無個性より苦労してます。   作:ソウルゲイン

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第22話

『第一種目は障害物競争!! この特設スタジアムの外周を一周してゴールだぜ!! ルールはコースアウトさえしなければ何でもアリの残虐チキンレースだ!! 各所に設置されたカメラロボが興奮をお届けするぜ!』

「おい・・・俺ここに居る必要ないだろ」

 

 スタジアムの実況室でプレゼント・マイクと相澤先生のマイク越しにしゃべっていた。

 障害物競争を熱烈に実況するプレゼント・マイクに対して相澤先生は思わず愚痴を垂れ流していた。

 

『それにしてもスタート開始直後からいきなり波乱だな! トップの1-Aの"造理 錬"が独走状態だ!!』

「あいつはこの障害物競争の本質をちゃんと理解していたな。だからこそ誰よりも素早く行動を起こせた・・・」

 

 現在レースの状況は俺がトップであり、それに少し離れた位置に轟、さらに離れた位置に1-A組の各メンバー、そしてさらに離れた位置その他の生徒達が走っていた。

 俺は二番手の轟と大きく差をつけていて他が第一関門に差し掛かろうとしていた。

 何故に俺がこれほどまでに他の生徒と差を付けているのか・・・それはスタート開始直後に理由がある。

 

 ――――

 

 

 

 ◇◇

 

 ~スタート開始前~

 

『さあさあ位置につきまくりなさい・・・』

 

 18禁ヒーロー、ミッドナイトの掛け声と共にスタート地点の出入り口が開く。

 現在、俺はスタート地点から少し離れた位置、スタート地点と会場の中央のちょうど間くらいの位置に居る。

 三つあるランプが徐々に点滅していき全員が身構える。

 

「「「「・・・・・・」」」」

 

 静まり返る一同。

 この場にいるほぼ全員がスタート地点の方に全神経を集中している。

 

 ―――好都合だ!

 

 

『スタ―――――――ト!!』

「《錬成・大分解》」

「「「「!!!!!???」」」」

 

 俺はスタートと共に地面に向かって個性を発動した。

 

「うあっ!!?」

「な、何だ!!?」

「じ、地震!?」

 

 半径数十メートルに渡る地面を分解した。

 かなり大規模な分解であった為に会場が一瞬だけ揺れ、スタートと共に動き出した選手達のほとんどが転倒していた。

 あまりの出来事に全員が戸惑いを見せていたが、これこそが俺の狙いだ。

 

「ぐあっ!?」

「痛い!?」

「踏まれた!?」

 

 俺は転倒して戸惑っている選手達を踏み越えてスタートの扉を潜っていった。

 

『ヘイヘイヘイ!! 突然のハプニングの中で1-A組の造理がスタートして行ったぜ!!』

「これは造理の仕業だ。妨害が許されているこの競技で真っ先にそれを実行したようだな」

『こいつはデンジャラス!! 見た目はインテリ系だがやることがえげつねえぜ!!・・・・にしても会場が滅茶苦茶になっちまったな』

「造理が戻ってきたら直させればいい」

『さあー、造理のスタートに気づいた奴らが起き上がって次々とスタートしていくぜ!!』

 

 俺は周りや実況を突き進んで行った・・・。

 

 ――――

 

 

 

 ◇◇

 

 ~現在~

 

 ……と言うわけで現在俺はトップを独走している。

 スタートゲートでの妨害も考えていたが、あの狭いゲートでは人が入り組みすぎて、他の奴もゲートでの妨害を考えている奴が居ることは直ぐに予想がついため取りやめた。

 現に轟がゲートで妨害をしていたし・・・。

 しかし作戦は十分に成功し俺はそのままトップで第一関門にたどり着く。

 

 ——————―そこには

 

「〔THOOM〕」

「・・・こいつはしばらくだな」

 

 入試の実技試験に現れた仮想敵の姿があった。

 

『さぁいきなり障害物だ!! まず手始め、第一関門ロボ・インフェルノ!!』

 

 目の前に大量の仮想敵、しかもお邪魔ギミックとして現れた超大型仮想敵も数多く存在しコースを完全に塞いでいた。

 これだけの仮想敵をそろえるとは雄英はずいぶんお金を掛けているな? だが、これだけ多くの仮想敵を相手にしては時間のロスは必死だ。

 

 ―――ならば

 

「〔THOOM〕」

 

『おーっとロボ・インフェルノがトップの造理に向かって突進!! そのまま踏みつぶされたぞ造理!! 死んでないだろうな!!・・・・あれ?』

「第一関門を突破したな、造理・・・」

 

 相手にしなければいい、俺は仮想敵を退けて先に進んだ。

 

『オイオイどういうことだ!? 踏みつぶされたと思っていた造理がいつの間にか第一関門を突破して先に進んでるぞ!!』

「造理は踏みつぶされる直前に個性を使って地面を分解し穴を掘ったんだ。そしてそのままコースの地下を掘り進めてロボ・インフェルノの後方に出た・・・」

『戦わずにして関門を突破! 何てスマートな野郎だ!?』

 

