Fate / 「さぁ、プリズマ☆イリヤを始めよう」 作:必殺遊び人
負から正への転換って良いですよねー
学校が忙しくて更新遅れるかもですが頑張ります
士郎が地面に下りると、そこには怒った顔をした凜がいた。
「なんでさ」とつい懐かしい口癖が出てくる。
見た限り怪我人はいない、その光景に安堵の息をつくも、次の瞬間には遠坂が怒鳴り声が木霊する。
「何考えてんのよ衛宮くん! 少し間違えれば死んでたかもしれないのよ・・・・・・こんな自分を危険にさらすような真似、もうやめなさい」
(あーそういう少女だったよな。遠坂凜はこういう少女だ)
だんだんと声が小さくなって、とうつむく凜を微笑みながら頭を撫でる。
昔の関係を思い出し、思わず手が動いてしまった。
顔を赤くする凛と悔しそうなルヴィアを見て、やりすぎか? と考えたがこのくらいなら大丈夫だろうと思い直す。
士郎は自分に対する好意に、ある程度は気付いている。
鈍感、などという意味不明な属性は持ち合わせていない。
逆になんで気づかないの? 虐めて楽しんでたの? と士郎が思ったほどだ。決して自意識過剰なんかではない・・・・・・と思いたい。
「すぐ戻るって言っただろ。それに勝てる確信があった・・・・・・でも、心配してくれてありがとな。今度はもう少し安全な方法をとるよ」
『わっわわ分かれば良いのよ分かれば』と撫でられていたことに顔を赤くし、そっぽを向きながら言う凜の姿に、別の世界の士郎がこの子を好きになったことをなんとなく理解する。
こんなかわいい生物はなかなかお目にかかれない。
「でも、確かにすごかったよお兄ちゃん。美遊さんと一心同体って感じで、私じゃできなかった・・・・・・」
イリヤの声に力がない。
自分は何もできなかったから、イリヤの顔はそう語っている。
それに対して士郎はイリヤの顔に方に頬に手を添え「ありがとう」と、お礼の言葉を口にしていた。
「イリヤ、お前がいなければ、勝てなかった。今日の自分を誇っていいんだ。だから、俺を、美遊を守ってくれてありがとう」
優しくイリヤの頭を撫でると、嬉しそうに元気を取り戻した。
士郎は美遊の方へ向き直ると、素直な言葉を口にする。
「美遊、流石俺の妹だ」
「はい、お兄さんは私が守ります」
「なら俺は美遊を守るよ」
戦闘後の朗らかな空気。
だが士郎は忘れていた。この戦いは、今日の戦いはこれだけでは終わらない。そのことに。
不意に、全員がそれを感じる。
後方から感じる一つの気配。
「まさか――ッ」
その声は誰が発してのか、士郎はそれを確認できないほどに目の前のそれから目を離せなかった。黒霊化しててなお、変わることのないその気配。それは――
――自分が愛したその人だった。
「・・・・・・セイバー?」
その声に反応したのか、剣を振り下ろしセイバーの攻撃がこちらに向かう。
そこで流石に危機を感じたのか、全員が防御の体制へ入る。飛ばされた黒い斬撃は幸いルビーとサファイアによる物理保護によって防げたが、脅威は未だに続いている。
「
手元に双剣を携えた士郎が前に出る。
最初に来たのは違和感だった。剣を握る手に力が入らない。
なんで。
次に来たのは体への異常だった。士郎の手が震えている。
なんで。なんで。
そして遂に思考が追いついてしまった。動揺が顔に出る。
なんで。なんで。なんで。
怖いわけではないのだ。恐れているわけでもない。ただ、自分がお考えてしまったそれに、その思考に。士郎は心を崩されたしまった。
――なんで俺はまだ衛宮士郎なんだ!!
