Fate / 「さぁ、プリズマ☆イリヤを始めよう」 作:必殺遊び人
今回はストーリーの補強です。
イリヤと美遊の絡みは難しいです
勢いで書いてたら変な方向に行ってしまいましたがこの展開はこの展開で自分は好きです!
それではどうぞ!!
自身にかかってある布団が心地よい。悩むまでもなく、自身のいる場所はベットの上だと判断する。
顔に朝の光がカーテンの隙間から差し込んでくる。うっとおしいことこの上ない。
朝が弱いイリヤは、このひと時だけは好きになれない。
いつもならば、このうっとおしい朝を帳消しにして余りある士郎の登場が・・・・・・。
「――ッ!? そうだっ・・・・・・! お兄ちゃんは!?」
慌ててベットから飛び起きる。しかし、うまく体が動かない。足が生まれたての小鹿のようプルプル震えている。
自分の体が自分ではないようだ。――? それを疑問に思うよりも早くイリヤは倒れてしまう。
その時。ちょうど。絶妙なタイミングで、一番この状況を見られたくない人間が部屋へと入ってきた。
「イリヤさんそろそろ起きないと・・・・・・って!! どうしたのですか!?」
イリヤを抱えて体をまさぐるように体調を確認すると「体温計を持ってくるので!」と、慌てるように部屋を飛び出していった。
その対応の速さはさすがアインツベルン家の家政婦と言ったところだろう。まぁ、大袈裟にしすぎるのがたまに傷・・・・・・と言うかイリヤにとっては現在進行形で致命傷だ。
ドタバタ、と音が似合いすぎる行動で戻ってきたセラは、そのままイリヤの体温を測る。
「今日の学校はお休みですね」
(だよねー)
確かに熱はある。
でも、休むのはやりすぎだと、イリヤは抗議の声を上げるがセラは取り合わない。
「こんぐらい大丈夫だってば・・・・・・セラ過保護すぎー」
こうなったセラの意見を変えるのは不可能だ。
良くも悪くも頑固だよね、とイリヤは思いつつも口には出さない。なぜなら、たびたび士郎が口に出し、壁に顔がめり込んでいる現場を目撃しているからだ。
イリヤスフィールと言う少女は、意外と要領がいい少女なのである。
ひとまず、今の状況を理解したイリヤは、お兄ちゃんは? と、先ほどから気になっていた士郎のことを尋ねる。
「士郎でしたらもう学校へ行きましたよ? イリヤさんを休ませろと言っていたのですがまさかこの事だったとは」
と、どうやら無事のようだ。
話しを聞いて安心すると同時に、自分のことを心配してくれていたことに赤い顔がさらに赤くなる。
(でもあそこからどうやって・・・・・・? ううん、分かってる、美遊さんしかいない)
イリヤに昨日の記憶はない。
正確には英霊化の記憶がないのだが、「美遊が助けてくれた」と結論づけるのにそう時間はかからなかった。
それほどまでに、さらに言うと嫉妬してしまうほどに、昨晩の二人の信頼関係はすごかったのだ。
妬む。と言うよりは喪失感の方が強い。
(それでも・・・・・・)
今度お礼を言おう。そう考えると同時に、やはり、自分の無力さを眠る身体で感じるのだった。
時間は夕方、美遊は手に取った花瓶を持ち上げると、その下をきれいに拭いていく。いかにも高そうな花瓶で、そこらの人間なら怖くて近づくことすらできないのだが、美遊には慣れた仕事だ。伊達に今までルヴィアの家でメイドの仕事をこなしていない。
今日一日、屋敷の内の掃除を意渡されたのだ。
昨晩士郎たちを逃がしたお仕置きと言うより、昨晩の疲労を考えての事だろう。学校に行くより、何かあった時にすぐに対応できる屋敷にいたほうが良いだろうと考えたのかもしれない。
その優しさが、今の美遊に嬉しかった。
仕事も少なくなってくるころ。
美遊は、イリヤのことを考えていた。
