Fate / 「さぁ、プリズマ☆イリヤを始めよう」   作:必殺遊び人

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イリヤと凜の会合は書きいませんでした。
プリズマイリヤを知らない方にはいきなりよくわからない展開になってしまうと思いますが、一話だけ見れば話がわかるので、できれば見てほしいです

今回は初めての戦闘シーンです。
上手くできているかはわかりませんがよろしくお願いします。

それではどうぞ!!


2話目とかとか〜 ♪ライダー編

 

 

 

 

 朝の時間帯。

 どこにでもある学校の登校風景、その情景に士郎はいた。

「そう言えば一成、昨日言われてた修理は終わらせたけど、他に何かあるならやるぞ、遠慮なく頼んでくれ」

「おおそれは助かる、があまり人が良すぎるとこちらも心配になってくる。感謝の言葉ならいくらでも出すが、それ以上のものはこちらも出せないのだぞ」

 士郎はイリヤと別れた後、偶然会った一成と一緒に登校していた。

 普段から一緒にいることが多い二人は、なぜか数人の女子の視線をくぎ付けにしている。

 もちろん、想い人としてなどではない。

「そうだ、今日新しく思案した和菓子を持ってきたんだ。できれば試食してみてくれないか?」

「本当か? 衛宮の料理は正直ありがたい。昼の時間のあれがなければ午後の授業に身が入らん」

「それは少し言いすぎじゃないか」

 と、士郎も笑いながら答える

「ふむ、もしや胃袋を掴まれるとはこういうことを言うのかもしれんな」

「作っている身としてはうれしい限りだよ」

 そう。この会話こそが視線の原因である。

 悲しいかな、何人かの腐女子から、彼らの会話は絶大な人気を誇っているのだ。

 そんなこと知る由もない二人は、彼女らの視線には気づかない。

「気にするな、これはもう癖みたいなもんだからな。それに鍛錬にもなってくれる」

 この世界に来てからも衛宮士郎は魔術の鍛錬を続けていた。

 理由はわからない。こちらの衛宮士郎と融合でもしたのか、魔術回路は54本存在し、向こうの経験値も更新できていたのだ。それでも、一から肉体を鍛えるのには苦労したのだが・・・・・・。

 さすがに以前とは少し違う身体的な違和感は、無くしていくしかなかったが、過去の自分より強くなっている。そのことは手に取るように感じられた。

「鍛錬? 衛宮は機械技師でも目指しているのか?」

「いや、そうゆうわけじゃないんだけどな・・・・・・」

 何か言いづらそうに言葉を詰まらせる士郎に、一成は手を振りながら話をきる。

「話せないならかまわん。だが頼みがあるなら言ってくれ、こちらも衛宮の頼みならば全力で答えよう」

「ああ、その時は是非お願いするさ」

 この会話ですら腐女子の頭では豪快な変換が行われていることだろう。

 悲しい。

 本当に悲しい。

 悲劇とは、本人のいない場所でいつも起こるものなのだ。

 生徒会に用事がある一成と別れて、士郎はそのまま自分の教室に向かう。

 別れた後に湧き上がる罪悪感。

 魔術のことは話せない。話す気もない。

 鍛錬は切嗣に頼んで道場を借り、魔術の力が高まる夜にやることにしているため気づかれていない。

 いや、もしかしたら気づかれて放置されてるのかもしれないが、さすがにそこまではわからない。前世で切嗣の魔術殺しとしての顔を知っているからこそ、急に殺されないかビクビクなのだ。

 さすがに息子をいきなり殺したりはしないだろうが、警戒に越したことはないだろう。

 

 

 

 朝のホームルームがはじまると、担任が2人の転校生を紹介すると言いだした。

「・・・・・・!?」

 転校生とは確実にあの2人だろう。この街の管理者遠坂凛、そしてそのライバルでもあるルヴィアゼリッタ•エーデルフェルト。

(彼女達がくると言うことはとうとう始まるのか? いやそもそも転校してくるのはすべてが終わった後だったような・・・・・・)

 額に冷や汗をかく士郎だが、ここ最近不自然な事はなかったと改めて思い出すと、事実確認は後でしようと頭を切り替える。

 とりあえず、士郎は今日から特に警戒を強めていこうと考える・・・・・・と同時に二人の喧嘩の仲裁をすることを考えると頭が痛くなる。

 状況を知るには、凜達との会話は必須、士郎は二人の喧嘩に巻き込まれる運命からは逃げられないのだ。

 イリヤの様子におかしなところはなかった。

 つまりまだ何も起きてない? それともイリヤは魔法少女になってしまったのか?

