無個性より苦労してます。   作:ソウルゲイン

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前回の続きです。


第33話

「榴弾砲着弾(ハウザー・インパクト)!!」

 

 会場を包む爆破による閃光。

 造理と爆豪による決勝戦で片腕を折られ一方的に追い込まれて居た爆豪はギリギリの所で造理を拘束する事に成功し、造理に向かって強力な一撃必殺を繰り出した。

 

『決まったぁっ!! 爆豪の強烈な必殺技が造理に決まったぁっ!! ・・・・って、ヤバいんじゃねえかあれ!?』

「造理の奴、至近距離で食らっちまったな。ミッドナイト、直ぐに確認を!」

 

 慌ただしい様子で確認を急がせる相澤先生。

 本来であれば危険と察知されたら主審であるミッドナイトと副審のセメントスが手を下し、生徒の身の安全を守るのだが、爆豪に掴まれたことで密着していた造理は爆豪の強力で危険な個性をモロに受けてしまった。

 現在ステージ上は爆破による煙に包まれており、爆豪の姿はかろうじて確認出来るが、造理は爆豪によって掴まれている右腕だけしか確認出来なかった。

 そして煙が段々と晴れて行くと・・・・。

 

 

『煙が段々晴れてくぜ! 果たして造理はどうなっ・・・・・っ!?』

「「「「っ!?」」」」

 

 プレゼントマイクが言葉を詰まらせ、会場の誰もが驚きを見せていたが、それも仕方が無かった。

 爆豪の強力な一撃を至近距離で浴びてしまった造理の身を会場の誰もが安じていたのだが、煙が晴れて、いざ造理の姿を確認しようとした所、そこには造理の姿が無かったからだ。

 

 ――爆豪がしがみ付いて居た"右腕"だけを残して・・・・。

 

「おい! あの右腕って・・・・」

「そんな、まさか!」

「おいおい、マジかよ!?」

 

 観客席にて試合を観戦していた観客達から同様の声が上がる。

 

 そして彼らも・・・・。

 

「まさか、造理!?」

「造理ちゃん、何処行っちゃったの!?」

「まさか消し飛んじまったのか!?」

 

 造理が右腕だけを残して姿を消してしまった事でA組一同も慌ただしい様子。

 

 そして、その右腕を掴んでいる爆豪も・・・・。

 

「・・・・・・」

 

 今起きている事に頭が着いて行かず、無言で静止してしまっていた。

 

 右腕一つを残して消えてしまった造理、誰もが最悪の事態を想定してしまい、動揺を隠しきれずに居た・・・・。

 

 ―――その時。

 

「危なかったな」

 

「「「「!!!?」」」」

 

 突然の声に会場に居た全員が驚きを見せる。

 ステージに舞い上がっていた煙がほとんど薄れ、ステージが完全に現に成った時・・・・。

 

「今のは本当に危なかった・・・・」

 

 造理が姿を現した。

 右腕を失った状態で・・・・・・。

 

 

 

 ◇◇

 

「ぐっ!」

 

 右腕を失ったことによる痛みで俺は思わず顔を歪ませてしまう。

 しかし今のは本当に危なかった。爆豪に腕を掴まれて個性による強力な一撃が放たれた瞬間、咄嗟に個性で右腕を切り離して何とか直撃を避ける事は出来た。

 もしまともに食らっていたら会場の外まで吹き飛ばされていたかも知れない。

 

「造理くん! あなたその腕・・・・」

「問題ありません」

 

 主審のミッドナイトが慌てた様子で俺の安否を伺ってきたが、俺は問題無しと伝えた。俺は倒れ込んでいる爆豪に近づいて行く・・・・・。

 

「クソがっ! 避けやがったか!」

「流石にあれを食らったら一溜まりも無かったからな。それと俺の右腕を返せ」

 

 俺は爆豪が掴んでいた俺の右腕を無理矢理回収した。そして、その右腕を左手で持ち切り離した腕の部分に添える。・・・・そして。

 

「《錬成》」

 

 個性を発動し切り離した右腕をくっつけ元に戻した。

 

「(指が上手く動かない。・・・・元の状態に戻るまで数日は必要だな)」

 

