無個性より苦労してます。   作:ソウルゲイン

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今回は少しだけ長くなりました。
緑谷視点の話しもあります。
若干、主人公と緑谷のキャラが崩壊してるかもしれません。


第16話

「13号・・・やはり災害救助で活躍するヒーローは戦闘経験が一般のヒーローに比べ半歩劣る」

「(ワープゲート! やられた・・・・!!)」

「飯田ァ走れって!!」

「くそう!!」

「外には出させない!」

 

 場所は出入り口ゲート付近、そこでは13号がワープヴィランと対峙していた。

 13号は自身の個性であるブラックホールでワープヴィランを吸い込んでいたが、ヴィランは13号の背後にワープゲートを出現させ13号は自身のブラックホールによって自身をチリにしてしまった。

 学校まで応援を呼びに行くように頼まれた飯田がクラスメイトの言葉に反応して駆け出すが、ヴィランがそれを邪魔する。

 

「なまいきだぞメガネ! 消え・・何!?・・・」

「!?」

「理屈は知らへんけどこんなん着とるなら、実体あるってことじゃないかな!!」

「しまった! 身体の方を!!」

 

飯田の目の前にワープゲートが出現し飯田を飲み込もうとしたが、麗日がワープヴィランの体に触れ個性を発動、ヴィランは浮かされ宙を舞う。

 

「行けええ!! 飯田く―ん!!!」

「「「行けええ!!」」」

 

「・・・・応援を呼ばれる・・・・ゲームオーバーだ」

 

 さらに他の生徒の助力もあってワープヴィランは遠くに投げ飛ばされ、飯田はゲートを潜り、見事脱出に成功した。

 

 ――――

 

 

 

 ◇◇

 

「造理くん! 大丈夫!?」

「肋骨が何本か逝ってるが大丈夫だ」

「それ大丈夫なのかよ!?」

「無理してるわね? 造理ちゃん」

 

 黒いヴィランの攻撃で水難エリアまで吹き飛ばされた俺は緑谷、蛙吹、峰田の三人と合流した。

 この三人はワープヴィランによって水難エリアに飛ばされていたようで、そこでヴィランに遭遇したが、策を講じてヴィランを一網打尽にすることに成功したらしい。

 

「造理ちゃん、どこに飛ばされてたの?」

「中央広場だ」

「中央!? じゃ、相澤先生の所に!?」

「ああ、さっきまで相澤先生と一緒に戦っていた・・・このままじゃ先生が危ない」

「じゃ、じゃあ僕らで助けに「駄目だ!!」!?・・造理くん!?」

 

 緑谷が相澤先生の救援に向かおうとしたが、俺はそれを制止する。

 

「広間には恐ろしく強いヴィランが居る・・・お前たちが行ったら一瞬で殺されるぞ!」

「で、でも何かできることは・・・」

「相手はオールマイト級の強さだ!」

「「「!!?」」」

 

 俺の言葉に三人は驚愕の顔を見せ言葉を詰まらせる・・・・当然だな、相手がオールマイト級だと聞いて驚かない人間なんか居ない。

 

「つ、造理! 嘘・・・だよな・・・なあ!」

 

 信じたくないのか峰田がそれが嘘であることを祈っているかのように聞いてくるが、残念ながら本当だ。

 さらにそのヴィランは超再生の個性を持っているため外傷を与えても直ぐに元に戻ってしまう、まさに化物だ。

 恐らくあの脳無と呼ばれたヴィランが対オールマイト用の切り札何だろう・・・。

 俺の話しを聞いて3人は絶望にも似た表情を見せる・。

 

「お前たちは敵に見つからないように出入り口ゲートに向かえ、俺は相澤先生の救援に向かう」

「ば、バカ言ってんじゃねえよ!? そんな化物が居る所なんかに行ったら殺されるぞ!!」

「危険よ、造理ちゃん?」

 

