ダンジョンで魔法チートするのは間違ってない 作:みゃー
東方のプロットの方投稿しちゃったっべー。まじっべー。
すぐに直しましたけどはずいっべー。
まじっべー。べーわ。っべー…
ベルとダンジョンに潜ったり、一人でダンジョンに潜ったり、一日中潜ってたり次の日の昼まで潜ってたりしていたらエイナさんと神様にこっぴどく叱られた。行けそうだったから行っただけなのに、ちょっと過保護すぎやしませんかね。
挙句の果てに次徹夜でダンジョンに入ったら1週間ダンジョンに入るのを禁止にするとか言われたので断腸の思いで控える事にしたけど、でもなんか釈然としない。
「あはは…ドンマイ、ルイス」
ベルはそういって笑ってたけど、お前だって一人で良く潜ってるの俺知ってるぞ。何バレてないからって他人事の様に言ってんだおい。エイナさんにチクるぞこら。
そんなこんなでお金も溜まったので武器(ナイフ一本)と防具(ベルと同じような軽装備、ただし黒色が基本)もそろえて、すでにオラリオでの生活が当たり前となり始めた今日この頃。
俺は、今日も今日とてダンジョンに潜るのだった。
☆
ダンジョンとは、魔物の巣窟。魔物の母親の胎内である。
つまり、ダンジョンは壁から天井、床に至るまで、そのすべてが魔物の卵。魔物はどこからでも現れる。現れて、本能の赴くままに人間を襲うのだ。
こうした魔物たちは放っておくとダンジョンの外へと出て来るらしいので、俺のようなダンジョンを冒険する事で生計を立てる冒険者たちは、こうしてダンジョンに生まれる魔物を駆逐して魔石を回収、そうしてお金を稼ぎながら知らず知らずのうちに平和を守っているという訳である。
まあ、俺は金と、それと実力さえ手に入れば後はどうでもいいんだけどな。ダンジョンとはそういうものだと理解するのも大事だとエイナさんに叩き込まれた結果である。
「【火よ在れ、ファイアボール!】
俺が繰り出した火球は寸分の狂いもなく魔物へと迫り、爆炎へと包み込む。最近では魔力の量を少し増やしても問題ない程度には魔力も増えてきたし、とある理由で魔力をバンバン使いやすくなったので前以上に魔法をぶっぱしている。
ちょっとコツがいるが、実は複数のページの並列起動も可能だ。まあ並列起動って言っても同じ種類の魔法に限るけど。例えばファイアボール三連発とかな。
これを使えば組み合わせでまったく新しい魔法が生み出せるんじゃないかと四苦八苦中だが、中々うまくいかない。要研究だな。
「ねえルイス…」
と、俺が魔法に対して思いをはせていると、隣で倒した魔物の魔石を拾っていたベルが話しかけてきた。いつもの能天気な感じじゃなくて、様子がおかしい。何か気になることがあるようだ。
「なんだ?」
「…なんだか、嫌な予感がするんだ。前の階層と違って魔物の数も少ないし、それに、雰囲気も…」
俺はベルの言葉にうなずいた。どれも事実だったし、最後の言葉の言わんとすることも分かったからだ。
今日のダンジョンは何か様子がおかしい。雰囲気が重いっていうか、空気が冷たいっていうか。魔物も全然いないし、耳が痛いほど静寂に包まれているのだ。
まあ、それも当たり前なんだがな。
「やっぱり、エイナさんの言いつけ破って5階に来ちゃったのはまずかったかな」
「ああ。多分これがエイナさんがゆっくり進めって言ってた理由なんだろうな」
恐らく、これが5階層の空気なのだろう。なるほど、なんだか身体が緊張するし、息がつまる。いつも2、3階と4階の入り口辺りをウロチョロしてた俺たちには、まだ5階層は早かったのかもしれないな。
ただ、出てくる魔物は簡単に倒せるんだけどなぁ…。
「どうする?今日はもう帰るか?」
「…ううん。もうちょっと奥に行きたい。この感じだと、全然いけそうだし!」
「そっか。んじゃ行くか!」
「うん!」
そういう訳でさらに奥へと進む事になった。
まさか、この判断が後に大きな転換のきっかけになるとは、この時は俺もベルも、思いもしなかったのである。
☆
「敵、発見!コボルト3体にゴブリン2体!」