 一度切り離してしまった為、上手く右腕が機能しないが今この場で出来る処置は完了した。

 試合が終わったらリカバリーガールに見てもらうとしよう・・・・。

 

「今のが切り札だったようだな爆豪?」

「くっ!・・・・・」

 

 俺の言葉に苦し紛れに反応する爆豪。どうやら力を使い切ってしまったようだな。立ち上がる様子を見せない。

 

「(このまま押し出せば俺の勝利だが・・・・)」

 

 爆豪は場外のギリギリの位置に居て、身構える素振りも見せない。爆豪自信も負けを悟ったのか顔を下に向けてしまっている。

 それでも負けを宣言しないのはプライドが原因だろう。自分で負けを口にしないのは負けを認めたことを人に見せたくないと言う思いがあるに違いない。

 このまま場外に落として爆豪の思い通りにするのはしゃくだ。

 

 ――だから、俺は。

 

「降参だ」

「「「「っ!?」」」」

 

 俺は降参を宣言した。

 

「造理くん! あなた何を言って・・・・」

「降参と言いました。この試合は俺の負けです」

 

 俺は主審のミッドナイトに改めて降参を宣言する。

 

「錬金野郎っ! てめぇどう言うつもりだっ!?」

 

 下を向き戦意を失っていた爆豪が叫んで来たが、まあそれも仕方の無いことだ。敗北を悟っていた爆豪からしたら俺の降参宣言は全くと言って良い程、納得が出来ない物だろうからな・・・・。

 

「俺は自分が決めたルールに従っただけだ」

「何っ!?」

 

 俺はこの試合・・・・・爆豪との決勝戦では"個性を使わない"と予め決めていたのだ。

 この決勝で個性を使わず圧倒的な勝利を収める事で、全国ネットを通じて俺を狙って居るであろうヴィランとその他の連中に俺の力を示そうと考えて居た。

 後、これは個人的な考えなのだが、もしこの決勝で個性を使用してしまったら降参するつもりで居た。

 

「個性を使わずにお前に勝利するつもりで居たが、それは叶わなかった。だから俺は自分で決めたルールに則って敗北を宣言したんだ。それに言っただろ? 個性を使わせたら勝利をくれてやるって」

「・・・・・ふざけんなぁっ!!」

 

 爆豪が力の限り叫ぶ。

 

「こんな勝敗に納得出来るかぁ!! 試合は俺が負けてたんだ!! それなら俺が降参する!!」

 

 俺のしたことが余程納得出来なかった様であり、爆豪はヤケを起こしていた。

 このままでは埒が空きそうに無いな? 俺は爆豪を横切りそのまま場外に降り立った。

 

「なっ!?」

「ミッドナイト。俺は場外に成りました。俺はもう戦う意思がありません」

「・・・・・・・そのようね」

 

 ミッドナイトも俺の心情を察してくれたようだ。

 

「造理くん場外! ・・・・爆豪くんの勝利!!」

『決まったぁ―っ!! 今一盛り上がらない終わり方だけど、勝敗は決まったぜっ!! 優勝は爆豪だぁ!!』

 

 勝敗は決した。俺が負け、爆豪が勝利を収めた。

 会場は今一盛り上がっていない様子だけど、俺はそれを気にせずにステージを後にする・・・・。

 

 ――だが。

 

「待ちやがれ錬金野郎っ!!」

 

 爆豪が俺を呼び止めて来た。

 爆豪はフラフラに成りながらも立ち上がり、俺に近づいてきて胸ぐらを掴んできた。

 

「まだだ! まだ勝負は終わってねぇ!! 俺と戦えっ!」

 

 爆豪は試合の続行を要求してきた。

 

「俺もお前もまだ動けるんだ! 降参なんてまどろっこしい物は抜きで、もう一度俺と戦・・・」

「調子に乗るな!」

「ぐわぁっ!?」

 

 俺は胸ぐらを掴んでいた爆豪の腕を払いのけ、そのまま投げ飛ばした。

 

「お前の感情なんか知ったことじゃない。そもそも"降参"と言う唯一の選択権をはじめから棒に振ったお前に口を出す資格なんてあるのか?」

「ぐっ!」

「そもそもお前には選択権すらもないんだよ! ・・・・・"弱者"であるお前にはな!」

「!?」

 

