Fate / 「さぁ、プリズマ☆イリヤを始めよう」   作:必殺遊び人

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とうとうバーサーカー編が終了しました。今回は士郎の力を知ってもらうために少し長くなりました。
来週からはとうとう『ツヴァイ編』に入ります。シリアスギャグどちらメインがいいですかねー、個人的にはシリアス少なめで行きたいのですが・・・・・・。

それはそうとお気に入りがいつの間にか300超えてました! まさかそんなになるとは思っていなかったのでとても嬉しいです!!!
これからも頑張っていくので宜しくお願い致します。
バーサーカー編の最後をどうぞお楽しみください!


13話とかとか~♪ バーサーカー編 二人の主人公

  

 

 

 聞こえてくるのは爆音。

 目に見えるのは白く揺らめく土煙と、恐らく、お互いの武器を合わせた際に起こる火花のみ。

 美遊は動けず、その場にいることしかできなかった。

 今動けば、確実にバーサーカーの意識に入る。それが、士郎の足かせになってしまうと理解している。

 バーサーカーを殺したのは美遊だ。だがそれは同時に、それ以降の戦闘手段の減少を意味する。

 いいや、それを抜きにしてもあの場所に美遊の居場所はない。サファイヤという魔術礼装、『夢幻召喚(インストール)』による英霊の召喚。それをしてなお、美遊の力は足りなかった。

 しかし、美遊の存在が無意味か? と問われればそれは否だろう。

 美遊がいるからこそ、士郎は戦える。美遊がいるからこそ、士郎は剣を握れる。守られる存在としてではない。士郎にとっての大切な存在として、美遊は士郎のちからに変わる。

 だから信じて美遊は待つ。士郎は勝つと、倒してくれると信じて待つ。ただ、

(次は絶対その隣にいて見せる)

 

 新たなる覚悟を心に秘めて。

 

 

 

 

 士郎の手には二つの武器。

 伝承にそって、悪竜を殺すために魔術師に作られた一つの剣、アスカロン。

 士郎の身体とは比べものにもならないほどの大きさをしたアックアの象徴、メイス。

 五メートルほどのメイスを軽々振り回す今の士郎は先ほどとは別人。

 それは、新たに投影した、メイスの憑依による力の上乗せ。

 アックアの力はもともと、ある三つの性質によって構成されている。一つは”神の右席”、一つは聖人、そしてもう一つ――。

 

 ――『聖母』。

 

 聖人とは、神の子と似た身体特徴を持っている者のことである。しかし、アックアはそれ以外にも聖母とも同じく似た身体的特徴を有しているのだ。

 神の子を生んだとさせる十字教のナンバー2。

 『聖母』と神の子は親子関係にある。同時に二人の身体的特徴を持つことは、魔術的に何ら不思議ではない。

 故に、三つの人外的能力を持つアックアの力の上限は見えない。

 ではなぜ今までその力を使わなかったのか? 理由はできなかったのだ。

 『アックア』は一度『聖母』の力を失っている。

 その失った力の代わりとして、アスカロンという礼装を使っていたのだ。

 士郎が最初に行ったのはアスカロンの投影。つまり、『弱体したアックアの力』を使っていたということだ。

 それは士郎の誤算。

 士郎自身『事実は小説よりも奇なり(バビロンオブワード)』の力を完全に把握してはいない。 

 想定外なことは必ず起こる。

 だからこそ二本目の投影。

 力を失う前のアックアが使っていた武器の投影、それによって力を上乗せしたのだ。

 だが、本来の力の行使は士郎にとって・・・・・・アックアにとっても強大すぎる力だ。

 それほどの力をどうやってコントロールしているのか? その方法は言うなれば博打。

 ある種の力は、『一定ラインを超えると安定する』と言う性質を持つ。飛行機は遅いほうが扱いやすいが、遅すぎると失墜する。士郎が行っているのは、あえて飛行機を高速で飛ばし、機体を安定させているのと同じことだ。

 士郎の中にある膨大なテレズマが、腕力を脚力を、耐久力を、あらゆる身体的部位を大幅に向上させる。

 バーサーカーの体を、少しずつ士郎の武器が削っていく。

 ただの剣術による戦闘ならバーサーカーが後れを取ることはない。だが先ほどは、それ以外によって後手に回った。

 知らない技術――魔術の併用。

 士郎の周りを動く水の粒子がバーサーカーの意識を反らす。攻撃とは、必ずしも目で追っているわけではない。体に向かってくる危機感からの反射、高速で行われる戦闘では、こちらのほうがメインになる・・・・・・だからこそ直接狙わない。