 士郎は魔力感知をそれほど得意としていない。それを言ってしまうと魔力感知どころかあらゆる魔術が不得意・・・・・・そもそもできないのだが、そのことは今はいいだろう。

「――や。え――や・・・・・・衛宮士郎くん!! 聞いてますか!」

「――! は、はい?」

「もう・・・・・・! 先生無視されると悲しいんですからね! しっかり話は聞いてください。それと、暇な時に二人の学校案内をお願いしたいの。良いかしら?」

 頭の中で思考を繰り広げている間に、二人の自己紹介が終わっていたようだ。

 ついでに言うと周りの視線が痛い。美人二人の独占となれば仕方がないことだが、それにしてもこれはきつい。できることなら今すぐに赤い悪魔の事を皆に聞かせたいと思ってしまった士郎は恐らく悪くない。

 黒板の前。互いに足を踏み合っている凜とルヴィアを見て士郎は自身の二人を口説く方法を10は考えた。

 喧嘩を止める方法である。

 

 

 ****************

 

 

 二人の喧嘩仲裁が50回を超えるという、エキセントリックな日常を終え、下校のため学校を出る。

 凜たちの話によれば、短い期間の転校だそうだ。そもそも転校するつもりはなかっただの、いつまでもいるつもりはないだの、普通の学生が聞けば意味不明な発言がたびたびあったことから、ある程度の予想はつけられた。

 全く持て性格が悪い。二人をこちらに寄越した人物は、カード回収のついでと言わんばかりに、確実に二人をこっちに居座らす気だろう。

 魔術的な理由なのか、それとも二人の喧嘩のせいなのかはわからないが、相当悪知恵が働くらしい。

 何も知らない人物はこれに対してなんとも感じないだろう。だが士郎は違った。

 自分の知っている知識と違う。

 これは士郎にとって大問題だ。

 恐らくは歪みなのだろう。士郎が来たことでなのかそれとも”似ているだけの全く違う世界なのか”・・・・・・。

(少し甘く考えてたな。ちょっと警戒を強めるか・・・・・・?)

 原作知識とは言ってしまえば未来予知と何ら変わりない。知っていると体験ではまるで違うが、心の余裕程度にはなりえる。凜たちの転校の時期などはそれほど大きくない変化だが、もしこれよりもひどい変化があった場合、その心の余裕が命取りになる場合もある。

 聖杯戦争に参加した。

 その事実は士郎がこの世界を警戒するには十分すぎる理由だった。

 

 

 学校は終わり下校中。

 校門付近に差し掛かると、反対方向から走ってくるイリヤの姿があった。

 士郎は走ってくるイリヤに軽く手を振ると、イリヤも同様に士郎を呼びながら手を振っている。

「お兄ちゃんも今帰り? なら一緒に帰ろー!!」

「ああ、一緒に帰ろうか」

 えへへー、といいながら腕に抱きついてくるイリヤの頭を撫でるその光景はなかなかに微笑ましい。・・・・・・と言っても、それは後5年はお互いに若かったらの話だ。この年齢ではどう考えても危ない関係である。

 流石に言い過ぎと思うかもしれないが、二人の周りにできる恋人たちのATフィールドと似たようなものが形成されてる。この事実だけで、二人の関係を危険視するには十分すぎた。

 まぁそれよりも問題なのが、そのことに本人たちが全く気付いてないことなのだが・・・・・・。

(おかしいな・・・・・・? 確かヘンテコステッキはイリヤの髪の毛に隠れていたと思うんだけどな)