 俺は爆豪に向かってハッキリと宣言した。

 この人の社会では常に強者によって成り立っている。

 実力や権力・・・・形は違えどこれらを持つ強者が選択権を生み出し、積極的に決定を降す。弱者は強者に決められたルールに従い、決められた生き方で生きるしか無い。

 ――弱者では生き方も選べないんだ。

 だからこそ俺は己を磨き、今まで必死に鍛えて来たのだ。・・・・誰かに生き方を決められない為に。

 

「お前は弱者で、俺よりも弱い! だからこそ俺に勝敗を決められてしまったんだ。・・・・そこに、お前なんかの意思が入り込む余地なんてない」

「くっ!」

「それが嫌ならせいぜい強くなることだな。文句なんてものは勝った人間だけが言えるセリフなんだから、俺よりも強く成ってひざまずかせてみせろ。・・・・それまでその勝利はお前に預けて置く」

 

 俺はそう言い残し、爆豪から離れる。

 

「クソがっ!!」

 

 後ろから爆豪の悲痛の叫びが聞こえるが、俺はそれを気にしない。

 俺はそのまま会場を後にして行った・・・・・。

 

 

 

 

 

 ――それから、しばらくして。

 

「それではこれより! 表彰式に移ります!」

 

 時が過ぎて夕暮れ時。雄英体育祭1年の部は全ての種目が終了し上位四名の表彰式が行われていた。

 3位には轟と常闇。3位決定戦は行われなかった為、3位が二人に成ってしまっていた。

 そして2位はこの俺で、そして1位は爆豪。

 爆豪が雄英学校1年の中で頂点に立った訳だが、等の本人は・・・・・・。

 

「・・・・・・」

 

 無言で居た。

 リカバリーガールの治療を受け、俺がへし折ってやった右腕は既に治っているようだが、1位に輝いた爆豪は優勝台の上で下を向きながらズッと無言を貫ぬき拳を握りながら立ち尽くしていたのだ。

 先程の試合の事が相当答堪えた見たいであるけど、プライドの高い爆豪の事だからてっきり表彰式をバックレると思っていた。

 それとも逆に逃げる事が恥だと思ったのかな・・・・?

 

「さあ、メダルの授与よ! 今年のメダルを贈呈するのはもちろんこの人!」

「私がメダルを持って来た――――っ!!」

 

 ミッドナイトの合図と供にオールマイトが現れる。

 そしてオールマイトはメダルを取りだし、順番に授与して行った。

 

「常闇少年、おめでとう! 強いな君は!」

「もったいないお言葉」

 

 先ず授与されたのは3位の常闇。オールマイトの褒め言葉に常闇は恐縮の態度を見せるが・・・・・。

 

「ただ!相性差を覆すには"個性"に頼りっきりじゃダメだ。もっと地力を鍛えれば取れる選択が増すだろう」

「・・・・・御意」

 

 オールマイトから苦言を受けた事で反省の態度を示した。

 

「轟少年。おめでとう」

「・・・・・」

 

 次にメダルを授与されたのは同じく3位の轟。

 

「準決勝はとても残念だったな!」

「全力で挑んだ結果ですので後悔はありません。それにあの試合のお陰で色々吹っ切れました。・・・・あなたのようなヒーローになるためにも、これから色々と清算して行くつもりです」

「うむ。顔が以前と全然違う。今の君ならきっと清算できるだろう」

 

 色々と吹っ切れた様子の轟はオールマイトに励ましの言葉を受けた。

 

「造理少年。準優勝おめでとう!」

「ありがとうございます」

 

 そして俺の番が回ってきた。オールマイトが俺の首にメダルを掛ける。

 クラスの皆の前で堂々と優勝宣言をしたのにも関わらず2位に甘んじてしまうのは情けない限りの話だが、自分で選んだ結果だから、特に何も言うことは無い。

 

「決勝での敗北・・・・己のルールに従っての行動なのだろう。君の心得を覆すには並大抵ではないようだね」

「・・・・」

「だけど、あまり自分を苦しめるような事はしてはいけないよ。たとえどのような境遇にあろうとも、我々ヒーローは常に君の味方でいるつもりだ」

「・・・・・・・」

 