 峰田と蛙吹が必死に俺を止めようとする。

 確かに二人の言うことは正しい・・・本来なら俺達生徒は身の安全のこと重視して行動しなければならず、自ら危険に飛び込もうとしている俺の行動は愚かとしか言い様がない。

 相澤先生も生徒である俺たちを守るために自ら危険に飛び込んでいった行為を無駄にしてしまう。

 だが、相澤先生だけであの脳無を押さえ込むのは不可能だ。

学校からの救援が望めない今の状況で、あの脳無を野放しにしてしまったらクラスメイト全員が殺されてしまう。

 誰かが足止めをしなければ・・・・

 

「ぐあっ!!」

 

「「「!!?」」」

「相澤先生!!」

 

 悲鳴のような叫び声が聞こえ、中央広場に目をやると相澤先生があの脳無に地面に抑え込まれ拘束されていた。

 このままじゃマズイ!!

 

「造理くん!?」

「お前たちはここを動くな!」

 

 俺は一目散に駆けつける。

 

「先生!」

「!? 来るな造理!!」

「またお前かあ・・・脳無、殺れ」

 

 相澤先生を拘束していた脳無が凄まじいスピードで迫ってくる。

 

「同じドジは踏まない!《錬成!!》」

「!?」

 

 俺は前方の地面に大量のニードルを生成し、真正面から迫って来た脳無は体中にニードルが突き刺さり串刺し状態になった。

串刺しになった脳無はジタバタしているが、動きを封じることに成功する。

 

「脳無!? このガキ「《錬成・分解!》があ!!」

 

 俺は地面を分解してヴィランリーダーの足場を破壊し、ヴィランリーダーは体勢を崩した。

 

「《錬成!》発射!!」

「なっ!!?」

「しばらく大人しくしていろ!」

 

 更に俺はネットランチャー生成して発射し、ヴィランリーダーの動きを封じた。

 粘着性のネットだから、簡単には抜けられない。

 

「相澤先生!」

「ぐ、造理!・・・来るなと言ったはずだ!」

「お叱りなら後で受けます!」

 

 俺を叱りつける相澤先生だが、今はそれどころではない! 先生は両腕を折られている上に顔面もかなりの重症を負っていて目の焦点がロクに合っていない。

 もうロクに立つことも出来ずにいる・・・とても戦える状態では無い!

 

「先生、とりあえず個性で止血だけはしますから、あの脳無とか言うヴィランの個性を消しといてください」

「何をする気だ?」

「止めを刺します」

「!? 殺す気か!」

「このままだと、こちら側に死者がでますからやむ得ません・・・頼みます!」

「造理!!」

 

 制止する相澤先生を振り切り、俺は脳無に向かっていく。

 あの脳無は超再生を持っていると言うが、頭部・・・脳を破壊すれば流石に止まるはずだ。

 

 例え相手が凶悪ヴィランで合っても命を奪うことはヒーローとして言語道断であり許されないこと・・・。

 だがそれでも、助けが来ないこの状況であの脳無を野放しにしてしまえば全員皆殺しにされてしまう、例え罪を犯すことになってもあいつは今ここで倒さなければ成らない!

 

「悪く思うなよヴィラン!!《錬成・分解!!》」

 

 俺は串刺しに成って動けないで居る脳無の背後に迫り、脳無の後頭部に目掛けて手をかざした。

 

 

 

 ―――だが

 

「これで終わり「させません」何!!?」

 

 俺が手を突き出したら突然、脳無の後頭部付近に黒いモヤが出現し、突き出した腕が飲み込まれてしまった。

 

「まさかワープゲート!?・・・・ぐわああああああ!!!?」

「己の個性で自滅してください・・・」

「ぐはっ!! がは!」

 

 突然、腹部に物凄い激痛が走った。

 何が起こった!?

