荀シン(何故か変換できない)が恋姫的世界で奮闘するようです 作:なんやかんや
友若が販売を始めたWAFUKUは当初全く売れなかった。
友若のWAFUKUは余りに斬新すぎたのだ。
もちろん、市場では斬新なデザインが持て囃されているが、斬新さにも限度というものがある。
あと、友若は市場のトレンドを外していた。
一応狙いはあったのだが、上手くは行かなかったのだ。
この時代のトレンドはセクシャルで露出度の高い水着のような服であった。太ももを隠すスカートのような布はひざ上20cmとか、そんなもんである。
階段下から見上げれば確実に見える。
このような服が流行している背景は結婚率の低下であった。
女尊男卑の恋姫的な世界ではやたらと気の強い女性が多い。
男性兵士を力で真正面から圧倒する武将もいれば、男性に対して圧倒的な能力差を示す文官もいる。
そのため、この恋姫的世界における男女関係の多くは現代風に表せば、ヒモとバリバリの企業戦士とかそんな感じになる。
それがこの世界の普通であった。
この世界の女性達にしてみれば、女子の理想とは偉大なる将軍や行政官のように強く賢く美しくなることである。
もちろん、そうしたタイプが好みだと言う男性は一定数存在する。彼らは結婚後主夫として、こうした女性たちの縁の下の力持ちとして活躍している。
だが、一方で庇護欲を誘うようなタイプが良い、と強く主張する男性もいる。というか、こんな世界にも関わらず、そうした男は多かった。
劉備がやたらとモテるのもそうした理由である。アイドルが異常に流行ったのも同様の理由であった。
不幸なことに、この世界において、多くの男性の理想は小動物系女子や可愛い系女子であり、一騎当千系女子やチート軍師系女子では無かったのである。
結果として、この世界では女性が理想とするタイプのマジョリティー、『強く賢く美しく』と、男性の女性に求めるタイプのマジョリティー、『か弱くアホ可愛く純真』との間で不一致が生じていた。
売り手側と買い手側の悲しいミスマッチである。
え? 気の強い女性のほうがいいに決まっている? それについては強く同意するが、この作品ではこうした方向性で進めていくので、あしからず。
また、男性としては本能的に女性を独占したいものだが、女性としては条件が悪ければよりよい男子に乗り換えたいと思うものである。
自分の遺伝子を可能な限り残す戦略として最適化すれば自然とそうなる。
正史では基本的に男性が女性に対して全体的に優位であったために、女性は男性に独占されるものであった。
ところがこの外史においては女性が全体的に優位であるため、正史のようには行かない。
種馬というものは、より良い種馬がいれば簡単に切り捨てられるのである。
儒教的に離婚や浮気というのは悪とされてはいたが、この世界で妻の浮気を防ぐにものはせいぜいこうした道徳精神程度しかなかった。
各方面から怒られそうだから、一応補足しておくと、もちろんこの世界には一途で決してNTR等起こらない素晴らしい女性も沢山いる。ある外史で北郷が関係を結んだ女性達は皆一途で貞淑であるし、それ以外にもそうした女性は多くいる。
とは言え、全体としてみた場合、浮気をする女性というのはある割合で存在し、その際にその不純を罰するだけの力が夫の側にないのである。
するとどうなるか。
種としての本能として男性は、浮気しなさそうな一途な女性を選びたいのである。
さて、ある男性が3名の女性から交際相手や結婚相手を選択する場合を考えよう。
それぞれの女性のタイプは一騎当千系、チート軍師系、小動物系である。
この中でどのタイプが最も一途な女性である可能性が高いだろうか。
男性としては最後のタイプが最も浮気とかしなさそうだと考えるのである。もしくは清楚系。
ただの偏見であるが、この偏見というものは社会的に見て馬鹿に出来ない。
結果として、婚活市場で早々と売れていくのは小動物系や清楚系となる。
強く賢い女性という理想を体現したかのような女性は、婚活市場では売れ残り易いのである。
ところが、女性たちは結婚をしないと済ませる訳にはいかない。
この恋姫的な世界でも儒教は人々の考えの根底を形成している。
その思想に依れば、結婚をして子供を産まないことはそれだけで罪である。
何としてでも結婚相手を見つけて子供を産まなければならない。
結果として、婚活系女子達の多くは露出度の高い服を身にまとうようになる。
その色香につられてふらふらと近づいてきた男性の中から有望そうなのを食虫植物のようにぱくりといただくのである。
けしからん事この上ない。
とはいえ、多くの男性にしてみれば、いつ浮気されるかも、捨てられるかも分からない相手と結ばれたくはない。
