俺の妹がこんなに優等生なはずがない   作:電猫

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第26話

 あたしは唖然とした顔でテーブルの先にいる女を見詰めた。あたしの視線にも動じることなく、にっこりと微笑んでいる美少女。

 まあ美少女といっても、この加奈子様の美貌には敵わねーけどな。ただあたしには及ばないものの、清楚で真面目そうな姿はきっと男ウケはいいんじゃね〜かな? 知らないけど?

 まあ結局なにが言いたいかっつーと、あたしの友人である清楚系美少女あやせが目の前で座ってるってことだ。

 そのあやせがにっこりと微笑む姿は、男どもならきっと見惚れるんだろうな。ただあたしは騙されねえぞ! おそらくロクでもない事を考えてるに違えねえ!

 こいつ、見かけに反して中身は真っ黒だってこと、この加奈子様は見破ってるからな!!

 なにせ今あたしの目の前に置かれている物からして既に碌な予感しねーし!

 

「あやせ〜わり~んだけど、もっかい言ってくんね?」

「はい、いいですよ。加奈子、この大会に出てみませんか?」

 

 やっぱりさっき聞いた言葉は間違いじゃねーみたいだ。

 あたしは目線を下に降ろした。そこにあるのは『第二回、星くず☆うぃっちメルル公式コスプレ大会』と書かれた少女アニメキャラがポーズを決めている応募用紙で、それはテーブルの上で存在感を際立たせていた。

 駅前の喫茶店、いやケーキショップか? うめ〜ケーキあるし。とにかくあたしが頼んだショートケーキとオレンジジュース、あやせが頼んだチーズケーキに紅茶が置かれたテーブルの真ん中にアニメキャラがババ〜ンと描かれた応募用紙がある訳だ。違和感しかねえし!

 とりあえずあやせの言葉が聞き間違えじゃなかったっつーなら、あたしが言える言葉は一つだけだ。

 

「そんなキメェ〜大会に加奈子様が出るはずねー! つ〜か、こんなん薦めてくるって、あやせ大丈夫か? もしかして夏の暑さにやられた?」

 

 まったく、あやせが奢ってくれるつーから付き合ってやったけどよ。まさかこんなん薦められるなんて普通おもわねーし。

 なんか厄介な頼み事くらいはされるかもと思ったけど完全予想外だ。友人の頼み事だし、聞いてやらねえこともね〜なと思ってたけど、さすがにこれは1000円じゃ、割にあわねーだろ!

 おっと、別に加奈子様は駅前の評判のケーキセットに釣られて、のこのことついて来た訳じゃねーからな!

 勘違いすんなよ! あくまで友人として応えてやろうと思って付き合ったら、ふざけた内容だったから断るんだからな。

 けっして、こんな奢り程度じゃ割にあわね〜って思って断る訳じゃねーからな!!

 うむうむ、あたしは心の中で自分を正当化して、生クリームたっぷりのショートを切り分けて口に運んだ。

 うん、うめ〜な! 特別に加奈子様が一つ星をつけてやんよ。でもメシの評価って、なんで星なんだろな? ……まっどうでもいっか、うめ〜もんはうめ〜し!

 加奈子様がご満悦していると、固まってたあやせがなんか小さい声でブツブツ呟いてる。

『……そうですよね。加奈子に考慮した私が馬鹿だったんですよね……』

 聞こえねーけど、なんか非常にやべ〜予感がするし。

 

「うふふふ、加奈子ごめんなさい。私言い間違えをしてました」

「な、なんだよ……」

 

 うげぇ、この女本性見せやがった。

 微笑んでるんだけど、目が笑ってねーんだよ! こえ〜から!

 恐ろしいプレッシャー感じんし、いつも思うんだけど、こいつほんと何もんなんだよ。

 

「加奈子、この大会に出て優勝してきなさい!」

「命令かよ!? しかも優勝かよ! まあ加奈子様が出れば優勝なんてマジちょれ〜けどよ。だからって、出ねーし! だいたいこんな大会ってあれだろ? マジキメェ〜オタク共が大勢集まって、やらしい目で見つめてくんだろ。ぜってーいやだ!」

「加奈子!!」

「で、出ない…からな」

 

 いくらあやせが脅してきたってへっちゃらだからな。

 こ、声を震わせてなんていねーぞ。

 じっとりと背中に感じる汗は、あれだ店の冷房の効きがわりーんだ。

 だから外を眺めるのは、あやせから視線を逸らすためとかじゃねーから、あくまで外の様子が気になっただけだから!