「了解!支援お願い!」
そういってベルは果敢に飛び出していく。
3回目の戦闘だった。俺とベルのコンビネーションは素人ながらに結構良くなってきている。二人で潜っていると自然と役割分担が出来てくる。例えば俺が敵の数の把握、戦況の確認、後方支援を行い、ベルが前にでて前衛、壁役、そして殲滅を行う、といった具合にだ。
駆け出したベルにコボルトのうちの一体が衝突する。短刀でうまく相手の攻撃をいなして、隙をついて突き立てる。「ぐぎゃッ」と汚い悲鳴を上げて固まるコボルト。しかしまだ致命傷には至っていない。
ベルに他の魔物が襲い掛かろうとするので、俺がそれを阻止する。ファイアボールなどと言ったゲームの魔法は敵に着弾するまでちょっとだけタイムロスがあるので、ここはオリジナル魔法を使う事にする。
「【疾くあれ姿見せぬ魔法の矢よ、マナ・アロー】三連発!」
一気に3枚のページが剥がれて、すぐに目に見えない魔力の矢へと変換、音も無く打ち出されベルを襲おうとしたコボルトの2体の額と腕、そしてゴブリン1体の胴体へと突き刺さった。額に穴をあけたコボルトと胴体に傷を負ったゴブリンはすぐに消えて魔石を残して消えていく。
ベルはと言うとすでに目の前のコボルトを切り捨てて腕から血を流すコボルトの首にナイフを突き刺し、更に迫ってきた最後の一匹のゴブリンに蹴りを食らわせて吹き飛ばす。
俺は意気揚々とテイルズシリーズの魔法、アイスニードルでとどめを刺した。
「ふう、お疲れ、ルイス」
「おう…っと、そろそろ魔石一つ貰うぜ」
「あ、そうだね。はい、これ」
「さんきゅ」
俺は受け取った魔石に、とある魔法を行使する。
その名も『ドレインタッチ』。魔力のあるもの(魔力があるなら何でも)から魔力を吸収するという非常に便利な魔法である。
これが俺がさっきとある理由と言うやつである。ちなみにこれは前世の知識によるもの。異世界転生した屑な男がリッチに教えてもらったという魔法である。
魔法と言うから行使には魔力が必要なのだが、俺が今使っている魔法の中で一番少ない消費量だし、吸い出せる量を考えると普通にプラスになるのである。
まあ流石に動く相手に使うのは無理があるんだけどな。ベルのように早い訳じゃないし。魔法を使えば強化はできるが、そんな事までしてドレインタッチするくらいならこうしておとなしく魔石からドレインタッチした方がお得だ。
「【吸収せよ、ドレインタッチ】」
俺が魔石から魔力を吸うと、薄く青く発光していた魔石から光が失われていき、次第にただの石屑へと変化していく。ベルはそれを楽しそうに見ている。
「お前ほんとこれ好きな」
「だって普通にかっこいいし!」
「そ、そうか…?」
まあ、そういわれるのは悪い気はしない。魔力も回復したので、俺はベルに対して先に進むよう促す。
「良し、行くか」
「うん、わかっ---」
「う、うああああああ!た、助けてええええ!」
行こうとしたその瞬間だった。奥の道から、断末魔が響き渡った。
「な、なんだ?」
と言うが早いか、男の姿が暗闇から浮かび上がってくる。顔、腕、足から血をどくどく流しており、涙やらなにやらの汁で顔を汚しながら走っている。
「お、お前らっ!に、逃げろぉ!」
「へ?あ、あの、何が…」
「やつが、やつが来る!」
男はそのまま俺たちを通り過ぎて走っていった。怪我をしているというのに余裕のあるやつだ。
「な、なんだったんだろう…」
「さあ…?」
だが、異常事態という事は理解できる。俺はベルに、一応もうダンジョンから出よう、と言おうとしてーーーー
「ガアアアアアアアアア!」
耳をつんざく咆哮に、遮られた。
そしてそれは現れた。ぬっと、まるで獲物を見つけた獰猛なネコの様に口元をゆがめながら。
牛の頭に人間の身体。膨れ上がった筋肉は鉄の如く、鋭い眼光ににらみつけられれば身体が固まる。
ベルが、呆然と言った表情で小さくつぶやいた。
「み、ミノ…タウロス…!」
その言葉、今だけは聞きたくなかったぞ、おい!
