無個性より苦労してます。   作:ソウルゲイン

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今回は三人称による間話的な話です。


第28話

「死ねえ!!!」

「ぶはっ!!」

『爆豪の強烈な一撃が決まったぁ!!』

 

 プレゼントマイクの実況がうるさく響き渡る。

 雄英体育祭決勝トーナメント二回戦第四試合、対戦カードは爆豪VS切島。

 試合序盤は硬化個性を持った切島が鉄壁の防御力を駆使し優勢になっていたが後半になって失速、逆にスロースターターである爆豪が徐々に盛り返して行き切島に向かってとどめの一撃を食らわした。

 

「切島君戦闘不能! 爆豪君、三回戦進出!」

 

 ミッドナイトの判定により試合終了、爆豪が勝利を収めた。

 

『二回戦が全て終了した! これでベスト4が出揃ったぜ!!』

 

 決勝トーナメント三回戦。

 進出者は轟、常闇、爆豪、・・・そして造理の四人となった。

 

「準決勝まで来たか」

「ここまで来たら一気に盛り上がりそうだね」

「次の対戦は轟と造理だな」

「特待生同士の対戦か」

「ある意味で事実上の決勝戦ね」

 

 観覧席にて試合を見ているA組一同、それぞれ次の対戦カードの意見交換をしていた。

 そして別の場所では・・・。

 

「緑谷君」

「? 飯田君」

 

 飯田に声を掛けられる緑谷。

 二回戦で轟と対戦した緑谷は重傷を負いリカバリーガールの元で治療を受けていたが、歩ける程度には回復し会場に出入り口付近で立ち見していた。

 

「ベスト4まで出揃ったな」

「うん。造理くんは発目さんに勝ったみたいだね」

「ああ。僕が為す術無く敗北した相手に勝ってしまうなんて、やはり造理くんは強いな」

 

 自分を降した発目に勝利を収めた造理を高く評価する飯田。

 

「造理くんのあの強さ――やはり、彼の境遇に関係するのかな?」

「それは――」

 

 飯田の言葉に緑谷は口ごもってしまった。

 そして緑谷は数日前の事を思い出す。

 USJでのヴィラン襲撃の後、保健室でのオールマイトとの会話を――。

 

 

 

 ◇◇

 

「――これが、造理少年が歩んできた出来事だよ」

「そんな、そんなことって・・・」

 

 USJでヴィランの襲撃にあった日、重傷を負った緑谷とオールマイトはリカバリーガールの治療の元、保健室のベットにて安静をしていたが、襲撃してきたヴィランが発した言葉が気になっていた緑谷がそのことをオールマイトに質問し造理の境遇の全てを知ることと成った。

 ヴィランの狙われていること、親が逃亡したこと等々を・・・。

 

「家族が見捨てたんですか!」

 

 緑谷が最も驚いたのはそこであった。

 以前、飯田や麗日と共に造理がヴィランと遭遇した所を居合わせた事で造理がヴィランに狙われて居る事は知っていた緑谷だったが、造理が親に捨てられている事は信じられないようで居た。

 

「造理少年の両親は海外に逃亡し名前を変えているらしい。警察が調べ本人達に問いただしても知らないの一点張りらしく、それ以来彼は警察の管理下の元、今も一人で暮らしている」

「そんな・・・」

 

 緑谷自身、元・無個性で合ったこともあって、人がどのような状態であっても親だけは味方であり見守ってくれる存在であると言う事を疑っていなかった。

 その親が造理を見捨て逃亡したことに緑谷は驚きを隠せずに居る・・・。

 

「でもそれなら何故一人で暮らしてるんですか? 警察やヒーローなどと一緒の暮らした方が・・・」

「それはあの子を狙っているのがヴィランだけじゃないからださね」

「! リカバリーガール!」

 

 緑谷とオールマイトとの会話を側で聞いていたリカバリーガールが口を挟んできた。

 