 

「危ない危ない、貴方はとても良い個性をお持ちのようですね? 如何に超再生を兼ね備えている脳無でも脳を破壊されてしまえば機能が停止してしまいますから、ワープゲートの出口をあなたの腹部付近に出現させて、自滅するよう仕向けました・・・」

 

 自滅?・・・・なるほど、俺の攻撃を利用されたか? 自分の腹を分解してしまったようだな・・・。

 

「造理!!」

「黙ってろよ、先生!」

「ぐあっ!!?」

 

 捕縛ネットで拘束されていたヴィランリーダーが地面に這いつくばっていた相澤先生の顔面を蹴り飛ばす。

 どうやら相澤先生が俺に気を取られた一瞬の隙を見て、自身の個性で捕縛ネットを粉々にし、脱出したみたいだ。

 

「ムカつくなあ、このガキは・・・」

 

 ヴィランリーダーは首を掻きむしりながらこちらに近づいてきた。

 

「脳無・・・て、動けねえか? 全く・・・」

 

 ヴィランリーダーは串刺し状態に成っている脳無に近づき脳無に突き刺さっているニードルを個性で粉々にしていく。

 脳無は解放されて、ヴィランリーダーは倒れ込んでいる俺に向かってくる。

 

「舐めた真似をしてくれるよな、お前?」

「がああああああ!!!」

 

 分解して負傷している俺の腹を蹴りつけてくるヴィランリーダー。

 俺はあまりの激痛に思わず叫んでしまう。

 

「死柄木 弔」

「? 黒霧か・・・13号はやったのか?」

「行動不能には出来たものの散らし損ねた生徒がおりまして・・・・メガネを掛けた生徒一名に逃げられました」

「・・・・・・・は?」

 

 ワープの個性を持つヴィラン”黒霧”がそう言うと、”死柄木 弔”と呼ばれたヴィランリーダーは首を掻きむしり苛立ちを見せる。

 一名に逃げられた?・・・・誰かが脱出に成功に成功したということか? メガネを掛けた生徒・・・・飯田か! あいつが脱出に成功したのなら直ぐに助けを呼ぶことができる!

 

「黒霧・・・お前がワープゲートじゃなかったら粉々にしたよ・・・」

「申し訳ありません」

「さすがに何十人ものプロ相手じゃ敵わない・・・今回はゲームオーバーだ・・・帰ろっか?」

 

 帰るだと?・・・・どう言うことだ? こいつらの目的はオールマイト殺すことじゃないのか? 何を考えているんだ? こいつらは・・・.

 

「けどもその前に平和の象徴としての矜持を少しでもへし折って帰ろうか・・・」

 

 ヴィランのリーダー死柄木は俺を持ち上げる。

 

「お前を粉々にしてやる・・・」

「!?」

 

 マズイ! ダメージが大きくて身動きが取れない! 死柄木が俺の顔を掴む・・・ここで死ぬか・・・。

 

「?・・・・・・本っ当かっこいいぜ・・・イレイザーヘッド」

「!? 相澤先生!」

 

 少し離れたところで身動きがとれないでいる相澤先生が抹消を発動して死柄木を見つめていた。

 

「・・・脳無」

「ぐあっ!!」

「先生・・・!!」

 

 脳無が倒れている相澤先生の顔面を蹴り上げ、相澤先生は宙高くに舞い上がり、そして地面に落ちた。

 ――死なないでくれ、相澤先生・・・。

 

「さて、これで心置きなく粉々にできる・・・」

「お待ちください、死柄木」

「・・・あ?」

 

 俺に止めを刺そうとする死柄木を黒霧が制止する。

 

「その生徒は連れて帰りましょう」

「・・・は? 何で?」

「その生徒・・・名前を聞いて思い出したんですが、"造理 錬"ですよ」

「造理 錬?・・・誰だよ」

 

 黒霧が俺を一緒に連れて帰ろうと死柄木に提案してきた。

 

「ヴィランの間では有名な人物ですよ・・・"錬金術"の個性を持っていて、黄金・・・金塊を造り出す事が出来ると言う」

「金塊?・・・こいつそんなこと出来るのか?」

「ええ・・・彼の個性を手に入れれば、我々の活動資金も充実しますし、"先生"も喜ぶかも知れません・・・」

「・・・・そうか・・・それも良いな」

 

 死柄木は俺の顔から手を放した。

 こいつらも結局そのへんのヴィランと同じか・・・反吐が出そうだ。

 ・・・だけど、もうこいつらに抵抗出来るだけの力は残っていない。

 

「脳無・・・このガキを捕まえておけ」

 

