『さァ次の試合に移るぜェー!!、一回戦第5試合は女の子対決だァー!!』
「切り替え早いなお前・・・」
先ほどとは打って変わってハイテンションのプレゼントマイクを見ていた相澤先生は思わずツッコミを入れる。
造理VS麗日の試合での観客の反応は様々で、造理に対しては一方的に罵ってしまったことを悔いる者もいれば生意気だと腹を立てる者などが居て評価は微妙な所。
逆に麗日に対しては女の子でありながら勇猛果敢に相手に挑んだ姿に心を打たれるなどして評価はかなり高いものであった。
観戦していたA組の生徒達も様々な反応を示している。
「にしても造理の奴、エグイことしやがるなぁ」
「か弱い女の子によくあんなことできるな」
「血も涙も無いって感じだったな」
「見るのがとても辛かった」
やはりどれも造理にたいしていい評価とは言えなかった。
造理の麗日に対する容赦のない攻撃はどうしても万民には受け入れがたい物であり、生徒達からは軽蔑するような物言いも出てくる。
「でも妙ね」
「ん?」
そんな中、蛙水 梅雨がさっきの試合で奇妙なことに気づく。
「何が妙なの梅雨ちゃん」
「造理ちゃんがお茶子ちゃんにしたことは好きになれないけど、造理ちゃんの実力ならあんな方法取らなくても十分勝てたんじゃないかしら?」
「造理ってそんなに強いの?」
「強いわよ凄く、たぶん轟ちゃんや爆豪ちゃんよりも強いわ」
「ざけんなコラァ!!」
蛙水の言葉に爆豪が怒りを現にするがいつものことなのでA組の皆は特に反応を示さない。
造理の相手を貶めるやり方・・・あまりに容赦のない仕打ちを蛙水は疑問視していた。
「造理ちゃんて凄く危機感を持って戦ってるように見えたわ・・・何だか心に余裕を持たないみたいに」
「単に度胸が足りないだけじゃねえの?」
「それだったらまず戦わないわよ」
「確かに造理って少し変だよなぁ、クラスの皆とも常に距離を置いてる感じだし」
「何か事情があるのかもしれませんわね」
「・・・・・」
今にして造理のおかしさに気づき始めたA組一同、それを一緒に聞いていた飯田は造理の境遇をある程度知っている為、何も喋らず黙っている。
「そう言えば緑谷どこ行ったの?」
「緑谷なら麗日の様子を見に行ったぜ」
「麗日、大丈夫なのか?」
「リカバリーガールに見てもらえば大丈夫でしょ」
「次の試合が始まりますわ」
A組一同は造理と麗日の話しを切り上げ、次の試合の観戦に勤しむのであった。
◇◇
「負けてしまった」
「麗日さん・・・」
場所は変わって選手控室。
試合が終わって医務室に運ばれた麗日はリカバリーガールの治療を受けた後、選手控室にいた。
麗日を心配した緑谷は試合が終わった後直ぐに駆け付けたが、麗日は笑顔で緑谷を出迎えそれを見た緑谷はキョトンとした表情をしてしまう。
「麗日さん・・・ケガは」
「リカバリーされたから大丈夫。オデコの傷は少し跡が残っちゃうかもって言われちゃったけど他はちゃんと治るって・・・」
ケガの具合が心配する緑谷に対し麗日は無事であることを伝えるが、現在の麗日は額に包帯が巻かれ、頬にはガーゼ、腕にもテープなどが貼られ、傍から見たら痛々しい姿をしており大丈夫のようには見えなかった。
リカバリーガールによって治療は受けたが体力を削らないよう程々の回復しかしていない為すりキズなどの外傷は残ってしまっている。
「いやぁーやっぱ強いねえ造理くんは、完膚なかったよ。もっと頑張らんといかんな私も!」
「・・・・・」
ハキハキと明るい表情しながら前向きな姿を見せているが、麗日は明らかに無理をしていた。
緑谷もそれを悟ってか無理をして元気な姿を見せる麗日を見て何とも言えない表情をしてしまっている。
「麗日さん・・・あまり無理し「大丈夫!」・・!?」
「デクくんだってすぐ先見据えてやってるし、負けたからって負けてられんよ・・・」
「・・・そんな」
やはり無理して空元気を見せているようで麗日の表情が少し曇ってしまうがそれもそのはず。
緑谷の助言をフイにし意気込んで試合に臨んだにも拘らず結果は散々、今の自分が出来る全てを出し切ってもタダの一撃も与えることが出来なかった為その心の中は悔しさでいっぱいなはずだ。