 周りの認識など考えたこともないのか、うる覚えの知識を引っ張りだしながら、士郎はイリヤに変わったところがないか探っていく。

「なーイリヤ、最近なんか変わったことないか?」

「変わったこと?」

「例えばほら、変なものに出会ったとか。なんか変なものに巻き込まれたとか・・・・・・喋るおもちゃにあったとか」

「な、な何かって? べっ、別に何もないけど?! 喋るステッキなんてありえないよ!」

「そうか、悪い、おかしなこと聞いたな。何もないなら良いんだ」

 そういう内心、嘘が下手すぎなイリヤに少しあきれ気味な視線を向ける。

 原作開始の確認を士郎は終えた。

(動くしかないか・・・・・・)

 回りだした歯車を止めることはできない、ならば自分もその歯車に組み込まれるしかないだろう。

 こうなる前にどうにかしたかった士郎はなんともやるせない気持ちなのだが、仕方がないと諦める。

「(ちゃんと守ってやるからな、イリヤ)」

「ん? お兄ちゃんなんか言った?」

「いや、何でもないよ」

 そこは誰もが望む平和そのものの光景だった。

 

 

 ****************

 

 

 士郎は今、他人の家の屋根にいた。

 空を見上げれば月が丸く光っている。正確には光ってなどいないのだが、そんなことはどうでも良いだろう。

 急にコソコソと家を出て行ったイリヤを見て、士郎はそのあとをつけている最中なのだ。

セラ達へのフォローも忘れなかったのは、流石士郎と言うべきだろう。

 イリヤを追った先、そこは夜の学校だった。

 そこで士郎は初めて気づく。

 夜になって力が強まったのか、士郎は感じたことのある悪寒に顔を歪める。それは、聖杯戦争時、のライダーの魔力結界ととても酷似しているものだった。

 真名はメドゥーサ。聖杯戦争でこそ早くに敗退したが、複数持つ宝具はどれも強力であり、マスター次第では、セイバークラスとも互角にやり合えるほどの実力の持ち主だ。

 士郎は赤い聖骸布を投影すると、それを体に巻きつける。その恰好だけみれば、アーチャーのそれによく似ている。

 校庭の端からイリヤ達を見ていると、ピンク色の衣装、見るからに魔法少女姿のイリヤがいた。流石イリヤ、なにを着ても可愛いな、と自分の妹の可愛さを再確認する士郎・・・・・・この兄、本当にどうにかしなければならないようだ。

 二人が何やら話をしこんでいるが、士郎のあほな思考が原因なのか、距離が遠いのかよく聞き取れない。 

 もう少し近づくか、と士郎が考えていると、突然魔法陣の光が二人を包み、数秒後にはそこから消えてしまった。

 ・・・・・・。

 ・・・・・・・・・・・・。

 ・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・。

 

 

 えっ何、何で?! 何が?! なんでさ!?!? と、見るからに士郎はうろたえる。

 そこで、やっとイリヤ達が虚数軸にある別の世界で戦うということを思い出した。

 原作知識の欠如。

 それは思いのほか深刻だ。

(いやいやいやいや、間抜けすぎるだろ、油断しすぎだ)

「さてと、どうしたもんかな・・・・・・」  

 何か手がかりはないかと、イリヤ達が消えた場所の検証を開始する。すると、空間転移した後なのかわずかな時空の揺らぎを見つけた。

 少し悩むそぶりを見せる。そして・・・・・・。

 一つの剣を投影する。

 

投影_開始(トレース_オン)

 

 今は、慣れた詠唱によって、現れたその剣の名前は『スパタ』、その原点。

 宝具『スパタ』は、第四次聖杯戦争に参加したイスカンダル愛用の剣。

 その見かけによらず軽量で俊敏な攻撃を繰り出せるその剣は、空間すらも断つことが可能であり。イスカンダルが『神威の車輪』を召喚していた時にも使われていた宝具だ。

 あくまで原点の能力は違うが、それでも今回に限れば十分。

 士郎はその剣を空間の亀裂に刺すと、人一人が通れるほどの穴を作り出す。

 何とかうまくいくようだ。

 無理やり開けたその穴へ入ると、そこには、黒い鎖を持って攻撃しているライダーと、その攻撃を逃げ回っているイリヤがいた。

 

 

