出る。

 いたぶるように。それが罰だとでも言うように。

「だが貴様はそれをやめられない。貴様は私と同じようになる、いずれ失敗の道をたどる。ならばここで殺すしか道がない、そう思わないか?」

 アーチャーは、その言葉が最後だとでも言うように剣を振り抜いた。

 ドスン、と。力尽きるように士郎は倒れる。

 視界が確保できなかった。血が流れすぎたのか、手足の感覚すら失って行くようだ。

 

 それなのに、頭だけが無駄に回る。

(俺は・・・・・・今まで何のために戦ってきたんだ? 間違ってると知りながら、こんなつらい思いをしてまで・・・・・・何のために。もう良いじゃないか、俺はやつの言うとおり失敗する。なら今ここで失敗しても結果は変わらないさ) 

 

 士郎は目を閉じようとした。しかし、その前に士郎はそれを見た。

 

 ――おい、なんだよその顔。

 

 視界の端にセイバーのこちらを真っ直ぐに見つめるその顔が。 真っ直ぐなまでに純粋で、何も疑っていないその顔を。

 

 セイバーは信じていた士郎は立ち上がると、まだ負けていないと。

 確かに士郎の生き方は間違っていたのかもしれない。それでもセイバーの心を救ったあの言葉は演技なんかじゃなかったと、共に戦うと言ったその言葉に、嘘はなかったと。

 

 ――そんな顔をされたら。俺はお前を裏切るわけにはいかなくなるだろ。 

 

(ああ、なにを勘違いしてたんだ・・・・・・。確かに最初は生きるためだった。でもセイバーとのあの夜からは違ったはずだ。俺はあいつと一緒に戦うと決めたんだろ、なら迷う必要なんてなかったじゃないか)

 起き上がる士郎の傷口から光が溢れだし、体の傷がふさがっていく。

 士郎にはセイバーとのつながりがあった。聖遺物のセイバーの鞘、それは令呪との繋がりが消えてもなくなることはない。

「何だ・・・・・・!? ――ッ!! そうか、彼女の鞘! 契約が切れてもその守護は続いているということか・・・・・・!」

 士郎は静かにその言葉を口にする。

 

「『体は――剣でできている』」 

 

 アーチャーは士郎へ『干将・莫邪』投擲する。

 トドメを指すためではなかった。まるで何かを焦ってるような。いいや、何かを確認するような(・・・・・・・・・・)

 

「ここで、終わるわけにはいかない・・・・・・」

 

 士郎に攻撃は届かない。士郎の手にはすでに二つの剣が握られている。

「俺は・・・・・・負ける訳にはいかない。過去を否定したりなんかしない。セイバーとの会話を、あの決断をなかったことには決してしない。・・・・・・お前はなぜ自分を否定する? 美しいと思わなかったのか、その生き方が・・・・・・きれいだと思わなかったのか、その姿勢が・・・・・・後悔しかなかったのか、その思いは・・・・・・」

 士郎は本来ーアーチャーが救われたであろう衛宮士郎の言葉を口にした。

 

「貴様の言葉は響かんよ、なんせ心がこもってないからな。貴様は自分のためにいきているのだろう、だがその結果私になる、私に追いついてしまう、その結果だけは変わらない。ならばここで死ね! 衛宮士郎!」

「・・・・・・ッ、心がないか、確かにな・・・・・・この生き方は楽だ。心を消し、自分のためと言いながら誰かの道をたどる人生。それが間違いの道であるというのなら、未来の自分が殺しにくるのは当然だ」

 だが今の士郎はそんなことでは崩れない、自分が今なんのために戦っているか知ることができたのだから。

「――けどな、それでも俺は生きたいんだよ! 今だけでいい、自分が好きになった人のそばにいたい!! それが戦争だろうがなんだろうが関係ない、俺はセイバーを愛している。一緒に戦うと決めたんだ。だから俺は死ねない。ガキのわがままで構わない!!! 続けるぞ・・・・・・衛宮士郎だろうが、『正義の味方』だろうが演じてやる!」

 そんな自分勝手な言い分に、アーチャーは静かに笑みを浮かべている。

「そうか・・・・・・ならば来い!! 貴様の(こたえ)を見せてみろ!」

 今までの戦いとは明らかに違う、誰かの演技をしている目でも、何かに畏怖している目でもない。ただ勝ちたい、それだけを思っている目だ。

(見つけたか、衛宮士郎。貴様の求めていた生き方を・・・・・・)