――その時
「邪魔するぞ」
「!?」
突然、控室のドアが開く。
入ってきたのは・・・
「「造理くん!?」」
先程戦った造理であった。
◇◇
試合が終わった後俺は麗日を尋ねに医務室に向かったが、そこには既に麗日のすがたは無く治療を終えて控室に向かったことをリカバリーガールから聞いて控室にやって来た。
ドアを開けるとそこには麗日だけではなく緑谷の姿もあり目が合った瞬間、二人とも驚きの表情を見せる。
「ケガの具合はどうだ麗日?」
「う、うん大丈夫だよ」
返事を返す麗日は少し慌てた様子を見せるが、まあそれは仕方が無い。
先程の試合で麗日にはずいぶん酷いことをしてしまったからな。
それを見ていた緑谷も性格から考えてもああ言う事は好まないだろうから何とも言えない表情をしてしまっている。
しかし麗日の姿を見るとあまり大丈夫とは言えないな? 額に包帯が巻かれてる所を見るとかなりキズは深いと見える。
「リカバリーガールから聞いたんだが、額の傷は一生残ってしまうかもしれないんだって?」
「別に気にしなくてもいいのに、造理くんも真剣に挑んでくれたんだから・・・」
――かなり無理をしているな。
明るい表情で俺と接する麗日だが、どこか笑顔がぎこちない。
「ちょっと失礼するぞ」
「いたっ!?」
俺は麗日の額に手を当てる。
やはり額のケガは深いようで手を当てた瞬間麗日は痛みを訴える。
試合の最後に繰り出した一撃で血を流していたところを見てひょっとしたらと思い医務室に向かったが、そこに居たリカバリーガールに聞いて麗日の額の傷は跡が残ると聞いてしまったのでここにやってきた。
「お前の額の傷を治す」
「へ?」
「少し痛いが我慢してくれ・・・《錬成》」
俺は個性を発動した。
――すると
「いったああああああ!!!」
「麗日さん!!?」
麗日が悲鳴を上げる。
――無理も無いか? 聞いたところによると麗日の額の傷は皮下組織まで到達していたらしいか真皮まで分解して再構築したのだ。
痛み成れしてない奴からすれば激痛以外の何物でもない。
直ぐ近くで見ていた緑谷も悲鳴を上げる麗日の姿を見て大慌てしてるし・・・。
巻いてあった包帯は一緒に分解してしまったが、これは後で直しておくとしよう。
「すっごく痛いんやけど!!」
「これで治ったはずだ」
「へ?・・・・痛くない?」
俺の言葉を聞いて麗日は自分の額を触り痛みが無いことに気づく。
さらに控室にあった鏡で自分の額をその目で確認し、傷跡が全くないことが分かり多いに喜んだ。
「ありがとう造理くん!・・・でも何で?」
「リカバリーガールから話を聞いて傷跡が残ってしまうと言うから治しに来たんだ。これはあくまで祭典なんだから、こんなことで女の顔を傷物にしておくのは忍びなかった」
「あ、ありがとう! それにしても造理くんすっごく強かったよ全然歯が立たなかったよ」
明るく振舞っているが無理をしているのがよく分かる。
やはり相当悔しかったようだな? それだけ真剣に勝ちに来ていたと言うことか。
この場に俺や緑谷が居るせいで弱みを見せないようにしているんだろう。
「さっきの試合のことは済まなかった。真剣勝負とはいえ失礼なことをしてしまった」
「!? そ、そんなことあらへんよ! むしろ本気で戦ってくれたことに感謝してるよ!」
「つ、造理くん!?」
俺の謝罪の言葉に二人が驚くが、そんなに驚くことか? 確かに人に謝罪することはあまり無いがこれでもある程度の社交辞令は心得ているつもりだ。
「造理くんの境遇はある程度聞いてたし、ちゃんと真剣勝負をしてくれたんだからケガのことは気にしなくて「そうじゃない」・・へ?」
麗日はケガにことに対しての謝罪だと勘違いしてるようだがそうではない。
確かにケガに関しても悪いとは思っているが、俺が謝罪したいことは別にある。
「お前を過小評価していたことを謝りに来た。俺はお前を完全に舐め切っていた」
「?」
正直な所、俺は麗日は個性以外は全く脅威にならないと思っていた。
戦闘訓練の時も緑谷におんぶにだっこ状態だったし戦っても何の問題もなく終わると思っていた。
