無個性より苦労してます。   作:ソウルゲイン

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今回は少し長くなりました。
主人公VS麗日の試合ですが、今回主人公は麗日にかなり酷いことをします。


第25話

「麗日さん・・・気を付けて」

 

 場所は出場選手の入場口・・・そこには緑谷と麗日の姿が合った。

 緑谷は麗日が対戦する造理に対して対抗策を練り麗日に伝えようとしたが、麗日はそれを拒否してしまった。

 でも戦いに行く麗日を心配する緑谷は見送りだけはしたかった為、この場に居た。

 

「ありがとデク君・・・準決勝で会おうぜ!」

 

 麗日は震えながら親指を立て精一杯の笑顔を緑谷に見せステージに向かっていった。

 

「麗日さん・・・」

 

 麗日を見送った緑谷はその場を離れ会場に設けられた生徒専用の観覧席に向かいA組の皆の合流する。

 

「来たか緑谷くん、どこに行ってたんだい?」

「飯田くん?」

 

 先に観覧席に来ていた飯田が緑谷に声を掛けてくる。

 麗日を見送ってきたことと造理の対策を伝えようとしたことを飯田に話す。

 

「麗日くんは勝てそうかい?」

「・・・正直に言うと難しいよ。造理くんは強い・・・それも凄く」

「確かに・・・」

 

 飯田の問いかけに苦悶な表情をしながら答える緑谷。

 質問をした飯田もそれに同意する。

 

「造理くんの戦闘はほとんど隙無しで、個性は攻守共に万能に近い」

「おまけに身体能力も高いしな・・・個性把握テストの時を思い出してもA組では間違いなくトップを争う」

「たぶん一瞬の隙も見逃さないだろうね・・」

 

 造理のことを冷静に分析する緑谷と飯田。

 二人は戦闘経験が豊富である造理の相手をする麗日のことが心配で仕方がなかった。

 

「方法があるとすれば速攻で接近して触れること。麗日さんの個性は相手に触れることさえできれば浮かすことが出来る・・・触れることさえできれば・・・」

「厳しい戦いを強いられるな、麗日くんは?」

「そうだね・・・」

 

 二人は麗日の身を案じ、戦いを見据えることにした・・・。

 

『さァ一回戦第四試合!! 選手入場だァ!!』

 

 プレゼントマイクの合図で出場選手が入場してくる。

 

「次は麗日と造理か・・・」

「造理の奴、あんだけ失礼なことを貫かしやがったけど麗日相手にどう戦うんだ?」

「戦闘訓練の時はスマートに戦ってましたわ・・・」

「何だか不穏な予感がするわね・・・」

 

 他のA組のメンバーも造理と麗日の戦いが気になる様子。

 

「(頑張れ麗日さん・・・)」

 

 そんな中、緑谷は心の中で静かに麗日を応援した・・・。

 

 

 

 ◇◇

 

『さァ一回戦第四試合の組み合わせはこの二人!!』

 

 プレゼントマイクが実況をする中、俺はステージに上がる。

 

『第一種目は2位で第二種目で1位!! こここまで成績だけならトップ!! ヒーロー科、造理 錬!!』

 

 俺が紹介される。

 

『もう一人は同じくヒーロー科!! 俺こっちを応援したい!! 麗日 お茶子!!』

 

 続いて麗日が紹介される。

 何とも贔屓染みた実況だが特に気にするものではないか。

 気を引き締めて試合に専念しないとな・・・。

 ――その前に

 

「麗日」

「?」

 

 試合が始まる前に伝えて置きたいことがある。

 

「・・・俺は戦うと決めた相手なら女や幼子でも容赦はしない。ひねり潰す」

「!?」

 

 憐憫な俺の言葉に驚きの表情を見せる麗日。

 冷酷なことを言うようだが今までの人生で油断や慢心が身を亡ぼすと言うこと重々理解しているつもりだ。

 何より麗日は先日の事件(13話参照)で俺の境遇を多少成りとも知っている。

 俺の言葉が冗談ではないことを理解できるはずだ。

 

「少なくとも"大怪我"は覚悟してくれ」

「!!?」

 

 俺の言葉を聞いて体を震わせる麗日。

 傍から見たら完全に脅しだが、これも立派な戦略だ。

 少しでも相手の精神と集中力を乱すことが出来ればそれだけで勝率は大幅にアップする。

 

「それが嫌なら今の内に退くことを進め「造理くん!」・・・?」

 

 俺の言葉に割り込んで麗日が声を掛けてきた。

 

「ウチ・・・負けないよ!」

「・・・・」

 

 俺にそう言い放つ麗日。

 宣戦布告のつもりか? 体をビクビクさせながら震えて声をして・・・。

 ――だが、眼は本気だ。

 負けるつもりが本当に無いことは感じ取れる。

 戦う覚悟はちゃんと出来ているという事か・・・。

 ――なら

 

『一回戦第四試合!!・・・START!!』

 

 容赦はしない!!

