「・・・・・広いな」
プレゼント・マイクの説明会が終わった後、俺を含む受験生一同はバスに乗り試験会場にたどり着いた。
現在、会場の扉前で待機している。
試験会場は複数に分かれており、受験生はそれぞれ指定された会場に向かったが、目の前にはビルが立ち並び、街と呼んでもおかしくないほどのだだっ広い会場があった。
さすが雄英、こんな広い会場、それも複数ある会場が敷地内にスッポリ入っているとは凄い規模だ。
――いや、感心している場合ではないな。
周りを見渡すと、同じ会場となった受験生達がウォーミングアップや精神統一などをしているが、俺は何時でもスタートできるようにスタンバイする。
今までの経験上、油断をしていると必ず痛い目を見ることになったし、そもそも実戦にカウントなどある訳が無く・・・・。
『ハイ、スタートー!』
「!? やっぱりなぁー!!」
合図が出た瞬間、走り出す。
――俺だけが。
「・・・・・・ん? え?」
『どうしたあ!? 実戦じゃカウントなんざねえんだよ!! もう一人走ってるんだから、走れ走れ!!・・・・賽は投げられてんぞ!!?』
それを聴いた全員が出遅れて、慌てて走り出す。
試験は開始された。
◇
スタートダッシュは無事成功。
会場の中心部まで進み、やるべきことは・・・・・
「58ポイント!」
必要な敵ポイントを稼ぐこと。
制限時間は10分、誰よりも早くスタートしたおかげで、開始3分で多くの仮想敵の撃退に成功。
機械で出来た仮想敵。
見た目に迫力があるが、装甲は思ったよりも脆く、これならば簡単に破壊できる。
"錬金術"でメイスを造り、向かってくる仮想敵をなぎ倒す。
機械が相手なら、刃物より鈍器の方が効果的だ。
そして、複数の仮想敵が同時に襲ってきたら・・・・
「《錬成》!」
俺の周りの地面をニードル状に構築して一気に破壊、これを繰り返す、だけで十分だ。
相手の動きは単調で、おそらく試験用に動きを制限させているのだろう。
これならいくら来ようと俺の敵ではない!!。
「77!・・・80ポイント!」
『あと、6分2秒~~』
残り6分で80ポイント・・・・上出来だ。
仮想敵を倒しながら他の受験生を見ていたが、ほとんどが20、30ポイントと行ったところ。
これだけでも十分、合格ラインと言ったところか・・・・。
「オラァ!! 61ポイント!!!」
「!?」
大きな声がし振り向くと、とがった金髪をした人相の悪い男が仮想敵をノリノリで破壊していた。
あの男、仮想敵に触れて爆発させてるが、対象を爆発させる個性なのか?
――いや、それで自分にも被害が出るから違うな。
おそらく手の平から爆破エネルギーのようなものを出す個性だろう。
あいつは個性が戦闘に向いているおかげで、他の受験生よりも多く仮想敵を撃退できているようだな。
――だが、隙が多い。
「《錬成》!」
「!?」
俺はあいつの背後に迫っていた仮想ヴィランを破壊する。
目の前の敵に集中しすぎているせいか、あいつの背後は隙だらけであった。
「おい、てめえ!! 俺の獲物を横取りしてんじゃねえよ!!!」
「簡単に隙を見せる奴が偉そうな口を叩くな、未熟者!!」
「なっ!?、てめえ!!!」
助けてもらった相手に対して罵声を上げるなんて、失礼にも程がある。
俺が助けなければ大怪我は免れなかったぞ?