「ミノタウロスがどうしてこんな階層に!?」
「ベル、逃げるぞ!」
絶叫するベルにそういうと、ベルはハッとしたように動き出した。
ミノタウロス。牛頭人体のモンスター。主な出現場所は15階層。つまり、俺たちが今いる階層の下の下の下。
文字通りの規格外。その強さはLV2に匹敵すると言われ、LV1ではまず歯が立たないとされている。
つまり、今の俺たちじゃあ逆立ちしたって勝てない。逃げるしかないという事なのだ。
「グガアアアアアアアアアアアアアア!」
だが、やつは俺たちを毛頭逃がすつもりはないらしい。
咆哮。人に原初の恐怖を植え付け、身体を固まらせる脅威の咆哮。俺とベルはその方向一つに、息一つさえできる事も無く身を固まらせた。
「グルァッ!」
「る、ルイス!」
「おう、【光よ、収束し爆ぜろ フラッシュ・バン】!目を閉じろ、ベル!」
魔本のページが一枚剥がれ、ミノタウロスの眼前で激しい光を発して爆ぜる。俺とベルは目を瞑っていたが、やつは直に見たらしくどうやら目がつぶれたようだ。飛び出した勢いのままもんどりうってこけて、暴れている。
「ガアアアアア!」
「ベル、今度こそ逃げるぞ!」
「う、うん…!」
俺は自分に素早さアップ、筋力アップ、防御力アップのバフ魔法をかける。これでベルと並走して走れる程度には早くなった。
走っていると、後ろからものすごい圧迫感が。俺は後ろを振り返って、そして思わず叫んだ。
「って、なんで追いかけて来てんだよ!?」
ミノタウロスは俺たちに向かって真っすぐ走って来ていた。よく見るとミノタウロスは明後日の方向を向いたまま、ふんふんと鼻を鳴らして耳をぴくぴく動かしていた。もしかしてこいつ、音と匂いで…!?
「…っ、ルイス!分かれ道!」
分かれ道に差し掛かる。俺とベルは一気にその一方の道に入って、魔本を開く。
「ぜえ、ぜえ…よし来た…!【境界を分かて、守護の力よ 一重結界】!」
道が不可視の壁によりふさがる。
「良し走れ!」
「うん!」
再度走る。俺の魔法で完全に足止めできるだなんて考えていない。できて時間稼ぎ程度だろう。その隙に何としてでも身をくらませて…!
「グルアアアアアァッ!」
後ろから、まるでガラスを割ったかのような甲高い音が聞こえた。
奴さん、走る勢いのまま頭の角で結界を割ったらしい。なんてこった。
「おいおい、こりゃもうおしまいかもわからんね…」
「ルイス!?」
だってやばい。さっきから肺がやばい。走りすぎ。横腹が痛い。俺はベルの様にタフで素早い訳じゃない。魔法だけが取り柄で後は駆け出し冒険者レベルだ。
そんな俺がバフつけてるとは言えベルと一緒に並走してミノタウロスから逃げきれるはずが無かったのである。
「ルイス、あきらめたらだめだよ!まだまだいけるって、どうしてそこで諦めるの!?」
「いやっ…おまっ…そっ…(いや、お前それやめろ暑苦しい)!」
「くっ…そおおおおお!」
「うおっ!」
そろそろ足がちぎれそうだという時、ベルがいきなり俺を持ち上げて走り出した。おいおい、これ大丈夫なのか!?