****************
衛宮士郎になる前の少年。
それをあり方を言葉で表すなら、ごく普通の一般人。それが適切だった。
友人関係を言えば、数人仲のいい友人を作るぐらいは簡単にできて、ただ友達百人なんて作れないほどには普通の少年で。喧嘩をしても殴り合いに発展しないほどには普通の常識を持っていて、数人に虐められれば見えないところで涙を流すほどに心が弱く。善良ではあるが、重い荷物を持っているお年寄りがいても声を掛けないほどに普通で、にもかかわらず、公共の場である電車では、優先席をお年寄りに譲る程度には普通の親切心は持っていて。親族関係でいえば、自分から悪口を言うにもかかわらず、他人にそれを言われたときは気分が悪くなるほどには普通に愛していて。勉学で言えば得意な科目はいい点をとり、苦手な科目でも半分はとれる程度には普通にできて。
どこにでもいる有象無象。全校生徒のその一人。
普通に普通な普通で普通。
そんな少年に自身の特徴を一つ言うて見ろと問えば、彼はオタクな趣味と答えるだろう。
とは言え、それすらもどこにでもいるオタクの一人と言えてしまうのだが。それでも少年は分かってなおそれを口にするはずだ。
なぜなら憧れていたから。
無数に存在するその世界の、その主人公に。
それでもやはり、特別な力は確かにかっこいいと思っても中二病にならないほどに常識を持った普通の少年は、その在り方にこそカッコよさを見出した。
だってそうだろう。少年は自分で理解があるほどに自身が普通であると知っていた。だからこそ――
――
そして少年は
偶然か必然かあるいは運命か、始まりはどうであれ彼はその地位を得たのだ。
最初は困惑だった。こんな理不尽に怒りすら沸いた。それでも、わくわくしなかったといえば嘘になる。
これからどんな道を歩くべきか毎晩眠れないほどに考えた。原作通りに生きてみようか、それも違うストーリーを作ってみるのも楽しいか。
Fateの世界には魔術がある。もしかしたら、他の創作物の技なんかもできるかもしれない。
考えれば考えるほどにやりたいことが見つかった。無数の未来を思い描いた。
だからだろう。少年は気づいてしまった。――もし。
――もし、衛宮士郎が好き勝手に生きたらこの世界はどうなるんだ、と。
考えるまでもなく、この世界の結末は死んでいた。少し考えれば分かることだった。この世界は衛宮士郎に救われる。聖杯戦争にしろ、その先の《英霊》衛宮士郎としても。
彼には選ぶ権利がなかった。いいや、最後の二択は残されていた。衛宮士郎として生きるのか、自分自身として生きるのか。
少年は迷うことなく前者をとった。
なかったのだ。彼には主人公になる資格がなかった。
仮に、少年が数ある主人公のように絶対の自分を持っていれば、後者を選ぶこともできただろう。自分として生きてなお、世界を救うという気概があれば。ただ、少年にはそれがなかった。それだけの話だった。
そのときの彼の思考は、死にたくない、なんでこんな目になどと言う普通の感情だった。
そう、彼が思ったのは、衛宮士郎のように生きて世界を救いたいという覚悟などではなく。原作通りに衛宮士郎を演じれば、なんとかなるという曖昧な根拠だった。
演技者として、道化として。
そして。
その思想通り、少年は衛宮士郎として生き抜いた。
****************
士郎は、この世界にきてから自身は変わることができたと思っていた。
衛宮士郎として生きることをやめ、自分の感情で自身の思考で生きていると。
イリヤのために生きていこうと決めたあの日から、その思いは変わっていない
だから迷うことなどありえない。目の前にある脅威から、妹たちをあれから守ることに迷うことなんてありえない。
でもそうじゃなかった。士郎が思ったのはそんなことじゃなかった。
迷う? 何を言ってるんだ? ――守るなんて『当たり前』だろ。
「お兄ちゃん? 大丈夫」
士郎のそれに、気づくことができたのはイリヤだった。
その声にも士郎は答えることができない。それでもかろうじて士郎は口にした。
「・・・・・・ここは俺一人でやる、みんなは逃げてくれ」
なんでこんなことを口にしたのか分からない。いいや、わかってるはずだ。
「シェロの頼みでもそれは聞けませんわ、あの相手はやばすぎます! しかも、連戦だなんて勝ち目がありませんわ!」