昨日のことを。昨日の戦闘の事を。
(昨日の力、イリヤスフィールはカードの使い方を知っていた? それとも別の理由が・・・・・・)
いろいろ考察を立てるが・・・・・・でも、と。
おそらく後者だと。
士郎の言い方から予想を立てる。
士郎は、まだ知るべきではないといった。それがどういった意味なのか美遊にはわからない。しかし、士郎が言ったならば、美遊はあくまでそれに従おうと思った。
ルヴィアに言いつけられた仕事を終え、少し休憩しようと考えた美遊に。
突然。
サファイアから聞きおぼえのある声が聞こえてきた。
『サファイアちゃーんこちらルビーこちらルビー応答願いまーす!』
もしかしなくてもイリヤが持ってるステッキの声で、その後ろからは『えっえっまだ心の準備が・・・・・・』などという声も聞こえてくる。
「サファイアこの声は?」
その問いかけに答えるようにサファイアからイリヤの声が聞こえて来る。
『あっあの美遊さん、とりあえずこんにちはかな・・・・・・あはは』
サファイアに通信機能だと説明をうけ、なぜ急に? と、イリヤへと質問する。
「それよりもどうかしたの、イリヤスフィール?」
昨日あのようなことがあったばかりだ。
美遊は、カード関係で何か問題があったのでは? と少し気を引き締める。
しかし、そこで返ってきたのは、
『いや少し美遊さんとお話したくて、今なにしてるかなーとか・・・・・・思ったり?』
「・・・・・・・・・・・・そう」
なんともまぁ、拍子抜けする答えだった。
「そ、そういえば美遊さん今日学校は?」
美遊の反応に慌てたのか、イリヤは分かりやすいぐらいに質問を変える。
「今日は休むように言われたの、ルヴィアさんに休養を言い渡されて」
『そ、そうなんだー・・・・・・』
「・・・・・・・・・・・・」
『・・・・・・・・・・・・』
会話が続かない。
気まずい空気が流れる。
そこへしびれを切らしたのか、今度はルビーが声を上げた。
『もーもどかしいですねー! 初デートのカップルの会話ですか! これじゃ埒が明きません、テレビ通信に変えましょう!』
急にテレビ切り替わると言われて焦ったのは美遊だ。今はメイド服。一度は見られているが何度も見られたいものではない。と言うか普通に恥ずかしい。
「待ってっ!?」という美遊の声を無視するように、目の前の空間にイリヤが映し出されていた。
イリヤが見えるということは自分も見られている、そう判断した美遊は恥ずかしそうに体を手で隠す。
イリヤはそんな美遊をまじまじと見ると、何かひらめいたかのように口を開いた。
『美遊さん今から私の家に来ない? ていうか来て! 今すぐに!!』
興奮したように言うイリヤに、若干恐怖を感じる。
「それはいいけど、着替えていくから少し時間かかるかもしれない」
なぜそうなる!? とでも言うように首ををぶんぶん振るイリヤ。
『違うの!! そのそのままの服で、そのメイド服で来てほしいの!』
なんでそうなる? と美遊が思ったのはごくごく自然な思考だろう。
「それは恥ずかしいから・・・・・・無理」
恥ずかしそうに、だががきっぱり否定する美遊に、
『大丈夫! 今私熱が出てベットにいるから、メイドが看病にくるのは普通だから』
「・・・・・・・・・・・・」
なにも大丈夫ではないイリヤの理論に、流石の美遊も黙ってしまう。
『お兄ちゃんも喜ぶから!』
「・・・・・・・・・・・・わかった、少し待ってて」
士郎のことを出された美遊が、思考を放棄するのにそこまでの時間はかからなかった。 イリヤの、『計画通り』と言わんばかりにほくそ笑む顔を見ても、それを気にしない程度には、である。