 死柄木の命令で脳無が俺の首根っこを掴む。

 ――はあ、遂にヴィランの手に落ちる時が来てしまったか・・・。

 雄英なら安全だと安心をしてしまっていたが、飛んだ誤算だった。

 ・・・・いや、雄英を責めるのは筋違いだな。

 まさか此処まで大規模なヴィラン襲撃が起こるとは思いもしなかったし、相澤先生も13号先生も命を掛けて戦っていた。

 ただ相手が悪かっただけだ。

 ヒーローは決して無敵と言うわけではないし、まだ誰も死んでいない。

 ――俺一人が連れ攫われるだけで済むなら、まだマシな方だ・・・。

 

「黒霧、ゲートを開け・・・」

「承知しました」

 

 黒霧が個性を発動してゲートを出す。

 今にして思えばロクな人生じゃなかったな。

 良かれと思った行動が全てを変えてしまい、親にも捨てられて親戚にも目を背けられて、常に危険に晒されて・・・・。

 こんなことなら、もっとクラスの皆と仲良くしておくべきだった・・・・。

 特に緑谷達には冷たく接してしまったが、あいつらとなら仲良くなることは出来たはずだ。

 他人を遠ざけて生きてきたせいで無意識に人の手を振り払うように成ってしまったようだ。

 ――でも今更それを後悔しても仕方がない。

 緑谷達は無事に逃げただろうか? こいつらが撤退するなら生存率は格段に上がるはずだ。

 心配はないだろうが、俺は緑谷達が居る方向に目を向ける。

 ――緑谷の姿が見える。

 

「・・・無事で良かった・・・」

 

 小声ではあるが思わず声に出てしまい俺は安心の笑みを浮かべてしまった。

 仲間どころか友達にすらなっていない者にこんな考えが浮かんでしまうなんて、俺もヤキが回ってしまったのか?・・・それとも諦めから来た感情なのかな・・・?

 まあいいか、俺は覚悟を決め、目を瞑った・・・。

 

「造理くん!!!」

「・・・あ?」

「!?・・・緑谷!!」

 

 突然の掛け声に驚いた俺が目を開けると緑谷が必死の顔をして、こちらに向かって来ていた・・・。

 

 

 

 ◇

 

 ‐緑谷 視点‐

 

 僕らは何も解っていなかった・・・。

 ヴィランとの初の戦闘を勝利で飾ってしまった為、僕らの力が敵に通用するんだと思ってしまったがこれは大きな勘違いだった。

 今僕たちの前には恐ろしい光景が広がっている・・・。

 

「舐めた真似をしてくれるよな、お前?」

「がああああああ!!!」

 

 相澤先生を救出するべく向かっていった造理くんが、ヴィランに重症を負わされて苦しめられている。

 プロのヒーローである相澤先生がいとも簡単にやられ、あれだけ強かった造理くんもあの有様・・・。

 

「緑谷ダメだ・・・・さすがに考え改めただろ・・・?」

「ケロ・・・」

 

 峰田くんは手を口に当てながら震えた声を上げ、蛙吹さんは顔の半分を水に沈めながら後ずさっている。

 造理くんが僕らに逃げるように言った理由がようやく解ったような気がした。

 前に警察署で造理くんは幼い頃からヴィランに狙われていると言っていたから、ヴィランの恐ろしさをちゃんと理解していたんだ。

 だから僕らに逃げろって言ったんだ・・・。

 

 ――ヴィラン、ヒーローの世界・・・・僕らはまだ、理解しちゃいなかったんだ。

 

 助けなきゃ! 造理くんを助けに行かなきゃ!! ・・・・でも動けない、恐怖のあまり脚が竦んで動けない・・・。

 

「今回はゲームオーバーだ・・・帰ろっか?」

 

 ――帰る?

 

「帰る?・・・カエルっつったのか今??」

「そう聞こえたわ」

 

 帰るだって!? これだけのことをしといてあっさり引き下がるなんて、これで帰ったら雄英の危機意識が上がるだけだぞ!! ゲームオーバー? 何だ・・・何を考えてるんだ。

 

「その生徒は連れて帰りましょう」

「・・・は? 何で?」

 

 連れて帰る?・・・!?あいつら造理くんを連れ去るつもりなのか!? でも何で!?

