無個性より苦労してます。   作:ソウルゲイン

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勢いで書けるところまで書きます。


第2話

「造理、お前の進路希望なんだが、ヒーロー科でいいんだな?」

「はい」

 

 とある中学校の職員室。そこで一人の生徒と教師が話していた。造理 錬とその担任である。

 

 新年度を迎えた春の季節。中学三年生になった錬は担任と進路について相談していた。

 ヒーロー飽和社会になった現代、誰もがヒーローを目指し、生徒の9.9割がヒーロー科を志望である。担任である彼も受け持ったクラスの生徒全員がヒーロー科志望だったため特に気にすることではないのだが目の前の生徒、錬にだけは違う思いを抱いていた。

 

「お前の場合は事情が事情なだけにヒーローを目指すのは仕方がないとわかってはいるが・・・・本当にいいんだな?」

 

「もう決めたことです。今の俺は一般社会で生きるほうが大変ですから」

「そうか・・・・・よし!、なら"雄英高校"にしろ。あそこなら警備も軍隊並に厳重だ。ヒーロー資格の取得に専念できるだろ?」

 

 担任はヒーロー養成学校最高峰、"雄英高校ヒーロー科"を進める。

 

「雄英、ヒーローアカデミアの最高峰・・・受かりますかね?」

「お前は俺が受け持った生徒の中では一番優秀な生徒だ。勉強も運動も常にトップ、・・・俺は自信を持ってお前を推薦するぞ」

「ありがとうございます。先生には感謝してますよ。俺にここまで気にかけてくれる人は、そうは居ないですから」

「俺は教師の責務を果たしてるだけだ。お前の健闘を祈ってるぞ」

「ハイ。・・・では」

 

 錬は担任にお辞儀をして、職員室を後にする。

 

 

 

 

 

 

「はぁ~・・・・」

 

 

 職員室を後にした錬を見送った担任の教師は椅子に背もたれ、疲れた様子を見せる。

 

「お疲れですね先輩?」

「まぁな」

「でも、これで不安材料が取り除かれますね」

「おい!そんなことは思っても口に出すな!」

「!?・・・すみません」

 

 後輩の教師に話しかけられる担任。後輩の失言に対し思わず声を荒らげる。

 

「彼は本当に凄いですね。あんな人生を送っているのにケロっとしてるんですから」

「完全に慣れちまってるのさ。ヴィランの出現で動じるような精神はとっくに捨てちまってるよ」

 

 担任は錬の心情を察したように発言する。

 

「僕も昔はヒーローを目指してましたけど、無個性だった故に諦めました。・・・・でも彼を見てると自分が十分幸せだったことが理解出来ます。」

「個性が有ろうと無かろうと結局は平穏に過ごせることが一番幸せなのさ。・・・俺にはヴィランに襲われ続ける人生なんてマッピラだぜ」

「彼の人生に幸あれ、ですか?」

「そうなることを祈ってるよ」

 

 担任と教師は少年、造理 錬を心の底から祈った。

 

 

 

 

 

 ◇◇◇◇

 

 

 造理 錬・・・彼のことについて少し語ろう。

 

 彼はごく一般の家庭に生まれた男の子であった。

 両親も父は一般の営業者、母は専業主婦とごく普通であり、けして裕福とは言えないが生活水準は平均的で特に問題の無い家庭であった。

 

 父親の個性は"分解"。

 分解とは言っても何でもかんでも分解出来るわけではなく、対象となる物の構成を正確に理解していないと分解が出来ないため、知識のない人間からしたらあまり役に立たない個性であった。

 

 母親の個性は"再構築"

 壊れた物を元に戻すことができるが、こちらも対象をよく理解していないとうまく発動できない。

 一般人では精々、割れたコップや皿を元の状態に戻す程度である。

 

 そんな両親の下に生まれた錬は幼い頃に個性診断を受け診断の結果、父と母の複合型の個性であると診断された。

 しかし両親は個性に関しては無頓着であったため、とくに気にする事は無く、平穏な日々を送っていたが、錬が診断を受けてから数年後、錬が六歳を迎えたころとある出来事が起こった。

 ある日の夜、家族三人が仲良く夕食を食べていたとき、錬が両親にある物を手渡した。

 

 ――それは金色に輝く石、「金」それも純金であった。

 

 最初は玩具かと思っていた両親は錬にどこで買ったのかを聞いたが、錬は個性で造った、と答えた。

 

 ――錬の個性"錬金術"によって

 

 錬の個性"錬金術"は物質の構成元素や特性を理解できれば、それを分解し、更に同質の物であれば別の物に再構築することができたのである。故にただの石から金を造り出すこともできた。

 

 錬は両親と違って個性にかなり興味を持っていたため、親に内緒で個性の研究、実験をし、道端に転がってるような石ころを金に造り変えてしまったのである。

 錬は元々とても賢い子供であり、幼い頃から勉強も運動もでき、同世代の子供たちから二つ三つ抜きん出ていた。

 知力がとりわけ高く、学んだ事もすぐに覚えてしまう、いわゆる天才の部類に入る人間であった為、錬からすれば道端に転がっている石ころで金を生成することは難しいことではなかったのである。

