今回は主人公の出番はありません。
「う、う・・・ここは・・・」
「気が付いた用だね。ここは医務室だよ」
「リカバリーガール」
場所はリカバリーガールの医務室。
先程の造理との試合で敗北し気を失った轟は医務室まで運ばれベットの上に寝かされていたが、リカバリーガールの治癒で治療されて、たった今、目を覚ました所であった。
「俺は・・・負けたんですか」
「そうだね。良い勝負だった見たいだよ」
「そうですか・・・」
勝敗の事をリカバリーガールに訪ねた轟は自分が勝負に負けたことを知る。
「治療は済んであるから起きても大丈夫だね。――後は好きにしな」
「有り難うございます」
轟はベットから起き上がり、リカバリーガールに挨拶を交わした後に医務室を後にした・・・。
「・・・・・」
医務室を後し会場の通路を無言で歩いていく轟、その表情は、まるで何も無かったかのように平常心を保っていた・・・。
――ように思えたが。
「くそっ!」
やはり内心はかなり悔しいかったようであり、痛惜の言葉が飛び出していた。
「(全力でやって勝てなかった・・・)」
造理との試合による敗北、これは前回の戦闘訓練での敗北とは比較にならないほど無念なことであった。
才能に満ち溢れ父親であるエンデヴァーによって厳しい特訓を課せられ同年代においては負け無しの環境で育ってきた轟にとっての今回の敗北、それも"左"を使用し全力を振り絞って挑んだ勝負での敗北は轟にとって初めての経験であったのだ。
――しかし。
「(こんなんじゃ、オールマイトみたいに強く成れねえな・・・)」
轟は後ろを見ては居なかった。
今の轟は二回戦の緑谷に続き準決勝で造理にまで悟された事で自分が何がしたいか何をするべきなのかを明確に理解した轟の心は真っ直ぐ向いていた。
――すると、その時。
「目を覚ましたようだな、焦凍」
「!? 親父!」
通路を歩いて居た轟の前に轟の父"エンデヴァー"が姿を現した。
「何故ここにいる」
「お前を様子を見に来たのだ。試合に負けて気を失ったお前をな。・・・だが、問題は無いようだな」
「・・・・」
造理に敗北して医務室に運ばれた轟の様子を伺いに来たエンデヴァー。
息子である轟の無事な様子に安堵な様子を浮かべている。
「試合は残念な結果に終わったが仕方が無い。あれは相手の方が一枚上手だった」
「・・・・」
試合の結果に冷静に受け止め感想を述べるエンデヴァー。
しかし、轟はそれを黙って聞いていた。
「お前は"左"を使わないことに拘らなくなった。これからお前はどんどん強く・・・」
「一つ聞きたい」
「?」
息子の成長に満足な様子で語っていたエンデヴァーであったが、途中で轟がそれを遮る。
「お前・・・母さんの事をどう思ってるんだ?」
「?」
エンデヴァーに向かってそう語りかける轟、この質問は轟にとって長年疑問に思っていた事であった。
父親が個性婚で母親と結婚したことは知っていたが本当にそれだけなのか、本当に個性だけを目当てに母親と結婚したのかと・・・。
「それを聞いてどうする?」
「俺は母さんを救いたい。――だから答えろ」
「・・・・」
轟は真剣な面持ちでエンデヴァーを見つめた。
これまで父親の前では決して口に出さなかったに母親への思い、その母親を救うべくまず行ったのが父親に母親に対する思いを問うことであった。
そして、この答えによっては轟は父親であるエンデヴァーに見切りを付けるつもりでいた。
――しかし、父親の回答は。
「――最低な女だ」
「っ!? てめぇっ!!」
「ふんっ!」
「ぐっ!」
エンデヴァーの答えを聞いて激怒した轟は殴り掛かったが、エンデヴァーは轟の拳を片手で受け止める。
「弱くて軽い拳だ。まだまだ鍛えなければ成らないようだな?」
「黙れ、てめえのせいで母さんは!」
怒りに満ちた轟はエンデヴァーの言葉に耳を傾けようとしない。
しかしエンデヴァーはそんな息子を顧みず話を続ける。
「お前が何を言おうと母さんに対する私の評価は変わらない。母さんはそれだけの事をしたのだ」