 

「退くなんて選択肢ないから!」

 

 スタートと同時に動き出し迫ってくる麗日。

 速攻で勝負を掛けてくるつもり見たいだがそうは行かない

 

「《錬成!》」

「!?」

 

 俺と麗日の間に壁を造り、距離を取る。

 麗日の個性は"無重力"、手で触れた物を一時的に無重力状態にすることが出来るかなり厄介な個性だ。

 ――間合いを詰められてはならない!

 

「触れさえすれば「《錬成!》」・・ぐゥっ!?」

『おーっと造理! 行き成り壁を造ったと思ったら周り込んで攻めた麗日を迎撃した! てか何だその拳は!?』

 

 壁を周り込んで攻めて来た麗日を岩拳で攻撃した。

 実況していたプレゼントマイクが何故か驚いていたが見るのは初めてだったか?

 俺はさらに岩拳を生成し麗日を要撃する。

 

「フン! ハァッ!!」

「ぐっ! あぶなっ!」

 

 麗日は攻めるのを一旦控え俺と距離を取ったがこれは都合がいい。

 このステージ上で麗日が取れる戦法は直接相手に触れることによる近接戦法が考えられる。

 戦闘訓練の時はぶっといコンクリートの柱を個性でぶん回していたが何もないステージの上ではそんなことは出来ない為、距離さえとってしまえば麗日の個性を受けることはない。

 万が一接近を許してしまい触れられて無重力にされてしまったら対処方法はほとんど無いに等しい。

 近づけさせはしない!

 

「《錬成!》」

 

 再び個性を発動する。

 

『オーッと造理! またまた個性を発動して何かを造り始めた!!・・・て、ちょっと待てオイ! それって!?』

「"バズーカ砲"だな」

 

 造り出したのは"バズーカ砲"。

 実況していたプレゼントマイクは驚き、相澤先生は至って冷静だった。

 俺が造ったバズーカ砲は持ち運びが可能な携帯式で移動しながら打つことが出来る。

 

「造理くん! それって本物・・・!?」

「安心しろ。威力は押さえてある・・・発射!」

「ウソ!!」

 

 麗日に向かって発射をする。

 とは言っても直撃はさせず、麗日がいる付近のステージを狙って発射をしている。

 流石にバズーカ砲を直撃させてしまったら麗日の命まで奪いかねない為、遭えてステージを狙う。

 だがそれでも効果はある。

 

「ぶわァ!!」

 

 麗日の付近に被弾した砲弾は炸裂し爆発する。

 その爆発による衝撃で麗日にダメージを与えるのが狙いだ。

 麗日が居た場所は爆発による煙によって覆われた。

 

『撃ったァ!! 女の子に向かってバズーカ砲を撃ったぞ!!? 何てヘビーだ!!!』

「おいおいマジかよ!?」

「当たったら死んじまうぞ!?」

 

 プレゼントマイクの実況がうるさく響き渡り、会場で観覧していた観客も騒いでいた。

 確かにバズーカ砲を人に向かって撃てば騒ぐのも無理はないが、ちゃんと死なないように考慮はしている。

 それはいいとして、麗日が居る方向に目を向けるとまだ煙が立ち込めていて麗日の姿が確認できない。

 直撃はしていないはずだからまだ動けるはずだ。

 どう出る麗日?

 

「おらあああ!!」

 

 叫び声と共に麗日が爆煙から飛び出して来た。

 声を荒げながら特攻?・・・何かあるな。

 

「《錬成!》」

 

 再び麗日に向けて岩拳を生成し放つ・・・!?

 

「上着?」

 

 そこに麗日の姿は無く体操着の上着だけ・・・変わり身か。

 よくある手だな。

 なら、次の麗日の行動は・・・

 

「もらい!!」

 

 当然、死角からによる接近攻撃。

 戦法としては悪くない・・・だが!