 士郎はあえて動きを制限するように攻撃することで、バーサーカーの反応を遅らせる。

 士郎の剣激がバーサーカーを襲う。

 下から救い上げるような士郎の攻撃、それを肩を引くことで容易に回避。

 バーサーカーを倒すにはまだ届かない・・・・・・だからこそ準備していた

 不意にバーサーカーが違和感を覚える、地面に広がる巨大な水たまり。よく見ると、その水は地震であるかのように微かに揺れている。

 突如、士郎は地面を蹴り後ろへ跳躍する。

 直後。爆発。

 爆発による水蒸気と、煙を眺めながら、士郎はその顔に僅な笑みを浮かべている。

「水は容易に体積を変える。うまく使えば爆弾にも変わるんだぜ、知らなかったか?」

 爆発後の降り注ぐ雨を見ながら、士郎の声だけがそこに響く。

 だが、こんなことではバーサーカーは殺せない。それを証明するように、煙の中にバーサーカーの影が見える。

 しかし、先ほどまで声がしたところに士郎はいない。それより上の階。先ほどの爆発で”作った”穴を使い、そこまでやってきたのだ。

 士郎の視線の先はただの地面、その向こうにバーサーカーはいる。空気中にある水分子を使った『間接型探索術式』を使いそれを把握する。

 その方向へ士郎はいつと変わらないように構える。

 それは黒い弓。それに交差するようにメイス構え、それを矢として最適な形へと変えていく。

「忘れていないかバーサーカー。俺の本質はあくまでアーチャーだということを」

「―――体は――」

 その直後、士郎から放たれた矢は、床を貫き、一瞬にしてバーサーカーの頭上へと迫る。

「――剣でできている――――」

 その剣は、当然のようにバーサーカーの額を貫いた。

 

 バーサーカーの体はすでに修復に入っている。

「さすがに、今のじゃ殺しきれないか・・・・・・」

 先ほどの攻撃にはかなりの魔力を込めた、それでもやはり足りない。

「それなら、死ぬまで殺すだけだ」

 士郎は再び地面に刺していたアスカロンを掴み、再び構える――――――その時、士郎の剣が四方に砕けた。

 一瞬の戸惑い。何が? そう思うよりも早く、士郎の体が・・・・・・内側から破壊された。

「ぐぉふっ!??!?」

 士郎の口から、大量の血の塊がこぼれ落ちる。

「ぐぅぁぁぁぁぁぁああ」

 それは叫び。体の中を直接かき混ぜられているような壮絶な痛みに、士郎の意識が離れていく。

(い、いったい・・・・・・何が・・・・・・?)

 この現象は明らかに、テレズマの暴走。聖人としての体の崩壊。

 士郎の魔術師の知識が、それを正確に教えてくれている。

(まさか・・・・・・礼装の崩壊? 加えた力に耐えられなかったのか・・・・・・!)

 

 『事実は小説よりも奇なり(バビロンオブワード)』で、士郎が知らない力が存在するとしたらこの一転に限るだろう。

 士郎の憑依経験は基本保存型と言える。剣を投影して得た情報は、その剣が壊れようとも失われることはない。

 だが『事実は小説よりも奇なり(バビロンオブワード)』による投影は違った。剣の破壊、それは情報の遮断を意味する。

 例えるなら士郎本来の投影がパソコン本体に保存されているデータだとすると、『事実は小説よりも奇なり(バビロンオブワード)』は、剣をUSBとした外部保存。USBがなくなればそのデータは得られない。

 投影品を失った士郎は、そのままテレズマとしての制御方法を失い、その暴走を受けたのだ。

 本来、データを失えばすべての受けていた力は消失する

 しかし、データとは一気にすべて焼失するものではない。

 礼装が破壊されたことによりデータが消失。だが先に失われたのは『アックア』のテレズマを制御していた制御法・・・・・つまりは経験。

 そのため、体に残ったテレズマによる身体の破壊。

 ようは運が悪かった。失ったデータの順番が悪かったのだ。

事実は小説よりも奇なり(バビロンオブワード)』は、その力を行使するにあたっての『矛盾点の徹底的な除去』それこそが根底。そのため、一時的にだが、士郎の体自体・・・・・・と言うよりは”性質”を僅かにだが作り変えている。

