これで決着が付きます。
『さぁさぁ! ここに来て轟が本気に成った! この試合分からなくなってきたぜぇ!!』
造理VS轟の対決、試合の序盤は造理が一方的に轟を追い詰める状態であったが、轟は"左"の火の個性を解放し本領を発揮する。
「はあっ!」
「くっ! 《錬成!》」
轟は火の個性を駆使し造理に向かって放ち、造理は壁を錬成しそれを防ぐ。
しかし、轟がその隙を突いて・・・。
「もらった!」
「くっ! 何の!」
「ちっ!」
轟が造理に急接近し攻撃を繰り出すが、造理はそれを危なげなく交わした。
『惜しい! 造理の奴、急接近を許すも何とか凌いだぜ!!』
「造理が押され始めてきたか・・・」
現在の試合状況は轟が優勢の状態であった。
「おいおい今度はエンデヴァーの息子が押し始めたぞ!」
「あの火の個性は凄いな!」」
「流石ナンバー2ヒーローの息子だ!」
試合展開が変わったことで観客達は驚きの声を上げる。
――そしてこの男も。
「(そうだ、それでいい焦凍! それでこそ俺の息子だ!)」
同じく観客席に居たナンバー2ヒーロー"エンデヴァー"は、"左"を使用し本領を発揮したことで口には出さないが喜びの声を上げていた。
――さらに場所は変わり。
「おいおい、轟が急に強くなったぞ!」
「立場が逆転したね!」
「造理が押されてるぜ!」
「どうなるんだこの試合!」
ヒーロー科A組一同も全員が驚きの声を上げている。
その中でこの男は・・・。
「(轟くんの火の個性に対して造理くんは何も出来ていない。防戦一方だ・・・)」
造理VS轟の試合を静かに観戦していた緑谷は、造理が押されているこの試合展開を冷静に分析していた。
「(ひょっとして造理くん・・・火に対する対処が出来ない? ならこの試合は・・・)」
緑谷はこの後の試合展開を予測するのであった・・・。
◇◇
「はっ!」
「くっ!《錬成!》」
轟は再び火を放つが造理はそれを壁を錬成して防ぐ。
さらに轟はその隙を突いて急接近をするが、造理はそれを許すまいと距離を置く。
「造理」
「?」
「お前、――火を分解することが出来ないだろ?」
「(見破られたか)」
轟の言ったことはある意味正しかった。
造理の個性"錬金術"は対象に触れなければ発動することが出来ないものであり、正確に言えば火を分解出来ないわけでは無いのだが、対象に成る物が"火"であることが問題だった。
"火"と言うのは高温で有るが故、近づくだけでダメージを負ってしまう。
――つまり、"触れて分解する"と言う行為が出来ないのだ。
大火傷を覚悟で行えば話は別だが、それは意味が無い。
「どんどん行くぞ!」
「くっ!」
轟は火を纏いながら造理に向かって接近する。
現在の轟は自身の左半身を火で纏いながら近接戦闘をしかけていて、例え大火傷を覚悟して火を分解したとしも、無造作に火を発生させることが出来る今の轟には全く意味を成さない。
ある意味に置いては今の轟は造理が最も苦手とする相手に成っていた。
『強いぞ轟! 先程までの劣勢が嘘みたいだ! 造理をどんどん追い詰めてやがる!!』
プレゼント・マイクの実況がうるさく響く。
しかし言っていることは正しく、現状に置い造理は轟に対して有効な手立てが無い状態である。
造理はこの状況を打破する為に知恵を絞っているが・・・。
「これで決める!」
それよりも早く轟が仕掛けてきた。
「くっ!そうは行かない!」
「どうかな?」
「何? ぐはっ!?」
轟が中距離で炎を放ち、造理はそれを危なげなく回避したが、回避した先で何かに衝突する。
――そこにあったのは。
「何だ! 氷!?」
造理が振り向くとそこには氷の壁がそびえ立っていた。