 

「ここで浮かしちゃえば「悪いな」ぶあっ!?」

 

 俺には通用しない!

 背後に向かって大量の岩拳を放ち麗日を吹き飛ばした。

 死角からの攻撃は戦いにおいて有効な手段だが、自分の死角さえ理解してればどこから攻撃してくるかは分かる。

 なら、死角となる場所全てに攻撃すればいい。

 

「たっ、まだ!」

 

 岩拳をくらった麗日は再び立ち上がろうとするが、隙は与えない。

 

「発射!」

「うわっ!!」

 

 再びバズーカ砲を発射して麗日にダメージを与える。

 

「まだまだぁ!!」

 

 吹き飛ばされても尚こちらに向かってくる麗日。

 爆発の衝撃でダメージを負っているにもかかわらず攻め込んで来るとは大したものだな。

 

「やれやれ。直撃させるわけにはいかないし、……ムダに長引きそうだ」

 

 俺は迫り来る麗日を迎撃し続けた・・・。

 

 

 

 ◇◇

 

「ダメだ、全く歯が立たない!」

「麗日くん!」

 

 場所は生徒の観覧席。

 そこで造理と麗日の試合を見ていた緑谷と飯田は青ざめた表情を見せていた。

 

「造理くんは強いだけじゃなく戦い上手なんだ。死角からの攻撃も振り向きもしないで対処してる」

「麗日くんの戦術が完全に殺されてしまっている。あれじゃあ手の出しようがない。塵損だ」

 

 緑谷と飯田は一方的にやられている麗日を心配しながら観戦していた。

 近くで観戦している他のA組のメンバーも・・・

 

「お茶子ちゃん・・・!」

「造理ってあんな成りしてるくせにそっち系なの!?」

「女の子相手に容赦無さすぎだろ!」

「何だか爆豪より悪く見えて来た!」

「んだとこらぁ!!」

 

 様々な反応を見せるA組一同。

 どれも造理に対しての批判的な反応であった。

 中には顔を両手で押さえてしまっている者もいる。

 

「ま、まだまだぁ!!」

 

 そんな中、麗日の叫び声が痛々しく響き渡る。

 

『休むことなく突撃を続けるが・・・これは・・・』

 

 騒がしくてポジティブが売りのプレゼントマイクも言葉をつまらせてしまう。

 

「あの子、変わり身が通じなくてヤケ起こしてるんじゃないか?」

「このままじゃ不味いんじゃねえか?」

「なァ止めなくていいのか? 大分クソだぞ・・・」

「・・・・」

 

 観客席で観戦していたプロのヒーロー達も動揺し始め、監視員を務めているセメントスに向かって抗議をし出したが、セメントスはそれを無視して試合を監視し続ける。

 

「お……お、おらぁあああああ!!」

 

 試合は一層激しくなるが、麗日が一方的にやられる状態が続いていた。

 倒れたは立ち上がりまた倒れては立ち上がる。そのたびにボロボロ化していき、麗日の叫びはもかすれ始めてきた。

 

「ああもう見てらんねぇ!!」

 

 試合を見かねたヒーローの一人が立ち上がり叫び出した。

 

「おいお前、それでもヒーロー志望かよ!? そんだけ実力差あるなら早く場外にでも放り出せよ!!」

 

 試合をしている造理に対して罵倒し始めた。

 そしてそれは会場にいる他のヒーロー達のトリガーとなった。

 

「お前には人情ってものがないのか!!」

「女の子いたぶって遊んでるんじゃねえ!!」

「そーだそーだ!!」

「この人でなし!!」

 

 造理に向かって次々と罵声を浴びせるヒーロー達。

 ブーイングまで始まり会場に嫌な空気が流れ始める。

 

「緑谷くん、これは・・」

「すごく嫌な空気だね・・・」

 

 ヒーロー達の罵声を目の当たりにした緑谷と飯田の二人は顔を歪ませていた。

 真っ当な人間である二人において、この光景は毒でしかなかった。

 

『一部からブーイングが!・・・しかし俺もそう思・・』

「喋るな」

『わぁ肘っ!? 何SOON・・・』

「黙ってろ・・・」

 

 実況するプレゼントマイクを隣で座って見ていた相澤が肘内をかまして実況を妨害する。

 