「そうよ衛宮くん! あの英霊、防御も遠距離でも隙がない。しかも恐らくセイバークラス。黒い霧を破れても、接近戦で勝てるかどうか・・・・・・」
彼女らの言葉は何も間違っていない。普段の士郎なら同じ言葉を口にしただろう。
しかし、今の士郎にその言葉は届かない。
だって。
――『誰かを助けるのに、何か特別な理由がいるのか?』
何も変わってなどいなかった。未だにやめられてなどいなかった。
強敵を前に、勝てないと判断した士郎は、迷わずこの答へと思考をむずびつけていた。
そして全員が気づいた。
それは、動物が本能的に危ないと判断するような、直感的なもの。
今の衛宮士郎は危険だと。
「衛宮君?」
凜の声も、今の士郎には届いていない。
目指すべきもの。
今の士郎にそんなものはなかった。
士郎が掲げたそれは、新しい演技の題名。彼の目指していたそれは、ハリボテとなんら変わらない。
衛宮士郎を止めるための免罪符。
ただの理由付け。
人一人の人生を奪っておいて、自分の人生を生きたいと思う、それに対する言い訳なのだ。
『自分には、すべき大きな目標がある。だから衛宮士郎をやめても仕方ないよね』と、言葉にすればこんなものだろう。
そんなものは自分じゃなかった。だからこそ簡単にぼろを出す。
『自害しろ衛宮士郎。貴様ような男は今ここで死ぬべきだ』
『貴様を殺し、ここで正義の味方を終わらせる』
思い出すのはアーチャーとの戦闘。
「俺はあの時死ぬべきだったのか・・・・・・?」
士郎には分からなかった。自分がどうするべきかもうわからない。
アーチャーが士郎に剣を向けた理由、それは、自分自身でもある未来の衛宮士郎を作らないため。
当時の士郎は生きるために、衛宮士郎を演じていた。
しかし、それを見破れないアーチャーじゃない。つまりは知っていた。気づかれていた。
自分の生き方がない、演技者だった士郎は、演技を続け、自分と同じく『正義の味方』を目指し、失敗し、衛宮士郎になる、と。それでも最後は士郎の剣を受けた・・・・・・・・・・・・。
「なんでお前はおれを生かしたんだ!!!」
士郎には分からなかった。
『貴様は私と同じようになる、いずれ失敗する。ならばここで殺すしか道がない、そう思わないか?』
『自分の生き方をなぜ否定する? 美しいと思わなかったのか? その生き方が、綺麗だと思わなかったのか? その姿勢が、後悔しかなかったのか? その思いは・・・・・・』
『貴様の言葉は響かんよ、何せ心がこもっていないからな、貴様は自分のために生きているのだろう、だかその結果私になる。私に追いついてしまう。ならばここで死ね! 衛宮士郎!』
『・・・・・・ッ、心がないか・・・・・・確かにな、この生き方は楽だった。心を消し、自分のためと言いながら誰かの道を辿る人生。それが間違いの道であると言うのなら、未来の自分が殺しにくるのは当然だ・・・・・・・・・・・・だけど、それでも! 俺は生きたいんだよ! 今だけでいい、自分が好きになった人のそばにいたい! それが戦いだろうと戦争だろうと! だから俺は死ねない。だから続けるぞ、衛宮士郎だろうが、『正義の味方』だろうが演じるぞ』
『そうか・・・・・・ならば来い! 貴様の剣を見せてみろ!』
その攻防でアーチャーは士郎の剣を受けた。
『アーチャー、俺の勝ちだ』
『ああ、そして私の敗北だ』
「・・・・・・はは・・・・・・・・あはははははははは!!」
なんで今更思い出したのか。そんなことはどうでもいい。
「なんでいままで気づかなかったんだ?」
――ああ、そうだ。そのはずだ!!
なぜ今まで忘れていたのか。
アーチャーは期待していた、将来見つかるだろう自分だけの
今ならわかる。アーチャーがなぜ士郎の剣を受けたのか。
笑ってしまう。何も成長していなかった自分自身に・・・・・・。
この世界の衛宮士郎が目指す在り方。それは『正義の味方』であるべきなのか? 違うだろ。
士郎はあの時なにを思って戦っていた? 答えは最初からあった。
――忘れてたなんて笑い話にもならない。
それはセイバーのため。
それは、『正義の味方』ではなかった。ただの自己満足ですらあった。場合によっては悪だった。世界より一人の少女を選ぶなんてバカバカしいにもほどがある。でも。
それがどうした。
士郎は笑う。ああ、笑うしかない。
あの感情を自身の感情じゃないというんだったらなんだっていうんだと。気がつくべきだった。衛宮士郎の心が動いたのはどこだった? それは何だった?