恋姫的な世界でもNTR属性の無い男子の方が多いのである。
正史でもそうだが、多くの男性にとって昼間からセクシャルな相手とは一夜の関係で済ませるべきものであって連れ添うべき相手ではないのだ。
もちろん、男性側のそうした心理を心得た一部にはあたかも可愛く小動物系であるかのように装う女性もいる。
彼女たちは流行から一歩引いた露出度の低い衣服に身を包む。
友若としては、こうした女性たちを対象として、外面が非常に清楚に映えるWAFUKUを売りだした。
こうした男性に媚びを売るタイプの女性は多数派ではなかったが、一定数存在することは確かである。
友若のWAFUKU商売は、市場への新規参入ではニッチな需要を満たす商品を提供すべしという経営戦略にも叶った判断のはずであった。
しかしながら、先にも述べたように残念なことにWAFUKUというものは余りにも斬新にすぎた。
友若が顧客として想定した猫被り系女子にとって、斬新すぎるというのは決して良いことではない。
彼女たちは自らを小動物系や純真系と見せかけたいわけであり、奇抜な格好を好む変人などと思われたい訳ではない。
猫かぶり系女子が好む衣服は今どきのトレンドに沿いつつも露出を控えめにした衣装であった。
友若の市場調査ミスである。
見切り発車で商売を始めた友若は学資として渡された資金の殆どをWAFUKUに変えていた。
結果として友若は処理に困る大量の不良在庫を抱え込んだのである。
資金難に喘ぎ、食うものにも事欠いて、あわや餓死しかけた友若。
そんなどうしようもない友若を救ったのは、洛陽で憲兵をしていた崖っぷち婚活戦士(29)現在15代目彼氏と交際中であった。
強く、気高く、生真面目であった婚活戦士(29)は餓死しかけていた友若(自業自得)に対して食事を提供するどころか、当座を凌ぐ資金を渡した。
女神のような婚活戦士(29)に感激した友若はせめてものお礼にと、彼が不良在庫として抱えていたWAFUKUを一着差し出した。
婚活戦士(29)は最初、礼を期待して助けたわけではないと友若の申し出を断ったが、根気強くお礼がしたいという友若に根負けして、彼がデザインしたWAFUKUを受け取った。
この時の友若は人の優しさというものに触れて、日ごろのプライドを失っていた。
そして、それが功を奏する事になる。
婚活戦士(29)は当初友若から貰ったWAFUKUを持て余した。
もう後がない婚活戦士(29)にとって奇抜に見えるWAFUKUを身にまとうということは相当な賭けであった。
しかしながら、今までの涙ぐましい努力が一向に成果を上げていないことや、最近彼氏との関係が微妙になりつつあること、同僚に何ヶ月で別れるかを賭けの対象にされていることに焦っていた婚活戦士(29)は、日本風に言えば清水の大舞台を飛び降りる覚悟でWAFUKUを着込んでデートに出かけ、ものの見事にゴールインしてみせた。
普段着慣れていない和服に戸惑ったり、いつもの様に大股であることができず、つんのめってあわわとなりかけたり、友若のWAFUKUには下着を着けないという言葉に従った結果として羞恥心で顔を真赤に染めたことが交際中の彼氏の心の琴線にビンビンと触れたのだ。
婚活戦士(29)改め、幸せな新婚憲兵(29)がひと月で別れると賭けていた同僚(28)は結果として、結婚まで至る事に賭けていた純朴な新人に給料の半分奪われた。
不幸な事件であった。
同僚(28)は腹いせとばかりに友若に文句を言いにやって来た。
そして、数時間にわたって愚痴り続けた後、同僚(28)は友若の抱えていたWAFUKUの在庫を買い占めて去っていった。
一週間後、友若のWAFUKUには注文が殺到する。
WAFUKUを着た女性が立て続けにゴールインしたという噂が洛陽の女性たちの間に広まったのだ。
何故WAFUKUを着込んだがこれほどまでに成功を収めたのか。
その答えはギャップ萌えである。
前提としてこの恋姫的世界の武人がどのような存在かを説明しよう。
基本的に恋姫世界の女性の武人は男性に比べて圧倒的な性能を誇る。
何しろトップ層は人を切るのではなく吹き飛ばすのだ。
例えばこの世界のとある呂布的なチート武将である誰とは言わないが奉先は人間を楽々と10mは殴り飛ばす。
ここで人間の体重を70kg、身長を170cmで殆ど水平に吹き飛ばされると仮定すると、その初速度は17m/s。時速に直すと60km/hを超える。
簡単な物理法則から考えると、拳の接触時間を0.01秒とすれば、奉先のパンチ力は12トンである。
あのボブサップは210kgだ。奉先さんのパンチ力は60倍ということになる。
なにそれ怖い。