『おい、そこでブーイングしてるクソヒーロー共!!』

「「「「!?」」」」

 

 相澤はプレゼントマイクからマイクを奪いブーイングを起こしているヒーロー達に向かって叫び出した。

 

『お前ら頭沸いてんのか? プロ何年目だ? これが遊んでるように見えるのか!? シラフで言ってんならもう見る意味ねぇから帰れ!・・・帰って転職サイトでも見てろ!!』

「相澤先生・・・」

 

 突然の出来事にヒーロー達もブーイングを辞め、それを聞いていた緑谷達は相澤が居る実況席に顔を向ける。

 

『相手を認めてるから警戒してるんだろうが! 本気で勝とうとしてるからこそ油断が出来ねえんだろうが!!』

「「「「・・・・」」」」

 

 相澤の言葉で会場に巻き起こっていたブーイングが収まり、静まり返った。

 

『それがわからねえなら、サッサと帰「やめてください!」・・?』

 

 ヒーローに対して更に説教を続けようとした相澤だったが、誰かが割り込んで来て途中で言葉を遮られてしまう。

 ――その人物は

 

「そう言う説教はお門違いですよ相澤先生? ヒーローのあり方なんて人それぞれなんですから・・・」

 

 現在試合を行っている"造理 錬"であった。

 

 

 

 ◇◇

 

「まだまだぁ!!」

 

 叫び声と共にこちらに向かってくる麗日。

 そんな麗日に俺は容赦のない攻撃を繰り返す。

 

「《錬成》」

「ぐっ!」

「発射!」

「ぶあっ!!」

 

 近づいてきたら個性で吹き飛ばし、距離が取れたらバズーカ砲の爆発でダメージを与えていく。

 ルーチンのような戦いになっているが、効果は抜群だ。

 

「ゴホっ! ハア、ハア・・・」

 

 麗日の様子を確認するとかなりダメージが蓄積されてるみたいだ。

 動きも鈍くなっているし息も荒くなっている。

 勝敗が決するのは近い・・・。

 ――しかし妙だ。

 

「おらおら!!」

 

 さっきから麗日は同じ戦法しか取っていない。

 始めはヤケを起こしているように思えたが、こう何度も同じ事を繰り返されると段々怪しく思えてきた。

 ――何より

 

「まだ・・・まだ・・・」

 

 こいつの目・・・死んでない。

 俺の個性の攻撃もちゃんとガードをしているし、バズーカ砲による攻撃も完全でないが回避行動を取っている。

 ヤケを起こしている人間の行動ではない。

 ――何か企んでいるな!

 俺は警戒心を最大限に高め、戦いに集中した。

 ―――するとその時

 

「おいお前!」

「?」

 

 突然誰かに呼ばれ声がした。

 声がする方向に目をやると、観客席にいたおそらくプロのヒーローであろう人物が立ち上がり叫んでいた。

 

「お前それでもヒーロー志望かよ!? そんだけ実力差あるなら早く場外にでも放り出せよ!!」

「さっさと勝負決めろよ!」

「お前には人情ってものがないのか!!」

「女の子いたぶって遊んでるんじゃねえ!!」

「そーだそーだ!!」

「この人でなし!!」

 

 そのヒーローから発せられた言葉は俺に対する罵倒。

 さらにその周りにいたヒーロー達からも連鎖するがごとく罵声が飛びブーイングが巻き起こが・・・・あいつら、バカか?

 これが遊んでるように見えるのか? 決め手が無く苦戦していることが分からないのか? 麗日が何かを企んでいることに気づかないのか?・・・。

 まだヒーローではない生徒や一般観客からの罵倒ならまだ致し方がないが、プロのヒーローが発する言葉ではないぞ?・・・。

 何よりあいつらは、その罵声がこの場に置いて何を意味するのか気づいていない。

 

『おい、そこでブーイングしてるクソヒーロー共!!』

 

 突然アナウンス室からマイク越しで声が発せられた。

 この声は相澤先生か?・・・何だかご立腹みたいだな。

 

『相手を認めてるから警戒してるんだろうが! 本気で勝とうとしてるからこそ油断が出来ねえんだろうが!!』

 