おそらくこいつ、育ちがあまりよくないな・・・。
「精々、後ろに気をつけろ。いつでも誰かが助けてくれるとは限らないぞ?」
「くっ! てめえ、待ちやがれ!!」
俺は無視して走り出す。
こう言う奴は相手にするだけ時間の無駄だ。
『残り5分~~』
制限時間の半分を切ったか。
――ならば、そろそろ
「〔THOOM〕」
お邪魔ギミックが出てくる。
現れたのはとてつもなく大きな仮想敵。
ビルや建物をなぎ倒し、所狭しと大暴れをしながらこちらに向かってくる・・・デカイな
「逃げろー!!」
「あんなの無理だあ!!」
「お母ちゃーん!!」
パニックを起こす受験生達。
圧倒的な脅威に恐れをなした連中は、我先にと逃走していった。
まあ、あの大きさの上、ポイントが設けられてない0ポイントの仮想敵だから、臆病者はさっさと逃げてしまうだろう。
よく見たら、さっきの失礼な金髪野郎も敵わないと悟ったのか逃げている。
「ケロ」
「ありがとっ!」
「ん?」
妙な声が聞こえ振り向くと、カエルみたいな少女が足がすくんで動けなくなっている受験生を助けていた。
試験の意図に気づいているのか?、それとも正直から出てくる行動なのか?、どちらにしてもヒーローとしては正しい行動だな。
しかし、思ったより動けなくなっている奴が多いな。
彼女一人で助けられる数では無い。
「ケロッ!?」
「キャッ!!」
救助に気を取られすぎていたのか、超大型仮想敵の接近を許してしまっている。
しかし、声は二人分聞こえたんだが、カエルの少女一人しか見当たらない。
だが、彼女何かを抱き抱えている?
――透明人間か?
もしそうなら、彼女よく気づいたなぁ。
――て、感心している場合ではないな。
助けるか。
「《錬成》!」
俺は個性を発動した。
◇
「!、数が多すぎるわね」
"蛙"の個性を持った異形型の少女。
超大型仮想敵が出現した直後から、個性特有の"舌"を使い、逃げ遅れている受験生の救助にあたっている。
「助けてぇ!」
「ケロ?」
彼女が振り向くと瓦礫が詰まれている場所から声がする。
そこに人の姿は無いが、確かの声が聴こえた為、よそよそと近づくと
「誰かいるの?」
「いるいる、ここにいるよ!」
そこには宙に浮いた手袋がある。
「透明なの?」
「そうそう!、やっと気づいてくれた」
なんと"透明"の少女が瓦礫に挟まっていた。
"透明化"の個性を持った少女は、超大型仮想敵が崩した瓦礫に体を挟まれ、身動きが取れずにいた。
透明であるが故に、誰にも気づいてもらえず困っていたのである。
「完全に嵌ってるわね、抜けないわ」
「どうしよう!」
瓦礫が重く、蛙の少女一人では動かすことが出来ない。
透明の少女は困惑しているが――
「〔THOOM〕」
「ケロッ!?」
「キャッ!!」
超大型仮想敵はそんな彼女達を待ってはくれず、容赦なく向かってくる。
彼女達は絶対絶命のピンチに追い込まれていたが――
「《錬成》!!」
「「!?」」
突然、自分達の目の前の地面が盛り上がり、巨大な柱となって超大型仮想敵に襲いかかった。
巨大柱が命中した超大型仮想敵は大きくよろけ、横転する。
「無事か?」
「「!?」」
少女達が振り向くと、そこには手を地面に付けたメガネの少年がいた。
◇
「(間に合ったな)」
超大型仮想敵を横転させることに成功した俺は彼女達の元に駆け寄る。
よく確認すると、透明の少女の下半身が瓦礫にスッポリハマッており、下手に瓦礫を退かしたら下半身が押しつぶされるかも知れない。
――ならば
「《錬成》」
「「!?」」
瓦礫を全て分解し、別の形へと再構築すればいい。
彼女の上に乗っかっていた瓦礫をトンネルに錬成し、彼女を引き抜く。
「怪我はないか?」
「!? うん。かすり傷だけだよ」
「あなたの個性、凄いわね、ケロロ・・・」
俺の個性に驚く二人。
だが、そんなことを気にしている場合ではない。
超大型仮想敵が起き上がろうとしている。
「あのデカブツは俺が何とかする。二人は今の内に避難してポイントを稼いでいろ」
「でも、他の仮想敵はほとんど倒されてしまったわ」
「どうしよう!私あんまりポイント稼いでな「敵ポイントじゃない」‥!?」
十分な敵ポイントを稼いでいない透明の少女が慌てふためいていたが、落ち着かせる。
