ダンジョンで魔法チートするのは間違ってない   作:みゃー

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かなりの難産、かなり強引な繋げ方をしています。

400件突破感謝です。




「うわー…」

 

ベルに連れられて来た場所は、『豊穣の女主人』という名の酒場だった。

 

とても繁盛している様で冒険者たちの騒ぐ声がしっちゃかめっちゃかに絡んで耳を打つ。昔父さんが『良く食い良く寝て良く戦う。これこそ男の良き人生ってやつだ』って言ってたけど、顔を真っ赤にして食べ物食い散らかす冒険者達の様を見るとやろうという気にはならなかった。

 

ベルはこういう場所に来たのが初めてらしく、田舎者丸出しで目を丸くしつつカウンターの隅の席へと到着した。

 

俺は村に結構大きめの酒場があったからもう慣れている。

 

「す、すごいね…」

「まあ酒場って言ったらこんなものだろ。それよりもお前金持ってんの?」

「へっ?」

「いや、ほれメニュー表」

「こ、これは…!」

 

うん、言わずともわかるぞベル。高いよな。まあ俺とベルの稼ぎ合わせたら余裕で食えるけど、零細ファミリア故節約できるところはしておきたい。

 

「シュワシュワが二杯で500ヴァリス、一番安いスパゲッティが一つ350ヴァリス…」

「はいよ!お待ちどうさま!今日のおすすめだよ!」

「へっ?」

 

ベルが血なまこになって計算していると、上から太い腕とともにでっかい皿がどんと置かれた。ベルが青い顔をして見上げると、そこには恰幅の良い女店主が1人、にっと笑った。

 

「あんたがシルの言ってた冒険者かい?そっちのは連れ?なんだ、2人とも随分と細っこいじゃないか!」

「余計なお世話だ…って、シル?」

「うちの店員さね!弁当まで渡されたんだろう?随分と気に入られたねえ?」

「…おいベル。どういう事だこら!」

「じ、実は朝にちょっと…」

 

つまりこいつ、可愛い店員さんに誘われたからほいほいきちまったって事かよ!どんだけ危機管理無いんだこの馬鹿!

 

俺がベルをジト目で睨むと、ベルはあははと目を背けた。

 

店主は豪快に笑うと、ベルに対して顔を寄せた。

 

「なんでも物凄い大食漢らしいじゃないか!今日は遠慮なく食っていっていきなよ?」

「た、大食漢!?」

 

やっぱり搾り取るつもりだったらしい。

 

「…る、ルイス…」

 

ベルが捨てられた子ウサギのように顔をこちらに向けてきた。

 

「…ちっ、しゃーなしだな」

「ルイス!」

「仕方ないから俺の分は自分で払ってやるよ。感謝しろよベル」

「ルイスうう!?何当たり前みたいに奢らせようとしてるの!?」

 

そう言いながらメニュー表に目を配るベルは、一気に顔を青くした。

 

「今日のおすすめ…850ヴァリス…」

 

まあ頑張れ。

 

「ふふ、楽しんでますか、冒険者さん」

 

俺が運ばれた飯にありついていると、ベルに話しかける少女が1人。

 

可愛らしい顔立ちをした、笑顔のよく似合う美少女だった。ニコニコとベルの隣まで寄ってくる。

 

「圧倒されてます…」

 

ベルの言葉にクスクスと笑って、申し訳なさ半分、楽しさ半分といった表情で口を開く。

 

「ごめんなさい、少し奮発して頂くだけでいいので」

「はあ…」

「今日のお給金は期待できそうです」

 

意地悪そうに笑う。なるほど、彼女が件のシルさんとやらか。

 

「ははは、まあいい勉強になったじゃねえか」

「あら?そちらの方は…?」

 

シルさんが頭を傾ける。

 

「僕と同じファミリアの仲間です」

「そうなんですね!あ、そう言えば自己紹介がまだでしたね。私はシル・フローヴァです。お二人のお名前は?」

「えっと、ベル・クラネルって言います」

「俺はルイス・フォレス…って、なにナチュラルに座ってんだ?」

 

ベルの隣にちょこんと座るシルさんに目を向けると、シルさんは舌を出して小声で言った。

 

「ふふ、ベルさんの接客です。少しだけ休憩させて下さいね」

 

強かである。

 

 

 

 

 

 

「団体様ご案内にゃー!」

 

それから暫く雑談に花を咲かせていると、今まで騒いでいた冒険者達が突然ざわめき始める。

 

「おいおい、えれえ上玉じゃねえか!」

「馬鹿野郎、ありゃロキファミリアだ!」

「ロキファミリア!?おいおい、マジかよ…」

 

聞いた覚えのある単語に思わず振り返ると、確かにあの時話した狼男とアイズさんが仲間であろう人々と一緒に中に入ってきていた。

 

「ロキファミリアはうちの常連さんなんです。良くいらっしゃるんですよ」

 

俺がロキファミリアに興味を抱いたと勘違いしたのか、シルさんが俺に向かってそう言ってくる。へー。

 

まあ、俺の隣の奴は興味津々らしいが。

 

「…!」

 

顔を真っ赤にしてチラチラとアイズさんに目を向けている。男子中学生か!