 俺を罵っていたヒーロー達に向かってそう語る相澤先生・・・やはり理解あるヒーローの言う事は違う。

 おそらく俺を罵っているヒーロー達はまだヒーローに成って日が浅いんだろうか、相手が格下であっても一瞬の油断が命取りであることが分かっていない。

 現に審判のミッドナイトや監視員のセメントス、他の雄英ヒーロー達は一切口を挟まないでいる。

 プレゼントマイクは少し微妙だったが、理解あるヒーロー達はちゃんと歩を弁えている。

 ――でもそれじゃ足りない。

 

『それがわからねえなら、サッサと帰「やめてください!」・・?』

「そう言う説教はお門違いですよ相澤先生? ヒーローのあり方なんて人それぞれなんですから・・・」

 

 言葉を途中で遮らせてもらった。

 相澤先生の言っていることは間違っていないが少し足らないんだ。

 腹立たしいことだが、ヒーロー達の罵倒がこの場に置いて何を意味しているのか、それも本当の意味を理解出来てない。

 だから俺はそれを分からせてやると同時に利用させてもらう。

 

「麗日」

「?」

「・・・今すぐ"降参"しろ」

「!?」

 

 俺は麗日に降参を進めた。

 突然の言葉に麗日は動揺するがそれもそのはず、まだ体力も残っているし何より戦う意思を失っていないのに降参を進められることを考えれば当然の反応だ。

 

「ま、まだ負けてへんよ? 勝負は終わって「そうじゃない」・・え?」

「観客の期待に答えてやれと言ってるんだよ」

「「「「???」」」」

 

 麗日だけではなく観客席で観戦していた者達全員が俺の言葉の意味を理解できていないようだ。

 

「さっきヒーロー達が言ってただろ? "それだけ実力差があるならさっさと勝負決めろよ"って」

「そ、それがどうしたの?」

 

 まだ理解できてないか。

 他の連中も俺の言葉の意図を理解出来ていないみたいだし、やはり遠回しに言っても伝わらないか?

 ――なら、ハッキリ言わせてもらおう。

 

「つまりだ。ここに居るヒーロー達全員が"お前の勝利を期待していない"と言うことだよ」

「!?」

「「「「!!!?」」」」

 

 俺の言葉で麗日を含め会場に居る全員が驚きの表情を見せた。

 対戦において片方が一方的に相手を圧倒していれば優勢な方を驚いたり歓心したりするが度が過ぎてしまうと罵倒になってしまうのも確か。

 ――しかしそれを聞いていた劣勢の方はどう思うだろうか?

 これがお遊びの対戦であればいいだろうが、このトーナメントに進出した者は全員本気でヒーローに成ろうとする者が集まる真剣勝負だ。

 個人差はあるが皆が確固たる意志を持って真剣に取り組んでいるんだ。

 そんな者達が先程のヒーロー達の言葉を聞いたらどう思うか?・・・。

 自分が哀れみを受けているよう聞こえないか?・・・人によっては屈辱以外の何物でもない。

 俺でさえそう思ってしまう。

 

「残念なことにお前は"将来有望なヒーロー候補"ではなく、哀れな"か弱い女の子"としか見られていないようだ。ま、実際に弱いのだから、そうなるのが必然だろうな」

「!!?」

 

 俺の言葉の聞いてようやく理解したようで、何人かのヒーローは顔を歪ませている者もいる。

 これはどの勝負でも言えることであり、球技のスポーツ試合などでよく見られるが圧倒的に点差を付けられた選手は哀れみを受けることがある。

 そういった試合は段々見苦しくなってきて頭の悪い奴らからヤジが飛んでくるのがよくある話だ。

 

「さっさと降参してくて負けてくれないか? 観客もそれを望んでいるし、正直、俺も萎えてきてしまったよ」

「うっ!・・・」

 

 麗日は更に動揺の姿を見せるが、それが俺の狙いだ。

 例え体力が消耗して弱っていても戦う意思が有り続ける限り万が一のことも有りえる。

 なら相手の精神に揺さぶりを掛け心を乱せばいい・・・戦いに置いて最も有効な手段の一つだ。

 現に効果は絶大みたいで、もう麗日は下を向いてしまっている。

 傍から見たら俺の行動は完全に外道そのものだが、俺は決して手を緩めない。

 この麗日はそれだけ厄介だからだ。

 これで勝負が決まってくれればそれに越した事はない。

 もう少し・・・もう少しだ。

 ――だがその時、俺も予想だにしていないことが起こった。

 

「麗日さん!!」

「!?」

「えっ!?」

 

 突然の呼ぶ掛けに俺も麗日も驚き、声がする方向に顔を向ける。

 

「緑谷!?」

「デクくん!?」

 

 声の正体は緑谷。

 観戦席で戦いを観戦していた緑谷が一人立ち上がり、麗日に呼びかけて来た。

 何のつもりだ緑谷!?