 勝つために今ある全てを、それでも足りないならアーチャーから奪ってでも勝ちに来ている。

(セイバーを救ったおまえは私にとってまさしく『正義の味方』だった)

 黒と白、二人の剣の軌跡が、美しくも激しく混じり合う。

 アーチャーが手を抜いているわけではない、それでも押しきれないのだ。

 魔術師からの供給がないとはいえサーヴァント、死にたいである人間と互角だなんてありえない。

 しかし、アーチャーのその顔に焦りや、屈辱などの表情はない。

 アーチャーはこの状況を待っていた。いや、願っていたと言うべきか・・・・・・。

 

 ――アーチャーは、士郎がセイバーを自身の後悔から救っているのを見ていたのだ。 

 

(もし、貴様がほんとうに衛宮士郎を演じているだけならば、セイバーを利用するだけ出終わったはずだ)

 

 ――その光景は自分が目指していた場所であり、なりたかったものそのものだ。違う世界から来たことなど、"その程度のこと"などどうでも良くなるほどの衝撃。

 

 世界が無かもしれなかった。未来が変わるかもしれなかった。つまるところ、衛宮士郎というひとりの少年は、『世界より一人の少女を選んだ』のだ。 

 

 ――だからこそ、その後の士郎の行動には失望を隠せなかった。

 

 ――士郎の中にあるものは、こんなところで失なって良いものではないと。士郎を・・・・・・先程までの生き方から救うために。

 

 そしてアーチャーは賭けに勝った。アーチャーはすでに救われている。まだ士郎は完璧ではない、だが土台はできた、それだけで十分だ。

(だが、手を抜く気はない。私を超えなければ、いずれ何処かで立ち止まる。だからこそここで終わらせるわけには行かない)

 士郎はアーチャーの剣に弾かれる。それでも目をそらすことはしない。自分が超えるべき相手をしっかりと見つめている。

 

「まだ終わってはいないぞ。衛宮士郎」

 

 アーチャの背後に無数の剣が投影される。そあのの剣は矢のように、士郎へと注がれる。

 士郎は自身の剣で降り注ぐ剣を弾いていくが、耐えきれなくなりはじかれる。手にしていた剣はボロボロ、魔力もなくなり新しい投影はできない。それでも士郎は立ち上がる。

「魔力が先に尽きてしまったか・・・・・・それでも貴様はまだ諦めないのかね」

 アーチャーの最後になるだろう問答、ここまで来ても士郎を試すその姿勢は、最後までアーチャーらしいと言えるだろう。

「俺はまだ自分のことなんてわからない、でも今までの生活が間違っていたなんて思わない。これから先が間違いというのなら、今ここで俺は変わる。そのためには今お前に勝つしかない、それが俺にチャンスをくれたお前への恩返しだ」

 士郎もここまでされれば流石に気づく。だからこそここで終わりだなんて許さない。最後まで戦って、ちゃんと勝ちたいし、ちゃんと負けたいのだ。

「さぁ、俺はまだ負けてないぞ。俺達の戦いはまだ終ってない!」

 士郎はアーチャーへ走り出す。傷だらけの体、今にも壊れそうな剣、そんなもの関係ないとばかりに士郎は足を踏み出していく。

「そのとおりだ。だが、私の剣製はまだ全力ではない」

 先程の倍、それ以上の剣が士郎へと放たれる。

 その中には名が無くとも聖剣ががあった。魔剣があった。名をはせた剣の原典があった。

 それでも士郎はたどり着いた。

 士郎は剣を前に突き出し、アーチャーは剣を振り下ろそうとしている。

 その光景は光に包まれ、その場所はもとの屋敷へと戻っていた。

 その場にいたのは、剣を突き刺している士郎とそれを受けているアーチャー。

 

「俺の勝ちだ、アーチャー」

「ああ、そして私の敗北だ」

 

 そして士郎とアーチャーの対決は終わりを迎え、ランサーが助けたであろう凛が合流した。

 

 

 だが、聖杯戦争はまだ終わってない。英雄王ギルガメッシュ。彼が現れることで物語りは最後の章へと進んでいく。

 

 アーチャーはギルガメッシュの攻撃を受ける前、士郎につぶやく。

「お前が倒せ」

 アーチャーの言葉に士郎ははっきりと答えた。

「まかせろ」

 

 ――ギルガメッシュは去り、再び相まみえる。

 