「稼ぐのは
「「救助ポイント!?」」
"救助ポイント"。
これこそが、この試験に隠された真実。
人命救助はヒーローにとって当然の行いだ。
仮想敵にポイントが振り分けられているのは受験生の戦闘力を測るためだけではなく、目先の獲物だけに囚われず、如何に我が身を犠牲にして他者を救うことが出来るかを測るものでもあると予測する。
救助活動を行った分だけポイントに成るはずだ。
そうでなければ"お邪魔ギミック"なんてものは必要ない。
俺は二人にその事を伝える。
「まだ、逃げ遅れている奴が居るはずだ。そいつらを助けてれば十分ポイントが稼げるだろう」
「でも、あなたあんなデカイの倒せるの?」
「相手が機械なら簡単だ」
「?」
蛙の少女が首を傾げる。
説明している時間はないから、二人を説得しさっさとこの場から離す。
二人は半信半疑であったが、俺の言ったことに信憑性を感じてくれたため、素直に応えてくれた。
「・・・・さて、始めるか」
俺は、超大型仮想敵に向かって行った。
――――
◇
「大丈夫かなぁ? あの人」
「わからないわ。自信満々みたいだったけど・・・」
錬と別れた"蛙"の少女と"透明"の少女。
二人は錬の言葉通り、別れた後も救助活動をしていたが、今ひとつ信じきれていなかった。
無論それは"救助ポイント"のことでは無く、あの超大型仮想敵を倒せると言うことがである。
圧倒的なデカさとパワーで建物をなぎ倒していく巨大な怪物。
正直に言って、ミサイルでも無ければ倒せないだろう。
彼女達は、そんな圧倒的脅威に立ち向かって逝った・・・・いやいや、行った錬のことが心配で仕方が無かった。
――だが、その時
ドぐぁあああああん!!
「「!!?」」
大爆発!
突然の轟音に驚くは二人が後ろを振り向くとそこには巨大な爆炎が空高く舞い上がっていた。
――――
◇
「〔THOOM〕」
「見境がないな!」
二人と別れた後、超大型仮想敵は俺をターゲット絞り込み、建物を崩しながら俺を追いかけてくる
相手の気を引き、その際に逃げ遅れた他の受験生もしっかり救助し、ポイントを稼ぐ。
これで救助ポイントも十分稼げたはずだ。
俺は超大型仮想敵に集中する。
――まずは
「《錬成》」
巨大な壁を錬成。
これから行うことによる周囲の被害を考え、超大型仮想敵の周囲を壁で囲い、相手の動きを制限させる。
俺をターゲットにしてくれているおかげで、壁に向かって行くことはなく、ひたすら俺を追撃する超大型仮想敵。
――そして俺は
「《錬成》、《錬成》、《錬成》!」
超大型仮想敵が崩した所々の瓦礫を"ある物"に錬成していく。
「よし、仕上げだ。《錬成》!」
仕上げとして地面の一部を分解し、穴を掘る。もちろん蓋を付けて。
これで
――後は
「《錬成》!」
『!!?』
再び巨大柱を錬成し超大型仮想敵を横転させた。
――準備、完了だ!
俺は先ほど造った穴に飛び込み、二つの石を両手に握り、瓦礫を錬成して造った"ある物"に向かって振りかざす。
―――"火薬"に向かって。
「
手に持った石、"発火石"を重ね弾いて火花を起こし火が舞い起こる。
俺は燃焼物と酸素を個性で生成し、空気中の塵を導火線にして発火石で火を起こした。
舞い起こった火は"炎"となって、大量の火薬に向かって一直線。
後は言うまでもない。
俺は直ぐに穴のフタを閉め、耳を塞ぐ。
ドぐぁあああああん!
外では轟音が鳴り響き大爆発を起こした。
――――しばらくした後
「ゴホッ!・・・煙いな」
俺は自分で造った穴の蓋を開け、外に出る。
周囲はまだ、爆発のホコリが舞い上がっているが徐々に晴れてゆき、周囲の全容が明らかになっていく。
「・・・・ここまでやる必要なかったな」
目の前には大きなクレーターが出来ており、超大型仮想敵は見事にバラバラに吹き飛んでいた。
爆発による破片が遠くに飛ばないように周囲一帯を壁で覆ったことが功を奏し、壁は一部倒壊しているが周囲に被害はほとんど無い。
約200キロの火薬を生成したが、これなら半分でも事は足りていたな。
―――そして
『 終 了~~~~!!!!』
終了の合図が鳴り響く。
雄英高校入試試験は、無事終了した。
果たして結果はどうなる事か・・・。
――――