「君をスカウトしたい」
雄英高校の入試試験が終わった数日後の事、俺は困惑をしていた。
現在の時刻は夜七時、場所は俺の家、俺の目の前にはスーツにネクタイを締めたネズミのような人間・・・・人間のようなネズミ?
どちらか分からないが、とても奇妙な存在が居た。
そして、隣には長髪に無精ヒゲのくたびれた外見の男性の姿もある。
何故、このような状況になっているのか色々事情がある。
――――
◇◇◇◇
「実技総合成績が出ました」
雄英高校のとある一室、そこにはたくさんのモニターが設置されており、そこには複数の人間がそれを見ていた。
――雄英高校の講師、プロヒーロー達が。
「2位の受験生。救助Pは0だが、77Pとはなあ! 派手な個性で敵を寄せつけ迎撃し続けたタフネスの賜物だ!」
「対照的に敵Pが0で8位。
「思わず"
「だが、最も注目すべきなのは・・・・」
講師一同は1位となった受験生の成績に目を宛てる。
――造理 錬の成績に。
「敵P82、救助P73、計155Pで堂々の1位。2位の倍以上・・・・物凄い成績だ」
「スタート時、他が戸惑う中で誰よりも早く飛び出し、試験前半だけで多くのPを稼いだ。しかも彼、この試験の意図に気づいてたね」
「すげえのは、
「とても強力な個性だな。その使い方も十分に熟知してるようだ」
「造理 錬。彼があの・・・・」
ここに入る全員、プロヒーローであるため錬の素性は知っていた。
「親の不適切な行いが原因で、ヴィランに狙われるようになってしまった少年。普段はヒーローと警察によって事を脱しているが、時にはヴィランを返り討ちにもしてるらしい」
「一般人なのに戦闘経験豊富とはクレイジーなやつだなあ!――」
「事情が事情なだけにやむ得ないでしょう。・・・この成績、一般での入学は惜し「ならスカウトしよう」・・・根津校長!?」
雄英高校の校長"根津"が声を挙げる。
「これだけ優秀な成績を叩き出したならスカウトに値するさ! 特待生枠とは別に、有能な若者を直接招き入れる〝スカウト制度〟。雄英創設いらい片手に数えるほどにしかなかったけれど、彼なら十分資格がある・・・」
「確かに。彼は筆記試験でも1位を取っていますし・・・」
「筆記、実技合わせると歴代でもトップクラスだ」」
「賛成ですね」
「いいぜ!いいぜ!! "
講師一同、錬の特待生入学を認める。
―――だが
「俺は反対です」
「「「!?」」」
「相澤君?」
――ヒーロー科の講師、相澤 消太。
彼だけが反対の意志を見せた。
「確かにこいつの成績は優秀です。・・・ですが志望動機が気に入らない」
「志望動機、・・・・それは」
「確か、『我が身のために』だったか・・・」
相澤は錬の志望動機、――ヒーローになろうとする動機がどうしても気に入らなかった。
「『我が身のために』、それはつまり"自己保身"の為にヒーローを目指しているということ・・・これは"我が身を顧みず"のヒーローの理念に反しています。志の無い奴にヒーローが務まるとは思いません。・・・何より、こいつは人を殺害している」
「・・・・」
その言葉に皆が押し黙る。
実は造理は人を殺めているのだ。
それは決して情動による、身勝手な殺しなんかじゃあなく、己の命を守るためにしてしまった、正当防衛。
当時、10歳だった造理が襲ってきたヴィランを撃退して大けがを負わせてしまったのだが、血を多量に流す怪我を負わせたことで出血多量となり、命を奪う結果につながってしまったのだ。
「確かに、それも問題ではあるな・・・」
「でも、それは身を守る為に仕方がなくしたことで、」
「それですべてが許されるなら、法律なんて意味をなさないでしょう」
相沢が口を挟む。
「過去の過ちだけなら償えばすむ話ですが、心意気が歪んでいるのはいただけません。仮に奴がヒーローになったとしても、矜持を重んじることはないでしょう」
「こんな言葉を入学願書に、堂々と書いているからねえ」
「試験での救助活動も、試験の意図に気付いての行動かもしれないしなあ・・・」
相澤の言葉に少なからず賛同する者が出始める。
――だが、そこで
「私はそうは思わないね!」
「「「オールマイト!?」」」
ナンバー1ヒーロー"オールマイト"がその考えを否定する。
「彼は合理的に物事を判断し行動しているだけさ! それは育って来た環境故にそうなってしまっているだけに思える」
「それは言えますね。幼い頃から悲惨な人生を送っているなら尚更です」
「他者に頼らず己の力で、・・・彼は一人で生きてきたも同然ですからなあ」
オールマイトの言葉に皆が同意し始めた。
「なら、決まりさ」
「校長・・・」
根津校長が決定を下すが、相澤はまだ納得していない。
「ヒーローに相応しいかどうかは、入学させてから判断すればいいさ。そもそも動機なんて最初は不純なものさ。目標を持たせ、成長させる・・・・それが教師である我々の役目さ」