 オールマイトの忠告とも言える言葉に対して、俺はあえて無言を貫く。

 今までの人生でヒーローに狙われたこともあったから、オールマイトの言葉をあまり真に受けては居ないが、真っ当なヒーローであるオールマイト相手に物申すのはお門違いでもあったから、ここは素直に忠告を受けとっておこう・・・・。

 

 そして、次は・・・・・・。

 

「さて、爆豪少年! 優勝おめでとう! 伏線回収は見事だったかな?」

「・・・・・・・」

 

 優勝者である爆豪。開会式での宣誓で優勝宣言をした爆豪は宣言通りに見事優勝の美を飾ったが、ズッと下を向き黙って居た。

 

「決勝戦の結果は納得が行かない物があるだろうけど、相対評価に晒され続けるこの世界で不変の絶対評価を持ち続けられる人間はそう多くない。・・・・このメダルは"傷"として受け取って起きたまえ」

「・・・・・・・」

 

 オールマイトは優勝メダルを爆豪の首に掛けようとする。

 ・・・・・・だが。

 

「くっ!」

「?」

 

 爆豪は首に掛けられる前に優勝メダルを手で掴んだ。

 

「どうした爆豪少年?」

「このメダルは首には掛けねぇ!」

 

 爆豪は首に優勝メダルを掛けることを拒んで来た。

 

「この優勝は実力で手に入れた物じゃねぇ! でもルール上、仕方がねぇ事だからこのメダルは素直に受け取っておいてやる! だけど、首にだけは絶対に掛けねぇ! これは俺に許される最低限の我が儘だ!」

「爆豪少年・・・・」

 

 オールマイトに向かって内に秘めた悔しい思いをぶちまける爆豪。そして。

 

「おい、錬金野郎!」

「何だ?」

 

 突然俺に向かって叫んで来た。

 

「悔しいがてめぇは俺よりも強ぇ! 勝利を譲られた事は納得が行かねえが、実力で劣る俺がとやかく言う資格もねぇ! だからこのメダルは素直に受け取っておいてやらぁ!」

「・・・・・・・・」

「でも、忘れるなっ! 俺は強く成っていつか絶対てめぇを超えてやる! そして、てめぇを超えたその時に堂々とこのメダルを首に下げてやるっ!」

 

 俺に向かって思いの丈をぶつけて来る爆豪。これは俺に対する下克上であった。

 普段の俺ならば軽く受け流している事なのだが、今の爆豪にそれをやっても意味は無さそうだろう。

 

「好きにしろ。・・・・出来るならな」

「ああ、好きにしてやらぁ!!」

 

「ははは、青春してるじゃないか! 良いよそう言うの!」

 

 俺と爆豪のやり取りを側で見てオールマイトは感心するように笑っていた。

 別にこれは青春という訳では無いのだが、あえてそれをここで言う必要は無いだろう・・・・。

 

「さぁ! 今回表彰台を勝ち取ったのは彼らだったが、しかし皆さん!」

 

 オールマイトが振り向き、会場に居る人全員に向かって語り出す。

 

「この場の誰もがここに立つ可能性があった! ご覧頂いた通りに、次代ののヒーローは確実にその芽を伸ばしている!! 競い合い、高め合い、さらに先へと登って行くだろう!! ・・・・てな感じで最後に一言!!」

 

 オールマイトが天に向かって指を指す。

 

「皆さんお唱和下さい! ・・・・せーの」

 

 オールマイトのかけ声と供に・・・・・・。

 

「プルス「プル「プルスウ「ウル…「おつかれさまでした!!!」…」…」…」

 

 全くかみ合わない唱和が行われてしまった。

 

「そこはプルスウルトラでしょ、オールマイト!」

「ああいや・・・、疲れたろうなと思って・・・・・・・・」

 

 注意を受けてしまうオールマイト。何、とも締まらない終わり方だが、これで全て終了。

 長く続いた雄英体育祭は無事に終了し幕を下ろして行った・・・・・・・。

 

 ――――




 雄英体育祭、終了です。雄英体育祭の話を随分長く続けてしまいましたが、ようやく終わらせる事が出来ました。
 次の話はアイディアが思い付き次第、投稿いたします。

 ~追伸~
 感想などで主人公が腕を個性で切り離した件を追求してくる人が多いので少しだけ説明しますが、これはこの先の展開の伏線のつもりです。

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