 ……窓から見える景色は幸せオーラ全開のカップルが手を繋いでいた。あーゆうのマジほんと死滅しろよ。

 あたしが気分を害して視線を戻すと、まだあやせが睨みつけてやがった。

 

「………………」

「に、睨んでも、で、出ねーからな、これあたしにメリットがねーだろ!」

「メリット…………メリットなら有りますよ?」

「はぁ〜? テキトーな事言うなよ。嘘でごまかされねーからな」

「いえ、本当ですよ」

 

 あやせからのプレッシャーがやんだ。どうやら脅しから説得に方向を変えるみたいだ。

 ほっと胸を撫で下ろす。べ、別にビビってた訳じゃねーからな、ほんとだぞ!

 ……あんなんにメリットなんか有るとは思えねーけど、嘘は吐いてねーみたいだし、聞くだけ聞いてやるか。

 

「加奈子は将来アイドルになりたいんですよね?」

「おう、もち超〜〜凄えスーパーアイドルになってやんよ! あやせにはいまのうち特別にサインやんよ!」

「いりません」

 

 即答かよ、このやろ。あとになって欲しいとか言ってもぜってえやらねーかんな。もう決めた。絶対後悔させてやる!

 

「膨れないで下さいよ。デビューしたらちゃんと貰いにいきますから」

「けっ、ぜってーに書いてやんね」

 

 あたしがそっぽを向くと、あやせが苦笑したあとコホンと咳を一つ入れてメリットの説明に戻った。

 

「とにかく話を戻しますよ。最近知ったんですけど、近頃はアイドルもアニメやゲームが好きだったり、アニメの声優のお仕事をされてる人もいるみたいらしいんですよ。ですからこういうイベントもアイドルデビューのきっかけになると思うんですよ。仮にデビューとかに関係なかったとしても、公式の大会に優勝という実績はたぶんその後有利に働くと私は思いますよ」

「へ〜〜、マジ? でもたしかに、ジブリとかタレント使ってるみたいな話聞いた事があったような〜? ってかあやせ詳しくね? もしかしてあやせもアイドル目指してんの?」

「目指してません!! たまたま兄さんから聞いたの覚えていたんですよ!」

「ふ〜ん、しょぼ京介からね〜」

 

 あいつアイドルとか好きなのか? ならこんど、加奈子様が特別にサイン書いてやっかな。きっと泣いて喜ぶにちげえーねえだろ!

 

「ちゃんとメリットあるでしょう。どうですか?」

「……う〜ん、たしかにさ、マジでメリットあるっぽいけどさ。それって別にコスプレ大会じゃ無くてもよくね?」

「……えっとですね」

「あたしはさ、超スーパー凄えアイドル目指すんだぜ。だから大会とかも凄えの出るから、やっぱしパス!」

「ま、待って下さい。ほ、他にもメリットあるんです!」

「……一応聞いてやんよ」

「え、えっと……そうです。アイドルオタクなんて、やっぱり他のオタクと一緒で気持ち悪いんですから、アイドルになるならそういう人達にも慣れる必要があるはずです。練習を兼ねて大会に出てみましょう、ね!」

 

 この女……やっぱ真っ黒だ!?

 

「……お前……今いろんな方向の人間を敵に回した気がすんぞ!? つ〜か、やっぱしキメェ連中相手にすんじゃねーか! ぜってー出ねえぞ!」

 

 あたしの叫びにあやせの表情が消えた。

 無表情で懐が寂しいあたしに非情な宣告を突きつけてきやがった。

 

「……奢るのやめますよ」

「あっ、てめぇそれ卑怯だろ!」

「ふふふっ、どうしますか?」

 

 くぅ〜マジで卑怯者だこいつ。

 

「ぬ、ぬぐぐぐぐ、でもやっぱ1000円じゃ割にあわねー! 断る!」

 

 今月厳しいけど仕方ね〜。秋物の金足りっかな〜?

