俺の妹がこんなに優等生なはずがない   作:電猫

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第22話

 それはちょっと兄さんを困らせたいと思った質問でした。

 兄さんが余りに、桐乃、五更さん、槇島さんを凄く大事にしているから、ちょっといじわるしたくなってしまったんです。

 それが、まさか、こんな事になるなんて……

 

「〜〜〜〜んっ〜〜なっ〜〜ぁ〜〜〜〜〜な、なにぉぉぉぉぉぉぉっ、言って、いるんですかあぁぁぁぁーーー、兄さん!?!?!?!?」

 

 私の魂のこもった絶叫に、兄がビックリしてます。何を驚いているんですか、ほんとに驚いているのは、私ですよ!?

 世界で一番、私が、大事なんですか!?

 こ、これは…愛の告白なんですか!?

 だ、ダメですよ、兄さん! わたし達は、兄妹なんですから!!

 でも………………ちょっとだけ……嬉しい………かも?

 はっ、いけません、いけません、わたし達は、兄妹、兄妹なんです!!

 

「な、なんだよ、突然!? ただ、お前の質問に答えた、だけだろ?」

「そ、そ、そ、その答えが…………な、な、なんで、告白になるんですかぁぁぁ!! い、いもうとに、こ、こくはく、するなんて…兄さんは、どういうつもり、なんですか!?」

「告白?」

 

 兄がきょとんとした顔をします。……この人、ほんとに分かっていませんね。

 私は恥ずかしさで真っ赤になった顔が、今度は怒りで真っ赤になりそうです。頭に血が上りすぎたのか? クラクラしそうな気がします。

 

「兄さん…………じ・ぶ・ん・が・言った、台詞を、もう一度、思い出して、下さい」

「お、おう、わ、わかった」

 

 私が出した声に、兄が挙動不審になりながら、ちょっと考え込みました。それから直ぐに顔を赤くさせます。ようやくわかったようです、この…朴念仁。

 兄さんの………ばか。

 

「ち、ちが、違うからな、も、もちろん、家族として…だからな!!」

 

 兄さんが両手をわたわたさせながら、弁解します。焦る兄の態度に、また私の頬が熱くなってきました。

 

「わ、わかって、ますよ!? で、でも、あんな熱烈に叫ばれたら…………ご、ごかいしちゃいますよ……」

「そ、そんなに、熱烈……だったか?」

「……………………………………ええ」

「そ、そうか…………………………」

 

 兄さんと二人して、おし黙ります。

 むぅ〜〜〜、どうしましょう、もの凄く、気恥ずかしいです。

 兄さん、責任取って、この空気をなんとかして下さい。兄さんの所為なんですから! ……私の質問の所為? そんな事は有りません。ぜぇ〜たい、兄さんの所為です!!

 

「あ、あやせ、あのな?」

「な、な、なんですか? 兄さん?」

「えっと……その、あれだ」

「え、ええ、そ、そうですね」

「……………………」

「……………………」

 

 ど、どうしましょう!? 話が全然進みません。兄さんと目を合わせると、つい目を逸らしてしまいます。は、はずかしくて……思考が纏まりません。

 兄も同じような様子でしたが、突然パンッ、と両手を頬に叩きつけました。

 兄さんは、きっとこのままじゃいけないだろうと思ったんじゃないでしょうか。

 

「あやせ!」

「はい!」

「…………桐乃の事は、どうする?」

「あっ!?」

 

 兄の言葉を聞き、顔に集まっていた血液が、一気に引いていきました。

 私は何を浮かれていたんでしょうか。桐乃にあんなに酷い事を言ってしまったのに、いくら兄が衝撃的な言葉を言ったからといって、桐乃の事を失念してしまうなんて……親友失格です。

 

「本当なら、この後すぐに話に行った方がいいんだけど……結構時間経っちまったからな、どうする?」

 

 兄の言う通り、太陽はまだ沈みきっていませんが、神社内は木に覆われていることもあり、辺りはかなり薄暗くなってます。

 本当なら桐乃の所にすぐ行きたいのですが……

 

「桐乃には、いえ…………槇島さんと五更さんにも、謝りたいので…………ごめんなさい兄さん、連絡取って貰って、大丈夫ですか? ……もし、ご迷惑でなければ、今日中に謝りたいです」

 

 本来なら、私から桐乃に連絡するべきなのでしょうが、あんな事を言ってしまったので、今度は桐乃が私を避けたらと考えると……電話を無視されてしまうかもと思うと、怖くて連絡を取れません……兄さんについつい甘えてしまいます。

 私はなんて桐乃に酷い事を言ってしまったのでしょうか。桐乃へしてしまった態度による後悔と罪悪感、それにこのあと仲直りできるかの不安感から、私はその場で力無く座り込みます。