「そのとおり! もし彼が誤った道に進もうとしたら、引き止め、それを正し、道を示して上げればいい! 我々はヒーローなのだから!!」
「そうだなあ!」
「ですね!」
「
今度こそ全員が同意した。
「では、造理 錬を特待生として迎え入れよう!」
「「「賛成!!」」」
「・・・・・・・・」
こうして議論は無事終了、会議の幕が下りた。
―――相澤だけ、沈黙を貫いて。
――――
◇◇◇◇
「という訳で、君を雄英にスカウトしに来たのさ」
――今に至る。
ネズミの人は雄英の校長先生であり、隣のくたびれた人はヒーロー科の講師と言うこと。
俺をスカウトするために、こうして自宅まで直談判しに来たらしい。
話しの内容は理解した。確かにスカウトと成れば、学費も免除されるし、元々奨学金を申請しようとしていた俺からすれば、おいしい話だ。
デメリットは特に無いし、良いこと尽くめだ。
「本来、特待生を含めて一クラス二十人となるのだけど、今年は二十一人となる。・・・・君は雄英のスカウトを受けるだけの特例を出す程の成績を納めたのさ。雄英の歴史でも希のね」
「恐縮です」
「謙遜しなくていいさ。まあ、反対意見もあったけど雄英は君を歓迎したい」
「・・・・・反対意見があった理由は、俺の志望動機が原因ですか?」
「・・・・・・・・・」
沈黙は
そのことに関して議論される可能性は視野に入れていたが、こればかりは考えを変える気はない。
俺は今でもヴィランに狙われ続けているし、ヒーローに成ってさえしまえばヴィランに襲われる頻度は極端に減らせるはず。
ヴィランの目的は俺の命ではなく、個性・・・つまり俺に協力させることが目的だから、わざわざヒーローを勧誘しようとするヴィランなんていない。
「俺の動機が、ヒーローとして不適切であることは重々承知です。でも考えを変えることは出来ません。現に俺はそうする必要があるからです」
「確かに君の環境を考えれば仕方がないことさ。しかし、後ろばかりを見てはいけない。君にはもっと前を向いてもらって、健全な未来を歩んでもらいたいし「やめてください」!?」
俺は校長の言葉を止める
「俺に同情しないでください。・・・俺の最も嫌いなことの一つです」
「・・・・・・」
"同情"。
相手側からすれば思いやりなのかもしれないが、受ける側からすれば、それは単なる哀れみに過ぎない。
ヒーロー、警察、一般人。
今まで関わってきた人達は、その誰もが必ずと言っていい程、俺に対して同情をしてきた。
それで救われることは無いと分かっているにも関わらずにだ。
特にヒーローに同情されることだけには我慢ならない。
ヒーローは"救助"はしてくれても"救済"はしてくれない。
その場限りの優しさと同情を振りまいて、後は関与しない・・・・これが今のヒーローの現実だ。
他者に救いを求めることはおこがましいのかもしれないが、幼い頃の俺は少なからずそれに期待していた。
――だが現実は、誰も救ってはくれなかった。
自分を助けてくれるのは自分だけだと理解してしまった。
「俺は自分の力だけを信じて生きてきました。俺にヒーローの志が無いのは承知してますが、それでも俺はヒーローになる必要があるんですよ。敵はヴィランだけではありませんからね」
俺は校長先生の目を見つめる。
「俺はヒーローに夢を見ていません。たとえ雄英の合格が取り消されても、別のヒーロー学校に行き、ヒーローに成ります・・・・必ず」
「造理 君・・・・」
俺は自分の考えをハッキリと告げた。
校長先生は、真剣な眼差しで俺を見つめ沈黙する。
―――その時
「一つ聞かせろ」
「!?」
今まで校長先生の隣で沈黙を貫いていた男、相澤が口を開く。
「お前・・・何故ヴィランに成らなかったんだ?」
「相澤君!」
相澤先生の言葉に校長先生が声を挙げる。
「お前は素性や成り立ちは警察から聞いていたが、一つだけどうしても解らないことが合った。・・・お前がヴィランに成ることを選ばなかった理由だ」
「・・・・・」
相澤の言葉に俺は言葉を詰まらせる
「お前は頭がいい上に賢い。物事を合理的に判断出来る。・・・・お前ならヒーローに成らなくても、ヴィランを利用して楽に生きることぐらい考えついたんじゃないか?」
―――確かにそれは何度も思ったことだ。
組織的ヴィランならば裏の世界にもコネがあり、その中には権力を持っている者いるはずだ。
俺の個性であれば、そう言う奴らに取り入ることも出来るし、後ろ盾が有ればヴィランから身を守ることができるかもしれない。
素性がバレなければヒーローに目を付けられることもない。
―――でも、それをする気にはなれなかった。
「・・・・意地ですね」
「意地?」
相澤先生は首を傾げる。