 

 これは剣の破壊によりおきた身体崩壊ではない、あくまでもアックアの弱点がデータを失ったことで引き起こされたものだ。

 しかしここで一つ疑問が残る。なせアスカロン、は急に砕け散ったのか、と。それはある意味必然、それが投影品だったからだ。

 いくら精密に作ろうが、それはあくまで作り物。いつかは壊れ消えていく。

 偶然が重なったからこそ起こった悲劇。

 メイスの消失により『聖母』として上乗せしていたテレズマが制御を失いアスカロンへ流れ、膨大な魔力に耐えられず砕た。それによりテレズマの制御を失い身体の崩壊。

 メイスの新たな投影。憑依したアックアの性質。行使した魔術の知識不足。

 それらの偶然が、士郎に必然とも言えるこの状況を作り出した。

 

 士郎は膝をつき服を染める大量の血にを感じながら、前方へと目を向ける。

 そう、まだ戦いが終わったわけではない。バーサーカーはそこにいる。

 まずい・・・・・・・! そう思うと同時に、士郎は美遊に向かってかすれるような声でこう言う。

「美遊・・・・・逃げろ。俺も、後から行く・・・・・・から先に・・・・・・」

 動かない体を無理やり美遊の方へ向かせると、そこには、士郎へ飛び込んでくる美遊の姿があった。

 

 

 

 美遊は目の前で何が起こったかわからなかった。

 士郎がバーサーカーを殺した。そこまでは何も問題はなかった。その直後に響いた士郎の叫び。それを合図に士郎の体から大量の血がこぼれ落ちる。

 明らかに死にかかわるほどの量。

 その時、すでに美遊の体は動いていた。

(――――いやだ)

 士郎が膝をつき倒れている。

(――――いやだいやだ)

 バーサーカーはまだそこにいる。

(――――大切な人を こんなところで)

 士郎の微かな声が美遊に届く。

(――――失いたくない)

 振り向く士郎に美遊は飛び込んでいた。

 

 傷つく体に美遊が飛び込んできた。思わず声が漏れそうになるが、気合で何とか我慢する。

「美遊逃げろって、言った・・・・・だろ」

「やだよ・・・・・・いなくならないで。お願いだがら、一人にしないで・・・・・・!」

 美遊が泣きそうな声で懇願する。

 座りこんだ体に美遊が腕を回す。

 バーサーカーはすでに回復を終え、こちらに歩いてくる。変化のないその表情は今の士郎を見て「残念だ」そう言っているように見える。

 士郎は美遊の頭に手を置き、美遊が落ち着くように優しくなでる。

 そして、体を話すとほとんど残っていない力を使って、美遊を部屋に空いた穴へと放り投げた。

「サファ、イヤあと・・・・・は、頼んだ」

 美遊とサファイヤが士郎に向かって叫ぶ、だが士郎にその声は届かない。

 士郎は悲鳴を上げる身体に鞭打ちながらも、何とか立ち上がる。美遊を逃がしたのは万が一の時のためだ。今の士郎に死ぬつもりなど毛頭ない。

(・・・・・・死ぬわけにはいかない。必ず帰ると約束した)

 わずかにだが士郎の体に力が入る。それは雀の涙ほどだろう。

(体が死に体? それがどうした)

 士郎はその体をバーサーカーへ向ける。

(それでも立ち上がるのが、英雄(ヒーロー)だろうが!)

 

「『異界同調_開始(トレースクロス・オン)』」

 

 これは賭けだ。

 士郎にはもうバーサーカーと打ち合うだけの力は残っていない。

 士郎が手にする剣は龍の形をした柄でできた刃折れの剣。一つの大罪を背負いしものが持っていた、一本の剣。

 バーサーカーは斧剣をただ横に振り回す。

 それに対して士郎がとった行動は防御ではない。

「『壊れた幻想(ブロークンファンタズム)』」

 刃折れの剣を、ではない。士郎が瞬間的に投影した『干渉・莫耶』を、だ。

バーサーカーと士郎の間で爆発したその剣は、その爆風を持って、二人の体を強引に引き離す。

 士郎が行なったそれは、自身の体を傷つけながらも、絶対の死を回避する。

「はぁ、はぁはぁ・・・・・・はは」

 何とか笑顔を作ろうとするももはやそれをすること自体困難だ。

 それで士郎は足を止めない。

 バーサーカーの攻撃が迫るたびに、先ほど同様に後退する。

 士郎の戦闘経験は並ではない。それは、自身より圧倒的なまでに強い敵。戦闘において士郎が彼らと違うものは、武器や精神、その存在ではない。単純なパワーやスピード、それこそがただの戦闘では如実に現れた。

