Fate / 「さぁ、プリズマ☆イリヤを始めよう」   作:必殺遊び人

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 /*クロ編、と言うよりはツヴァイは、かなり時系列をいじくっています。*/
 少し違和感があるかと思いますが、ご理解いただけると助かります。

 今回はほとんどクロを視点にして書いています。
 クロの行動を、アニメとは違う解釈でよりシリアスに書き上げました。
  
 少し、展開をとばしている感は否めませんが、なるべく早くストーリーが進むようにしたことで読みやすくしたつもりです

 それではどうぞ!


16話とかとか~♪ 2wei クロ編 クロの選択

 

 

 

 『イリヤ』が今いる場所は暗い地下室。

 無駄に暗く、センスのかけらもないカーペットや置物の装飾が、この部屋の異質さを表している。

 ちょっと頭のおかしい子が集まったオカルト部、そんなイメージがぴったりだ。

 さらに、『イリヤ』がこの場で”拘束されている”という事実も相まって、そのイメージに拍車がかかってしまっている。と、何やら犯罪臭のする絵面なのだが、このなんとも否定しがたい今の状況には明確な理由が存在する。

 

「(まさかほんとに捕まるなんて思わなかったわ。だてに英霊と戦ってきてないってことか)」

 ここが地下室である以上、ここは誰それの家であるわけで・・・・・・。つまり何が言いたいかと言うと、この場所はルヴィア・エーデルフェルト、その家なのだ。

 ではなぜこのような場所で、ついでに言うなら昔の魔女狩りのように十字架に拘束されているのかと言うと。

 何を隠そう、『イリヤ』は本日二回目の返り討ちにあったからだ。

 

 

 

 数時間前。

 クロは、美遊達との戦闘の後、魔力の回復を図るため、と言うよりは自身の魔力を安定させるために、柳洞寺の周辺をうろついていた。

 そんな時、イリヤの声が耳に入る。

 なんでこんなところに? と疑問はあるが、先ほどの雪辱を晴らすためにそこへ向かう。

 そこで『イリヤ』が目にしたのは、木の枝に縄で拘束され、ミノムシのように吊るされているイリヤの姿だった。

 それだけならただの変態趣味野郎なのだが、そこに置かれている豪華な食事が、イリヤを含めて”『イリヤ』をつるための餌”だということを物語っている。

「・・・・・・」

 思わず黙ってしまうほどにわざとらしい罠。

 魔力もそこまでなく、わざわざ付き合うのも馬鹿らしいと引き返そうとしたのだが、胸にある靄がそれを良しとしない。

 その感情を表現するなら『寂しい』と言うのが一番ぴったり一致するのだが、なぜこの状況でその感情が出てくるのか『イリヤ』にはわからない。

 その答えを知りたい。あるいは鬱陶しいと思ったのか、それを解決するためにその罠へと飛び込んだ。

 

 

 『イリヤ』は、「んー」とこの状況を考えるようにイリヤの様子を観察する。

 罠だ。

 罠なのだ。

 どこからどう見ても罠でしかない。 

 ハッキリ言って馬鹿だ。むしろなぜこれで釣れると思っているのか理由が知りたい。

 しかも、何やら背後の草むらから凜たちのイリヤへの指示する声まで聞こえてくる。

 ここまでくると、『イリヤ』を挑発させることが目的と言われた方がしっくりくるぐらいだ。

「うーん・・・・・・どっからどう見ても罠よね、これ? なかなかリアクション困るわね・・・・・・」

 作戦が瓦解したとでも思ったのか。

 それを合図に、草むらから凜たちが飛び出してくる。

捕獲対象切り替え(フィーーッシュ)!」

 その言葉と共に、イリヤを拘束していた縄が一人でに動き出した。

 その縄はそのまま『イリヤ』を拘束。

(なるほど、そこまで馬鹿じゃないってことね。けど・・・・・・)

「甘いわよ」

 その縄を剣で切り裂く。

「ふんっ、甘いのはそちらですわ!!」

 思わずイラっときたが、その後の魔術をうけて思わず納得してしまう。

Zign(サイン)――見えざる鎖の檻(カオスブレアシュヴェーアークラフト)!!』

「重力系の捕縛陣ね・・・・・・でも、私には効かない」

 魔力を掌に溜めて地面に打ち出し、そうすることで魔法陣ごと崩壊させる。

 作戦はよし。少し遊ぶ程度の予定だった『イリヤ』は自分の表情が笑っているのを感じて、今の感情が先ほどとは違い、『楽しい』ということに驚く。

「とりあえず今できる全力の・・・・・・散弾!」

「ん?」

 続いてイリヤが魔力弾を放ってくるがそれはなぜか『イリヤ』には向かわない。

 しかし、それで起こった現象で、その目的を理解する。

「(・・・・・・!? なるほど、煙幕、ね。けど・・・・・・)」

 煙の外から美遊が攻撃を仕掛けてくる。しかもただの攻撃ではない。

 『破壊すべき全ての符(ルールブレイカー)』。

 どんな魔術でも問答無用で初期化させるそれは、まさしく最良の一手・・・・・・しかし――。

「・・・・・・これじゃダメよ美遊。それじゃ攻撃は届かない」

 

