すみません…
サイレンが鳴り響くカール軍港では海軍兵士達が大慌てで動き回っていた。
「急げ!出航の準備を早くしろ!」
「錨を上げろー!」
「索敵部隊からの連絡はまだか!」
北方艦隊司令室ではデーニッツがほかの司令官と話し合っていた。
司令官の一人が声を荒げながら机を叩きつけるとこう言った
「フランソワは何の為にオスロに!」
「もちろん…我々をこの軍港から出さないようにする為でしょう」
「それに、オスロにフランソワの艦艇が停泊するだけでも、我々への脅威となります」
「確かに…我々への十分な牽制にもなる」
「カール軍港の沖合を機雷原でもされたら他の艦艇の修繕も出来なくなる」
司令官達が話し合っていると司令室に伝令兵が入ってきた。
「失礼致します!クレッチマー少尉殿がもうすぐ到着すると連絡が!」
「何?もうか?先程電報が送られてきたところだぞ?」
「流石は鉄十字勲章をとったものだ…。行動が早い…」
「しかし…試験飛行場からここまで数マイル離れているぞ?」
「何で来る気だ?」
司令官達がそう話し合っていると外が騒がしくなっていた。
それに気づいたデーニッツは窓から外を見ると空に1機の飛行機がカモメの様に飛んでいた。
「あれは一体…」
《tr》
「クレッチマー殿!カール軍港に到着しましたぞ!」
エンジンの音が激しい中…ノイマンは大声を出しながら、横にいるクレッチマーにそう言った。クレッチマーは背中に何かを背負いながらこう返した。
「ありがとう!所長…着陸してくれと言いたいが…!飛行場はだいぶ遠くにあるからな…!」
クレッチマーはそう言うとゴーグルをつけた。
「そこに着陸いたしましょう!」
「いや、結構だ!ありがとう!所長!」
クレッチマーは横の扉のレバーに手をかけると扉を開け放ちそう言った。ノイマン所長は驚愕の表情を浮かべながらこう叫んだ!
「ク…!クレッチマー少尉!何をする気ですか!」
「何…!ここから飛び降りるだけだ…!」
クレッチマーはそう言うとシュトルヒから飛び出した!
クレッチマーは瞬間的に後ろを向くとノイマンに敬礼しながらこう言った。
「さらばだ!ノイマン所長!送ってくれた事に感謝する!」
そのままクレッチマーは落ちていった。
作業する海兵がふと空を見やげると、空から軍服を着た少年が落ちてきていた。
「な、なんだ?」
「誰か落ちてきてるぞ!」
「敵か?」
海兵達はとっさに身構えたが、少年は途中でパラシュートを開き、上空を少し旋回した後…パラシュートを切り離し海兵の目の前に着地した。
パラシュートの布がその少年の背中に落ちてくると…まるで少年は天使の様に見えた!
少年は立ち上がると周りを見渡すと叫んだ!
「私の名はクレッチマー少尉である!高速艇の準備は出来ているか!」
「は…!はい!Sボートは今にも出撃可能です!」
クレッチマーの目の前に立つ、海兵は敬礼をしたままそう答えた。
「よろしい!Sボート部隊員は揃っているのか!」
「はい!すでに乗船しております!」
「よろしい!貴官の名は?」
「はっ!ヨセフ・タルコフスキーであります!」
「よろしい!ヨセフくん!着いてこい!」
クレッチマーは早足でS ボートの停泊する桟橋へと向かうのだった…。
〜フランソワ海軍・協商連合支援艦隊〜
「周りに敵影を確認したらすぐに報告しろ!いいな!」
見張り台で周りを確認している海兵達を叱責しているのは支援艦隊指揮官・ペリーヌ中将である。
「ペリーヌ中将!」
「なんだ!」
慌てて近づいてきた副官にペリーヌは眉間に皺を寄せながらそう返した。
「先程…!無線室が帝国の無線を傍受し!我々の存在が帝国にバレたようで!」
「ふん!今更気づいても遅いわ!あと少しでオスロフィヨルドだ!フィヨルドにさえ入れば!あとはこちらのもの!機関最大!速度をもっと上げろ!」
ペリーヌに対し、部下はこう返した。
「いえ!これが機関いっぱいです!」
「なんだと…!これで最大なのか!」
「ええ…!何分旧式なもので…!」
「クソったれ!」
ペリーヌは悪態をつくと手すりを握りしめながら海を眺めると心の中でこう思った。
(おのれェ!ド・ルーゴめェ…!何が…!支援艦隊を協商連合へと送るだ?ただの見栄では無いか!