美遊がイリヤの家に到着するのはそれから三十秒後の事であった。
美遊との通信を終え待つこと・・・・・・とい言うかミジンコほどにも待つと言えるほど時間はかかってないのだが。
家のチャイム音の音がする。
士郎を餌に使ってしまったことは反省している・・・・・・が、後悔はしていない。
熱を引いていてよかったと思う。
おそらくどころか確実に、先ほどの事を熱のせいにしようとしているようだ。
玄関が開く音がし、階段をのぼる足音がする。部屋の扉が開いたところでイリヤは動き出し、完全に扉が締まったところで美遊へと抱きついた。
美遊は「きゃっ」と可愛い声を聴きながら、そのまま床へと倒れ込む。
否、押し倒す。
イリヤの興奮しながら身体を触る変態行為のそれに、美遊は訳が分からず涙目を浮かべようだが・・・・・・。
何故だろうか。それを止めることができない。
完全に思考が飛び、後々後悔するのは確定したのだが、未だに理性を取り戻す様子はない。
そして、そのR15確実なその空間は、セラが飲み物を持ってくるまで続いたのだった。
「ごっごゆっくりどうぞ・・・・・・」
戸惑いながら部屋を出ていくセラの姿をしり目に、折りたたみ式のテーブルを挟んで座る、イリヤと美遊の姿があった。
セラが部屋に入ってからイリヤは一言も口に出していない。
どうやら黒歴史どころか真っ白に戻したい出来事なのだろう。
「さっきはごめんなさいでした!! あれは勢いというか、爆発したといいますか・・・・・・」
目にもとまらぬ速さで土下座するイリヤに、「大丈夫だから・・・・・・」と恥ずかしそうに美遊は答える。
「そ、それよりも熱があるって聞いたけど大丈夫なの?」
話を変えようとする美遊に、イリヤはのるしかない。
「うん、大した事はなかったから。お昼には治ってたから暇してたんだ」
「・・・・・・・・・・・・そう、よかった」
会話が途切れる。
「そ、そういえば昨日お兄ちゃんを助けてくれたの美遊さんだったんでしょ? ありがとう!」
「えっ・・・・・・?」
イリヤの発言に驚きの声をあげる。
事実はイリヤが倒し、美遊が傍観していたのだが、記憶を違えているのには何かしらの理由があると判断し、美遊は追求するのをやめた。
「それなら、イリヤスフィールも私の事守ってくれてありがとう」
照れたように言う美遊にイリヤも照れて下を向く。
「んー、そのイリヤスフィールって言うの長くないかな? イリヤでいいよ。友達もみんなそう呼ぶし、フルネームって少し照れるかなーなんて・・・・・・」
そう言って自嘲気味に笑うイリヤ。
そんなイリヤを前に目を見開いて固まる。
「・・・・・・とも、だち・・・・・・・・・・・・?」
「えっちがうの!? もしかして私の片思いだった!?」
言い方が先ほどの行為と相まって誤解させても仕方ないような言葉。だが、イリヤの精神年齢はそこまで高くない。
それに気づくにはあと二、三年は必要だろう。
思わず涙目になっているイリヤ、それをみて美遊は慌てて首を振った。
「そ、そうじゃないの! その、それなら・・・・・・私のことも美遊って呼び捨てで・・・・・・」
頬を赤く染めながら話す美遊にイリヤは嬉しそうに笑顔をつくる。
「それじゃあこれからもよろしくね美遊!」
「よろしく、イリヤ」
そう言って手を握る二人は『友達』となったのだった。
その後、調子にのったイリヤが下着のみで美遊を押し倒す、という光景を友達に見られてしまったり、美遊に感化されメイド姿に戻ったセラがいたりと、帰るまでの出来事をルビーから聞いた士郎は「なんでさ・・・・・・」とつぶやくのだった。
士郎は学校を終え自宅へ帰る途中だった。そこへ一台の黒い車が士郎の横へと停車する。立ちどまって様子をみていると車のウィンドウが開き、一人の男が顔を出した。