 

「…………どうしてもダメですか?」

「へん、お断りだぜ!」

 

 あやせが懇願するような目で見つめてきた。

 今度は泣き落としか? 男ならころっと引っかかるかもしれねーけど、あたしには無駄だぜ。

 つ〜か脅したあと泣き落としって、男でも引っかからねえだろ? 引っかからねーよな?

 

「………………わかりました。…しかたないですよね。あと奢らないと言うのは嘘ですよ」

 

 あやせがはぁ〜〜〜〜と長いため息を吐いて哀しげな表情で伝票を握った。

 普段ならやっぱ奢ってくれんの、ラッキーと思っちまうんだけど、そんな表情見ちまうとどうにもきまりが悪い。

 どうやらさっきの泣き落としとはちげえみたいだし。

 横顔を指で掻きながら、あやせに聞いてみる。

 

「なあ……お前なんでこんな大会にこだわんだ?」

「……そうですね。ここまできたら隠しても仕方ないですよね。この大会の優勝商品が欲しいんですよ」

 

 立ち上がろうとしたあやせが席に戻った。

 なにかを諦めた目をして応募用紙を見詰めている。

 

「優勝商品? それってこのメルルって奴のフィギュアか? あれ、あやせってオタク嫌ってなかったけ? 実はオタクだったとか?」

「違いますよ。……欲しがってる人がいるからプレゼントにしようと思ったんです」

「こんなもん欲しがる奴って……つ〜か、あやせなら自分で出れば優勝できんじゃね?」

「出たくなかったから加奈子に頼んだんですよ」

 

 こ、こいつ、自分が出たくないもんに、あたしを出そうとか、腹黒悪魔め、同情して損した。

 あたしが睨みつけるとあやせがしれっとした顔で答える。

 

「まあそれは冗談ですが、いえ半分本当ですけど。どちらかというと問題は私だと優勝は難しいと思いまして、それで加奈子に頼んだんですよ」

「おーわかってんじゃん! 加奈子様の美貌には敵わないって事だろ!」

「違います。そのメルルってキャラが加奈子にそっくりってだけです!」

 

 あたしはチラッと応募用紙のピンク髪のイラストを確認した。

 

「はぁ? これがあたしに? 別に似てなくね?」

「なに言ってるんですか! どう見てもそっくりですよ。兄さんもその友達も加奈子の写真見たら凄く納得してましたし」

「うへぇ〜マジかよ〜。て〜か、京介はともかく、知らない奴にあたしの写真見せて批評するの酷くね?」

 

 あたしの指摘にあやせが顔を引きつらせた。

 

「うっ、それは、でも、その人は女の子ですから心配はいらないですよ」

「…………」

 

 あたしはジト目であやせを見詰めた。

 

「…………ごめんなさい。加奈子へ断らずに写真見せてあれこれ言うのは、たしかに酷いですよね。私もそんな事されたくありませんし」

「まっ、いいけどな。それに将来スーパースターになったら、あたしの写真集なんて一億くらい出回るわけだし〜にひひひひ」

「もう、謝って損しました。なにが一億部ですか……」

 

 あやせがため息を吐いている。

 そういえばあやせをやりこめたのって、これが初じゃね?

 あれだ、たしか、えっと人類にとってはつまらない事でも、あたしにとっては大きな一歩ってやつだ!

 あれ、これで良かったっけ? …まっいっか!

 上機嫌なあたしに比べ、あやせの顔は暗い。なにか思いつめたような表情である。

 そんなに出たくねー大会に出てまで、プレゼントしたい相手なのかよ?

 しかも優勝には加奈子様の力が必要なんだろ。

 う〜〜〜〜〜仕方ね〜〜〜〜〜〜〜。

 あやせ貸し1だかんな!!

 あたしは頭をガリガリ掻きながらあやせに答えてやった。

 

「わかった。出てやんよ」

「えっ」

 

 ぽかーんとした表情のあやせ。あやせがこんな表情するなんてな。

 まだ理解してないあやせに再度告げてやる。

 

「だから、出てやるよ大会!」

「えっ、嘘っ!? 本当ですか、加奈子!? 嘘だったらタダじゃおきませんよ!!」

 

 あやせがガタッと椅子から立ち上がり身を乗り出して確認してくる。

 あまりの迫力に思わず身を引いちまう。

 嘘っつったらあたしになにする気だ、こいつ!?

