群狼戦記〜ブリッツ・フリート〜   作:ヨシフ書記長

8 / 12
これが今年最後です。



プロパガンダ

クレッチマーは自分の置かれている状況に心底うんざりしていた。

軍の広報に載せるためとはいえ、長い時間表情を固定するのはあまりにも苦痛だった。

 

「クレッチマーさん!もう少し顔の緊張を解いてください!もう少し自然に!」

 

カメラの後ろでは、黒い髪をオールバックにした小男が、こちらに向かって、指示を出していた。

この小男の名はヨセフ・ゲッベルス…軍の宣伝部長を務める男である。

 

(海軍の戦意高揚の為だが…本当に俺でいいのかねぇ…?他にもいたろうに…)

 

クレッチマーはそんなことを考えながら、写真のレンズに向かって笑顔を浮かべた…。

 

ーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーー

 

 

 

クレッチマーはプロパガンダの撮影とインタビューを終えると

逃げる様に参謀本部から駅へと向かった。

 

 

「ふぅ…。帰りの車も用意してくれるとは…いやはや

流石は参謀本部と言いたいところだが…。」

 

クレッチマーは揺れる車内の中で

そう呟きながらブリーフケースから出した号外の新聞を読んだ。

 

そこには、フランソワ共和国軍の越境ニュースだった。

 

「やはりか…。これで帝国は二正面作戦を強いられるな…。

参謀本部は想定してたみたいだな…。」

 

クレッチマーは眉間に皺を寄せながら思考を巡らせた

 

(俺の知ってるシュリーフェン・プランと同じ様な作戦みたいだが…。

やはり、補給線と兵站が上手くいかないだろう。まぁ…列車での兵士の移動が上手くいったのは唯一の救いだな…。)

 

「ライン川の工業地帯近くで膠着したみたいだが…。

いったいどれだけの兵士が死ぬ事やら…」

 

(電撃戦…いや、浸透戦術を使えば膠着状態を打破できるかもしれんが…。そんな事より共和国海軍だ…。相手がどう動くかだな…。

まぁ…そのお陰で俺は休日を残り三日にされたがな!試験飛行場の見学もあるのに!)

 

クレッチマーは目を伏せながら

新聞を握り潰すとブリーフケースに押し込んだ。

 

ーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーー

 

 

 

 

 

クルスコス陸軍試験飛行場

そこは、数少ない文献などから魔導技術の研究などを行っている試験場である。そんな試験場の片隅に大きな蒲鉾型のシェルターが二つある。そこが海軍飛行試験場なのだ。

 

クレッチマーは兵士が運転するオートバイのサイドカーに乗りながら向かっていた。

 

「うぅ…。酔いそうだ…。」

 

クレッチマーがそう弱音を漏らすと

運転している兵士は言った

 

「ハハハ…!海軍さんは船に乗ってるから乗り物酔いをしないと思ってましたが意外でありますな!」

 

クレッチマーはその言葉に顔を青くしながら言った

 

「残念ながら…私は潜水艦乗りなのでね…。

列車なんかはいいのだが…こういうのはね?」

「へへへ…。おっ!そうこうしてるうちに着きましたぜ!」

 

オートバイは止まると、クレッチマーは青い顔しながら立ち上がり

サイドカーを降りると軍帽をかぶり直した。

すると、建物から作業着姿の男が出てきた。

その男はクレッチマーを見るとニコッと笑いながら言った

 

「ややや!よ〜うこそ!クレッチマー少尉殿!試験飛行場へ!

私は所長のノイマンと申します!宜しく!」

 

ノイマンは手を差し出すとクレッチマーに握手をした。

クレッチマーは青い顔でニコッと笑いながら言った

 

「こちらこそ、よろしく頼む。ノイマン所長」

「それで?どんなものを見に来たのでしょう?」

「あぁ…。これ何だが…?」

 

クレッチマーはそう言うとポケットから

ティルピッツから貰った紙を渡した。

ノイマンはそれを見ると目を輝かせながら言った。

 

「これは…!例のアレを見に来たんですね?成程!了解しました!

私に付いてきて下さい!」

 

クレッチマーはノイマンについて行こうとすると上空で爆発音が聞こえた!

 

「ん?何の音だ?」

 

クレッチマーは辺りを見渡していると、クレッチマーに向かって

空から無線機器のような物が落ちてきていた!

 

「…?何だ…?…!」

 

クレッチマーは避けようとしたが間に合いそうにもなかった

ヤバイっと目を閉じたその時…!

 

「早くよけんか !馬鹿者!!」

 

という怒号が聞こえたかと思うと、

クレッチマーの襟首が何者かに掴まれ投げ飛ばされた!

 

クレッチマーはそのまま思いっきり地面とキスをする羽目になった。

クレッチマーはフラフラになりながらもなんとか立ち上がると後ろを振り返った。

そこには、パラシュートを背中に付けた飛行服姿の幼女が立って居た

 

これは、後に白銀のターニャと海狼のクレッチマーと呼ばれる。

幼女と少年の最悪の出会いであった。

 




ターニャと出会ったクレッチマー…
しかし、あまり仲が良くないようで?
ティルピッツがクレッチマーにわざわざ飛行場に向かわせた秘密とは?

次回「浪漫飛行」

感想をお待ちしております

▲ページの一番上に飛ぶ
X(Twitter)で読了報告
感想を書く ※感想一覧 ※ログインせずに感想を書き込みたい場合はこちら
内容
0文字 10~5000文字
感想を書き込む前に 感想を投稿する際のガイドライン に違反していないか確認して下さい。
※展開予想はネタ潰しになるだけですので、感想欄ではご遠慮ください。