ダンジョンで魔法チートするのは間違ってない 作:みゃー
俺、ルイス・フォレスは、とある小さな村の小さな農家に生まれたただの村人だ。
いや、だった、と言うべきなのだろうか。
その日、俺は何時もの様に村の同い年のガキ大将のイルの奴に思いっきり突き飛ばされ、家の壁に強かに頭を打ち付けて気を失った。
そして思い出した。
何をって、前世の記憶をだ。
前世の記憶って言ってもとある人物がどんな人生を、だとかそういうのじゃないから、語弊もあるかもしれないな。
俺が思い出したのはここじゃないどこかの世界の、娯楽作品。色々なアニメ、ゲーム、小説等々の知識である。
そんな記憶を思い出した俺は、起きてからすぐに数日、熱を出して寝込んだ。打った頭もでっかいたんこぶが出来て血が出ていたらしいし、親にはかなり心配された。遠い町の医者にまで連れて行かれそうになったが、俺は何とかそんな親を引き留めた。正直ただの知恵熱だと思うし、動くと頭が痛くて移動できそうにないし。
そして数日後。熱も引いて何とか動けるほど大丈夫になってきたので、冷静になって考えることにした。
俺が思い出したこの知識の数々。Fateやテイルズ、空の境界等々。一体この知識が何なのか、そもそも自然と確信してしまっていたが本当に前世の記憶なのか、それすらも分からない。
だが、一つだけわかることはある。
そう、それは一つだけ。
『何こいつらかっこいい』ってことである。
剣使いの赤いアーチャーだとか、死を見る目を持った和服美人だとか、「俺はわるくねぇ!」の聖なる焔の光だとか…いやぁ、何だこいつら。
俺が今まで生きてきた十何年間が空白に思えるほどの胸の高まり。熱い思い。感じるロマン。俺はその記憶に、かなり魅せられたのだ。
ところで話が変わるが、この村からかなり離れた場所にとある都市ーーー『迷宮都市オラリオ』がある。
その名の通り、ダンジョンと言われる迷宮を地下に、バベルと呼ばれる天まで届かんばかりの塔で蓋をして、それを中心に街が広がる。
ダンジョンを挑むため、冒険者達が集う街。それがオラリオ。
もう常識となって久しいが、娯楽を求めて下界に降りてきた神々は、その多くがオラリオでファミリアを作ってダンジョンに潜っているらしい。
うん、もうここまで語ればわかるだろう。
思い出した知識の数々。俺はこれを駆使して、オラリオで知識の中の主人公達の様に冒険をしてみたいのだ。
親に話すとかなり驚かれたし心配もされたが、最後の最後に納得してくれた。なんでも父親もオラリオにいった事は流石に無いが、幼い頃村を飛び出して外に出たことがあるらしく、流石は俺の息子だと俺をほめてくれた。母親は渋い顔して父親をたしなめていたが、どうやら若い芽を狭い村に押し込めておくのもなんだし、という事で許してくれた。理解のある両親を持って俺は幸せ者だ。
そうして俺はオラリオに向けて旅立った。
目指せ主人公。目指せハーレム。
齢14歳。ルイス・フォレス。俺はオラリオで最強になってやるぜ。
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なれませんでした。
現実は厳しい。オラリオに着いたはいいが、俺のようなガキを取ってくれるようなファミリアはそうは無かった。
そう、つまり俺はダンジョンに入る事すらできず、ファミリアに所属する事すらできず。最近やっとできた夢が、もう頓挫しようとしていた。
くっそ、もう村から持ってきた金もつきかけている。俺はなんとしてでもファミリアに所属しなければならないのに…!
「やあ、そこの少年。うずくまって何をしているんだい?」
話しかけられたのでその声の方を向くと、小さな女の子が仁王立ちして俺を眺めていた。
「…もしかして、神様…?」
一目でわかる。完成された美、そこにいるだけで普通の人間とは違う存在感を感じることが出来た。
「うん。僕はヘスティアっていうんだ。君は?」
「…俺は、ルイス・フォレス」
「そうかい。じゃあルイス君。こんなところで座り込んでどうしたんだい?屋台の隣でそんなに暗鬱そうな顔で座り込まれてしまうと、売り上げが下がってしまうよ」
見てみると隣に『じゃが丸くん』というコロッケを売っている屋台があった。それに気づいて遅まきながらにいい匂いが漂ってきた。と言うかヘスティア様がそのじゃが丸くんを一つ手に持っていた。
「ああ、そりゃすまん…いや、すみませんでした」
「あはは、そんなに畏まらなくていいよ。それよりもどうしたんだい?何か困りごとでもあるのかい?」
「いや…そんな、初対面の神に…」
そこまで行って、俺の腹がぐううぅ、となった。しまった。
「ぷっ…ははは、大丈夫?お腹減ってるの?」
「…じ、実は昨日からなんも食べてなくて…」
「そうかいそうかい。じゃあちょっと待ってね」
そういうと、ヘスティアは手に持ったじゃが丸くんを半分こにして俺に渡してきた。
「はい」
「…え?い、いいんですか?」
「うん。子供達がお腹を空かせているのを見て、何もしない程僕はくさっちゃいないからね!」
にっこりと微笑むヘスティア。俺は女神を見た。
「それで?もう一度聞くけど、何か困りごとかい?僕は今お昼の休憩時間中だからね。時間内までなら、話しくらい聞くよ?」