 

 錬は、けして裕福ではなく苦労をしている親の為にと思い、恩返しの意味も込めて金をプレゼントしたが、これが切っ掛けで彼の環境は大きく変わることなった。

 金を造り出せる個性、これは資本主義の現代においては神懸かりとも言える個性であり、無限にお金を生み出せるものであった。

 それを理解した両親は狂ったかのように大喜びし、二人はすぐに行動を起こした。

 

 

 それから一年が過ぎたころには生活が激変していた。

 両親は古物商の許可を取得し、錬に大量に金を造らせ、それで稼いだお金で豪華な家を建て贅沢三昧の生活をしていた。

 父親は何台もの高級車を乗り回し、若い美女を連れては何百万円もする酒を飲み明かし、母親はブランド物の服やバック、宝石などを買い漁り、若い色男を連れては豪華な食事を楽しむ。

 あまりに変わり果てた両親を見た錬は戸惑う日々を送ることになった。

 

 

 そんな日々が続いたある日、豪華な生活をしている両親に、テレビ出演の依頼が来た。

 有頂天になっていた両親はこれを二つ返事で引き受けたが、これが錬の人生を大きく狂わせる事となった。

 テレビで、それも全国ネットで言ってしまったのである。

 

 ――"息子の個性で優雅に暮らしています"と。

 

 贅沢な生活を送ったせいなのか両親の頭はどうかしており、どうやってお金を稼いでいるのかテレビの前で極め細やかに説明してしまったのである。

 個性は公的な場での使用は禁止されているが私有地での使用は問題ないため、何も悪いことはしていないと言い切る両親であったが、問題はそこではなかった。

 テレビに向かって言ってしまったがために、それを見ていた良からぬ者達、動き始めてしまったのである。

 

 ―――そう、"ヴィラン達"が

 

 ヒーロー飽和社会、特にナンバー1ヒーロー"オールマイト"の登場によって成を潜めることになったヴィラン達、それも組織的なヴィラン達が活動資金を求め、錬を狙うようになったのである。

 テレビ放映されたその日を境に錬はヴィランに狙われるようになり、さらに錬にとって最悪・・・いや、最低と言える事態が起こった。

 

 ――両親が錬を置いて逃亡したのである。

 

 元々狙われていたのは錬であった為、両親は金と共に錬の前から姿を消してしまい、錬は警察に助けを求め、警察は両親の捜索をしたが、両親はすでに名前を変え海外に移り住んでいたのである。

 子供のことを聞いても知らぬ存ぜぬを言い渡され、警察からそのことを聞いた錬はすぐに自分の置かれた状況を理解した。

 

 ――"自分は捨てられてしまった"と。

 

 だが、錬は冷静であった。

 元々賢かったこともあって過ぎたことを考えることはなく、これから先のことを考えていた・・・と言うよりも錬の中での親に対しての愛情が薄れていたのである。

 親も錬の事は"金のなる木"としか考えないようになっていたため、残りの人生を遊んで暮らせる金が有れば、錬は不要であった。

 

 そんな錬に対し、警察は錬の今後について頭を悩ませていた。

 ヴィランに対して知名度が上がってしまった為、錬を海外に住まわせることも検討されたが日本以上に治安が良い国もそうそうあるわけが無く、仕方がなく警備が厳重な児童養護施設入れようしたが、錬はこれを拒否。

 ヴィランに狙われている自分が居ては、他の人たちに危険が及ぶことを錬は理解していたため、一人暮らしを志望したが、流石に小学校に上がったばかりの子供に一人暮らしをさせることは無謀であると警察は判断する。

 しかし、錬が言っていることもまた事実であるが故に、悩みに悩んだ末、警察の監視の下で、政府が用意した家に住むことになった。

 

 ――錬の一人ぼっちの人生の始まりであった。

 

 

 

 ――以上が造理 錬に起こった出来事。

 

 それから数年が過ぎた現在、錬は今でもヴィランに狙われ続けている。

 彼は己の身を守るために独学で戦闘術、護身術、逃亡術などを学び、長年ヴィランに襲われ続けた結果、並みのヒーローに匹敵する程の戦闘力を兼ね備えてしまった。

 今まで、うまくヴィランをあしらって来たが、ヴィランが活性化していることを肌で感じてしまったが為、個性が制限されている今の状態に限界を感じ、大っぴらに個性が使用出来るヒーローに成ることを決意したのである。

 

 ――他ならぬ、自分の為(・・・・)に。




書くのが疲れたのでここで切ります。今回は主人公の経緯を語りたかったので、文章が長くなりました。さりげなく主人公の個性を説明しましたが、作者の希望として主人公は万能超人にしようと思っています。

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