 

…中学生ってなんだっけ?と思ったけど、まあそこは置いておいて。

 

アイズさんが店の中に入ってから、ベルはそれはもうそわそわと盛大に焦り始めた。その様はシルさんに酷く心配されるほどだった。

 

数分してから俺はベルをけしかけてみることにした。あんまりこういう事はやりたくはないのだが、ベルの奴がいつまでもいじいじしているのがちょっとだけイラっと来たので。

 

俺はベルの脇に肘を入れて、おい、と声をかける。

 

「いるじゃん、アイズさん」

「…!」

「…話しかけてこないの?」

「は、話しっ!?」

 

ベルが取り乱した。

 

「は、はははは話しかけるなんて、そんな!」

「だってまだお礼言ってないだろ。いい機会じゃねえか」

「いやっ、でも…!」

 

煮え切らないやつだ。まあベルの性格上仕方ないのかね。

 

そんなこんなで動かずにいるベルに、もう半ばあきらめて飯を食ってると、どっ、と後ろで笑い声がした。

 

「おい、アイズ!そろそろあの話を皆にしてやれよ!」

 

という狼男の嘲笑も交じった言葉から始まったのは、あの俺とベルのミノタウロス事件の事に関してだった。

 

その内容は控えめに聞いても俺とベルを明らかに罵倒する内容も含まれており、団員たちの雰囲気も少しだけ暗く変化した。

 

「おい、アイズ!おめえはどうだ!俺とあのトマト野郎、選ぶならどっちだ!?」

 

そんな言葉にベルの方がびくりと反応した。

 

「お前にはあのトマト野郎はふさわしくねえ!あの軟弱な雑魚野郎に、お前の隣に立つ資格はありゃしねえ!何よりもお前がそれを認めねえ!」

「ちょっ、ベート、酔いすぎだって!」

 

相当酔っているのだろうか。周りの静止など意にも留めずにまくしたてる。

 

おいおい、何を思ってそんな事を言っているのか知らないが、それを寄りにもよってベルの前で言うか…?

 

俺はベルをちらっと横目に見た。

 

「…!」

 

ベルは拳を血が出る程握りしめて、歯を食いしばっていた。

 

「お、おい…ベル…」

「…!」

「あっ、ベルさん!?」

 

俺が話しかけると同時に、ベルは席を弾き飛ばすように立ち上がって駆け出していた。

 

「…あーあぁ…」

 

俺は頭を掻きながらベルと、ベルを追って外に飛び出したシルさんの後姿を見ていた。

 

気持ちはわかる。好きな女の目の前で『お前には相応しくない』、と名指しで言われたのだ。その心中は察するに余りある。男としての敗北感、いや、ベルの場合だから、ただただ己の不甲斐なさをひしひしと感じている事だろう。

 

今なおわめく狼男に視線をちらりとやって、俺は折角の料理の味が消え失せたのを感じた。

 

「あ、あの…ベルさんが…」

「…ああ。分かってる。俺の連れが騒がせてすまねえな」

「いえ…あの、一体何が…?」

「まあ、色々あるんすよ、色々と」

 

シルさんが困惑した様子で戻ってきた。どうやらベルの事を心配しているようだ。ベルめ、こんなかわいい子にこんな表情させやがって。どうやらあいつは天性の女たらしの才能を持っているようだ。

 

…はあ。しかし、少なくとも飯食ってるような気分じゃねえな。俺はシルさんに財布から今日の分のお代を押し付けて、女将さんに「騒がせてすみません」と一言謝って店を出る事にした。

 

「…君…」

「ああ、アイズさん。久しぶりです」

 

アイズさんが俺に気が付いて話しかけてきた。

 

「…さっきの子は…」

「ああ…まあ気にしないでいいっすよ」

「でも…」

 

どうやらアイズさん的にベルの事が気になっているらしい。

 

「気にしないでやってください。男の子だから、色々とあるんすよ」

「男の子だから…?」

「そうそう。後一言言わせてもらっていいっすかね?」

「…うん」

 

俺は店から出て、アイズさんに笑顔だけ向けてこういった。

 

「犬の躾はちゃんとしといた方がいいですよ」

 

言い切ってやった快感。気持ちいい。

 

後ろでちょっと騒ぎがうるさくなったのを感じつつ、俺はベルの行ったであろう場所に向けて足を向けた。

 

 

 

Θ

 

 

 

あの実直愚直のベルがこのままホームまで戻ってただただ泣き寝入りするとは考えづらい。

 

酷く心が傷ついたはずだ、自分の自信を踏み砕かれたはずだ。

 

だけどあいつはそこでくたばるようなタマじゃないように思える。踏みつければ踏みつける程、叩きつければ叩きつける程、あいつはさらに上へと跳ね返る。そう、まさにウサギの様に。

 

うん、完全に直感だけどね。出会って数週間しか経っていない他人の事を知った風に言うなって話だけどな。

 

だけどこういう直感は、俺の場合は良く当たる。これは俺が生まれつきからの能力っていうか体質のようなものなのだが、魔法を使えるようになってからその精度がなぜか結構上がったりしてるし。

 

こういう時、あいつだったら…そうだな。

 

俺が思い出した記憶の数々。様々な主人公達の事を思い浮かべる。

 

弱気だった一般人が、ある出来事を境にヒーローへと昇華していく。そんな物語は決して少なくない。挫け、立ち直り、そして昇華していく。そういうまさに英雄と呼ぶべき人物の事を俺は良く知っている。成り上がりと表現するのが正しいのだろうか。ベルはまさしくそんな、成り上がり系の主人公を体現したかのような奴だ。

 

そんなベルが心をくじかれて向かう場所。

 

 

『男の子なら、ダンジョンに出会いを求めなくっちゃな』

 

 

ベルの奴、前に爺さんにこんな事を言われたんだって楽し気に言ってたっけ。

 

俺は空高く夜空を突き刺すバベルの塔へと、足を向けたのだった。

 


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