「全く、あまり口が軽いのも考え物だよオールマイト? 政府の人間以外にはヒーローと警察にしか話しちゃいけないことを話すのは…」

「う、申し開けない。――しかし、緑谷少年はヴィランを通じて知ってしまったから仕方が無いのです」

「それは聞いたね。緑谷もこの事は絶対に口外しちゃダメだよ」

「はい、分かってます。――それよりもさっきの事は一体…」

 

 リカバリーガールに念押しをされた緑谷だが、先程リカバリーガールが発した言葉が気になって仕方が無かった。

 

「言葉の通りだよ。警察や一般人、――それにヒーローの中にもあの子を狙っている者が居るのさ」

「?」

「私が説明しよう」

 

 リカバリーガールの言葉に首を傾げる緑谷。

 その仕草からしてリカバリーガールの言葉の意味を理解出来ていないようであり、代わりにオールマイトが答える。

 

「一般人を含めて警察やヒーローは必ずしも全てが善良な人たちとは限らない。――中には、よこしまな心を持つ者もいて、犯罪に手を染めてしまう者もいる。」

「!―――まさか!」

 

 オールマイトの言葉の意味を察した緑谷が驚きの声を上げた。

 

「そう、そのまさかだ。警察やヒーローの中にも造理少年に目を付け、犯罪を犯した輩がいたのだ」

「で、でも、そんなことが公になったら…」

「情報規制によってそのことは一切明るみに成ってはいないよ。そしてそのことは造理少年自身にも口止めがされている」

「そんな…」

 

 緑谷は言葉を失ったが、それもそのはず。

 本来ならば一般市民を守る立場にあるはずの警察やヒーローの中に悪事を働く者が居ること、特にヒーローの中に居ることが緑谷に取っては信じられないことであった。

 緑谷に取ってヒーローは憧れであり神格化まで為れているもの、そのヒーローが悪事を働き一般人に危害を加えているこたことが信じられずに居た。

 

「造理少年に対してあまりにも身勝手な行いで有ることは私も重々承知しているよ。と言うより、造理少年にも呆れられているからね」

「えっ?」

「当時…まだ造理少年が幼かった頃に警察やヒーローの悪事を口止めするために彼の元に警察と複数のヒーロー達が赴いたんだ。しかしその者達に対して造理少年の対応はとてもサッパリしていたらしい」

「?」

「その者達に対して彼は無表情で『精々、お仕事を頑張って下さい』――と、言ったそうだ」

「・・・・・・」

 

 その言葉を聞いて緑谷は黙ってしまう。

 『精々、お仕事を頑張って下さい』…それはどう聞いても皮肉としか捕らえることが出来ない言葉であり、造理が警察とヒーローに対して如何に失望しているかを示していた。

 

「それ以来、造理少年は誰かを信じ、人に頼ると言う事をしなく成ってしまったのだ」

「じゃあ、造理くんの強さの秘密って…」

「誰にも頼らず宛てにしない。彼は独学で戦闘術、護身術、戦略術、そして個性の扱いを磨き上げて行き、己に仇名す者達と戦ってきたのだ。決して他人を巻き込まないように…」

「・・・・・・」

 

 言葉を失う緑谷は以前の事を振り返る。

 入学当初、飯田や麗日と共に造理とお近づきに成ろうとしたがことごとく断れてしまったこと。

 そして学校外においてのヴィランとの遭遇の日にハッキリと拒絶されてしまった時のことを…。

 

「今の造理少年にとって"ヒーローに成る"と言う事は、単なる"個性を自由に使用出来る権利を得る"と言う事でしか無くなってしまっているんだ。――他ならぬ自分自身を守る為に」

「・・・・・・」

「造理少年を何とかして真っ当な人生を歩めるように我々ヒーローは導こうとしているが中々上手くいかない。彼は表向きは平常に振る舞っているが心の中では未だに人を信じようとしていない様子「それは違うと思います」――?」

 

 オールマイトの言葉を途中で遮る緑谷。

 

「造理くんはちゃんと人を信じることが出来る人だと思います。USJの時だって造理くんは僕と一緒に死ぬ覚悟だって見せました」

「! 緑谷少年、それはどう言う…」

「それは……」

 