「ベル…おっ…だ…(ベル、お前大丈夫なのか!?)…ッ!?」
「大丈夫じゃないよ!ルイス、何とかできないの!?」
「…し、仕方…ねえな…
【風の魂よ、その身に宿れ エンチャント・スピード】!」
ベルの身体が光り輝いて、スピードが若干上がる。
「もういっちょ!【火の魂よ、その身に宿れ エンチャント・パワー】!」
「すごいっ!身体が気持ち悪いくらいに軽くなった!」
「まだまだ!お前にはコレをくれてやる!【風の呪いよ、その身を蝕め カースド・アンチスピード】!」
「グガァッ!?」
がくんっとミノタウロスのスピードが落ちた。まあ、それでも焼け石に水状態。そもそも敵が格上だ。いくらこちらの力を上げようが、相手の力を下げようが、その差が縮まることは一切ない。
だけど、実力に関係なくできる事だってある。強さ、弱さ関係なく出来る事…そう、嫌がらせである。
「ベル、そのまま俺を持っとけよ…!」
「う、うん…!」
「【境界を分かて、守護の力よ 一重結界】極小版!」
「グゲェッ!?」
ピンポン玉レベルに小さな結界が、ミノタウロスの喉に突き刺さる。一瞬にして砕けるそれだが、しかしやつの喉を思いっきり圧迫してえずかせる程度はできたらしい。
「ゴホッガホッ…!グルァアアアアアアア!」
「ちょ、なんかミノタウロスめっちゃ怒ってない!?怒ってない!?」
「うるせえ走れ!おら、もういっちょ!」
俺は今度は足元に棒状に伸ばして結界を生み出した。今度はこけて全身をずしゃーっと滑らせる。すぐに起き上がって追いかけてくるけど、その顔は泥だらけだ。ざまぁみろ。
「グルルルルルルラアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアア!!!!!」
「ルイス、なにしたの!?後ろで何が起こったんだよおおおお!?」
「気にせず走れベルううう!」
「ひええええええ!」
ミノタウロスは顔と目を真っ赤にして迫ってくる。その怒り様と言ったらかの邪知暴虐な王を除かなければならぬと憤怒する如く。すでにその走りはスピードを増すべく、背筋をぴんっと、腕は指先まで伸ばし、足を力強く踏みしめる。その姿はまさしくプロのアスリートだ。
その後も落とし穴や足元だけボコッと隆起させたり床を氷漬けにしたりワイヤーの様に首に線を設置したり火を付けたりまた光で目を焼いたりしていた。
すると、ベルが急に立ち止まった。
「ちょ、ベル!何止まってんだ!?」
「…る、ルイス…はあ、はあ…ごめん…」
「ベル!?」
「行き…止まり…」
どさっと倒れるベル。意識は無くなっていないようだが、どうやらもう走る事は出来なさそうだ。
そしてベルの言った通り、どうやら俺たちは完全な行き止まりに追い込まれていた。偶然か計画的か、多分前者だろう。ミノタウロスに獲物を追い込むような知能があるとは思えない。
「グルルルル…」
「…ちっ」
意気揚々と歩いてきたミノタウロス。どうやらもう完全に追い込んだと理解したらしい。俺はベルと一緒に壁際に背を付ける。
「ひっ…」
ベルは恐怖に飲まれて震えている。俺だって震えてえよこんちくしょう。
魔法を使おうにももうマインドも残り少ない。使えたとしても後一回程度、それもぎりぎりだ。魔石から魔力を抜いている時間なんて無いし、こりゃもう詰んだかな。
「グルアアアアアアアアアアアアアアアア!!!!!」
ミノタウロスの怒りが爆発した。まるで駄々をこねる子供の様に俺たちの上の壁の方を何度も殴る。その目の端に涙が溜まっていたのはきっと気のせいじゃないはずだ。
頭をぶんぶんと振って俺たちに何かを伝えようとしているミノタウロス。しかし何を言ってるかわからない。俺は最後の力を振り絞ってミノタウロスの足元を隆起させた。ミノタウロスは穴の淵に小指を打った。
「グラ嗚呼嗚呼嗚呼!?」
どばっと泣き出すミノ。なんだこいつ、可哀想だな。
「グルアアアアアア…!グルルルゥ…!」
どうやら相当キレたらしく、拳を振り上げて俺たちにめがけて振りかざすミノタウロス。多分、この一撃を受けたら死ぬんだろうなぁ…なんて妙に冷静になって考えていた、次の瞬間だった。
「ガッ…!?」
ひゅん、ひゅんひゅんひゅん、と連続で空気が裂ける音。そしてミノタウロスの身体に細かい線が刻み込まれたかと思うと、一瞬にして肉体が切り刻まれ俺たちに血のシャワーを浴びせかけた。
「…」
「…」
俺とベルは呆然と座り込みながら、彼女を見た。
美しい金髪にスレンダーな身体。端正に整った顔つきは、鋭い刃のような強さを含めながらも、美しく可愛らしい少女のような雰囲気も纏っていた。強いはずなのに、儚いような、そんな第一印象だった。