 

「負けるな!!」

「!!?」

 

 緑谷は精一杯に声を上げ麗日に声援を送った。

 

「まだ勝負は終わってない!! 諦めちゃダメだあ!!」

 

 これは俺も全く予想だにしていないこと。

 ―――これはマズいな。

 

「まだだ・・・まだだ!!」

「やっぱり。……まったく、余計なことを!」

 

 戦意を失いかかていた麗日は再び顔を上げ立ち上がる。

 心身ともに未成熟であると思っていた為、心を乱す事は簡単だと思っていたが、思わぬところに伏兵がいた。

 持つべき友を持たない俺では気づかない事か!

 もう相手の決意を砕くことは出来ない。

 

「ありがとう造理くん・・・油断してくれなくて(・・・・・・・・・)

「?」

 

 麗日は俺に呼びかけ手を合わせた・・・・何かが来る!

 俺は麗日の周囲を見渡すが特に何もなく、武器になるものは見当たらず至って綺麗だ。

 ――綺麗過ぎるな。

 あれだけバズーカ砲を発射したにも関わらず、ステージが綺麗過ぎる。

 着弾した箇所は抉れたりしているが、破片がほとんど無い。

 

「まさか!」

 

 俺は上を向き頭上を確認する。

 位置は上空、そこにはバズーカ砲で出来た大量のステージの破片や瓦礫があった。

 

「気付いたね造理くん!」

「何時からだ?」

 

 この量は急ごしらえで蓄えられる量じゃない・・・バズーカ砲を見た時から練っていたか!?

 あの絶え間ない突進もこれを蓄える為の行動。

 やるな麗日。

 でも甘い。

 

「勝あアァアツ「残念だな」!?」

 

 俺は即座に麗日との距離を詰めた。

 麗日が個性を解除する瞬間・・・そこを狙った。

 麗日の個性"無重力"で触れた物を無重力にして本人が個性を解除することで効力を失う。

 つまり個性を解除する瞬間は個性を受ける心配が無いと言うことだ。

 個性を受ける心配が無ければ防衛に勤しむこともない。

 一瞬の隙を突く、これこそが勝利のカギだ。

 バズーカを投げ捨てて身軽になった俺は麗日の顔面に向かって思いっきり拳を繰り出した。

 

『決まったァー!! 思いっきり決まったァあーー!!』

 

 俺の拳が麗日の顔面を捉えた。

 

「直撃したぞ!?」

「ぎゃあああ! 女の子の顔を!?」

 

 拳は麗日の顔面に直撃。

 実況のプレゼントマイクも観客席の連中もうるさく騒がしいが、これで終わりだ!

 

「勝負は決まっ「捕まえた!」何っ!?」

「「「「!!!?」」」」

 

 顔面に直撃を受けた麗日はそのまま倒れず、繰り出した俺の腕を両手を掴んでいた。

 麗日は額から血を流し、笑いながら俺にそう告げる。

 

「やっと油断してくれた(・・・・・・・)ね!」

「くっ!!?」

 

 俺の拳を額で受けてダメージを減らしたのか!?

 マズい! これはマズいぞ!!

 

「今度こそ勝あアァアツ「させるかぁ!!」グウっ!!?」

 

 俺は麗日に身を寄せ、体をスピンさせ背後に周り麗日の首に腕を回す。

 所謂、チョークスリーパーだ!!

 

「このまま絞め落とす!」

「ぐっぐぐぐ・・・!」

 

 完全に決まったチョークスリーパーで麗日を攻め続ける。

 麗日も必死に抵抗してくるが、これで落とさなければ浮かされてしまい敗北に追い込まれる。

 絶対に離させない!!

 

「落ちろ!」

「があっ!・・・が・・・あ・あ」

 

 麗日の力が徐々に抜けて行く。

 ――そして

 

「あ・・・・あ・・・」

 

 ――限界だな?