だが、それでも士郎は勝ってきた。動体視力。過去の経験が今この場でこそ進化を発揮する。それはが魔術ではなく単なる成れ。

 それによってバーサーカーの攻撃を見切り、剣が届く前に回避行動を行える。

 それでも長くは続かない。

 だが、数回目には士郎の命を懸けた回避すらあざ笑うかのように、バーサーカーは士郎へ追いつく。

 それならばと、士郎は連続的に行うことでバーサーカーの攻撃を回避する。

 叫ぶことすらもうできない。

 士郎がやっているのは爆発の檻に自身を投げ込んでいるようなものだ。

 叫ぶ力すら残っているはずがない。

 

 ――限界だった。

 

 士郎の体がわずかにぐらつく。

 と同時に、バーサーカーの攻撃が迫る。

(さっき、よ・・・・・・も早、い!?)

 それを確認した士郎は大量の剣を盾に使い、わずかに剣速を低下させる。

 爆発によって後退した士郎の体はもう限界に近い。

 皮膚は焼け骨は折れ、内臓すらもぐちゃぐちゃだ。

 『壊れた幻想(ブロークンファンタズム)』による緊急回避。それを何十回と行ったのだ。もともとぼろぼろの体にそれだけの負荷をかけ、まだ立っている方が不思議なくらいだろう。

(くっ・・・・・・やっと溜まった、か。計算で、はギリギリだ。それでもこれでやるしか・・・・・・ない)

 先ほどからバーサーカーのステータスがまた上がっている。

 これ以上は目で見切ることも厳しいだろう。

「最後、だ・・・・・・バー、サーカー・・・・・・」

 一言。聞こえるか聞こえないかのその声は確かに士郎のものだった。

 それをトリガーに士郎の体から膨大な魔力が溢れ出す。

 目にみえるほどの圧倒的な魔力量。

 士郎が投影した剣。それは『七つの大罪』団長。『憤怒の罪(ドラゴン・シン)』メリオダスが持っていた剣だ。

 士郎が求めていたのは剣にある特性などではない。ほしかったのはメリオダスの技。

 その技は、自身にかける魔力をゼロにすることで、受けた魔力によるダメージを蓄積させ、それを膨大な魔力へと姿を変える。

 そう、士郎が先ほどから行っていた『壊れた幻想(ブロークンファンタズム)』による緊急回避。それは回避ともう一つ、自身へ魔力によるダメージを与えるため。もちろん強化魔術はかけていない。もはや五感すら働いていないだろう。

 本来この技は、素の体で圧倒的耐久力を持つメリオダスだからこそ行えるのだ。しかもそのメリオダスですらもろ刃の剣と言われている技。それを行おうだの正気の沙汰ではない。

 『事実は小説よりも奇なり(バビロンオブワード)』で聖人同様に肉体を近づけられるのでは? その可能性もあっただろう。しかし、メリオダスは人間ではなく魔人。その肉体へと変えるのはさすがに不可能だ。そもそも、聖人ですら肉体の変化までは行っていない。あくまでその身に『テレズマ』を宿し、宿せる身体へ性質を変えただけなのだ。

 

 バーサーカーはゆっくりと歩きながら士郎へ向かう。よける必要などないというように、それすらも12試練の続きだとでもいうように。

 士郎の目は虚ろだ、もはや自分が立っているのカどうかもわからない。

 それでも。

 目の前で斧剣を振り上げるバーサーカーへ、

 横一線。

 

「『リベンジ・カウンター』」

 