「そう思うことは確かにありました。・・・ですが、そう思う度に"親"のことを思い出すんです」
「親?」
「俺を捨てた"両親"ですよ」
両親。
俺を利用するだけ利用して、我が身可愛さに逃亡していった最低な親。
ヴィランではないが、やった行いに関してはヴィランよりも質が悪い。
悪い方向に考えが赴くと、必ずあいつらを思い浮かべ、こう考えてしまう。
―――あんな低俗な人間にだけは成りたくないと
「逃げた親が良い反面教師になったんですかね? あの最低な親達が俺を踏み留ませるいいブレーキになってくれている」
「・・・・皮肉な話だな」
「皮肉なんて思ってませんよ。むしろ、善良な人間のほうが少ないと思ってるくらいですから……」
「造理君・・・・」
相澤先生は目を瞑り、校長先生は悲しげな表情で俺を見つめる。
「たとえ非道であったとしても、最低に成ったらお終いです。俺にだってプライドの一つくらいあるんですから死んでもヴィランに成るつもりは有りませんよ。改めて言います・・・・俺はヒーローに成ります。最低な人間に成らない為にも」
「「・・・・・・・」」
俺は真剣は趣きで二人に告げる。
―――そして
「分かった。俺もお前を推薦する」
「相澤君!?」
相澤の言葉に驚く校長先生。
聞いた所、相澤先生は俺のヒーロー科入りを最後まで反対していたらしい。
「ハッキリ言うと俺はまだ、お前はヒーローにふさわしくないと思っている」
「相澤君!」
「・・・・・・・・」
声を挙げる校長、沈黙する俺。
「だが、志だけでヒーローが務まるとも思ってはいない。幸いお前にはヒーローに至るだけの力量があることだし」
「何ごとも征するのは力ですよ」
「口を挟むな、信念を持ってヒーローを目指す者はまだ見込みがある。・・・俺はそう判断した」
「相澤君・・・」
俺と相澤先生は、互の瞳を見つめ合う。
「・・・・あなたのヒーロー名を教えてください」
「・・・・イレイザー・ヘッドだ」
――"抹消ヒーロー"イレイザー・ヘッド。
その眼で視た者の個性を抹消するプロヒーロー。
知名度は低いが、相手の個性を一時的に使用不能にしてしまう個性は、個性社会に置いて強力無比。
戦闘力は身体能力に依存しているため、単体では若干不利な所もあるが、チームを組めばこれほど頼もしい存在も居ない。
――間違いなく一級品のヒーローだ。
「入学すればお前の担任になる。・・・・俺は甘やかすことは一切しない、見込みの無い者は容赦なく切り捨てる。・・・・例えスカウト生であろうとも」
「俺に同情しなかったヒーローは、あなたが二人目です。・・・・あなたは信用できそうだ」
「その一人目が気になる所だな」
「それは言わないでおきます」
俺は、珍しく笑みを浮かべる。
「・・・・引き受けましょう」
「造理君! じゃあ?」
「ええ・・・・・特待生へのお話し、お引き受けします」
「ありがとう! 我々は君を歓迎するさ!」
俺は校長先生と握手を交わした。
「特待生で入学するに応って、君の一般入試の結果は無かったことになるけど、悪く思わないでくれたまえ」
「試験の結果なんて、この先何の役にも立ちません。合格することはゴールではないのだから」
「立派な考えだね。・・・・じゃあ、君の入学を楽しみにしているよ」
「ありがとうございます」
こうして俺の雄英高校ヒーロー科の入学が決まった。
――ヒーローに成るための、スタートである。
――――
◇
――その頃とある場所で
『おめでとう! 蛙吹 梅雨 君。敵Pが27で救助Pが32。計59Pで8位で合格だ!! 我々は君を歓迎する!!」
「彼の言う通りだったわね。ケロロ・・・」
合格通知に喜ぶ、蛙の少女。
◇
――さらに
『おめでとう! 葉隠 透 君。敵Pは19と少ないが、救助Pで31。計50Pで15位で合格だ!! 我々は君を歓迎する!!」
「やったー! 合格だあ! あの人の言った通りだ!」
同じく合格通知に喜ぶ、透明の少女。
◇
――そして最後は
『おめでとう爆豪 勝己 君! 救助Pは0だったけど、敵P77で見事1位で合格だ!! 君のようなタフネスを我々は歓迎するよ!』
「・・・・・・・・」
ナンバー1ヒーロー"オールマイト"が投影された通知で、自分が1位合格を果たしたことを知らされる爆破の個性を持った金髪の少年。
だが、1位で合格したにも関わらず、その表情からはあまり喜びが感じられない。
―――何故なら
「(あの野郎は何位だったんだ?)・・・・」
入試試験の時、自分の背後に迫ってきていた仮想敵を撃退し、自分より多くの仮想敵を破壊していたメガネの受験生のことが頭から離れなかった。
――――
やっと5000文字を超えられました。もう自分で何が書きたいのか解らなくなっています。
後、最後の3人は入試試験で主人公と少し絡んだから出しただけで、特に特別扱いしてる訳ではありません。