 無駄な戦いをすることは愚かな事、それにこうしておけば後続達を足止めすることも出来る・・・一石二鳥だ。

 狙いは見事に的中し、後続の生徒達は大型仮想敵に足止めを受けていた。

 ――だが

 

「もっとすげえのを用意してもらいていもんだな」

 

 突然、大型仮想敵が氷漬けになった・・・轟の仕業だな。

 

「クソ親父が見てるんだ、思い通りにはならねえぞ、造理」

 

 氷漬けになった大型仮想敵の間を通って、轟が迫って来る。

 

『1-A 造理に続いて、同じく1-Aの轟が前に出て来たー!! お前らすげえな!! アレだな、もうなんか・・・ズリィな!!』

 

 轟の実力ならあの程度の障害は苦にならないだろうが、すっかり目の敵にされてしまっているな。

 他のAクラスの連中も他の科やBクラスよりも進んで前に飛び出している。

 やはりヴィランとの交戦が良い経験になったみたいだな、立ち止まる時間が圧倒的に短い。

 だが、遅れを取るつもりはない・・・。

 背後から迫ってくる連中に注意を払いながら俺は第二関門に差し掛かろうとした。

 

 ――そこには

 

『オイオイ第一関門チョロイってよ!! んじゃ第二はどうさ!? 落ちればアウト!! それが嫌なら這いずりな!! ザ・フォ――――ル!!』

 

 そこにあったのは谷、岩の柱がいくつも立っており、その間をロープで繋がれている。

 谷のそこは深く、落ちた時点で失格になると言う・・・。

 

 ――俺には関係ない!

 

「《錬成》」

 

 俺は岩で"橋"を造り、堂々と渡って見せた。

 ロープを渡る必要なんてない。

 

『オイオイ!! トップの造理、ロープ使ってないぞ!! そんなのありか!?』

「個性で道を作ってるんだから全然有りだろ」

『なんかもう、ズリィを通り超して羨ましいな』

 

 ロープを使ってしまえば時間ロスにもなる上に妨害もされやすい。

 ならばより素早く安全に渡れる橋を造った方が賢明だ。

 そして橋を渡り切ったらその橋を分解して後続が渡れないようにする。

 後方を確認すると他の連中にかなり差をつけることが出来、二番手に付いている轟だけが俺に食らいついていたが・・・

 

「くそがっ!!」

「ん?」

 

 轟の後方から爆豪が迫ってきた。

 爆豪は自身の爆破で空を飛び一直線に向かってきている。

 ・・・爆豪にとってこの障害は相性抜群のようだな? しかもスロースターターのようだからペースがどんどん上がっているようだ。

 だが、差はまだ充分にある・・・問題は無い。

 俺は一早く第二関門を切り抜けた。

 

『先頭が一足抜けて早くも最終関門!! その実態は――・・・一面地雷原!! 怒りのアフガンだ!!』

 

 俺の目の前に広がるのは地雷が埋められた平地であった。

 よく見てみると所々に堀り上げられた跡があり、そこに地雷が埋められているのだろう。

 

『ちなみに地雷は威力は大したことねえが、音と見た目は派手だから失禁必死だぜ!』

「人によるだろ」

 

 先頭ほど不利な障害だな、下手に道を造ってしまえば後続に追いつかれてしまうかもしれないし、空中移動ができる奴は圧倒的に有利な障害だ。

 

「待ちやがれ!! 錬金野郎!!」

「追いついたぞ造理!」

 

 轟と爆豪が追い付いてきたか・・・・戦略を変えるか!

 

 

「《錬成!!》」

 

「「!!?」」

 

 最終関門に差し掛かる位置に壁を造り出し、コースを塞いだ。

 

『オイオイオイオイ!! 先頭を行くの造理! 壁でコースを塞いじまったぞ!?』

「上手い手だな、下手に個性を使って地雷原を渡ってしまえば結果的に後続の手助けをしてしまうかもしれない。なら後続に対して障害を造ってしまう方が、時間稼ぎが出来て安心して進める」

『これでA組の轟と爆豪が遅れを取って造理が一気にリードを広げた!! これはもう一位は決まりか!?』

 

 まだ決まってはいないが圧倒的に有利になったのは確かだ。

 轟と爆豪が壁を乗り越え飛び出してきたが、差は十分に広がった。

 他にも何人かは壁を突破してきたが、もはや俺に追いつくのは不可能に等しく、俺は既に地雷原の三分の二を超えている・・・この勝負はもらった!