「イリヤさん! 攻撃しないとカード回収ができません!」

「そんなこと言ったって、こんな事するなんて聞いてないよ!!」

「大丈夫です、 魔法少女ならできます! 次は面のような攻撃をイメージしてください、ショットガンです!」

「ルビーの魔法少女に対する期待が重い?! こうなったら・・・・・・えい!」

 赤い魔法ステッキから魔力の散弾らしきものが、発射される。その圧倒的物量を避けることができず、ライダーにその攻撃は命中した。

 話している内容はあれとは言え、流石は最強の魔術礼装と言ったところだろう。

 その威力は、凜たちが放つ宝石魔術と何ら変わらない・・・・・・もしかしたらそれ以上の攻撃力を持っている。

 それを扱うものが素人であろうと関係ない。どこまでもぶっ飛んだ魔術礼装である。

 が、あくまでも素人。魔術とは関係ないところでそのほころびは大きくなる。

「あたったの・・・・・・・?」 

 

 ――それがダメだった。

 

 自身の攻撃が命中したのを見たイリヤは、倒したの? と足を止めてしまっていたのだ。

 ルビーもそれを感じ取ったのかイリヤへと叫ぶ。

「イリヤさんまだです! 威力が低すぎます」

「イリヤ避けなさい!」

 凛のその声が聞こえた時、すでに鎖の攻撃がイリヤの目の前へと近づいていた。

 それをイリヤは見えていた、しかし何もできずに立ち尽くす。明らかに殺傷能力を持った攻撃・・・・・・だがその鎖はイリヤには届かなかった。

 キンッ! と、金属がはじけあう音だけがその場に響く。

 

「無事かイリヤ?」

 

 イリヤの前にその人物は立つ。

 聞き間違えるわけがない。

 疑問は残る。

 それでも。

「・・・・・・お兄、ちゃん?」 

「衛宮くん? どうしてここに?!」

 その人物は、その少年は衛宮士郎。その人物だったのだから。

 

 

 凛も同様驚いているが、士郎はそれを一端無視し、ライダーから目を離さない。

 聖杯戦争を経験したからこそ、それが自殺行為になると知っている。

(黒い英霊? なるほど黒化英霊、だったか・・・・・・)

「イリヤ、下がってろ。 ここは俺がどうにかする、話はまた後でな・・・・・・その服のこととかな」

 士郎はあくまで何も知らないという風にその場を流す。今はこの場からイリヤを引かせることが重要だ。だが、そのことを知らないイリヤは自分の格好のことを言われて顔を赤くする。

「言いたいことは結構あるが、とりあえず遠坂のところまで避難してろ。あの黒いのは俺が何とかするから」

「えっ、でもお兄ちゃん「イリヤ!」――ッ!」

「――頼む」

「わかった。でも・・・・・・怪我、しないでね」

「わかってるよ。ありがとな、イリヤ」

 不安そうにしながらもイリヤはその場から離れた。

 士郎はそれを目の端で確認すると、

「『投影_開始(トレース_オン)』」

 士郎はそれを行った。

 それは、もはや呼吸と変わらない。

 士郎の手に現れたのは黒と白の対比が目立つ、変わった形をした双剣『干将・莫耶(かんしょう・ばくや)』。

 先ほどの攻撃で弾かれ、地面に突き刺さっていた剣はいつの間にか消えている、そして・・・・・・。

 

 ――静かに、それは始まった。

 

 迷うことなく、士郎はライダーへと向かう。強化した体と、その勢いで剣を真っすぐ振り下ろす。

 懐かしい。戦闘前の感覚。

 だが、そんなものに浸っている余裕はない。

 一呼吸。

 その間に振り下ろされた士郎の斬撃はおよそ二桁。人間の目ではもはや追えるかわからないその攻撃は、甲高い金属音を響かせる。

 相手は、自我がなくステータスも下がっているとはいえ英霊、士郎のその攻撃も的確に鎖で弾いていく。

 本来守りの要素が強いその剣術。

 それでも、アーチャーが磨いて来た剣だ。攻撃に回ってもそれに完璧に対応できるものは三騎士ぐらいだろう。 憑依経験によってその技術を得た偽物であっても、この10年間で自分の剣へと磨き上げてきた。

 だが、やはり足りないらしい。それは士郎にもわかっていた。

(仕方ない・・・・・・)

 士郎は強化した足で大きく後方へ飛ぶ。それと同時に士郎の手から離れた『干将・莫耶』はライダーへと迫る。

 何が起こっているかの把握すら難しい。

 