 

「ヴィランの間では有名な人物ですよ・・・”錬金術”の個性を持っていて、黄金・・・金塊を造り出す事が出来ると言う」

 

 金塊? 金塊ってあの黄金のこと?・・・そう言えば昨日の事件の現場に金色に輝いていた物が散らばっていたけど・・・・まさか、あれは造理くんが造り出した物なのか!? じゃあ彼が幼い頃からヴィランに狙われている理由って・・・・

 

「彼の個性を手に入れれば、我々の活動資金も充実しますし・・・」

 

 資金! やっぱりそうか! だから造理くんはヴィランに狙われてたんだ。

 金塊なんて物を造り出せてしまうなら、ヴィラン問わずにお金目的の人達がいくらでも群がってくる・・・一般人も含めてだ。

 警察が造理くんのことを話してくれなかったのも造理くんの身の安全のためだったんだ。

 そして造理くんが僕や麗日さん、飯田くんに話さなかったのも本当に僕らが巻き込まれないようにするための、造理くんからの気遣いだったんだ・・・。

 

「黒霧、ゲートを開け・・・」

「承知しました」

 

 黒霧と呼ばれたヴィランがワープゲートを開く。

 やばい! このままじゃ造理くんが連れ去られてしまう! でも僕の力じゃあいつらには敵わない!・・・・どうする!?・・・どうするか考えるんだ!!

 いくら頭を悩ませてもいい考えが浮かばない、僕は造理くんに顔を向けると・・・

 

 

「・・・・何で笑ってるんだ?」

 

 彼は笑っていた、助けを求める顔をしてるわけでも無く、絶望してる顔さえしてない・・・。

 なぜ笑っていられるんだ!?・・・・君はこれから地獄に向かおうとしてるんだぞ!? なぜ笑った顔が出来るんだ! 理解出来ない! どうしても理解出来ない・・・!

 僕は頭を悩ませていたが、次に造理くんの顔を見て理解してしまった。

 

「・・・・・無事で良かった?・・・・・!!」

 

 距離が遠くて口パクでしか見えなかったけど口の動きで何となく理解してしまった。

彼は確かにそう言った・・・それはつまり僕らの身を安じていたと言うことだ。

 あんな状態で自分ではなく僕らの心配ができるなんて、なんて人だ! 本物のヒーローみたいだ! オールマイト見たいな・・・・・・・オールマイト?

 

 オールマイトの名を口にした瞬間、僕は入学前の合格発表を思い出した。

 

《きれい事!? 上等さ!! 命を賭してきれい事を実践するのがヒーローだ!!》

 

 オールマイトはそう言っていた・・・・・そうだ・・・そうだよ!!

 ヒーローは命を賭けなきゃ出来ないんだよ! 何を怖気づいてるんだよ! 目の前に助けなきゃならない人がいるじゃないか!? 助けが来ないこの状況で何もせずにコソコソと隠れていて、胸を張ってヒーローになれるのかよ!

 

 ――助けなきゃ! 造理くんを助けなきゃ!!

 

「ヒーローはいつだって命懸けだあ!!」

「ケロッ!!」

「緑谷っ!!」

 

 僕は思わず叫び上げ、そして走り出す。

 

「造理くん!!!」

 

 彼の元に駆けて行った・・・・。

 

 ――――

 

 

 

 ◇

 

「造理くん!!!」

「・・・あ?」

「!?・・・緑谷!!」

 

緑谷が必死な顔をして、こちらに向かって来ていた・・・・・何故来た!!?

 

「今助ける!! SMASH!!!」

 

 緑谷が俺を捕まえているヴィラン”脳無”に拳を繰り出し、物凄い音と衝撃が発生した・・・。

 

 

 ―――だが

 

「・・・・・え?」

「いい動きをするなあ・・・スマッシュってオールマイトのフォロワーかい?」

 

 脳無は全くダメージを受けていなかった・・・。

 

「脳無は"ショック吸収"の個性も持ってるから、そんなの効かないよ?」

 

 ショック吸収だと!? 馬鹿な!! こいつの個性は超再生じゃなかったのか!? こいつは個性を複数持っていると言うのか!?