本来の衛宮士郎はその生き方を美しいと感じた。綺麗だと感じた。ならここにいる衛宮士郎は、何がしたい。
――あの時は何を思っていた? そろそろ気づけよクソ野郎。
士郎は考える。
そして、今まで衛宮士郎のまがい物でしかなかった一人の少年は、ここで初めて答えを見つける。
目の前に泣いている少女がいた。それが大切な人じゃなかったら見捨てるのか? そうじゃない・・・・・・そうじゃなかった。目の前にいる女の子に涙を流してほしくないから助けたんだ。
例えば、美遊の時がそうだった。
いや、今思えばあれこそが自分本来の感情だった。
――誰かを助けるのに理由はいらない? はっ馬鹿じゃないのか?
ただ原作で知ってるだけの少女。しかし、士郎はその手を掴んだ。
例えそれで敵が現れたとしても、大切な人が敵になろうとも、彼女が悪と言われようとも、士郎は美遊へ手を伸ばしただろう。
それは、逃げるだけの生活かもしれない。時には剣を握らなければいけないかもしれない。それでも目前に泣いてる少女がいて守りたいと思ったから。
――女の子のためになんて、十分すぎる理由だろうが!
体から何かが抜けていく。
それがどこか心地いい。
「・・・・・・悪いな遠坂、ルヴィア、美遊そしてイリヤ。俺は残るよ、救いたい目の前の人を救うために」
――不純? それでもいいだろ。
ここで衛宮士郎は完成する。
――
『とうとう見つけたか、自分の正義を』
「正義のなんて大層なもんじゃない、お前に比べたらクソみたいなもんだ」
『そうか、だがそれでいい、貴様はもう私の前にいる。行ってこい、目の前の少女を救ってやってくれ』
「ああ、まかせろ」
ここから始まる。衛宮士郎が、『正義の味方』の前を歩く。
「イリヤ、アーチャーのカードを貸してくれないか?」
士郎は引っ張られるようにイリヤのカードケースに手を伸ばした。その中にある複数枚あるカードから、当然のようにアーチャーのカードを引き当てる。
「見ててくれ美遊、イリヤ、これがお前たちの兄、衛宮士郎だ」
さっきとは何かが違う、イリヤと美遊は無意識そう思った。だけどそれがなんだかわからない。
士郎が右手を前に出すと、何も言わずとも七枚の花弁が現れる『
そして、左手にもつアーチャーのカードを胸へと当てる。
「『素に銀と鉄。礎に石と契約の大公。祖には我が大師衛宮士郎。降り立つ風には壁を。四方の門は閉じ、王冠より出で、王国至る三叉路は循環せよ』」
花弁が一枚割れる。詠唱を続ける。
「『閉じよ。閉じよ。閉じよ。閉じよ。閉じよ。繰り返すつどに五度。ただ満たされる核を破却する』」
花弁も残り四枚、それでも詠唱はやめない。
「『告げる』」
「『汝の身は我が下に、我が命運は汝の剣に。聖杯の寄るべに従い、この意、この理に従うならば応えよ』」
残り一枚、それでも詠唱は止まらない。
「『誓いを此処に。我が常闇総ての善と成る者、我が常闇総ての悪を敷く者。
汝三大の現霊を纏う七天、抑止の輪より来たれ、天秤の守り手よ!』」
詠唱が終わると同時に、最後の花弁が割れる。
セイバーは黒い斬撃による攻撃をやめ、接近戦を仕掛けに突っ込んでくる。イリヤが、美遊が、凛が、ルヴィアが、ルビー、サファイヤが叫ぶ。
セイバーはすでに攻撃が仕掛けられる距離、だが士郎は何もしない。
右手は『
だが左手にあるはずのものがない。
アーチャーのクラスカード。
セイバーの攻撃が入る。誰もがそう思った・・・・・・その瞬間。セイバーと士郎、その間が光に包まれ、セイバーが大きく飛ばされる。
そこにいたのは、白髪で肌が黒く、士郎と瓜二つの聖骸布を身につけた長身の男だった。
その男は士郎に背を向けたまま語り出す。
「問おう、貴様が私のマスターか?」