 二人の戦闘はまだまだ過激を増していく。

 

 

 

 たった数十秒の攻防だが、それを見ていた凛は驚きを隠せなかった。

(ありえない。魔術を使用してるのにも驚きだけどそれは恐らく強化だけ、たったそれだけの魔術で英霊と渡り合っているだなんて・・・・・・それにあの剣、壊れても壊れても出てくるけど、仮に投影魔術だとしてもおかしすぎる)

 あーもう! 何がどうなってるの! と、憤慨している凛だがそれは後で聞き出そうとイリヤの方へ向き直る。

「イリヤ、あなたさっきお兄ちゃんって呼んでたけど、あなた達兄妹なの?」

「えっあ、はい。兄妹ですけど・・・・・・」

「なら聞くわ、あなたの兄・・・・・・衛宮くんが使っているのは魔術よ、あなた魔術のことを知っていたの?」

 その言葉にイリヤは驚きの表情を作る。

「凛さんと出会うまで知りませんでした。もちろんお兄ちゃんが使えることも」

「それにしても、イリヤさんのお兄さんすごいですねー。魔術ステッキもなしにあそこまで英霊と戦えるなんて、ルビーちゃんも驚きですよー」

 ルビーのお気楽すぎる発言を最後に、三人は再び戦闘の方へと目を向けた。

 

 

 

 士郎は『干将・莫耶』を投擲しながら戦っていた。

 二つの剣はお互いに引き合いながらライダーへと迫る。とは言え、それを防げないほど英霊は甘くない。それを証明するように剣は鎖に弾かれる。が、その光景を見ながら士郎の顔は笑みを浮かべていた。

 

「『壊れた幻想(ブロークン・ファンタズム)』」

 

 静かな。されど確かなそのつぶやき。

 それによって、その場に刺さっていた剣が爆ぜる。

 投影された剣の宝具だからこそできる、宝具の魔力を使った爆弾。

 それでも、こんなものでは倒れない。

 煙の中を見つめながらライダーの様子を静かに見守る。士郎の警戒は全く解かれていない。この程度で倒せるなら英霊などとは呼ばれていないだろう。

 薄れている煙の中、予想通り飛び出してきたライダーは、見るからに魔力を高め始める。

「この感じ、宝具を使おうとしている?! 逃げなさい衛宮くん! ダメ元で障壁を張るわ!」

 凜の焦ったような言葉。

 だが。

 

「・・・・・・大丈夫だよ遠坂、そこでイリヤを守っていてくれ」

 

 士郎の言葉に、「なっ!」凜は思わず絶句する。

 ライダーは士郎に向かって宝具を発動した。

 『騎英の手綱(ベルレフォーン)』。

 膨大な力の波動をまき散らしながら、ペガサスに騎乗したライダーは、白い光となって士郎へ向かう。

 速度、威力。どれをとってもただの人間には対応不可だ。

 だが。

 衛宮士郎はただの人間ではない。

 いや、違う。士郎もただの人間だ。それでも今だけは、妹を・・・・・・イリヤを守る正義の味方になると、そう決意したのだ。

 だったら、覆せない現実の一つや二つ、乗り越えられないでどうする? 士郎は前に出る。

 それを体現するかのように、衛宮士郎は――。

 

 ――大切な者の前に立つ。

 

 士郎は一つの弓と剣を投影する。弓にかけられたその剣は、鋭く、それでいて細く矢として形を変えると・・・・・・その真名と共にライダーへと放たれた。

 

「『偽・螺旋剣Ⅱ(カラドボルグ)』」

 

 ズン、と。重力が増したように直後に襲いかかる衝撃波。

 二人の攻撃の衝突。それによって、そこを中心としてすさまじい振動が響く。

 余波だけで呼吸が止まる。

 それでも、士郎とライダー二人は動じない。

 互いに強大すぎる力。

 衝撃波だけでもその凄まじさがわかる。凜とイリヤも、防御礼装を展開しなければ軽く吹き飛ばされていたはずだ。

 しかし、士郎は揺るがない。次の一手を、その時を待つように。

 僅かながら相手の宝具が優っている。

 だがそれも当然だ、片や英霊の対軍宝具、片や投影された偽物。士郎にもそれはわかっている。だからこそ狙いはまた別のこと。

 ライダーは士郎の放った剣を押しのけ向かってくる。しかし攻撃はさっきほどの威力はない。それこそが士郎の狙い。

 士郎は右手を前に出すと。

「体は剣で出来ている――」

 それは詠唱にして誓い。

 