「・・・・・・おやじ?」
衛宮切嗣、士郎の義理の父親でありイリヤの実の父親だ。
戸惑っている士郎に、切嗣は軽く微笑むと。
「ひさしぶりだな、乗るか?」
ドライブに誘われた。
その言葉に士郎は、「ああ」と、首を縦に振る。
(逃げるわけにはいかないからな)
士郎は一つの覚悟を胸に抱き。さてどうするかな・・・・・・、と予想より早い展開に少しだけ頭を悩ませた。
士郎が車へ乗り込み数分立つ。まだお互いに口を開かない。
と言っても、切嗣はもともと口数が少ないうえに何を考えているかわからない。士郎ですら分からない。原作知識がなければ、家族としても完全に疎遠になったことだろう。
切嗣は街の至るとこを回りながら走っている。目的地は決まっているようだが、遠回りをしているようだ。
(俺の考えてることはお見通しってか)
士郎に思考の時間を与えているのだろう。
「母さんは一緒じゃないのか?」
「――ん? ああ、母さんは明日帰るそうだ。僕だけ先に帰ってきたんだ」
何のために、とは聞かない。予定外の帰国、何かを決めたような切嗣の目を見て士郎の覚悟はすでに決まっていた。
(懐かしいな)
士郎は目の前にあるそれになんか感慨深いものを感じた。
「教会・・・・・・か・・・・・・」
そこは、聖杯戦争時に中立地帯として存在していた場所だ。こちらの世界に来てからは、一度も来ることはなかったというのに。
「なんだ、知ってたのか? 神にお祈りするタイプではないと思ってたんだが」
「まぁ、神様がいるかどうかって聞かれたら。いるかもな、って答えるぐらいには興味があるからな」
――ほら、例えばギルガメシュとかヘラクレスとかさ。
心の中で呟くそれを口に出したりはしない。だって。興味があるどころか、殺し合った経験すらあるのだから。
笑いながら答える士郎に切嗣は「・・・・・・そうか」とだけ答える。
教会の中には、二人の人物がいた。
一人は紅いコート羽織る黒髪長髪な男、もうひとりはイリヤの学校で保険医をしている女性。
「ウェイバー・ベルベットにカレン・オルテンシア、か? 思ったより大物だな」
士郎の言った通りどちも魔術関係では大物だ。
それを聞き二人も口を開く。
「あら? 随分なものいいね、つい最近まで自分の生き方すらわからない子犬の分際で」
「確かに切嗣さんから聞いていたのとは少し印象が違うな」
ウェイバーはチラッと切嗣を見る。
「ははは、息子の成長は嬉しいものだよ」
その切嗣の言葉に納得したように頷くウェイバー。
「なるほどな、目に力がある。何かを見つけたものの顔だ」
士郎を忘れたかのように話し始める三人。
(この人達の観察眼キモいんだけど・・・・・・)
士郎は心の中でつぶやく。
この三人相手に隠し事などあってないようなもんだ、腹の探り合いでは絶対に勝てない。 と言うか、この状況にもって来られた時点で勝負なら負けている。
そんな士郎の心の中を感じ取ったのか切嗣が向き直る。
「僕は父親なんだから当然じゃないか、変なのはこの二人だけだろう」
それがもうアウトなんだよ、と言いたいのをぐっと我慢し士郎は本題へと入っていく。
「それで、この状況はなんなんだ」
それに答えたのはのはウェイバーだ。
「そうだな、それでは本題に入ろうか。衛宮士郎」
周りの空気が変わる、士郎はそれに答えるように肩の力を抜いた。
それは、安堵。自分の隠し事を暴かれる瞬間、それがなぜか心地いい。
秘密を抱えることは自分との戦いだ。それから開放される。だからだろう。士郎は笑みすら浮かべている。
「君は一体何者だ」
ウェイバー・ベルベットは口にする。