 ――それはもちろん当たればの話だ。

 

 美遊は、決めに来た一手を避けられ動揺するかと思いきや、すぐさま離れ距離をとる。

「あら、良い動きじゃない。でも今の攻撃は落第点よ。お兄ちゃんに怒られちゃうんじゃない?」

 煙幕を使った奇襲。

 士郎がよく使っていた手だが、今のは似ているようで全くの別物。

 今回に限ってだが、士郎なら、煙幕を”目隠し”程度の目的では使わない。

 煙幕は相手の視界を簡単に奪うことができる便利な攻撃だが、相手の技量次第では簡単に見切られる。不要に相手へ全方位警戒させてしまうのと同時に、飛び出した瞬間の煙の流れで、むしろ自分の居場所を教えてしまう。

 今回の様な使い方ならば、視界を奪うことではなく”相手の動揺を誘う”ことを目的とするべきだった。

 相手が動揺している隙に攻撃を加える。相手を冷静にさせる時間を与えず、速攻で決めにくるべきだったのだ。

「・・・・・・っ!(強い・・・・・・黒化英霊とは異質の強さ・・・・・・まるでこちらの手をすべて見切られているような)」

「ん? もう終わり?」

 んー、まぁお兄ちゃんがいないとこの程度かな、と予想どうりの結果に少し期待外れを否めない。

 あまり遊んでもあれだし、今日はもうお開きにしようかな、と考えていると、イリヤから聞き流せない言葉が漏れる。

 

「すっごくキモイ・・・・・・」

 

「キモイとは何だー!」  

 反射的に剣を投げつけ、戦闘を続行した『イリヤ』は悪くないだろう。

「やっぱりあなたはここで殺すわ。いえ、もう死んでください!」

 と、おかしなテンションになりつつあるが、その目は本気そのものだ。

 イリヤを追う時たまたま目に留まった凜達をついでと言わんばかりに、先ほど拘束された縄を使って逆に拘束する。

「なっ! 拘束帯を逆利用された!?」

(自分たちの武器をそのまま放置なんて馬鹿ね!)

 イリヤを追っていると、今度は美遊の邪魔が入る。 

 『イリヤ』は、相手の魔術を理解し対応しているわけではない。聖杯として存在しているが故に、作られた故に、”理論をとばして結果に至る”。

 それが『イリヤ』の力なのだ。

 それが魔術であるならば、その使い方を、どういったものなのかを、瞬時に理解することができる。

 クラスカードにしても同じだ。存在している原理は分からない、それでもその使い方は必然と頭に入ってくる。それ故に中途半端になってしまうのだが、聖杯としての魔力がそれを補って余りある。

 魔術師からしてみれば、『鶏が先か、卵が先か』と言う例の議論を、『ゴメーン両方食べちゃった!』の一言で終わらせられたみたいなものなのだ。

 そしてそれは、相手の弱点、相手の知りえない情報すら容易に知ることができる。

 例えば・・・・・・。

 

「駄目よ美遊。ステッキから意識をそらしちゃ・・・・・と言うわけでバイバイ、サファイヤ」

 

 強力なカレイドの弱点をピンポイントでつける。

 思いっきり空に吹き飛ばしたサファイヤから「美遊さまー」と言う叫び声が聞こえてくる。

「カレイド、と言うよりは美遊の弱点その一、接近戦――そしてその二、ステッキが手から離れて三十秒経つか、五十メートル以上離れると転身解除。次は気をつけたほうが良いわよ・・・・・・次なんてないけどねっ」

 そう可愛らしく言い残すと、本命へと足を進める。

「そんな・・・・・・美遊まで・・・・・・」

「行動が的確すぎます! これはちょっとやばいかもですよイリヤさん・・・・・・って、なに座りこんじゃってるんですか!」

 残すは、と言うよりはやっとイリヤを相手できる。

(あきらめちゃった、か・・・・・・)