「――『熾天覆う七つの円環(ローアイアス)』」

 

 告げられるとともに顕現する赤い花。

 それはギリシャの英雄アイアスの盾。七枚の花弁一つ一つが城壁と同じ防御能力を持つそれは、アーチャーとなった衛宮士郎の唯一得意としていた防御用宝具。

 本来投擲武器にこそ本領を発揮する『熾天覆う七つの円環(ローアイアス)』だが、投擲武器以外にも十分すぎる防御宝具だ。

 その花弁を4枚まで破壊し、ライダーの宝具は動きを止める。防がれたことに驚いてるのか、それとも魔力を使いすぎたのか動かないライダーへトドメを刺そうと新しい武器を投影しようと・・・・・・。

 その直前、一人の人物が士郎の横を通りすぎる。

 

「『刺し穿つ死翔の槍(ゲイ・ボルグ)』!!」

 

 その人物が放った紅い槍がライダーの心臓へと刺さる。

 そしてそれを繰り出したのは青い衣装の格好をしたもう一人の魔法少女だった。

「クラスカード、ライダー、回収完了」

 抑揚のない声で呟いた少女は、そのままカードを手に取り、校舎の影へ目を向ける。

「オーホッホッホ、無様ですわね遠坂凛、動かぬ敵を前に見ているだけだなんて愚の骨頂、わずかな隙にいかにして必殺の一撃を入れるかで勝敗は決まるのですわ! 美遊よくやりました、お手柄ですわ」

 学校の陰から笑い声をあげながら出てきたのは金髪の女の子、ルヴィアだ。

「ルヴィア!? あんた生きてたのね・・・・・・というかあんたいつからいたのよ! いるなら早く出てきなさいよ!」

「たった今ですわ、現れてすぐに結果を出すなんてさすがわたくし、オーホッホッホ、オーホッブェ?!」

 ルヴィアの言葉腹が立ったのか、ルヴィア顔に凛の回し蹴りが決まる。

 たった二、三程度の会話で喧嘩を始める二人。

 その様子を見て、「はぁー」とルビーとサファイヤのため息が聞こえる。

 これを一日見せられ・・・・・・もとい、仲裁してきた士郎は、ルビーたちの気持ちは痛いほどわかる。

「不意打ちで偉そうにしてるんじゃないわよ! この金髪縦ロールが!」

「不意打ちで蹴りを入れてきといてなにを! これだから猿女の野蛮人は・・・・・・ぐふっ」

 なにをー! と早くも本格的喧嘩になっている二人に、傍観していた士郎が声をかけた。

「まー良いじゃないか、遠坂。結局みんな無事だったんだからさ」

「誰ですのこんなところに・・・・・・って、シェロ!? どうしてここに!?」

「どうしてって言われてもな」

 ルヴィアはなぜか士郎のことをシェロと呼ぶ。自分の名前が呼びづらいのだろうか、と士郎は考えていたが、そんな考えをよそに青い少女・・・・・・美遊が驚いたように声を出した。

 

「お兄・・・・・・ちゃん」

 

 最初は疑問の声。その後、飛びつくように士郎へ向かい、美遊はそのまま士郎へと抱きついた。

 突然の行動に周りが戸惑っている中、いち早く声をあげたのはイリヤだった。

「あ、あなた何してるの!? お兄ちゃんから離れて!」

 それの声にハッとしたのか、「ごっごめんなさい」と、謝りながら離れていく美遊。

 だが、士郎は知っている。なぜ美遊が自分に対して"お兄ちゃん"といったのか、どんな気持ちで今離れていくのかを。美遊と二人で話したい、と言うその気持ちを抑え、今は周りに話を合わせる。