「まさか、個性を同時に発動したのか!?」
「上手く行った!」
轟は俺を追い詰める為に右の氷と左の火を同時に発動したのであった。
「今度はよけられねえぞ! 食らえ!」
「不味い!」
行き場を失った造理に向かって轟は炎を放ち、造理は炎に包まれた。
『轟の火が造理に決まったぁ! 造理が炎に包まれる・・・って、これヤバくねえか!?』
「よく見ろ。燃えてるのは造理じゃない」
『へっ? ・・・ジャージ!?』
燃えていたのはジャージの上。
造理は身に付けていたジャージの上を囮にして何とか直撃を避けていた。
「あっついな、全く・・・」
ジャージを囮にして何とか難を逃れた造理。
しかし完全に回避できた訳では無く多少のダメージを受けてしまう。
「ちっ! 避けやがったか。だが、同じ手は使えねえ」
「確かにな・・・(あれをやるしかないか)」
これ以上の回避が困難と判断した造理はある策を思い浮かべる。
「驚いたよ。まさかお前相手にここまで手こずるとは思わなかった」
「? 負け惜しみ・・・じゃないな。何を企んでやがる」
「お前を倒す必勝法だ」
「何!」
造理は焼け焦げてボロボロに成ったジャージの上を拾い上げ、両手に巻き付けた。
「《錬成》」
『へいへい! 危なげなく危機を回避した造理が個性を発動した! 今度は何を造る気だ!? ――って、何だそれ?』
「手袋・・・だな」
造理が個性を発動して造ったのは手袋、造理は両手に手袋を装備していた。
「何だあれ?」
「どう見ても唯の手袋だよな?」
「一体何するつもりだ?」
実況しているプレゼントマイクや相沢先生も含め観客達から疑問の声が上がる。
一見してみれば造理が身に付けているのは唯の手袋でしか無いが、この手袋には秘密があった。
「何のつもりだか知らねえが、そんな物で俺の個性は防げねえ!」
「それはどうかな」
痺れを切らした轟が炎を纏いながら造理に接近をしてくる。
しかし、造理は接近してくる轟に向かって手をかざし・・・。
『パチッ!』
指を鳴らした。
――すると次の瞬間。
「何っ! ぐわっ!!」
「「「「!!?」」」」
造理と轟の間が炎に包まれる。
突然現れた炎、轟は驚き接近を辞め距離を置いたが強烈な炎によって発生された暴風で吹き飛ばされてしまった。
『おいおいどう言うことだ!? 突然、造理と轟の間にファイヤーが発生したぞ!?』
「何が起きた?」
突然現れた炎にプレゼントマイクや相沢だけでなく、試合を観戦していた全員からも驚き気の声が上がっていた。
「お前、・・・何をした?」
「火を起こしただけだ」
「!? どう言うことだ!」
突然現れた炎に付いて轟が造理に訪ね造理はそれに答えていく。
原理は簡単だった。
造理の個性"錬成術"で空気中の酸素を濃度調節し、空気中の塵を導火線代わりに利用して点火源である火種を起こし、それを燃焼物となる対象に目がけて放つ。
そして対象に命中したら炎が起こると言う仕組みだ。
一般入試試験の時に置いて造理が超大型仮想敵を破壊した時に用いた手段と同じ原理であるが、入試試験の時とは違う点が一つだけある。
――それは。
「この手袋は特殊な細工がしてあり、強い摩擦を掛けると火花が散るように成ってるんだ」
そう、造理が両手に身に付けている手袋だ。
入試試験では発火石を造ってそれを火種にしたが、発火石では両手を使わなければ成らず一回の動作に手間が掛かってしまう。
しかし手袋ならば片手でフィンガースナップ・・・分かりやすく言えば指パッチンで火種を生み出すことが出来、両手で行えば高速で連続使用できるのだ。
「目には目を、火には――火だ!『パチンッ!』」
「くっ! ぐわっ!」