 イリヤの様子を見てわずかに失望の色を現すが、どちらにしろ結果は分からないと無駄な思考を放棄する。

 『イリヤ』が近づく度に涙目で後退するイリヤ。

 心のもやもやが止まらない、それもイリヤを殺せば止まるだろう。そう思い剣を構える。

 

「それじゃ、お別れねイリヤ」

 

 

 

 その後、まんまと底なし沼と言う罠にはまった『イリヤ』はこうやって拘束されている。 

 沼に魔術の起動停止術式まで使うという徹底ぶり。

 最初から相手の手のひらだったことに、思わず溜息をつく。

 目に涙の跡があるのは、捕まった際に凛とルヴィアに散々馬鹿にされたからだ。

 「いいもん、お兄ちゃんに言いつけるもん」とすねている『イリヤ』の姿はなんともまた愛らしい。

 先ほどまで全員勢ぞろいで尋問・・・・・・と言うよりは簡単な質問をされたが、今この空間には誰もいない。

 

「さて、そろそろ良いかしらね」 

 

 そう呟くと、何重にも術式を一瞬ですべて解除する。

 術式の理解も何もない。ただ解除したという結果だけを理不尽に引き起こす。

 この部屋自体にかけられている『イリヤ』を外に出さない術式。もはやそこまでする? と軽く引くレベルなのだが、イリヤには同様に関係ない。

「んーっと、ちょっと窮屈だったかしらねー」

 体をほぐすように動かした『イリヤ』は、伸ばした手をそのままおなかへと持ってくる。

 その手が触れているのは、先ほど凜に書かれた魔術刻印。

 痛覚共有。

 イリヤと自分二人の痛覚を共通させる呪い系統の術式。『イリヤ』への一方的な共有だが、これがある限りイリヤへの攻撃はすべて自分に戻ってくる。

 しかも、一方的故に、自分のダメージはイリヤへは行かない。

 そのため、イリヤを殺すにはどうしても相打ち覚悟になってしまう。

 だが、どんなに強力だろうと、どんなに複雑だろうと、『イリヤ』には呼吸をするように解呪できる。

 迷う必要はない。こんなもの百害あって一利なしだ。

 

 なぜか、それをしようとする手が動かない。

 

 これを消すことは、何か取り返しのつかないものも消してしまうと微かに感じ取って。

 何か、ではない。

 『イリヤ』はすでに気づいている。

 イリヤを殺したいという気持ちが風化したわけじゃない。

 それでも、あるかもしれない。――一緒に過ごす未来が、共に生きる選択肢が、楽しく笑っている可能性が、そう考えている自分がいることを。

 あるかもしれないではない、そう望む自分がいる。その心を『イリヤ』はしかっりと感じ取っていた。

 最初から気づいていた。知っていて無視した。

 イリヤを殺すこと、それは一人になることと同義だと。

 普通の生活には絶対に戻れなくなる。

 魔術師として生きるにも、こんなに不安定な体では満足に活動もできない。何より・・・・・・アインツベルンはもういない。

 今の『イリヤ』に残されている選択肢は二つ。

 この呪いを言い訳に、イリヤと生きること。そしてもう一つは・・・・・・。

  

 この呪いを利用し『イリヤを殺して自分も死ぬこと』。

  

 それが『イリヤ』の出した結論だった。

 

 

 死、と言うものは『イリヤ』からしたらそこまで恐ろしい事じゃない。

 今だっていつ消えてもおかしくはないのだ。そんな覚悟はとっくにできている。

 だからこそだろう。

 今ある欲望に誰よりも全力だ。

 全力だとも。

 なぜなら、体が汚れたー、綺麗にしたいー、その思いから――――ルヴィアの家のお風呂に直行したぐらいなのだから。

  

 わーひろーい、と楽しそうな声を上げている『イリヤ』は、今は何もかも忘れて湯船を堪能している。そう、

 

 

「ごめんね美遊、いきなり押しかけたりなんかして・・・・・・」

「別に問題ない。むしろ来てくれて嬉しい」

「わー大きいお風呂ー」

「いえ、リズさんのもすごく大きいです」

「急に何の話してるの美遊!?」

 

 と、にぎやかな声が聞こえてくるまでは・・・・・・。

「――んあっ」

「――あッ!?」

 直後。

 浴場にバシャーンと、イリヤの飛び込む音が響く。

「ちょっイリヤさん!? 急に飛び込んでは・・・・・・」

 セラの注意する声が聞こえるが、今のイリヤはそれどころではない。

「(なんでアナタがここにいるの!?)」

「(そんなのお風呂に入りたかったからに決まっているじゃない?)」

「(そうだろうけど! そうなんだろうけど! そうじゃないしょー!)」

 水中で会話する二人だが、『イリヤ』からしたら、この状況はさして問題ではない。

「(ちょうどいいわね、ちょっとあいさつしくるわ)」

「(は!? 待って・・・・・・待てって言ってんだろこらー!!)」

  