「大丈夫だよ。気にしてないからさ」

 そのことでやっと落ち着いたのか、凜が鋭くこちらを睨む。

「そんなことより衛宮くん、説明してくれるんでしょうね。なぜあなたがここにいて、なぜ魔術を使えるのか」

「シェロが魔術を? 」

それを聞きルヴィアも士郎に対する警戒心があがる。

「説明が欲しいのは俺の方なんだけどな、なぜイリヤこんなところで戦っていて、何をしていたのかをさ。でもとりあえず、ここから出ないか? そろそろやばいと思うんだけどこの中」

 おどけるように言う士郎に、ムッとした表情をするも、

「確かにそうね、ルビー脱出するわよ」と納得の声を上げる。

「人使いのあらい年増ですねー。了解しましたよー。皆さーん近くに集まってくださーい。それでは、虚数軸を計測変数から排除! 中心座標固定、半径5メートルで反射路を形成、それでは、元の世界へ飛びますよー!」

 地面に魔法陣が描かれ光に包まれると五人は元の世界に帰還する。

「・・・・・・さてと、無事に戻れたことだし話を聞かせてもらいましょうか、衛宮くん?」

 絶対に逃がさないわよ? と言うような凜の笑顔を、士郎も笑顔で切り返す。

「話すのは良いけど遠坂まずはそっちからだ、これは譲れない。イリヤは俺の大切な妹だ、なぜこんな危険なことに巻き込まれたのか説明を聞く権利があると思うんだが?」

 大切な、という部分にイリヤは顔を赤くしてうつむいている。それを見てルビーがニヤニヤ? しているがそれを尻目に士郎と凜は話を続ける。

「確かにそうね、でもあなた本当に何も知らないの? 英霊と互角以上にやり合っておいて」

「英霊と互角? ・・・・・・本当なのでしょうね遠坂凛」

 真剣な声で聴いた。唐突に真剣な表情になるルヴィアの魔術師性がうかがえる。

「ええ本当よ、彼、宝具すら止めてたわよ。あなた達が来なければ倒していたのは衛宮くんだったでしょうね」

 疑わしい。けれどもそれ以上に信じられないのか、ルヴィアはこちらを見て驚いている。

「大袈裟だよ。確かに俺は魔術を使える魔術使いだ、けど魔術に関しては三流程度、まったく大したことはない。英霊とやり合えたのはまーろいろあるんだろ」

 適当にはぐらかす。

「魔術使い? 魔術師ではなくて?」

「ああ、俺は根源とかそういうのには興味はない、魔術を覚えたのは守るために必要だったからだ。俺の大切な人たちをな。だから信じてもらえるなら、遠坂とルヴィアもこれからも友達でいて欲しい」

 先ほどとは打って変わり、交友的な行動する士郎。先ほどのはただ単に凜をからかっていただけなのだ。

 手を伸ばし握手を求められたルヴィアは肩を震わせてうつむいている。

「す、す、素晴らしいですわシェロ、大切な人のために魔術を覚えたなんて、わたくしはあなたを尊敬しますわ」

 わたくしも大切な人に入れてくださいね、とルヴィアは士郎手を握り返しす。

 士郎よりすさまじいルヴィアの豹変ぶりに思わず言葉をつまらせる。

「あ、ありがとうルヴィア、そんな大層なことではないと思うけどな」

 士郎の軽い挑発めいた顔を見て、先ほどまでは演技だったのだと理解した凜は先ほどとは違う笑みを浮かべている。

「とりあえずあなたのことは少しわかったわ、あなたの話せない力のことは気になるし、いつか聞き出すけど今はいいわ、今はこっちが話す番ね」

 そういうと凛はカード回収のこと、ルビーやらのステッキのこと、なぜイリヤがここにいることなど手際よく話してくれた。

 簡単にまとめると突然冬木に現れた歪みと、謎のクラスカード。

 クラスカードの方は時計塔の魔術師ですら解析できていない。

 二つの現象は、関係があると判断され、凜達が回収役として送られたそうだ。

 それにしても、ステッキを使って喧嘩をし、しかもそれが原因で見放されるとは・・・・・・さすがに士郎でもフォローできない。

「なるほどな、そっちの女の子も似たような感じなのか?」

 士郎の発言に美遊の体がわずかに震える。

「ええ、こちらのステッキはサファイヤと言うのですけど、美遊をマスターと言い張って聞かないのですの」

「(なんとなく予想してたけど)、とりあえずはありがとう。遠坂、ルヴィア」

 『なんとなく予想してたけど』の部分は小声で言いながら、凜達の行動に・・・・・・いや、その甘さに礼を言う。

「ちょっとなんでお礼なのよ、そこは文句を言うところじゃないの?!」

「確かに文句も言いたいけど、魔術師ならイリヤを殺してでもルビーを取り返すところだろ? 最低でも記憶操作とかな、だからだよ。でも、やっぱり遠坂達は優しいな、魔術師からしたら甘いのかもしれないけど俺はそうあってくれて嬉しいよ」