何が!この私を栄誉ある支援艦隊の指揮官に任命するだ?
この艦隊の主力は、旧式の巡洋艦に新型の駆逐艦…!旧式の巡洋艦は速度が出ず、新型の駆逐艦は練度不足!
この様な寄せ集めの艦隊でよくオスロに行けと言ったものだ!まるで自殺行為そのものでは無いか!!
いくら戦意高揚の為とは言え!この様な艦隊では!帝国の北洋艦隊とも渡り合えん!逃げるだけで精一杯だ!
ド・ルーゴ!覚えておれ!ワシが本国に帰還したら!お前を元帥の座から引きずり下ろしてやる!)
ペリーヌは忌々しそうに顔を歪めながら海を眺めるのだった。
「魚雷装填急げー!」
「エンジンを早く動かせ!」
帝国海兵達は慌ただしくSボートを早く発進させようと動き回っていた。クレッチマーはその海兵達を見回すとタルコフスキーにこう言った。
「タルコフスキー君…ピストルを持っているか?」
「ピ…ピストルですか?」
タルコフスキーは、クレッチマーの言葉に困惑した表情を浮かべながらも腰のホルスターからピストルを抜くと、クレッチマーに手渡した。
クレッチマーはピストルを受け取ると暫し…それを眺めるとピストルを空に向け発砲した。
その発砲音と共に作業していた海兵達は全員手を止め、クレッチマーの方に注目する。
クレッチマーは近くにあった台の上に立つと叫んだ!
「諸君…手を動かしながら聞きたまえ…!勇猛果敢な帝国海兵諸君!私の名はクレッチマー少尉である!帝国海軍はたった今!危機的状況にある!愚かにも西方艦隊はフランソワ艦隊を取り逃し!フランソワ艦隊は今にもオスロフィヨルドへと向かおうとしている!事態は一刻を争う!この北海の覇者は我々帝国海軍だと言うことをあの共和国軍の連中に思い知らせてやれ!さて…!」
「クレッチマー!」
クレッチマーが言い切る前に司令部からデーニッツが慌てて走ってきた。クレッチマーは台の上から降りると敬礼しこういった。
「デーニッツ中将…私はこれからSボートに乗り、直接共和国艦隊を沈めてきます。御命令して下さい」
「う…うむ!」
(何という…!愛国心!流石は皇帝陛下に気に入られることだけの事はある!)
デーニッツはクレッチマーを見ながらそう思うと…返礼しながらこう言った。
「クレッチマー少尉!貴官をSボート特別部隊司令官に任命する!必ずや共和国海軍をオスロに入らせるな!」
「ハッ!」
クレッチマーはデーニッツの言葉にビシッと敬礼をすると…Sボートの近くにいる海兵たちを見ながらこう言った。
「さて…諸君!司令官としての最初の命令は出撃だ!礼儀知らずのフランソワの連中にこの海の支配者は誰かを教えてやれ!さらに!連中をこの冷たい北海の漁礁にしてやるのだ!必ずや…!我らが皇帝陛下に勝利を!」
クレッチマーがそう言い切ると海兵達は歓声を上げるのだった。
クレッチマーはさらにこう言った!
「よろしい!各艦の艦長は私の所に来てくれ!渡すものがある!」
クレッチマーは鞄からなにやら紙を出すとそれをヒラヒラとさせながら見せた。
「他の兵士は一刻でも早く出撃できるよう!整備を急げ!無線機も周波数を合わせろ!いいな?よし!急げ!」
クレッチマーの言葉に海兵達は慌てて動き始めるのだった。
S ボートとは…
木製で出来た船体に高性能エンジンを搭載しており、速力は30ノットを超える事が可能である。武装は魚雷発射管を2基並びに37cm連装高射砲と20ミリ機関銃を装備している。木製の船体にした事により、速度が出るのはもちろんだが機雷による被害を受けないというメリットもあるのである。
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