 イリヤの心の叫びは、セラたちが退出するまで止まることはなかった。

 

 

 

「それで、なんでこんなところにいるのかしら・・・・・・”クロ”?」

 セラたちと入れ違いで入ってきた凛とルヴィア。

 この状況はイリヤ達からすでに聞いたのか、微妙に顔を引きつらせている。

「えー、私がどこにいようが私の勝手でしょ?」

「そうじゃないわよ。はぁーまあいいわ、まったくどうやって抜け出したのかしら・・・・・・」

 凜とルヴィアの二人はやはり魔術師にしては甘すぎる。

 それが『イリヤ』の二人に対する評価だった。それ故に、警戒心を強めている自分が馬鹿らしい。

「でもちょうどいいですわ。ここで棚上げにしていた話をしましょうか」

 その言葉に、一瞬呼吸が止まる。

「ねぇクロ、そろそろ話してくれる気にはならない?」

「・・・・・・・・・・・・」

「また、だんまりなの?」

 はぁーとため息をつく凜をよそに、『イリヤ』は自分の考えるべきこと、をしっかり理解していた。

(私の中でまだ結論は出てない。だからまだ答えられない。でも・・・・・・クロ、か)

 クロ。

 それは凜がつけた『イリヤ』の名前。

 『イリヤとイリヤじゃ分かりずらいわよ!』と、無理やりつけられた名前だが、別段いやな気はしない。

 むしろ嬉しいと思っている。

 自分こそが”イリヤ”であると、その思いは確かにある。それでも、偽物と思われても仕方ない自分を・・・・・・一人の人間として、一つの存在として、見てくれている。それが無性に嬉しかったのだ。

「いい加減答えてくれないと私たちも何もできないわ。もしかして

・・・・・・・・・・・・衛宮君」

「・・・・・・!?」

「あなたが使っている魔術と、衛宮君が使っている魔術は同じものよね? いいえそれだけじゃない、戦闘スタイルから投影しているものまで同じ」

「・・・・・・」

「彼なら、何か知っているの?」

 やはり凜は優秀だ。恐らく何もわかってないと言いながら、ある程度の予想はついているのだろう。

 しかも、『イリヤ』の表情を読み取ることで、自分の考えを結論付けようとしている。

 しかし、ここで無駄に結論を導き出されるのは、今の『イリヤ』にとっては好ましくない。

 だからここは、

「・・・・・・お兄ちゃんは、私に一度も剣を向けなかったわ。それでも私はお兄ちゃんを刺した。それほどの覚悟を持って、私はイリヤを殺そうとしているの。でも、だからこそ、お兄ちゃんを刺したからこそ・・・・・・! 私は結論を急げない。自分がどうしたいか、しっかり考える必要があるの。それがわかるまで、私は何も答えられない」

 自分の考えを口にする

 『イリヤ』・・・・・・いや、今はクロだろうか。

 クロは、生まれて初めて自分の意志で道を選んでいる。

 イリヤの歩んできた道を見ているのではなく、自分が歩く道を模索している。

 長くはない。

 クロの体にはそこまでの時間はない。

 それでも最初で最後になるかも知れない、大事なことだから、クロはその選択に全力になれる。

「そう、なら私からはこれ以上聞かないわ。話したくなったら話してちょうだい」

 やっぱり甘いと、だからこそ魅力的だとクロは思う。

「それに今回の事、私たちはそこまでクロに焦点を置いていないわ」

「その通り、問題は別。アーチャーのクラスカードがなくなったことですわ」 

「イリヤ、理解してないかもしれないけど、大空洞でやった事、あれはとんでもない事よ。自分を媒体にした英霊の力の召喚、魔術協会すら知らないことをやってのけたの。でも、あなたには選ぶ権利があるわ。このまま魔術とかかわるか、今回の事から手を引くか」

 何気ない質問。

 しかしそれは、クロの求めている答えを導きだすのに重要なものだ。

 魔術を選べば、一緒に生きる道も探せるかもしれない。なぜならアーチャーのカードはクロの中にあるのだから。

「だからイリヤ。あなたの望みを答えなさい」

 クロの心に緊張が走る。

 

「望み? んー別に大した望みはないけど・・・・・・ただ、『元の生活に戻りたい』、かな」

 