「衛宮士郎。今あんたが言ったとおりの者だが、それじゃ不満か?」
士郎はおどけるように答える。
駆け引きなんて大層なものじゃない。士郎はここに来た時点で、すべてを話すと決めている。だからこれはただのいたずら心だ。
――怪しい人物でも演じてみよ。
完全なクソガキである。
「冗談だよ、何が聞きたい? 出血大サービスだ、なんでも答えてあげるさ」
手を広げながら。パフォーマンス精神を忘れない。だてに衛宮士郎を演じ続けたわけではないのだ。
「なら最初の質問だ。君は一体何者だ?」
表情を変えることなく会話を続けるウェイバーに、つまらない表情をするも感心する。
なんでも答えると言った士郎の言葉に疑問すらうかべない。
(少しぐらい動揺しても良さそうなんだけどな)
そんなことを考えながらも士郎は答える。
「何者かなんて覚えてないよ、今は衛宮士郎と名のるものってところか・・・・・・」
自身の生き方を見つけようが。衛宮士郎をやめようが。もう。
少年は、自分の名前すら思い出せない。
自分を覚えてないなんて普通ならありえない。それはつまり、それほどまでに衛宮士郎として生きてきたという証拠なのだ。
自分を隠し、殺し続ける。その結果がこれだった。
人格の上書き。いうだけなら簡単だが、それを実際に行ことは不可能に近い。例えるなら。自身で今存在する脳細胞を殺し、新たに一から作り出すようなものなのだ。
「・・・・・・そうか、なら次の質問だ。聖杯戦争これについて知っていることを話してほしい」
士郎の言いに少し考えたることでもあったのか少し時間を空け、ウェイバーは続ける。
「そうだな・・・・・・七人魔術師がそれぞれ七騎の英霊を召喚し、願望機である聖杯を巡って行う抗争行為・・・・・・と、あくまでも表向きはな。本来は英霊が座に帰るさいに生じる”孔”を利用し『根源』に至ること」
隠す必要はない。知っていることを淡々と答えればいい。
言うまでもなく。士郎もこれぐらいの事は知っている。だてに世界を何度も転生していない。
魔術や、英霊の事などは、聖杯戦争が始まる前に独学で学んですらいた。
「なるほどな、その令呪のあとが聖杯戦争の関係者だと物語っていたが・・・・・・そこまで詳しく知っているとはな。せいぜい巻き込まれた一般人。その程度の認識だったのだが・・・・・・改める必要がありそうだ」
ウェイバーの言葉に疑問を覚える。
(令呪のあとなんて見えないはず・・・・・・、まさか、魔術的要因か? そこから俺の存在をたどったのか。さすがに予想外だったな)
令呪のあとなんて考えたこともなかった士郎は、少なからず動揺する。
――さてと。
どう動くべきか、士郎の思考の今はこれだ。
士郎はどうにかこの三人は味方につけたかった。と言うより敵対をしたくないといった方が近いだろうか。
士郎はこの後がこの
魔術協会からしたら、こんな危ない奴をほおっておくわけにはいかない。切嗣にしても、聖杯戦争関係者などイリヤに近づけたくすらないだろう。
さらにはこの後士郎は自身に起こったことを聞いてもらわなければ困る。最低でもそれに理解を示してくれる程度には信頼してもらう必要もあるのだ。
並行世界の住人。第五次聖杯戦争の存在。その勝者。
士郎の特殊な魔術も相まって、解剖コースまっしぐらだ。
そもそも言わないという手もある。
それでも士郎は言わなければならない。
自分だけじゃダメなのだ。これからの士郎の形。それをしってるものが自分だけではだ足りない。
士郎の記憶で、物語の中で、誰かが言った。
【やめておけ、お前らにゃ俺はころせねェよ。人はいつ死ぬと思う・・・・・・? 心臓を銃で撃ちぬかれた時・・・・・・違う。不治の病に侵された時・・・・・・違う。猛毒のキノコスープを飲んだ時・・・・・・違う!! ――人に忘れられたときさ・・・・・・】