 一時の静寂がその場を支配する。

 そして、次の瞬間。それは真価を発揮した。

 ドカンッ!! と士郎の前が白一色に染まる。

 虚数軸の世界すら飲み込む魔力の本流。

 その衝撃は美遊の『約束された勝利の剣(エクスカリバー)』よりも凄まじい。

 長かったのかわずかだったのか、今の士郎には判断がつかない。

 しかし、そんなことは関係ない。

 士郎のわずかに開くその目にはバーサーカーの姿は映らない。

 士郎は倒れこむように前の目に倒れこむ。

「・・・・・・はぁはぁ・・・・・・・」

 わずかな振動ですら士郎の体が悲鳴を上げる。

 だが。なんとか。

「はは・・・・・・やっ、た。・・・・・・これ、で、もう・・・・・・」

 その時。

 目の前の天井が崩れ、そこから――。

 

 倒したはずの英霊の姿が現れる。

 

「――!」

 一瞬の判断で、何とか立ち上がった士郎の前では、すでにバーサーカーが斧剣を振り上げている。

(間に合わな・・・・・・!)

 しかし、体の限界は当の昔に超えていた。腕が上がらない。

 士郎がそれに気づけなかったのは、すでに痛覚すらも感じないからだ。

 

 ・・・・・・しかし、その攻撃は士郎へ届かない

 

「「お兄ちゃん(さん)!!」」

 視界の確保ほど満足に生かず、赤と青、二つの色その判別だけが何とかできる。しかし、それが誰だかは容易に想像でた。

 士郎の目指したものがそこにはいた。この世界にいる本物の□□□が。

(そうだったな、お前たちが――――)

「もう大丈夫だから、遅くなってごめんなさい」

 それは士郎の憧れそのもの。

「今度は私たちが守ります」

 イリヤと美遊、二人の少女が士郎の前に立つ。

(――――お前たちこそが、主人公だ)

 

「「『並列限定展開(パラレル・インクルード)』」」

 その言葉を最後に、士郎の意識は途切れた。

 

 

 ****************

 

 

 目を開けると、白い天井が目に入る。

 白で統一された空間と、その独特匂いは、そこが病院だと容易に想像できた。

(「解析_開始(トレース_オン)」)

 とりあえず自分の身体を確認する士郎。

 そこから帰ってくる情報は、思いのほか問題がない。恐らく魔術による回復だろう。

 手を動かそうとして、それに初めて気づいた。

 二人の少女に握られて動かせない。二人は士郎の手を握り、椅子に座りながら眠っている。

 そこでようやく、すべてが終わったのだと理解した。

 バーサーカーはきっと二人で倒したのだろう。最後の方は士郎はほとんど覚えていない。それでも二人が自分を助けてくれたことは覚えている。

 握られていない反対の手で、二りの頭を撫でる。

「ありがとな。イリヤ、美遊」

 その声に反応したのか、眠っていたイリヤが起きる。

「ん、んぅぅ、お兄・・・・・・ちゃん?」

「起こしちゃたっか」

 士郎は静かに笑顔を向ける。

 イリヤはその目に涙を浮かべ、士郎に抱き着きながら「ごめんなさい、ごめんなさい」と嗚咽を漏らす。

 

 

 イリヤがカード回収の場所に来た時、凜とルヴィアがそこにはいた。事情を聴き、士郎たちのもとへ向かう直前、美遊が現れたのだ。イリヤ達を見た美遊は、混乱しながらも事情を話し、それを聞いたイリヤ達はすぐさま士郎のもとへ向かったのだ。

 バーサーカーを倒した美遊達はすぐに士郎の治療を行った。凜の話では、生きているのがおかしいくらいの傷だったのだそうだ。

 何とか二人の魔術で一命は取り留め、その後、この病院へ運んだのだ。

 イリヤは自分が遅れたのを後悔し、美遊は士郎のもとから離れなかった。

 イリヤが士郎に謝っているのはそういうことであり、士郎もイリヤの心の内は理解していた。

「イリヤお前が戻ってきてくれた。それだけで十分だ。俺が信じたお前のやさしさは間違ってなかったんだから」

「でも、私が逃げなかったら、お兄ちゃんはこんなことにならなかったのにっ・・・・・・!」

 イリヤは引き下がれない。最愛の兄をもう少しで失うところだったのだ。そんな簡単に自分を許せるわけがない。

「強くなるから――――」

「えっ?」

 イリヤは予想と違う士郎の言葉に理解でできずに驚きの声を返す。

「――――もう二度と負けないから。イリヤが、二度とこんなことで涙を流さないように強くなるから・・・・・・待っていてくれないか」

 それはイリヤに対する誓い。

 それは、イリヤが求めていた言葉とは、的外れ以外の何物でもない。

 なぜだろう? その言葉はイリヤの心に響いた。

 次第にイリヤの心が落ち着いてくる。

「私も、頑張って強くなるよ。お兄ちゃんに負けないぐらい強くなる」

 イリヤの言う強さとは力でなく心、それは二度と自分が間違えないように。

 そうか、と士郎は微笑みながらイリヤを抱き寄せる。

 イリヤは突然の士郎の行動に驚くが、ほんの少しこの時間を楽しもうと士郎に身を任せるのだった。

 