と言って隣に座って、ヘスティアは完全に聞く態勢だ。
俺はその姿勢に負けて、取り合えず話だけでもする事にした。
「…つ、つまり、君はあれかい?ふぁ、ファミリアに入りたいけど、どこも受け付けてくれるファミリアが無くて困ってる…って、そ、そういう事なのかい…!?」
「えっと…そうなります…」
神様が何か色々と手をワキワキしながら目を見開いて俺を見てくる。え、なにこれこわい。
「ふ、ふふふ…君は実に、実に運がいい。そう、なんせ僕が今、目の前にいるのだから!」
「えっ、それってどういう…!?」
「僕はヘスティア。ヘスティアファミリアの主神さ。実は今、ファミリアの団員が少なくて困っている所でね…!なんなら、僕のファミリアに入るっていうのは…」
「は、入ります!」
俺は思わずヘスティアの手を取って即答した。ヘスティアの顔がぱあっと明るくなって、手をそのままぶんぶんして顔を近づけてきた。
「は、入ってくれる!?本当にかい!?やった、やったよベル君!団員二号を捕獲成功だ!」
「…ん?」
「えへへ、それじゃ早速ホームに…ああ!バイトがあるんだった!ちょっと待っててねルイス君!僕今から休み貰ってくるから!ここから一歩も動かずに待ってるんだよ!」
今二号とか、捕獲とか言ってたような…あれ、少ないっていっても、俺を含めて二人ってわけじゃ無い…よね?いや、無い無い。そんなのないない。
一抹の不安を振り払うように、俺はわたわたと店長の所に突撃して怒られているのを眺めていた。
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「と、言うわけで団員二人目、ルイス・フォレス君だよ!ベル君、先輩として仲良くしてあげるんだよ?」
「わ、わあああ!やりましたね、神様!僕らのファミリアに、ついに新しい団員が…!」
二人目だったらしい。ファミリアに大小があるとは聞いていたが、まさかこんな零細ファミリアが存在するなんて思いも…いや、まあどこのファミリアも受ける恩恵は一緒らしいし、問題は無いと思うけど…。
「僕はベル・クラネル!よろしくお願いします、えっと…ルイス、君?」
「あ、はい。よろしくっす、ベル先輩」
そういうとベルと名乗った白髪赤目の少年が、心底嬉しそうに顔をゆがめた。
「先輩…僕が…先輩…」
「べ、ベル君!戻ってくるんだ、ベルくーん!」
先輩。その言葉は今までソロでダンジョンに潜っていたベルにとって、魅惑の言葉に聞こえてしまったのかもしれない。
「で、でも…多分見た目で同い年くらいだし、もっと気軽に読んで欲しい…かな?」
「じゃあ、俺の事もルイスって呼んでくれ。えっと、ベル?俺も呼び捨てでいいか?」
「うん!よろしく、ルイス!」
こうして俺はヘスティアファミリアに入る事となった。
「早速【神の恩恵】を刻もうか!」
「お、お願いします」
そういう訳でベッドに仰向けに寝転がって、その上をヘスティアがまたがる。俺の尻にヘスティアの体重と柔らかい感触やら暖かさやらが伝わってくるが、何とか理性を働かせる。
そして背中をこねこねされること数分。
「できたっ!」
俺の【ステイタス】が出来た。神様が紙にその内容を映して、俺に手渡してくる。俺はそれに早速目を通した。
ルイス・フォレス
LV1
力:I0
耐久:I0
器用:I0
敏捷:I0
魔力:I0
《魔法》
【魔本召喚】
・魔法の記された魔本を召喚する
・呪文により魔本の種類が変化
・魔本は総じてページ数250ページ
・ページは魔力の量に応じて回復する
【魔本操作】
・魔本を操作する
・1ページに一つの魔法を記すことが出来る
・一度記した魔法は消すことが出来ない
・一度使った魔法に該当するページは消える
・許容量以上の魔法を行使した場合、暴発する
《スキル》
無し
「初めから魔法を持っているなんて、すごい事だよルイス君!君には才能がある!」
「ええっ!ルイス、魔法が発現したの!?」
「おう。らしいぞ」
無限の剣製とか直死の魔眼とかその辺のかっこいい魔法がよかった…と思うのは厚かましい事だろうか。
「いいなぁ…僕なんて、まだスキルも魔法も無いのに…」
「ベル君、焦っては駄目だぜ。きっとルイス君は魔法系の方面に育つだろうから、前衛はベル君がやらなきゃいけない。要は役割分担ってやつさ」
「魔法系かあ…」
それにしても、魔本って…魔法を記すって書いてあるけど、一体どの範囲の魔法まで作ることが出来るのだろうか。もしかすればこれを色々といじれば無限の剣製とかロードキャメロットとかアイアスとかエクスカリバーとかいろいろと再現できるかもしれない。
最後の欄がちょっと怖いけど、試さざるを得ない。ロマンを再現する…これもまたロマンなのである。
「じゃあ、新しい団員の参入を祝して、今日はどこか食べに行こうぜ!ベル君、ルイス君!」
「はい!そうですね、神様!」
楽しそうに笑いあうベルとヘスティアを見て、俺はこれから起こるだろう冒険に心を躍らせながら、二人の後をついていったのだった。
それにしても、やっぱりこの廃墟同然の教会の隠し部屋がホームって、なんかおかしいと思う。