 俺は勝利を確信し、ひたすら突き進んだ。

 

 ――だが、その時

 

「かりるぞ、かっちゃん!」

「!!?」

『後方で大爆発!!? 何だあの威力!? 偶然か故意か――!?』

 

 とてつもない爆発音が聞こえ、振り向くと後方は爆炎に包まれていた。

 

「何が起きた!?」

 

 プレゼント・マイクの実況が響き渡る中、爆炎の中から何かが飛び出してきた。

 ――それは

 

『A組 緑谷! 猛追だ――――!!!?』

 

 緑谷が爆風を利用して物凄い勢いで迫ってきた。

 

「お前の仕業か緑谷!?」

 

 

 

 ◇◇

 

『一面地雷原!! 怒りのアフガンだ!! ちなみに地雷は威力は大したことねえが、音と見た目は派手だから失禁必死だぜ!』

 

「先頭はもうそんなとこに・・・早く早く・・・!!!」

 

 第二関門に苦戦していた緑谷はトップの錬に大きく差を付けられていた。

 最終関門に差し掛かろうとするとそこには壁がそびえ立っておりコースが塞がれていた。

 

「この壁・・・造理君か!」

 

 壁の前には選手達がごった返しており、轟と爆豪が一早く壁を突破し、緑谷も何とか壁を乗り越えてたが・・・

 

「遠い!!」

 

 先頭を行く錬は遥か先を進んでおり、もはや追い越すことはほぼ不可能に近かった・・・だが

 

「でも、まだ追いつける!!」

 

 緑谷は全く諦めていなかった。

 

「(踏みつけて信管が作動するタイプの地雷だ! 威力は体が少し飛ぶくらい・・・でも)」

 

 緑谷は壊れた仮想敵から拝借した鉄板を使い、地面を掘り上げて行く。

 

「(対人地雷なんて深くても14~15cmくらいだ、直ぐに掘り出せる!!)」

 

 掘り出した大量の地雷を一か所に集める緑谷。

 

「(借りるぞかっちゃん!)大爆速ターボ!!」

 

 両手で持った鉄板を集めた地雷に向かって思いっきり叩きつけた緑谷は所持していた鉄板の上にしがみ付き、大爆発によって発生した爆風を利用してミサイルのごとく突き進んで行った・・・

 

 

 

 ◇◇

 

 後方から物凄い勢いで迫って・・・いや、飛んでくる緑谷は轟と爆豪を抜いた。

 

「デクぁ!!! 俺の前を行くんじゃねえ!!!」

「他を気にしてる場合じゃ・・・!」

 

 緑谷の行動に感化され轟と爆轟がスパートをかけて来たが、まだ俺とは距離がある。

 何より緑谷はあれでは着地で止まってしまう。

 予想もしなかったことを平気で行ってしまう緑谷の行動には驚かされたが、まだ俺の勝機は揺るがない。

 最終関門も残り僅か、俺もスパートをかけ突き進む。

 

 ――だが

 

「まだだ!!」

「何!!?」

 

 再び大爆発、それもすぐ後ろで起きた。

 先ほどの爆発ほどではないが、その爆発で轟と爆豪は横に吹き飛ばされ、緑谷は・・・

 

『A組 緑谷が対にトップの造理を抜いたああああ―――!!!』

 

 その爆発を利用して俺の頭上を飛び越えて行った・・・なんて奴だお前は!!

 

『緑谷 間髪入れず先頭を追い抜き、そのまま地雷原をクリア!! そして起き上がって突っ走る!!』

 

「抜いた! このままゴールに「《錬成!!》」!? 造理君!!」

「簡単には行かないぞ緑谷!!」

 

 俺は個性を発動し柱を斜めになるように錬成しその上に乗っかり地雷原を飛び越えて行った。

 幸い地雷原が残り僅かだった故に見事に最終関門の突破に成功し、無事に着地した俺は緑谷を追いかける。

 

『ここに来てまさかのデットヒート!! ゴールまで残り僅かぁ!! 緑谷と造理!! どっちが先にゴールする!!?』

 

 緑谷が僅かににリードしているが、足は俺の方が早い! 追い抜いて見せる!

 

「行かせてたまるかぁ!!」

「負けるかぁ!!」

 

 ゴールまであと少し、もう少し、もう少しだ!!

 そしてゴール目前で俺は緑谷と並び・・・

 

『ゴ――――ル!!!!』

 

 俺と緑谷はゴールを果たした。

 

『ゴール! ゴール! ゴール!! A組の緑谷と造理がほぼ同時にゴールしたぞ! どっちが勝ったんだこれは!?』

「ビデオ判定だなこれは」

『モニターで確認だ! 早く映せ!!』

 

 相澤先生とプレゼント・マイクの指示で会場の巨大モニターに俺と緑谷のゴール直前の映像がスローモーションにて映される。

 

「どっちだ!?」

 

 緑谷もモニターにかじりつくように見守る。

 ゴールしたのはほぼ同時、俺もどっちが勝ったのかは分からない・・・どっちだ!

 モニターにゴールの瞬間が映し出された。

 勝ったのは・・・・・

 

『これは・・・・緑谷だあ!! 緑谷のもじゃもじゃの髪が僅かに先にゴールに到達してるぞ!!』

 

 勝者は緑谷であった。

 

『序盤の展開から誰が予想出来た!? 圧倒的に優位に立っていた造理を追い抜き、一番にスタジアムへ帰ってきたこの男・・・緑谷出久を!!』

 

「!!!」

 

 半泣きをしながらガッツポーズをする緑谷、まさかこんな結果になるとはな。

 

 俺は緑谷出久と予想外の存在を改めて思い知らされるのだった。

 

 ――――


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