 …いや、こえ〜から考えねーようにしよう。

 

「お、おう。そんかわし、あと二回、いや、三回ケーキ奢れよな!」

 

 あやせが食べてたチーズケーキ、そしてモンブラン、あとは季節のフルーツタルトも美味そうだよな。

 あたしが奢らせるケーキを考えてると、あやせが席を回り込み、あたしに抱きついてきた。

 

「ええ、ええ、もう何でも奢っちゃいますよ! 加奈子ありがとう! 大好き!!」

「?!?! ちょっ、人が見てっから!? あやせ、あやせってば!?」

 

 慌てるあたしに対して聞こえてねーのか、あやせはますますぎゅ〜と力を入れて抱きしめてくる。

 マジで今日のあやせおかし過ぎねえか!?

 おい、そこの餓鬼、人を指差すんじゃねー!

 女ども、あたし達はレズじゃねーよ!

 そこの男、興奮した顔で写メ取るんじゃねー、変態、訴えるぞ!!

 興奮が落ち着いたのか? あやせがようやく離れてくれた。

 自分のとった行動にやっと気が付いたのか、あやせの顔は真っ赤だった。

 ……おそらく自分の顔も赤くなってると思う。

 ちくしょう、こんな迷惑かけられんなら、何でも奢るって言ってたし、もっと吹っ掛けときゃ良かった!

 まったくあやせの奴……だけど……まあ、恥ずかったけど……たまにならこういう暑苦しいのも悪くねーのかもな!

 

「ごめんなさい加奈子。自分を見失ってしまいました」

「…まっ、いいけどよ。なんかあやせキャラと違くね?」

「そうですか? …そうかも知れませんね。最近は兄さんの影響を受けてるかも知れないですから」

「京介のね〜。まあ京介がオタクになっちまったんだから、ブラコンのあやせは何かしら影響あるか」

「ブラコンじゃありませんよ!! というか兄さんがオタクってどういう事ですか!? なんでそうなるんですか!?」

「いまさら隠さなくてもい〜じゃん! だって、あやせが出たくない大会に出てまでプレゼントしたい大事な相手って、そんないねえだろ? そしてさっきあたしの写真で京介はメルルそっくりって判断したって言ってたし。そんなんオタクじゃなきゃ無理じゃん! あやせがそこまでするほどの相手でオタクって、もう京介しかいねーじゃん!」

「うっ、えっと、それはですね。なんといいますか、どう説明したものか…………」

 

 あやせがあたふた慌ててる。ほんと今日は今までにないあやせの姿を見るよな。

 

「うぷぷっ、あやせもそんなキメェ〜兄貴持って大変だよな。でも安心しな加奈子様はそこまでオタクに偏見ねーからよ。家族がオタクなんてこと無理に隠さなくても構わねーぜ! なんせうちも……なんでもね〜」

「…………………………」

「あはっ、それにしても京介がオタクかぁ〜。今度会ったら、マジキメェ〜ってからかってやろ〜! にひひひひっ」

「…………兄さん……ごめんなさい」

 

 あやせが京介に謝ってる。やっぱオタクばれしたくなかったのか?

 まあ加奈子様は気なんか使ってやらね〜ぜ! からかいまくってやろ〜!

 今日は訳わからねえ頼み事されちまったけど、あやせに貸し作れたし、京介をからかうネタが出来たし、ケーキ美味かったし、なんだかんだ良い日だったよな〜。

 

「あれ? そういや、なんで今日桐乃いねーの?」

「桐乃はいいんです!!」

「そんな怒鳴んなくてもいーじゃん。ああ、なるほど桐乃に兄貴がオタクって事バレたくないって訳ね」

「う〜〜〜〜〜〜〜〜」




更新が大変遅くなってしまいすみません。
リアルが忙しくなってしまいました。
エタらないようにはしたいと思いますが、更新は遅くなってしまいそうです。
申し訳ありません。



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