造理は再び指を鳴らし轟に向かって火種を放つ。
轟は済んでの所で交わすが火種がステージに命中する事で炎が起こり、轟にも多少のダメージを与えていく。
「どんどん行くぞ!」
「くっ! 嘗めるな!」
造理は次々と指を鳴らして火花を起こし、轟に向かって放つ。
対する轟はそれを危なげながら回避。氷を形成して防御に徹し逃げ回っていた。
『おいおいおいおい! また造理が押し始めたぞ! 一体何なんだこれは!?』
「良い手だな。"火"の個性を持つ轟だが、自身に火が効かないわけじゃ無い。さっきまで轟が造理にやっていた事をそのままお返しされているようなものだ』
『こいつはデンジャラースっ!! ヒーロー科A組"造理"! こいつに造れない物は無いのか!? ――て言うかちょっと火力が強すぎねえか? ステージがどんどん吹っ飛んでいくぞ?』
「随分威力が強いな? 威力の調整が出来ないのか?」
プレゼントマイクと相沢先生が疑問の声が上がる。
造理が炎を起こす度にステージが破壊されていくが、実はこの炎を起こす攻撃には一つ欠点があった。
この火を起こす攻撃は射程・攻撃範囲・命中精度がとても高く攻撃方法としてはとても優秀なのだが、"威力"の調整がとても難しいのだ。
下手に抑えてしまったらライター程度の火しか起こす事が出来ず攻撃と呼べるような状態には成らない為、攻撃に用いる場合はどうしても高威力に成ってしまい、下手に使用したら大惨事を招きかねないのだ。
造理自身、出来れば使いたくない手段であったのだが、轟の炎に対抗するにはこれ以外に思い付かずにいたのだ。
そのお陰でステージがボロボロに成って行く・・・。
「轟、そろそろ降参しないか? このままじゃステージが無くなっちまうぞ?」
造理もステージを破壊していくことに後ろめたさを感じているのか轟に降参を進めてくるが・・・。
「巫山戯るな! このままで終わらせるか!!」
轟はそれを良しとしない。
造理の挑発とも取れる言葉に激怒した轟は大出力の炎を放ち始めた。
さらに右の個性も発動し、氷も発生させている。
「これで終わらせてやる! 覚悟しろ!」
「全力か、(今の轟、緑谷の時と同じだな・・・これはチャンスだ)ならこっちも!」
次の一撃にフルパワーを注ぐ轟に対し造理も全力で答えようと両手を前にかざした。
お互い次の一撃で勝負を決めようとしていた。
――そして。
「食らえ造理!」
最大出力の炎と氷が造理に向かって放たれる。
「させるか!『『パチッ!!』』」
造理も両手で指を鳴らし最大出力で挑んだ。
「やり過ぎよ、二人とも! セメントス!!」
「分かった!!」
審判であるミッドナイトとセメントスが危険を察知した様であり、セメントスが個性を発動し、造理と轟の間に分厚く巨大なセメントの壁を幾つも造り出す。
そして二人の全力の一撃が壁に激突した瞬間
「「「「 !!!! 」」」」
轟の氷によって冷やされた空気が炎による熱で膨張、さらに造理が発生させた炎も合わさり巨大な爆風が起こる。
それはニ回戦で轟と緑谷の試合で起こったものよりも大きかった。
『さっきの試合よりも大きいぞこれは!! 勝負はどうなった!?』
「ステージがまた滅茶苦茶だ。ミッドナイト、確認を」
「いたたた…、分かったわ」
ミッドナイトが確認を急ぐ。
爆風による煙幕でステージが何も見えない状態であったが、徐々に晴れていきステージが現になっていく。
――そしてステージに立っていたのは。
「! 轟くん!」
「はあ、はあ、はあ」
轟であった。
息を切らしボロボロに成っていたが、轟は何とかステージの上に立っていた。
一方の造理は・・・。
「造理くんは・・・・何処?」