それは、この世界では本来行えない英霊の召喚。士郎がセイバーを助けるだけに呼んだ、英霊となった自分。
「そうだが不服か? アーチャー」
「戯け、不服に決まっている、この世界には聖杯はない。願いを叶えることもできず、あろうことか一度の戦闘のために呼ばれたのだぞ。しかもマスターは貴様ときた、令呪がなければ斬っているところだ」
皮肉げに答えるアーチャー。
やはり、クラスカードを媒介にした召喚は別世界の聖杯戦争に呼ばれた英霊と変わらない。
二つの世界は並行世界だから? そういうことなのだろうか。 それとも、衛宮士郎の存在が原因? 分からない。が、そんなことはどうでもいいだろう。
「だったら令呪はきれないな。だからこれはお願いだ、俺に力を貸してくれ」
アーチャーの隣に立つ、すでにセイバーは体勢を立て直している。
「ついて来れるのだろうな」アーチャーは問いかける。
「俺の方が前にいるんだぜ?」士郎もそれに答えた。
「ふっ、ならばその背中いつか追いついてみせよう・・・・・・いくぞ」
二人とも顔には笑みを浮かべている。
「「
詠唱と共に、手に握られてたのは宝具『
この戦いには敵はいない。
そこにいるのは、助ける少年と助けられる少女、そしてそのサーヴァント、それだけだ。
「「行くぞセイバー――魔力の貯蔵は充分か」」
それを合図に、3人の戦闘が始まった。
美遊や、イリヤ、凛達は言葉が出ない。士郎が行った詠唱、それと共に現れた白髪長身の赤い男。
何が起こっている? 理解が追いつかない。
だが。
長身の男は英霊だと、それだけは理解できた。
ならば、あれはなんだ? 3人の男女は剣を交えて戦っている。かろうじて見える動きを見れば、アーチャーと呼ばれていた赤い男は味方のようだ。
しかしそんなことはどうでもいい。
4人が言葉を出せないのは他にある。戦闘が激しすぎるのだ。今まで自分達が行っていたことが、遊びであるかのように、3人の戦闘は次元を超えていた。
英霊の男が強いのはわかる。黒英霊の強さもわかる、だが士郎は?
話を聞けば、特殊な魔術を使う、ただそれだけの少年だったはずだ。先ほどのメディアとの戦闘行為も驚きはしたが、まだ納得できる。
しかし。
あれは説明がつかない。
だがそれも仕方ない、4人は初めて衛宮士郎という人間を目にしたのだ。わかるわけがない。
彼は今ここから始まったのだから。
士郎とアーチャー、二人の双剣が軌跡を生む。
セイバーとは言え二体一。さらには黒英霊で力が下がってるのだ。勝負はすでに決まっているようなものだった。――先ほどまでは。
それに気づいた二人は、即座にセイバーから距離をる。
「力が上がってるな・・・・・・」
「ああ、戦闘を繰り返すたびに明らかに本来のセイバーの力へと近づいている」
アーチャーはまだ問題ない。だが士郎は違う。単純な力の強弱が、そろそろ限界に達している。
「――ッ! アーチャー――ッ!!」
「ッチ!」
距離をとって油断した。二人は自身な間抜けさに怒りすら覚えた。
英霊との戦いで、こちらが一瞬で開けられる距離を、『向こうが一瞬で詰められない道理はないだろ』と。
そこで士郎は気づいた。
(おかしいだろ・・・・・・お前はアーチャーに剣を振るっていたはずだ)
見ていたはずだった。アーチャーに剣を振るうその姿を。それなのに、すでにその姿はどこにもない。
(どこだ?)
「戯け!! 横だ!!」
「――ッ!!?」
アーチャーの言葉で、ようやく視界の端にあったそれに気づく。
ほぼ反射の域。過去の戦闘経験データからそれをギリギリで受け止める。
(まさか、アーチャーへの攻撃はフェイク!! 本命は俺か! クソッたれ、目で追えない・・・・・・! 速すぎる!!)