ともかく、恋姫的な世界の武人というものは、男性にとってなかなか近づきがたい相手なのである。
奉先さん程ではないにしても、きゃーエッチとかそんな感じでビンタを食らったとすると、当たりどころが悪ければそれだけで死にかねない。
というわけで、男性は武人と相対する際は常に極限の緊張を強いられる。
相手が真面目なタイプであれば尚更だ。
例として、匿名希望の崖っぷち婚活戦士(29)現在15代目彼氏と交際中(元)の交際事情について考察してみよう。
なんだかんだ言って見目麗しく真面目で思いやりのある匿名希望の婚活戦士(29、元)はそれなりに男性を惹きつける。
例えば、婚活戦士(29、元)の下に配属された新人の兵士とかは結構な確率で彼女に惹かれるのである。
婚活戦士(29、元)の名誉のために言っておくと彼女には若いツバメとかそんなゲスな考えはない。
ともかく、婚活戦士(29、元)に憧れた若いツバメは精一杯の勇気を振り絞って付き合ってくださいと告白するのである。
婚活戦士(29、元)もにくからず思っている真面目な部下に今度こそはと応じるのである。
そして、交際を初めて、清く正しくデートとかをするわけなのだが……
婚活戦士(29、元)は武人であることにそれなりに誇りを持っているわけだから、デートの時も常に凛とした態度を崩さない。
自分のアピールポイントを全面に出す戦術である。
若くて真面目なツバメ君が婚活戦士(29、元)に惹かれたのもそれが理由であるから、彼女としてはその前提を崩さないように必死なのである。
もうそろそろ、本当に後がないわけであるし。
そして、この優位な点で戦うというのは戦術の基本である。あるのだが。
しかし、誰とは言わないが婚活戦士(29、元)の真面目であるという特徴は男性から見た場合、必ずしも優位点とはならないのである。
男性としては甘酸っぱい体験とかAとかBとかCとかがしたいのだ。本音を言えばもっと先までしたいのである。
三大欲求の一つである性欲に男性は逆らえないものなのである。
女性優位な社会であるため、娼婦とかが不足気味な社会情勢もそれを後押ししていた。
ぶっちゃけ溜まっている。
ところが、真面目一辺倒を必死にアピールする婚活戦士(29、元)はとてもじゃないがヤろうとか言える雰囲気ではない。それどころかキスや手を繋ぐといったデートの基本すらも中々できないのである。
その結果男性はデートの最中、ずっと悶々とした気持ちに苛まれることになる。
甘酸っぱい思い出を作るはずのデートでさえこれなのだ。結婚なんかしたら気の休まる時がないじゃないか。
若いツバメ君がそう思ったとしてもおかしくない。
確かに、若いツバメ君は婚活戦士(29、元)の事を尊敬しているし、憧れている。
でも、健全な男子としてはなんというかイケナイコトをしたくてしたくてたまらないのだ。
終わりの見えないお預け状態には耐えられないのだ。
そして、婚活戦士(29、元)と若いツバメ君の関係はだんだんと冷めていき、焦った婚活戦士(29、元)がもっと生真面目に、凛としてと振る舞うも、それはむしろ逆効果で……
実際、そんな感じの理由で、婚活戦士(29、元)、現在15代目彼氏と交際中だった幸せな新婚憲兵(29)は連敗につづ連敗を重ねていた。
ここで、こうした生真面目系がWAFUKUを来てデートにやってくるとどうなるか。
WAFUKUというのはやたら歩幅が狭い。
普段足元が開放的な恋姫世界の女性たちにしてみればちょっとした拘束レベルである。
着慣れていない女性たちにしてみればWAFUKUは歩きにくくて仕方がない。
バランス感覚に優れた武人とは言えど、いや、だからこそ、普段と異なる歩幅に躓いたりするわけである。
どこかの誰とは言わないが奉先という呂布のような人ならそれでも問題なく歩いてみせるのだろうが、そこそこの武人である憲兵にとってはそれは不可能だ。
結果、つまずいでおでこあたりを地面にぶつけ、涙目になるのである。
慣れないWAFUKUを着た婚活戦士(29、元)が躓くのは一度や二度ではない。
そして、婚活戦士(29、元)が転びそうになれば、若いツバメ君としても彼女の体を支えるべく体に直接触れることができるのだ。
長い間、触ることも出来なかった婚活戦士(29、元)の体、そして、日頃見せない醜態に湯気が出そうなまでに顔を赤らめて恥ずかしそうにする様子。
普段の毅然とした完璧超人的な様子とのギャップはYAMATONADESHIKO的な雰囲気も相まって凄まじい破壊力を持っていた。
倦怠期から一瞬で結婚まで行くのも無理は無い。
友若は予想もしていなかったことだが、そんな訳でWAFUKUは生真面目武人系女子の婚活における最終兵器として漢帝国に知れ渡り、莫大な売上をもたらしたのである。