 その甘さこそが凜やルヴィア達の優しさなのだ。

「きゅっ、急に変なこと言わないでよ!? びびびっびっくりするじゃない!」

 そのあとに「まっ元をたどれば遠坂達が原因なんだけどな」と士郎はが呟くが、その声は届かない。

「変なことは言ってないと思うが、それはそれとしてそのカード回収はまだ続くんだろ? なら俺も手伝いたいと思うんだけど・・・・・・どうかな? イリヤだけ危険な行為をさせるわけにはいかないんだが・・・・・・」

「衛宮くんがいれば確かに戦力にはなるけど・・・・・・」

「そうですわよシェロ、三流の魔術しか使えないのであればステッキを持っている美遊達より全然危険なんですのよ。それにランサーの『限定展開(インクルード)』を持ってすれば負けることはまずないと思いますわ」

 士郎はこの発言で、凛達が英霊についてあまり知らないと言うことを理解した。

 その強さも宝具の危険もわかっていない。だからこそ、なおさらここで引き下がるわけにはいかない。

「ルヴィア、英霊を少し舐めすぎだ。確かにランサーのそれは、確かに一刺一殺の呪いの槍。けど、それは必殺だが必中じゃない。相手の直感スキル次第では避けられるし、相手の宝具によれば防がれる可能性もある。何よりステッキありきとはいえ人間が投げれば投げるまでが遅すぎる。宝具とはあくまでそれを使いこなせる英霊が使ってこそ、その真価を発揮するものだからな」

 それに対してルヴィアは何もいえない、凛も雰囲気の変わった士郎を見て驚くが、自分の疑問をそのまま口にする。

「今の話を聞くと衛宮くんは英霊についてすごく詳しそうだけど、なぜそこまで言えるの?」

「それは言えない・・・・・・が、詳しいのは本当だ。俺は戦力以外にも使えると思うがどうする?」

 凛は少し考えるそぶりをすると「わかったわ」と、士郎の申し出を受け入れた。

「でも、いつかはその話せない内容聴きだすからね。さてと、今日はもう遅いわ、また明日話しましょ」

 そう言うと凛校門に向かって歩き出しルヴィア達も帰り始めた。

「ルヴィア少し待ってくれないか? 少しその子と話がしたい」

 それを聞いて美遊の肩がビクンと揺れる。

「それは別に構いませんが、二人でですか?」

「ああ、家には俺が送るから任せてくれ」

 ちらっと美遊の顔を確認すると何かを察したのか、

「わかりましたわ。美遊、先に帰ってますわよ」

ルヴィアは士郎の申し出を受ける。

「わ、わかりました」

 戸惑いながらも美遊は士郎の方へと歩き出した。

 

「イリヤ、詳しい話は帰ってからにしよう。今は先に帰っていてくれないか? ルビー、イリヤのこと頼めるか?」

「わたしは今の状況まだよくわからないけど、とりあえず先に帰るね。けど早く帰ってきてねお兄ちゃん!」

「お任せくださいお兄さん。イリヤさんのことはこのルビーちゃんがいれば安心です!」

 逆に心配を助長するが、さすがに大丈夫だろ、と帰路に向かうイリヤ達に手を振る。

 

 そして。

 士郎は美遊に向き直ると、

 

「初めまして、美遊。俺は君のことを知っている。違う世界での俺の妹、会えて良かった」

 

 優しい笑顔で口にした。

 

 

 

 




士郎の性格はけっこう変わってくると思います。
あくまで憑依なのでその憑依者の人格になるので・・・・・・違和感があっても受け入れてくれると嬉しいです

原作崩壊させると考えるの難しいですね~
伏線とかマジで無理ですが、頑張ります!
 
今回も読んでくださりありがとうございました。

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