「・・・・・・ぐあが!?」
防御したはずの士郎の腕が悲鳴を上げる。セイバーの振り下ろした剣を受け止めた腕が一瞬止まった。
「(やばい)――?!」
士郎が思う前にそれはすでに視界から消えていた。
背後から、士郎の首を狙って、真横からセイバーのそれは振るわれていた。
回避は不可能。防御も間に合わない。
だが、次の瞬間。その剣は空を斬る
「半人前が。相手との差すらも分からないの貴様は」
アーチャーが士郎を蹴り飛ばしたのだ。多少と言うには強引すぎるやり方で、アーチャーは士郎をセイバーの攻撃範囲から離脱させていた。
「とは言えこれでは埒があかんな、むしろこちらの魔力が先に尽きてしまう。どうする小僧?」
「わかった・・・・・・だったら俺が弓を放つ、お前は足止めを頼む」
単純なに戦闘力を計算した結果だった。
「正気か衛宮士郎? アーチャーである俺を足止めに使い、あろうかとか貴様が弓を撃つだと? バカも休み休み言いえ。それにだ、貴様の弓などへっぽこすぎて信用ならん、私に当たったらどうする気だ?」
「とりあえず喧嘩を売ってんのはわかった。しかしあれだな・・・・・・衛宮士郎ともあろうものが、近接戦から逃げるとはな。てかお前に言われた通り、自分の力を把握し上でだったんだが?」
「戯け、足止めならばどちらとてあまり変わらん。ならば弓の優劣で選ぶしかないだろう。そうなれば答えは決まる。それにだ、助けた時にいる目の前の男が私では役者不足ではないのか?」
士郎は驚いた風にアーチャーを見ると、笑みを浮かべながらセイバーと向き合う。
「そんなこと言われれば、任されるしかないな。どうやら今の俺ではお前に、口では勝てそうにない。・・・・・・・・・・・・一分だ、それ以上は待てない」
「誰にものを言っている。『三十秒、それだけあれば充分』だ」
その言葉に士郎は驚いた顔をする。何もいわずに作戦を理解したアーチャーにではなく、作戦を理解してなお、それに反対しなかったことにだ。
「だったら、俺も役割を全うしないとな」
士郎は聞いてるはずのないセイバーへ問いかける。
「セイバー、今の俺の剣をお前はどう見る? まだまだだと言うのか? 上達したと褒めてくれるのか? どちらにしろセイバー・・・・・・お前を倒すにはまだ足りない。だから今ここで越えるぞ、”アルトリア”」
『
逆手に持ちながらの戦闘。時間稼ぎが目的であるならば、それは確かに最良だ。
だが、それではいつまでたっても超えられない。
頭の中で剣の軌道を創り出す。もっとも無駄のない連続攻撃。
そこで士郎は初めて気づく、今の自分衛宮士郎の可能性に。
(はは、簡単じゃないか。できないなら過去から、知識から借りればいい。俺にはそれができるはずだ)
セイバーの視線が自分からそれる。
本当に僅かな隙、アーチャーの殺気によりできたそれは、事実上最後のチャンス。
「技も借りよう、名前も借りよう、それで超えられるのならば、俺はその力を喜んで使おう」
「『
それは転生者、憑依した衛宮士郎だからできる投影。
士郎の手には二つの剣が現れる、一つは黒く漆黒に輝き、もう一つは青いクリスタルのように輝いている。
繰り出す技は二刀流の剣士、黒の剣士と呼ばれた数千人もの人を救った英雄の技でありスキル。 用いる剣は《エリュシデータ》そして《ダークリパルサー》士郎やアーチャーのような守りの剣ではない。二刀流による、圧倒的な速さと反射で行われる、怒涛の剣激。
士郎は、英雄の剣を此処に再現する。
「『スターバースト・・・・・・ストリーム』!!!!」
ほんの数秒、その中で繰り出される16連撃。完全に音を置き去りにしたその剣は、今の士郎が出せる全力。その速度がその剣の思さがセイバーの剣を凌駕する。
そして、セイバーの剣が弾かれる。それが見えた時・・・・・・すでにアルトリアは、斬られていた。それを見えていたものがいるならば、士郎の勝利を確信しただろう。
だがそんなことではセイバーは倒れない。
突如危機感を覚えた士郎は、咄嗟に後ろに距離をとる。そして、目の前の光景に、
「ははっ、そう来るよな」
思わず笑みを浮かべている。
黒く染まっていた剣は光をおび、膨大な魔力を纏わせる。
アルトリアの顔についていた黒い仮面は剥がれおち、素顔があらわになっている。
それは、かつて・・・・・・いや、今もなお士郎が愛しているアルトリアその人だった。
「シロウ、見事でした。しかし私も負けるつもりはありません」
優しい声でそう言うと、宝具の発動を開始した。対城宝具に分類されるアルトリアのそれは本当の意味で必殺となる。士郎にそれを受け止める術はない。そんな危機的状況でも士郎の顔にあるのは笑みだった。