「…大丈夫?」
そんな少女が話しかけてきた。俺は血だらけの顔を拭って、とりあえず血だらけの手で触るわけにはいかないので一人で立ち上がった。
さてベルはどうするのかなとベルの方を見たら、ベルはもうその場にはいなかった。
「だああああああああああああああああああ!?」
絶叫を上げて走り去っていくベル。
俺は二重の意味で呆然としていた。
「…怖がらせちゃった…かな」
「…あっ、いや、あの…」
話しかけられた。なんだ、この人人だったのか。
いや、待て。ちょっと混乱してる。具体的に言うと全く歯が立たなかったミノタウロスが一瞬にして細切れになった辺りから。さらに具体的に言うとその細切れになった血肉片を全身で被ったところから。
取り合えず酷い匂いとベタベタになってしまった身体を洗いたい。切実にそう思う。
「…」
「…」
残された俺と少女。いや、少女っていうか多分見た目的に俺と同じか年上かもだけど。
静寂が痛い。
「あの、助けていただいてありがとうございましたっす」
「…ううん。怪我は…ないみたいだね」
「あ、はい。おかげさまで」
「…さっきの子は…」
「ベルっすか?あ、あはは。あいつ、なんで逃げて行っちゃったんすかね…」
「…怖がらせちゃった…のかな…」
あ、なんかショック受けてるっぽい。
「いや、あいつ怖いからってお礼言わずに逃げるようなやつじゃないんで…多分、そんなんじゃないと思います」
「…そう?そうだと、いいな」
「ひぃ、腹いてぇー…!」
と、ここで奥の方から男が来た。白い髪の毛に獣耳。恐らく目の前の少女と同じファミリアの人間だろう。
「おい、あのトマト野郎見たかよ!アイズ、助けたやつに怖がられて逃げられてやがる!ひい、腹ぁいてえ!今のはやべえってアイズ!」
「む…」
ベルが笑われてやがら。まああいつもあんな慌てて逃げていったんだから仕方ない。それだけのことをしたんだろう。
ていうか、それ以前に俺を置いていったのはどうなんだろう。あいつ、本当に何があったんだ…?
「あぁ?こいつ、今のトマト野郎のお仲間かぁ?」
「…はあ…」
「ぎゃはははは!お揃いで真っ赤っかじゃねえか!おいお前、さっきのトマト野郎に言っとけ!最高に無様で笑えたってよ!おい、行こうぜアイズ!逃したミノも今ので最後だろ!」
「逃した?」
俺はその男の発言に引っ掛かりを覚えて首を傾げた。すると少女ーーアイズが、目を伏せていった。
「うん…さっきのミノタウロスは、私達ロキファミリアの不手際。逃げられちゃって」
「あー…そういう…」
つまり今のミノタウロスは殺しこぼしたり逃がしたりしてここまで降りてきたのだろう。15階層のモンスターが5階層まで降りてくるとか、結構な大事件に思うんだが…。
「…ごめんなさい」
「いや、結局無事だった訳ですし、大丈夫っすよ」
「おいおい、アイズ。そんなやつに頭下げんなよ!てめえも雑魚の癖にぐちぐち言ってんじゃねえぞ!」
うわぁ、なんかすっげえ嫌な感じの人だなぁ。いるよなこういうやつ、どこにでも。俺の村のイルの奴は、目下の奴にはこういう態度取って、好きな女や目上の人間の前でだけ媚びへつらうんだ。全員がうざいって思ってたけど、なまじ体格もでかくて喧嘩も上手だったから誰も文句が言えなくて…まあありていに言うと、こういうやつは俺は苦手だって話である。
ベートは言い切ると一人どこかへ行ってしまった。って謝罪も無しかい。まあ気にしてないけどさ。
アイズはこちらを見て困惑している。どうやらベートの言葉と謝らなくちゃいけない罪悪感のはざまに揺れているらしい。
とりあえず今日のところはお互い引こう。というか引きたい。引いて全力で体と服を洗いたい。これ以上このままだと匂いが身体にしみついてしまう可能性がある。それだけは何としてでも阻止しなければいけないのだ。
「あー、今度機会があればお伺いするんで。その時さっきの奴も引きづってでも持ってきます。でも今日はこんな格好ですし、もうダンジョンから出たいんですけど…」
「…じゃあ入り口まで送っていく」
「え、あー…」
俺はその言葉を聞いて思案した。俺は魔法職系。魔法に頼りまくってきたから、肉体的なステイタスは軒並み低い。そんな俺が魔力もすっからかんな状態で果たして上まで行けるかどうか…。
うん無理。言葉に甘えよう。
「じゃあお願いします」
「…うん」
そういう訳で、俺はちょっと豪華な護衛さんと一緒に安全圏まで送ってもらったのだった。
魔法と呪詛って違うんすかね…?
でもまあルイスならできるでしょってことで軽い気持ちでバッファーも兼任させてみることに。やっぱ魔法使いは最強だな!
…30歳童貞。ウッアタマガ