 俺はチョークスリーパーを解き、麗日を解放し、麗日はそそまま倒れ込む。

 自分の身を確認すると麗日の個性を受けた跡は無い。

 俺は麗日と距離を取り警戒を始めた。

 

「・・・・」

 

 顔を伏せ倒れ込んだ状態で体を震わせる麗日。

 審判であるミッドナイトが確認する。

 ――そして

 

「麗日さん・・・行動不能。二回戦進出は造理くん――!」

 

 ミッドナイトから試合終了の合図が出た。

 勝負が決した瞬間であった。

 

「麗日さんをリカバリーガールの元へ」

「I Know・・・」

 

 タンカーロボットに運ばれ医務室に向かって行く麗日。

 ――するとその時

 

「~~~・・・父ちゃん・・」

「?」

 

 意識を朦朧とさせる麗日の口から父親を名が発せられる。

 ――敗北しても心は死んでいないということか。

 

『ああ麗日・・・ウン造理一回戦とっぱ』

「やるならちゃんとやれよ・・・」

 

 何ともやる気のない実況をするプレゼントマイク、無事に一回戦を突破したが危なかった。

 まさかここまで手こずるとは思わなかっし、何より麗日が俺の拳を受けて一瞬の隙を付いてくるとは思わなかった。

 麗日はあれを狙ってやったのか?、俺が攻めてくるタイミングを待っていたのか?

 いや、そんな素振りは見せなかった。

 なら咄嗟に出た行動なのか?、本能であんな事をやって退けたのか!?

 

「末恐ろしいな」

 

 俺は麗日の才を心の底から感心し認めた。

 ようやく一息付けることが出来るがその前にやっておきたいことがある。

 俺はステージに放置していたバズーカ砲を手に取り、空に向かって発射した。

 

「「「「!!!???」」」」

 

 発射したバズーカ砲の弾頭は空中で爆発する。

 突然の行動に会場に居る全員が驚くが、これでいい。

 

「造理くん!?、何をして「一つこの場で言っておきたいことがある!」!?」

 

 ミッドナイトが俺の行動に対して口を挟んできたが、俺はそれを静止し会場に響くように大きな声で言葉を続ける。

 

「ここには色んなヒーローが集まっているが、ヒーローと言っても所詮は人間だ!、誰かを批判したり軽蔑するのも致しかたないだろう!」

「「「「???」」」」

 

 俺の言葉にヒーロー達は疑問の表情を浮かべるが俺は更に言葉を続ける。

 

「俺の戦い方や行動は決して褒められることではないことは十分に理解している! ・・・だが、ヒーローであるあなた達が先ずすべきことは俺を罵倒することではなく・・・懸命に戦っていた麗日お茶子を応援することじゃないのか!?」

「「「「!!!?」」」」

 

 これが俺がどうしてもこの場で言って置きたかった事だ。

 試合の最中から思っていたことだが、会場で観戦していたヒーロー達は誰一人として麗日に声援を送ることが無かった。

 審判に抗議するわけでもなく、試合に乱入して止めに入るわけでもなく、真っ先に行ったのが俺を罵る事。

 どちらか一方だけを応援することは見方によっては差別に繋がってしまうかもしれないが、ヒーローならその方が誰かを罵り罵声を吐くよりはずっと綺麗で美しい。

 

「俺は別にヒーロー全て高潔を求めなんてしない。このご時世、ヒーローなんて吐いて捨てるほどにいるのだから、クズの一人や二人混じってたって仕方の無いことだ。・・・・だが!」

 

 俺は眼を閉じ息を整える。

 ――そして

 

「キサマらの理想なんかを他人に押しつけるな! 何が正しいか間違いかなんて、その時の状況によって決まるんだ。俺は誰かの為なんかじゃなくて、己自身のためにヒーローを目指してるんだ。ヒーローの矜持なんて知ったことじゃあない!」

「「「「!!!???」」」」

「俺のことが気に入らないなら、好きなだけ罵倒しろ。あんたらが同情して憐れむ美しいヒーローの卵たちは、全員俺が蹴散らしてやる。どのみち弱い奴は例外なく淘汰されるのが定めだ。せいぜい俺の淘汰される対戦相手の応援していろ……以上だ!」

 

「「「「・・・・」」」」

 

 言いたいこと言い切ったので俺はステージを後にすることにした。

 ――少しスッキリしたな。

 俺はそのまま歩みを進めて行った。

 

 ――――

 

 


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