「何を言ってやがる! お前が母さんを追い詰め・・・」
「どんな事情があろうと子供に危害を加える親は最低だ!」
「!?」
今度はエンデヴァーが轟の言葉を遮った。
それを聞いた轟は冷静さを取り戻し、力を抜いてエンデヴァーから離れる。
「俺が母さんを追い詰めてしまった事は十分理解している。だが、理由はどうであれ母さんは実の息子であるお前に危害を加え罪を犯してしまったのだ。実の子供に危害を加える、――これは人の親として最低な行いだ」
「・・・・」
エンデヴァーの言葉に轟は黙ってしまう。
確かにエンデヴァーの言う事も事実であった。
第三者から見て轟に対するエンデヴァーの行い、これはお世辞にも良いとは言えない仕打ちである。
それを間近で見て来た事で気が狂ってしまった母親の心情も察するものがあるが、だからと言って母親が轟にしたことは許される事では無い。
エンデヴァーに対してならまだしも、何の罪も無い実の息子に危害を加える。
言ってしまえば、これは轟に対して悪質な当て付けであった。
「俺は人の親でもあるが、ヒーローでもあるのだ。お前がどう思おうと俺がヒーローである以上は母さんがやってしまった過ちを見過ごす訳に行かない。・・・だから母さんを施設に入れた」
「・・・・」
「お前が消えない傷を負わされながらも母さんの事を大切に思っているのはよく分かった。俺を嫌うのも構わんし、もしお前がヒーロー以外の道を選ぶのであれば好きにすれば良い。――だが、お前がヒーローを目指している以上は一切の甘えは許さないし許されない」
「・・・・・」
轟に対して豪語するエンデヴァー。
息子の本音を聞いたことでエンデヴァー自身も胸の内を語っているようであった。
「ヒーローにとって綺麗事は上等だ。だが、綺麗事だけでまかり通るほど世の中は甘くないし、罪を犯せば罰せられる。それが大人の世界だ」
「・・・・・」
ナンバー2ヒーローでこそあるがヴィランの検挙率はナンバー1を誇っており、誰よりもヒーローとしての活動に勤しんでいたエンデヴァー。
彼の言葉には他の者には無い重みがあった。
「お前は彼と・・・造理 練の事を知って分かっただろう。後ろを見て寄り道する事が如何に愚かな事なのかを・・・」
「・・・・」
ここで造理の名を口にしたエンデヴァー。
本来ならば守秘義務であるにも関わらず息子にせがまれて喋ってしまったエンデヴァーの行いはいけないことではあるのだが、エンデヴァーはそれを理解しても尚、造理を引き合いに出した。
「彼は悲惨な境遇でありながら決して後ろを見ずに、己を磨き上げて常に前進をしている。お前もヒーローの道を行き、私を超えるナンバー1ヒーローに成るつもりならば余計な事はせずに前に進め。・・・ではな」
そう言い残し、エンデヴァーは去って行った。
――しかし。
「待て、親父!」
轟がそれを呼び止める。
「最後にこれだけ聞かせろ!」
「? ・・・何だ?」
轟に呼び止められて身体を向けるエンデヴァー。
「お前・・・母さんを愛しているのか?」
「・・・ふん、何を言っている」
轟の問いに対してエンデヴァーは鼻で笑い背中を向けてしまった。
するとエンデヴァーは目を閉じながらゆっくりと口を開く。
「――愛してもいない女と誰が結婚などするか」
そう言い残してエンデヴァーはその場を去って行った・・・。
「・・・・・」
去って行く父親の背中を黙って見つめる轟。
父親の言葉を聞いて無言を貫いているが、それは轟の中でまた一つ何かが変わった瞬間でもあった・・・。
◇◇
『閃光弾(スタングレネード)!!』
「ぐあっ!」
場所は変わって会場ステージ。
今現在ステージ上では爆豪VS常闇の試合が行われていた。
互いに準決勝まで上がってきた強者同士、接戦を予想されていたが、試合中・・・爆豪に対して常闇は防戦一方の状態であり、背後を取られると爆豪の個性を利用した閃光を浴びてしまい、その隙を突かれ羽交い締めに為れてしまった。