 

「まぁいいや君・・・」

「!!?」

 

 マズイ!! 緑谷が殺される!!

 

「《分解!!・・・・錬成!!》」

「「「!!?」」」

 

 俺は俺の首を絞めている脳無の手を分解して拘束を解き、更に拳岩を大量に生成してヴィラン達を退け、緑谷と共に距離を取った。

 

「造理くん!」

「何故来た!? もう逃げられないぞ!!」

「解ってるよそんなこと!!」

「!?」

 

 緑谷が声を上げて叫んだ。

 

「それでも君が連れ去られていく姿を黙って見てるなんて出来なかったんだ。ここで動かなかったら僕は胸を張ってヒーローになることなんて出来ないって思っちゃったんだ・・・」

 

 俺は緑谷の言葉を聞いて目を見開いてしまった。

 何を言っているんだこいつは? 家族でもなければ友達でもない俺の為に何故そんなことが出来るんだ?・・・・お前は一体何なんだ!?

 

「それに・・・オールマイトが言っていた!」

 

 緑谷が俺の前に立ち、ヴィラン達の方に体を向けた。

 

「ヒーローはいつだって命懸けだあ!!」

 

 緑谷がそう叫んだ・・・・。

 

 ――そうか、そう言うことか、・・・ようやく解ったよ、緑谷と言う人物が・・・。

 唯のお節介でちょっと正義感が強いだけの人間だと思ってたけど、こいつはそんな低レベルな人間じゃなかった・・・。

 

 ――こいつは、根っからの"ヒーロー"だったんだ。

 

「全く、・・・ほんと面倒だなあ・・・・」

 

 死柄木はそう言いながら首を掻きむしる。

 

「・・・・やっぱいいや、黒霧・・・こいつも殺そう」

「死柄木?」

「面倒になってきたし、ムカついたから殺すよ」

「・・・仕方がありませんね」

 

 奴らは俺を連れ去ることをやめてしまったようだ。

 脳無も分解した腕を再生させていく・・・・・ここが人生の終着点か・・・。

 

「緑谷・・・言っておくが、楽には死ねないぞ?」

「解ってるよ、そんなこと・・・」

 

 震えた声をしているが、ちゃんと理解しているようだ。俺は重症を負った腹部を無理やり錬成して傷を塞ぎ、体にムチを打って立ち上がる・・・。

 

「こうなったら、やぶれかぶれだ。一人ぐらいは道連れにするぞ」

「僕は殺しなんてしないよ、先生たちが来るまでの時間稼ぎだ!」

 

 震えら声で緑谷が言う。

 まったく、怯えてるくせに、どこまでも甘い考えな奴だ。こういう奴は、幸せに死ぬことなんてできないだろうな。

 せめて悔いを残さずに死ねるように祈ってやるよ――。

 

 そんな呆れつつも、感心を胸に抱いた俺は、緑谷と供にヴィランと対峙した・・・・・

 

 その時だった。

 

「もう大丈夫!!」

「「「「!!?」」」」

 

 突然、出入り口付近で物凄く大きな音が鳴り響いた。

 俺と緑谷・・・更にヴィラン達まで出入り口に顔を向けると、まるで爆発でも起こったかのように砂煙が舞い上がっていた・・・・・・そして

 

「待たせてしまったね・・・でも、もう大丈夫・・・」

「「「「!!?」」」」

 

 砂煙の中から声が聞こえた。

 その声はこの場に居る誰もが知っていた、世の人たちの誰もが憧れ、世のヴィラン達の誰もが恐れるその声の持ち主を・・・・

 

「私 が 来 た」

 

 オールマイト。

 この場に居る全員が、待ち望んでいたヒーローだ・・・。

 

 ――――

 




ようやくオールマイトの登場です。
出来れば次の話でUSJ編は終わらせようと思っているんですが、内容次第ではまだ続いてしまうかも知れません。

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