 しかし、それを良しとしない者がいた。

 

「・・・・・・何してるの?」

 静かで、それでいて冷たい美遊の声。二人はゆっくりと視線を美遊へ移す。

「お、おう。美遊も・・・・・・起きたんだな」

「美遊っ、ち、違うの! これはなんといますか・・・・・・」

 イリヤの言い訳を待たずに、美遊は無言で士郎の腕をとりそこに抱き着きながら、

「イリヤは私の友達、でも・・・・・・お兄さんは渡さない。それが例え、イリヤであっても」

 宣戦布告を行った。

 美遊の言葉に思わず固まる士郎。

(おかしい、何がおかしいって。少し嬉しいと思ってる自分の精神がおかしい・・・・・・じゃなくて! なに? 美遊ってこんな子だったっけ?!)

 イリヤは突然のことにフリーズしている。

(イリヤ起きろ! この状況を打開できるのはお前だけだ)

 

 

 その後イリヤと美遊の冷戦がはじまり、

『美遊何言ってるの私は、別にお兄ちゃんとそんな関係になりたいだなんて一言も・・・・・・』

『なら問題ない。イリヤは私の大事な友達、お兄さんは私がもらう』

『それはダメ! じゃなくて、お、お兄ちゃん! 美遊になにしたの!』

『私はいつもと変わらない。いつも通り兄さんが好きなだけ』

『それは妹としてだよね?! お願いだからそうだっと言って!』

 だんだん収拾がつかなくなる二人のために、士郎の必殺「大人になったらな」の言葉によってこの場を終わらした。

 そして見舞いに来たセラや凜達に謝りながら、やっと戻ってきた日常をその光景に感じるのだった。

 

 それはカード回収は終了を告げるエンディングで、士郎たちの次なる物語へのオープニングだ。

 これが始まりの合図なのだ。もう一人のイリヤによる復讐劇。その時は刻々と近づいているのだから。

 

 

 

 凜はカードを奪ったルヴィアを制し、魔術協会へ報告の電話を入れた。

 そこにはヘリコプターの残骸とルヴィアの体が転がっている。

『カード回収の件はよくやった。これで冬木の地脈も安定するだろう。約束通り、お前たちを弟子に迎えるのもやぶさかではない、と大師父はおっしゃっている』

「それなら!」

『だが、こうもおっしゃっている。魔術を学ぶ前にお前らには一般常識がまるで足りんと。幸いお前たちはそちらの学校に通ってるのだったな。こんなに早くに転校しては、お前たちも寂しかろう。期間は一年、日本で協調性を学んで来い』

「ま、まさか、わざわざ私たちに転校させたのって・・・・・・」

『さぁてな、お前たちは今回のことを反省し、喧嘩で行動をぶち壊すような性格を直してこい。弟子にするのはそれからだ、とのことだ』

 それを最後に通話は切れ、凛の手はカタカタと震えている。

「ふ、ふっざけんなぁああああ!!」

 凜の叫びは、悲しく響くのだった。

 

 

 

 

 




今回の『吾輩は猫である』は今後の美遊についてです。
 今回の美遊の行動から、どんどん士郎に積極的になると思われます。
取り合えヤンデレ化ではないと言っておきましょう。
 イリヤとの関係は、原作どうりただ一人の友達スタイルで、士郎に関しては微かにヤンデレ要素が入った、最後は私がもらうといった感じになると思います。
このままでは原作崩壊が止まらない感じがするので、イリヤとクロには大いに頑張ってほしいです。
 士郎自身、妹たちのことは好きですが恋愛的な要素はない・・・・・・と思われます
これからどう書こうか感想などからも取り入れたいのでこんな展開見てみたいなどあればぜひ!
 話がそれてしまったので今回はこのぐらいにしたいと思います。
今回もありがとうございました!!

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