「詰みだ」
「・・・・まいった」
光を苦手としていた常闇は弱点を突かれてしまった事で為す術を失い、敗北を認めた。
「常闇くん降参! 爆豪くんの勝利!!」
『決まったー!! 準決勝第二試合の勝者は爆豪! よって決勝は造理VS爆豪に決定だぁ!!』
勝敗は決し爆豪が勝利を収めた。
「フ~・・・」
勝利を収めた爆豪であったが、その表情に嬉しさと言う感じは一切見せず真剣な面持ちその物であった。
そして爆豪は会場の観客席に目を向け、その先にいるのは・・・。
「(次はお前だ錬金野郎!)」
次の試合、決勝で戦う造理 練であった。
爆豪は会場の片隅にて試合を観戦していた造理を睨み付ける。
「(やっとだ。やっとてめぇと戦えるっ!)」
造理と戦うことを心待ちにしている様子を見せる爆豪だが、それは仕方が無い。
爆豪にとって造理には並々成らぬ思いが有ったからだ。
――それは。
「(俺は本当の一番じゃない!)」
雄英一般入試試験を一位で合格した爆豪だが、本来ならば一位で合格していたのは同じく一般入試試験を受けていた造理であった。
しかし造理は入試試験で他の追随を許さない好成績を収めた事で"特待生"に成ってしまった為に一般入試の合格から抜け、推薦で雄英に入学してしまった。
つまり、爆豪が入試試験一位に成ったのは造理が抜けたことによる繰り上げによる結果であったのだ。
――更にそれだけじゃ無い。
「(錬金野郎は俺と同じ会場で試験を受けていやがった。それなのに俺よりも遙かに高い成績を収めていやがった・・・)」
爆豪は造理と同じ試験会場にいたが、仮想敵退治でも造理に負けていたのだ。
さらに超大型仮想敵が現れた時も爆豪は戦わずポイント稼ぎのためにあえて逃亡を選択したが、造理は逃亡せずに立ち向かい、それを撃破。
さらにそれによって得られた救助ポイントが加算され爆豪の倍を超える成績をたたき出していたのだ。
入試試験に置いて爆豪は造理に完全敗北をしていたのである。
そして爆豪が最も気に入らないのは・・・。
「(あの野郎は注意するのは"デク"と"メガネ"と"丸顔"だけと言いやがった。――俺は眼中にねえって事か!?)」
そう、これであった。
雄英体育祭開始直前、控え室でA組一同に言った造理の言葉"俺が注意するのは緑谷と飯田と麗日だけで他は取るに足らない"・・・この言葉が気に入らなくて仕方が無かった。
つまりそれは造理にとって爆豪の存在は意識すらしない程度の"格下"と言うことであるのだから・・・。
だからこそ爆豪は宣誓の後に造理に向かって宣戦布告をしたのだ。
「(あいつはあの半分野郎を倒しやがった。悔しいがあいつは間違いなく俺の上を行っている)」
プライドの塊である爆豪であるが造理が自分より上に行っているのは理解していた。
入試試験に始まり入学後の個性把握テスト、戦闘訓練で勝てないと思ってしまった轟に勝利を収めた事やUSJでヴィランと対峙した時の振る舞い。
そして雄英体育祭でのこれまでの成績で全て上を行かれてしまっているこの現状。
爆豪にとって悔しい事ではあるが、その結果は認めざる終えなかった。
故に次の決勝に対する思いはとてつもなく強い。
「(あいつは間違いなく一番つえぇ。あいつを倒せば―――俺は一番に成れる!!)」
爆豪は歯を食いしばり、改めて造理を睨み付ける。
『決勝まではしばらく休憩にするぜ! 40分後に決勝スタートだ!!』
プレゼントマイクの実況の元、決勝までに猶予が出来、爆豪は決意を改めステージを降りる。
「(てめぇを上からねじ伏せる! そんで、俺がトップだっ!!)」
造理に対して心の中で改めて宣戦布告をした爆豪は、会場から去り決勝に備えるのであった・・・。
今回もヒューマンドラマを組んでみました。
エンデヴァーの扱いなんですが、私的には嫌いじゃ無いキャラだったので少し良い扱いにしてみました。
次回は主人公VS爆豪の決勝対決に成りますが、良いアイディアが中々思い付かないのでかなり遅れるかも知れませんのでご了承下さい。