「正気か貴様、セイバーを使わず自分を捨て石に使うなど・・・・・・戯けめ、自らを犠牲にする行為など偽りに過ぎぬ。それを未だに悟れぬとは・・・・・・ならばここで朽ち果てるが良い、”人形”」

「”人形”か・・・・・・さすがは英雄王、的を射ている、だがその答えは落第点だ。俺は自分を捨て石にしようなんて考えていない。なんだろうな――気がしないな・・・・・・」

「――?」

 士郎はアーチャーとの誓いを思い出す。

「負ける気がしないって言ってだよ」

「なんだと?」

「知っていたか英雄王、俺の剣製は剣を作ることじゃない・・・・・・『体は剣でできている』」

 

 ――そして戦いは始まり、士郎の剣がギルガメッシュに届く。

 

「魔力切れとはくだらん末路だ。お前の勝ちだ、満足して死ね」

 だが士郎は知っている聖杯がギルガメッシュを取り込もうとする事実を、

「・・・・・・っ! なにっ、この俺を取り込んだところで・・・・・・」

 ギルガメッシュの鎖が士郎をつかむことを、

「死ぬ気など毛頭ないわ! 踏みとどまれ下郎! 我がその場に戻るまでな!」

「悪いな英雄王、”俺達は”一人で戦ってるわけじゃないんだ」

 そう、アーチャーはまだ消えたわけじゃないことを。

 士郎は少し右に避けると、そこから一つの剣が通過した。

「貴様っ、アー・・・・・・チャー・・・・・・」

 

 

 

 ギルガメッシュに勝利したあと、士郎は最後の力を振り絞り聖杯のもとへと向かっている、聖杯はまだ破壊されていない。つまり、まだセイバーはそこにいる。

 士郎がたどり着いたその時、ちょうどセイバーが聖杯を破壊したところだった。

「セイバーやったんだな」

 セイバーは振り返り士郎を見る。

「はい、これで私達の戦いは終わりです」

 セイバーは力を使い切り、少しずつ体が消えていっている。

「セイバー、俺はお前ともっと一緒に・・・・・・「わかっています」えっ」

 士郎の言葉を遮るようにセイバーは言った。

「あんな大声で告白をされたのです、士郎が言いたいことぐらいわかります。ですからまず私に言わせてください。――――士郎、『私もあなたを愛しています』あなたと離れたくない、心からそう思います」

 その時の士郎の顔は、驚き、嬉しさ、悲しみ、全てが入り交じったようなそんな表情をしている。

 士郎とセイバーに近づき、優しく抱きしめた。

 セイバーの体はすでに半分以上消えている。

「士郎、これが最後になります。ですから最後に名前で読んで下さい、アルトリアと・・・・・・」

 士郎は包容を解くと優しく、そして愛おしいように囁いた。

「好きだ、アルトリア」

「はい、私もです」

 二人は何も言わず近づきお互いの唇を合わせた。それは一瞬かそれとも・・・・・・。

 士郎が気づいたときにはすでにアルトリアは消えていた。

 

 

 

 これで全てが終わった。そう思った士郎は突然意識がなくなり、目が覚めるとそこは第四次聖杯戦争時にできた、地獄の中だった・・・・・・。

 

 

 

 

 




過去編終了です!
少し疲れたのでほんの少しの次の投稿遅くなるかもです


おまけ

次いでに書きました! もちろん手抜きです! ごめんなさい疲れました・・・・・・

「アーチャー!」
 後ろを振り向くとそこにはボロボロになった凛がいた。
「なんともまぁ、お互いボロボロになったものだ」
 私は自虐的な笑みを浮かべ、目の前にいる凛に答える。
「アーチャー、もう一度私と契約して」
 凛はすがるように私に言う。だがそれはできなかった、私にはすでにそのような資格はない。
「凛、君には感謝している。私を召喚してくれたことを・・・・・・おかげで私は救われた」
 未来の危険など関係なく、目の前にいる少女を救った正義の味方、私は私の理想を見ることが出来た。
 衛宮士郎は演技をやめ、イレギュラーと分かっていてもセイバーを救った。それで未来のが最悪な方に変わる可能性があろうともだ。
「あなたは・・・・・・本当に救われたのね」
 私の言葉を確認するように凛が言う。
 私はそれに昔の自分のような笑顔を浮かべた。
「大丈夫だよ。"遠坂"俺もこれから頑張って行くから」
 それだけ言うと俺は消えた。座に戻る。
 これで、本当に聖杯戦争は終結した。





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