造理の姿はステージの上には無かった。
『おいどうしたことか!? 造理の姿が何処にも無いぞ!?』
「よく確認しろ! 何処かに居るはずだ!」
実況席にいる相沢が声を上げる。
しかし、確認しても造理の姿は見えず、場外にも観客席にも目をやるが姿が無い。
「はあ、はあ、何処だ・・・造理・・・」
意気消沈ながらも周りに目を配る轟、既に体力を使い果たしており戦う力を残して居ないが造理に姿が確認できない以上、勝敗はまだ決まって居らず今だに警戒を続けている。
――すると、次の瞬間。
「ぐはっ!!」
「「「「!!!???」」」」
突然、轟の真下から何かが出現し、轟は真上に吹き飛んだ。
――そこに現れたのは。
「「「つ、造理っ!?」」」
造理であった・・・。
◇◇
「上手く行ったな」
轟に攻撃が命中して俺は満足の声を上げる。
「つ、造理くん! あなた一体何処に」
「ステージの下に居ました」
「し、下?」
俺が突然現れたことに驚いたのかミッドナイトが問いただしてきたが、俺の言葉にミッドナイトは疑問の声を上げてくる。
簡単に言ってしまうと爆風が発生した瞬間、俺は自分がいた位置のステージを分解して地下に逃れたのだ。
轟が炎と氷を同時に発生させた時、これはニ回戦で緑谷との試合で起こったものと同じ事が起こると判断した俺はその後に奇襲を行うことを思い付き、地下に逃れた。
そして、そのまま轟の居る位置まで掘り進め、ほとぼりが冷めた瞬間に地上に飛び出して轟に奇襲し見事に成功。
あれだけの大出力で攻撃を放てば流石の轟も体力を使い果たし禄に身動きが取れないと判断し、それも的中。
俺は轟に向かって拳を繰り出して、それが轟のアゴに命中し轟は宙を舞った。
「がはっ! あ・・・あ・・・・」
俺の攻撃を受けて宙を舞った轟はそのまま場外に落ちて意識を失っていった。
「ミッドナイト先生。――勝負有りです」
「!? と、轟くん場外! ――この勝負、造理くんの勝利!!」
この瞬間、勝負が決まった。
『決まったぁ――っ!! 度肝を抜かれた白熱バトルっ! 勝利をもぎ取ったのは造理だぁ――っ!!』
ミッドナイトの判定の元、勝敗は決した。
俺は轟を降し何とか勝利を勝ち取った・・・。
「また、ステージがスッゴいことに成っちゃったね。これ直すの大変だよ」
「セメントス先生。良ければ俺が直しますが・・・」
ステージの状態を見てか苦悩の声を上げているセメントスを見た俺はステージを直そうと声を掛ける。
「君はこれから決勝があるからしなくていいよ。今は身体を休めて決勝に備えなさい」
「・・・分かりました」
セメントス先生の言葉に俺は了承する。
ステージをこんなにしてしまった原因は俺にもあるから少し後ろめたさが有ったが、セメントス先生が言うことも正論であるためそれに従うことにした。
「轟くんは・・・気を失っているだけね。すぐにリカバリーガールの元へ」
「I know」
場外に落ち意識を失った轟はタンカーで運ばれていき、俺はそれを見送った。
この決勝トーナメント、一回戦の麗日、二回戦の発目、――そして今回の轟、苦労する戦いの連続であった。
予想外の展開続きで、調子が狂わされっぱなしだが、次の決勝はどうなることやら・・・。
――――
準決勝、終了しました。
主人公がやった"指パッチン"・・・分かってらっしゃる方は多いと思いますが、焔の錬金術師ロイ・マスタング大佐のあれです。
いつかやりたいと思っていました
本来ではこの試合は別の形で終わらせるつもりだったのですが、フッと思い付いてやるならここしか無いと思ってしまったので、話を変更してやってみました。
次の更新は少し遅れるかも知れません。