くだらない言葉遊びだ。けど、それ以上い名言だった。
士郎は思う。
「なぁ。自分の
唐突に、衛宮士郎は語りだす。
「自身の在り方を肯定してくれる者もいない。否定してくれる者もいない。・・・・・・じゃあさ、もし。自身のそれが変わった時、誰が気づいてくれると思う? そうさ、誰もいない。誰も」
三人は、何も言わずに士郎の言葉に耳を傾ける。
「そいつは死ぬんだ。過去の自分を殺して。新しい自分を作り上げる。誰もそいつを知らないから。変わったどうかすら分からない。止めてくれない。『人に忘れられたとき、人は死ぬ』そりゃそうだ。誰にも認識されないそいつが、生きてるわけないもんな」
それはつまり、過去の自分は死人と同義だったと。
「だから、誰かに知ってるもらわないといけない。家族に。友人に。恋人に。道をまちがえたときに教えてくれる存在が、絶対に必要なんだ。お前の姿は本当にそれなのか。お前の在り方は本当にそれなのかと」
そして士郎は言った。
「だから頼む。俺を知ってくれないか」
二度と自身が間違えないように。
美遊を助けたい。この気持ちを。本物を。絶対に失わないように。
それを聞いた三人。そんな中、切嗣が自分の息子に語り始める。
「士郎、君は今自分が衛宮士郎を名のるものと言った。・・・・・・けどね、きみは僕の息子だ。君を助けたとき、令呪の跡を見て普通じゃないと思った。こんな小さい子が聖杯戦争の関係者だなんてね」
士郎は切嗣の言葉を黙って聞く。
「・・・・・・それでも、僕とアイリの息子になると言ってくれた君を見て、守ってあげたいと思ったんだ。君が今何と戦っているのかはわからない、でもこれだけはわかってほしい。
・・・・・・僕は士郎の味方だ、だから話して欲しい、士郎に何があったのかを」
士郎は目を伏せる。
「わかってるさ。何を言ってるか分からないよな。なら何度で・・・・・・も・・・・・・?」
士郎の覚悟は固い。何をしてでもこれだけは譲らな・・・・・・い?
「えっなんだって?」
それを聞いた士郎は、生まれて初めて自分の耳を疑った。
(あれ? 俺って鈍感主人公かなんかだっけ? ていうか今マジなんて言った、こんな怪しい人物を守る? そんなの衛宮切嗣じゃないだろ。そんなの本当の父親みたいで・・・・・・)
そこで士郎は自分の頬に何かが流れてるのを感じた。
「は? 涙なんて・・・・・・ありえないだろ」
それでも涙は止まらない。
そんな士郎を切嗣は抱きしめた。
「泣いてもいいんだ、辛かったと思う。もう我慢しなくて良いんだ、士郎が何者でも今の僕は守ることができる。そのために僕は今まで動いてたんだ」
「私ももちろん味方だ。切嗣さんに頼まれたのでね。それに君は僕達が起こした聖杯戦争の犠牲者でもある」
ウェイバー・ベルベットはいたずらが成功した子供のように微笑む。
どうやら先程までの雰囲気は演技らしく、それを知った士郎は軽くウェイバーをにらむ。
「私はあれね、あなたの泣き顔を見て満足したわ、子供の泣き顔なんていつ見てもゾクゾクするものね」
一人だけ何を言ってるんだって感じだが、今の士郎には逆にありがたかった。
もともとそのつもりだったのだ、今更迷う必要はない。
「聞いてくれ、俺の過去を・・・・・・」
それは士郎、そしてある少女しか知らないもう一つの物語。
「平行世界の出来事を・・・・・・『第五次聖杯戦争』を」
読んでいただきありがとうございます
フィーリングで書いていたらいつもまにか士郎の過去編を書くことになってしまいました 笑
考えていなかったので大変そうですが頑張ってみます!