 緑谷はUSJで起こっていた事を話し出した。

 オールマイトが到着する前に造理が相沢と共に強敵と戦っていたこと、ヴィランの主犯格に連れ去られ欠けていたこと、そしてそれを緑谷自身が阻止し一緒に死ぬ覚悟でヴィランの前に立ち戦おうとしていた事を…。

 

「造理くんはその気に成れば一人で逃げることも出来たはずなのに、その素振りさえ見せませんでした。――そして、オールマイトが到着してヴィランに苦戦していた時も、僕やかっちゃん、轟くんや切島くんに協力を仰いで戦いました」

「そんなことが…」

「だから、造理くんは決して自分の事だけを考えているとは思えないんです。少なくとも僕は臆すること無くヴィランに立ち向かう造理くんの姿はヒーローのように見えました」

「・・・・・・」

 

 緑谷の言葉に今度はオールマイトが黙ってしまった。

 自身が知らなかったことを聞かされて、自分の生徒達がそのような目に遭っていた事を知り、悔いる気持ちが湧くオールマイトであったが、それよりも愛弟子である緑谷から聞いた造理の振る舞いが気に成っていた。

 

「緑谷少年。君は造理少年の事をちゃんと見ていてくれているようだな」

「造理くんには助けてくれたこともあります。――だから彼にはちゃんと向き合いたいと思ってるんです」

 

 自分の真意をオールマイトに伝える緑谷。

 緑谷の言葉を聞いたオールマイトは感銘を受けたかのような様子を見せる。

 

「緑谷少年。造理少年の事をこれからも見てあげてはくれないか?」

「え?」

「話を聞く限り、造理少年は君の事を信用しているようだ。だから彼の事を見てあげてほしい」

「信用! 僕はそんな…」

 

 オールマイトの言葉に緑谷は声を上げた。

 いきなり造理から信用されている等と言われて、驚きと戸惑いを見せているが、オールマイトがさらに言葉を続ける。

 

「共に戦い、共に死ぬ。――そんなことはプロのヒーローでさえ早々出来ることではないし、その覚悟も無いだろう。しかし造理少年は君と一緒にそれをしようとした。つまり彼は緑谷少年の事をそれだけ信用していたと言う事だ。君は知らず知らずの内に彼の信用を得ていた――いや、勝ち取っていたと言える」

「造理くんが僕を……」

「そんな君だからこそ、彼を見てあげて欲しいんだ。君は我々教師陣が出来ずにいたことを誰よりも早くやってのけてしまったのだよ」

「・・・・・・・」

 

 オールマイトの言葉に対して緑谷は沈黙を貫く…。

 ――そして。

 

「分かりました。僕に出来る事なら何でもします」

「おお、ありがとう緑谷少年!」

 

 緑谷はオールマイトのお願いを心良く引く受け、それを聞いたオールマイトは喜びの声を上げた。

 

「青春さぁね。――さあ、おしゃべりはそこまでにしてゆっくり休みな。今は身体を休めて怪我の治療に専念しないと…」

「あ、はい」

「うむ、しっかり休むとしよう」

 

 リカバリーガールの注意を受けた緑谷とオールマイトはゆっくり休み眠りについて行った…。

 

 

 

 ◇◇

 

「(聞いた話だと造理くんはこの雄英体育祭で活躍してその強さを示し、テレビの向こうに居るヴィラン達を牽制しようとしているらしいけど決してそれは簡単な事じゃ無い)」

 

 造理の素性もこの雄英体育祭で目的も知った緑谷は造理に対して並々ならぬ思いを抱いているた。

 ――すると、その時。

 

「緑谷君。この対戦、どうなると思う?」

「え? あ、うん、…轟くんも造理くんもどちらも有力な個性の持ち主だから正直に言って分からないよ」

 

 次の対戦カードが気になっている飯田が突然、緑谷に質問をぶつける。

 緑谷自信もこの対戦カードが気になっていたが、どうなるかは検討がつかずにいた。

 

「轟くんは僕との対戦で本気を出した。造理くんの力は未だに未知数。・・・どっちが勝ってもおかしくないと思う」

「注目の戦いだな」

 