知っていた。士郎は自分がアルトリアを超えられると。
知っていた。アルトリアは目を覚ますと。
知っていた。その上でこの勝負を諦めないだろうと。
だからこそ最初に用意した。士郎の後ろから一本の剣が迫ってくる。アーチャーが放ったその剣は、アルトリアへは向かわない。
士郎は少し体を捻ると、放たれその剣を手にもった。そこにあるのは黄金の剣、アルトリアの手にあるものと同じものだ。
アーチャーは、"この時のために"三十秒かけて一つの聖剣を作っていたのだ。
『こうであって欲しい』という想念が、星の内部で結晶・精製された神造兵器であり、最強の幻想。聖剣のカテゴリーで頂点に立つ最強の聖剣。
二人の手によって握られるその剣は、最高の光を放ちながらお互いに振り落とされる。
「「『
互いの光をはぶつかり合い、相手の光を押し返そうとする。
「はぁぁぁぁああああああああああああああああああああああ!!!!!!」
数十秒に及ぶ拮抗、『いつまでも見てみたい』そう思わせるような光景は、唐突に終わりを告げた。
その結末を決めたのは何かと問われれば、それは気持ちの差なのかしれない。
アーチャーの投影はほぼ十全にエクスカリバーを再現していた、剣による優劣はなく。
魔力もアルトリア一人と、アーチャーと士郎の、二人の魔力で互角、魔力による優劣も存在しない。
――なら、その勝敗を分けるべきものが、士郎のセイバーへの気持ちなら、それはとても美しい。
そして、それを証明するように。
士郎から放たれた聖剣の光は――その気持ちは、相手の光を飲み込みだ。
・・・・・・光が止む。
そこにいるのは士郎そしてアルトリア。
勝者は士郎。
アルトリアの体は少しずつ消えかけている・・・・・・。かつての聖杯戦争、その最後のように。
そして、士郎はアルトリアに近づくと・・・・・・その体を抱きしめた。
「時間がかかって悪かった。会えてよかったアルトリア」
「シロウ、私も同じ気持ちです。・・・・・・しかし遅すぎです、どれだけ待ったと思ってるのですか? お詫びに『キス』を要求します」
アルトリアは、いたずらっぽい笑みながら目をつむる。士郎は、何も言わずにアルトリアと唇を重ねた。ほんの僅かだろうか、とても長い時間だっただろうか。二人は唇を離すと抱き合いながら最後の言葉をかわす。
アルトリアの体はすでに半分消えている。もうそんな時間もないだろう。
唐突に。それを言ったのは士郎だった。
「愛しているんだ。いつか必ず迎えに行く。だから・・・・・・待っていてくれないか?」
そのプロポーズにアルトリアは見るものを魅了する笑みを浮かべると、
「シロウ、あなたは私の鞘だ、断る道理がありません」
それをしっかりと受け入れた。
「また待たせることになるな」
「そうですね。でも、私は確信しています。士郎あなたならきっと――」
それを最後にセイバーはクラスカードへと変わっていた。士郎は泣いていた、そう、泣いている。
「情けないな、衛宮士郎の門出に、さ」
「全くだ、私はこれからこんな情けない背中を負わねばならんとはな」
背後から現れたアーチャーに、俺も将来こんなことをいうやつになるのか・・・・・・と少し頭を抱える。
「・・・・・・さてと、衛宮士郎その令呪でなにをするつもりだ? 」
「・・・・・・。気づいてたのか、流石だな。言っても、これはお願いに近いんだけどな」
令呪が光る、左手を前に出すと、三つの願いを言葉にした。
「・・・・・・令呪をもって命じる、イリヤを助けてやってくれ。重ねて令呪をもって命じる、イリヤの力になってくれ。さらに重ねて命じる、イリヤに、時間を与えてくれっ・・・・・・!」
士郎が願ったのは、これからアーチャーのカードによって現れるであろうもう一人のイリヤのことだった。
「サーヴァント、アーチャー承った。それでは、私も戻るとしよう。最後に・・・・・・衛宮士郎、貴様の選んだ道は険しく長いはずだ。辛く苦しいはずだ。それでも、できると確信しろ! 失敗など考えるな!! ・・・・・・ではな」
アーチャーは全てを分かったように、それでいて清々しく、クラスカードへ消えていった。
「前を歩いているか・・・・・・アーチャー、とっくにお前は違う道を歩いて俺の前にいたくせにさ。お前にもいつか必ず追いつく・・・・・・待ってろ」
そしていつか必ず礼を言う。
それが今の衛宮士郎・・・・・・その少年の小さな願いだった。
アーチャーを出したかったので出してみました!
やっぱりかっこいいですよねー(笑)
原作崩れすぎて、戻すのが大変そうです
それではまたよろしくお願いします