しかしいざ試合をしてみたら麗日はちゃんと戦略を練り、俺を翻弄した。
「予想以上の粘り強さを見せられて、お前を苦しめるような卑劣な手段まで取った。・・・それは緑谷にしてやられたがな?」
「「・・・・」」
そして最後には凄い罠まで仕込んでいた。
それを察知し勝負を決める為に容赦なく拳を顔面に叩き付けそれが決まった瞬間、俺は勝利を確信したがそれも空振りに終わってしまった。
「お前が額から血を流して俺の腕を掴んだ時・・・俺は敗北を予感した」
「!?」
腕を掴まれた瞬間やられる思ったが、麗日が俺の腕を掴んだ時に一瞬だけ隙が出来たので何とか後ろに周り込み締め落とすことが出来た。
――自分の実力だけでは倒しきれなかったんだ。
「俺は油断はしていなかったが後一歩まで追い込まれた。勝てたのは運の要素も大きかったよ・・・お前の強さには感服した」
「そ、そんなことあらへんよ! ウチ何か全然まだまだだよ!」
「う、麗日さん?」
褒められることに成れてないのか麗日は少し照れてしまう。
勝者である俺が敗者である麗日にこんなことを言ってしまったら単なる皮肉と受け取られると思っていたが、どうやらその心配は無いみたいだな。
麗日も緑谷同様の人の良さがあるみたいだ。
「試合が終わってもお前の意志は砕け散ることが無かった。その時ハッキリ分かったことがあるから伝えて置きたいことがあるんだ麗日」
「?」
「――お前は必ず良いヒーローに成る」
「!!?」
「だからもっと自信を持ってくれ・・・お前は強い」
試合をしてこいつの中に確固たる意志と決意を見た。
こいつなら、このヒーロー飽和社会に蔓延っているようなヒーローには決してならないはずだ。
俺が今まで見て来た口先だけのいい加減なヒーローには決して・・・。
「ごめんデク君・・・ちょっと一人にさせて」
「麗日さん」
俺の言葉を聞いた麗日は両手で顔を抑え、一人になる事を望んだ。
「出るぞ緑谷」
「・・・うん」
俺と緑谷は控室を出た。
そして少し離れた所まで歩いた瞬間、控室から泣き声が聞こえてくる。
涙を流すのを相当我慢していたみたいだな・・・。
「麗日さん・・・」
「悔し涙だ。人前で流すにはどうしても抵抗があったんだろ」
真剣に挑んだ勝負に負けて悔しくないわけがない。
こういう時は一人になって気が済むまで泣くしかない。
「僕は麗日さんの助けになれなかった」
「何もしなかった訳じゃないだろ?・・・それに助けになってたぞ」
「えっ?」
「試合の時にお前がした麗日への声援、あれで麗日は戦う意思を取り戻した。・・・会場に来ていたプロのヒーローよりもヒーローらしいことをしたぞお前は?」
「!?」
あの試合、誰もが俺を罵ったり軽蔑していたが緑谷だけが麗日を応援した。
今も俺と接しても嫌な顔一つさえしない。
「あまり自分を卑下にするな緑谷。お前はヒーローとして正しいことしたんだ」
「造理くん・・・ありがとう」
助けになろうと思っているだけでは何の意味もないが、助けに成るための行動をしたのならそれは気持ちだけでも大きな救いになる。
緑谷はそれが出来る人間だ。
『あ―――おォ! 切島と鉄哲の勝負が決まった!! 引き分けの末、キップを勝ち取ったのは切島だ!! これで二回戦目の進出者が揃った!』
プレゼントマイクのアナウンスが聞こえ一回戦が全て終わったことが告げられた。
二回戦・・・相手もどんどん手ごわくなってくるだろうな。
「気を付けろよ緑谷、次の相手の轟・・・今のあいつは見境がないぞ?」
「分かったよ造理くん・・・それじゃ最初だから行くね」
緑谷にささやかなエールを送る。
なんだが、今日はらしくないことばかりしているような気がするな。
普段の俺だったら、気にも止めやしないのに、こいつ(緑谷)と接していると何故か調子が狂ってしまう。
――気持ちを切り替えるべきだな。
次の対戦相手はおそらく飯田だ。あのしスピードはやっかいだから、油断せずにいかなければ・・・・。
「造理くんも次の
俺にそう言い残し去っていった緑谷・・・。
―――ん? 発目?
――――