 二人は真剣な面持ちでステージに目をやる。

 ――そして。

 

『さあ、焦らしたくねえからさっさと始めようぜ! 準決勝第一試合はこの二人だ!!』

 

 プレゼントマイクによって第一試合の対戦カードが紹介される。

 

『まずはこの男! ここまで圧倒的な強さを見せつけて勝ち上がって来たナンバー2ヒーロー『エンデヴァー』血を引くサラブレット! ヒーロー科A組、轟 焦凍!!」

 

 プレゼント・マイクの紹介と共に姿を現す轟。

 

『対するは、こちらもヒーロー科A組! 予選では圧倒的な成績を収め、この決勝トーナメントでも余裕を見せて勝ち進んできた男、造理 練!!」

 

 そして反対側から造理が姿を現した。

 

『さあ、お互いここまで好成績をたたき出してる強者同士の対決だぁ!!』

 

 ステージに上がり互いを見つめ合う轟と造理。

 造理は無表情で轟を見ていたが、対する轟は真剣な面持ちで造理を見つめていた。

 

「(こいつの戦法は相手の出方を伺うカウンターが主体。それ以外は個性で武器を造っての遠距離攻撃がほとんどだ。)」

 

 今までの造理の戦いを見ていた轟は相手の戦術を分析していた。

 

「(こいつは戦いにおいて隙を造らないようにしている様子だ。――なら)」

 

 何かを決めたかのように轟は身構える。

 対する造理は変わらず無表情で棒立ちしていた。

 

『さあ、準決勝第一試合!! 全員心して観戦しろ!!」

 

 プレゼン・トマイクの実況に観客全員が息を飲んだ。

 ――そして。

 

『スタ―――ト!!』

「(一瞬で終わらせる! 食らえ!)」

「「「「 !!!! 」」」」

 

 スタートの合図と共に轟が個性を発動しステージが氷結した。

 一回戦第二試合での瀬呂との対戦の時とは違って氷柱を出すわけでは無くステージ全体を氷結させて相手が完全に逃げられないようにしていた。

 その結果、造理は……。

 

「・・・・・・」

「つ、造理くん…う、動ける?」

 

 首から下が完全に凍り付いていた。

 質問していたミッドナイトも身体の半分が凍り付いていて、かなり辛そうにしていたが、その光景は一回戦第二試合の轟VS瀬呂での事と同じようであった。

 しかも氷結の範囲は広く、ステージを超えて観客席の直ぐ近くまで凍り付いている始末、危うく観客まで凍り付けに成りそうであった。

 

「あぶなかったなぁ」

「これって一回戦と同じパターンじゃね?」

「またドンマイか?」

 

 氷が直ぐそこまで迫って来てヒヤッとした観客、――しかし、一回戦と同じパターンを思い出されてしまって呆れる様子も見せていた。

 ――だが、その時。

 

「《錬成・分解》」

「!?」

「「「「 !!!! 」」」」

 

 ステージ上に張り巡らされていた氷が一瞬で消え去ってしまった。

 造理の身体を覆っていた氷もミッドナイトを覆っていた氷も綺麗さっぱり無くなっていた。

 

「轟。仮にもヒーローを目指してるなら、主審に被害が出るような攻撃はするな。無用な被害を出すのはヒーローとしてナンセンスだと思うぞ?」

「くっ!」

 

 涼しい顔をして轟に注意を投げ掛ける造理。

 轟の攻撃に対して全く堪えたようには見えなかった。

 

「ミッドナイト先生、一切問題有りません」

「! そ、そうね、氷を片してくれて有り難う。――試合続行!」

 

 造理の言葉を受けたミッドナイトは感謝の言葉を述べながら試合を続行させた。

 

「さあ、続きを始めよう」

「――覚悟しやがれ」

 

 二人の対決が再開されて行った――。

 

 

 ――――




今回はフッと思った事を書いてみました。主人公と緑谷に信頼関係を持たせたかったので出来るだけ緑谷の事を書いてみました。
次回は轟との戦いを書きます。

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