 静寂が訪れる。

 本心だったのだろう、それ故にその言葉の意味に気付かない。   

 凜とルヴィアは悲しい顔をしながら納得を。

 美遊は決して自分の存在と交われないもどかしさを心に秘め。 

 そしてクロは――――

 

 絶望と共に決断する。

 

「あはは、あははははははははははははははははははははははははははははははははは」

 突然笑い出したクロに、周りは唖然とする。

「あー、・・・・・・何を期待してたのかしらね。大丈夫よイリヤ、あなたは間違ってない。それが正しいもの。それに・・・・・・ありがとう、あなたのおかげでやっと答えが得られたわ」

「ど、うゆうこと・・・・・・?」 

 イリヤの質問には答えずクロはアーチャーの服装を投影する。それこそが答えだとそう言うように。

 続いて弓と剣を投影する。

 そこでさすがに凜も気づいてのか、慌てたように立ち上がる。

「早まらないでクロ! まだあなたをどうするかの結論は出ていないわ!」

「そうかもね。でも関係ないわ。結論はすぐに出る」

 そしてイリヤへと向き直り。

「元の生活、いいんじゃない。こんな危険ばかり起きる生活より、今まで通りお兄ちゃんと普通の日常を過ごしたほうが良いものね。・・・・・・ただ、それなら私を殺してから、ね」

 クロはもう迷わない。

 自分の事を話さないのに、わかって貰おうだなんておこがましにもほどがある。

 それはクロもわかっている。

 それでも! だからこそ、気づいてほしかった。何もわからないなら自分なりに調べてほしかった。わからないから放置なんて選択してほしくなかった。自分の事なのに、そこまで重要じゃないと言われているような気がして辛かった。

 自分の身勝手さに腹が立つ。

 それでもこれが私だと、自分の考えを曲げてまで生きる意味はないと。

 そして、イリヤの出した結論がそれなら・・・・・・私はイリヤを殺すだけだと。

 それを証明するように、クロはイリヤへ弓を引く。

 『偽・偽・螺旋剣(カラドボルグⅢ)』。

 猛烈な魔力の波動と共にイリヤへと向かうそれは、正確にはイリヤを狙っていない。

 だが、その波動だけでもイリヤには防御するだけで精いっぱいだろう。

 壁を破壊する爆発の余波で視界が歪む。

 クロがイリヤを狙わなかったのは最後のチャンスを与えるため。ほんの少しだが、イリヤへ知る時間を与えた。

 何もしないならそれで構わない。何も知らずに死ぬだけだと。

 イリヤ達の視界がおさまる前に、クロはその場から姿を消した・・・・・・。

 

 

 

 翌日。

 美優は一人で下校を行っていた。

 下駄箱に入っていた手紙、そこにはクロから美遊への招待状。

 昨日の出来事で最もクロの心を理解できたのは自分だと。だからこそ、クロを止められるのは自分だけだと。その思いで美遊は向かう。

 指定された場所、そこは海。それは美遊にとって初めての景色。

「すごい・・・・・・」

 

 美遊は変わった。

 イリヤと出会い、ルヴィアと出会い、そして・・・・・・士郎と出会うことで・・・・・・。

 だから今度は自分が力になるのだと。

 一人。

 それが何よりも辛いことを美遊は知っている。自分の時は悲しさを士郎が救ってくれたと。なら自分はクロの悲しみを少しでも、と。

 

「まるで、初めて海を見た反応ね美遊。ちゃんと一人で来てくれたのね嬉しいわ」

 

 美遊が目を向けた先。

 そこにいたのは、一人ぼっちの少女の姿だった。 

 

 

 

 




今回も読んでいただきありがとうございます。

ラストの展開ですがなぜか美遊にもヒーローフラグが立ちましたね。
気づいたらあんな感じに書いていたので次の話数どうしようか、今から頭を抱えています

そしてお詫びです。
感想にて、誤字脱字が非常に多いとの指摘をいただきました。
自分でも感じてはいたのですが、なかなか減らすことができず申し訳ありません。

誤字を見つける→直す→その話数の話を改良する→新たな誤字が出る

と言うように、謎のループが出来上がっています。
自分では気づかない部分もあるので、よろしければ話数だけでもいいので感想で教えていただけると助かります。

そして、誤字を見つけるたんびにその話数をかなり書き直しています。
初投稿に比べるとすべての話数が二千字程度増えていたり、その後の話の矛盾を解決させる会話を入れたりとかなり書き換えています。
もちろん読み返さなくても問題ないように書かれていますが、時間がありましたら読み返していただけると嬉しいです。
大体一ヶ月程度で千文字弱の書き直しを行っていると思います。

それでは、今回もありがとうございました。次回もよろしくお願いします。

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