 

「……ああ、分かった。……もしかしたら、もうみんな帰ってしまっているかもしれないし、この後は無理かもしれねえな。その場合は、明日の朝でいいか?」

「そうですね……それで、お願いします」

「分かった。そうだな……やっぱ、こんな時は沙織がいいかな?」

 

 事情を察してくれたのか兄さんは、二つ返事で引き受けてくれます。そして今後の展開を予想して、私のフォローに回ってくれます。こういう兄の優しさが、私は大好きです。……もちろん家族としてですよ。

 兄さんが、ズボンのポケットから携帯を取り出して、槇島さんに連絡を始めました。

 

 

          ☆

 

 

「…………あっ、沙織。そのいま、大丈夫か?」

「おお、京介氏! もちのろん、大丈夫ですぞ! して…………どうなったでござる?」

 

 数秒の呼び出し音の後、沙織の声が聞こえる。

 沙織が明るく返事を返してくれる。しかしその声が、すぐに落ち着いたこちらを心配する物に変わった。

 ああ、沙織と黒猫には、ほんとに心配かけちまった。まさかあんな修羅場を見せられるなんて、普通は思わないよな。

 俺は問題が無事解決したと伝わるように、努めて明るく声を出した。

 

「ああ、こっちはなんとかなったよ!」

 

 俺の言葉から沙織も察してくれたのか、明るい返答をしてくれる。

 

「おおっ! 流石は京介氏、あんな状態からよくぞ、すばらですぞ!! よっ、この天然ジゴロ! ラノベ主人公!」

「はっ、そんなに誉めんなよ……ってお前それぜってぇ褒めてねーだろ!?」

「おう、ナイスツッコミ! 相変わらずの切れ味でござる。拙者、もう京介氏のツッコミが無いと生きていけない身体にされてしまったでござるよ」

 

 明るいは明るいが……沙織に掛けたのは間違っていたか? 沙織とのあんまりにもな会話に、俺は脱力した。……まあでも、これだけふざけられるなら、桐乃も大丈夫なんだろうな。

 

「……まあいいや、で、桐乃なんだけど……」

「……きりりん氏でござるか……思いっきり泣いたので、いまは落ち着いているでござるよ」

「ああ……落ち着いたか、良かった。……まだ、一緒にいるのか?」

「一緒でござる。きりりん氏も一応落ち着きましたが、もうしばらくは誰かと一緒の方が、この場合良いと思われたので……いまは近くのファミレス、サイゼリヤにいるでござるよ!」

 

 ふざけている様に見えて、こういう場面での気遣いは流石である。本当に頼りになる奴だな! 先ほど下がった俺の中の沙織の株価が急上昇する。

 沙織と黒猫が一緒なら、桐乃は大丈夫だろう。俺は安堵しながら、脳内の地図でサイゼリヤの場所を検索する。

 

「ああ、あそこのサイゼね。……いまから、あやせと行って大丈夫か? この後、もしなんか有るなら、明日にするけど……桐乃と黒猫にも聞いてみてくれないか」

「いまから…………あやせさんですか…………いえ、京介さんを信用します。その席にはわたし達も同席して大丈夫ですか?」

 

 沙織の言葉遣いが、急に変わった。

 ……やはりまだいつも通りではないんだな。さっきのおふざけも、きっと空元気の様なものだったのだろう。

 そうだよな、あっちはおれ達の心配しながら、ずっと待っていたんだもんな。

 俺はすっかり問題が解決した気になっていた自分を恥じる。

 

「ああ……出来ればお前らもいて欲しい」

「……分かり申した。いまからきりりん氏と黒猫氏に確認致す。もしかしたら時間が掛かるかもなので、折り返し電話するでござるよ」

「分かった。折り返し待ってる。すまない助かる」

「なんのなんの、お任せあれ、にんにん」

 

 口調はともかく、ほんと頼りになる奴である。あとは沙織の連絡を待つとして、とりあえずおれ達は神社から出ておくか。

 

「あやせ、電話が折り返しくるから、それまでに移動しておかないか?」

「わかりました。兄さん」

 

 あやせの表情が固い、俺の電話中も座り込んで沈んでいたし……桐乃の事があるから、仕方ないか。……兄として出来るだけ、手を貸してやらねえとな!

 俺はあやせに片手を差し伸べた。

 

「ほら、行くぞ!」

「……ありがとう、兄さん」

 

 あやせが強張っていた表情を微笑ませ、俺の手を握る。俺が右手に力を込め、妹を引っ張ろうとした時、膝から力が抜けた。

 

「あれっ?」

「きゃっ!?」

 

 あやせを探し回る時に酷使した足が悲鳴を訴えた為、バランスを崩してしまう。

 痛たた、ってあれ? 痛くないな。倒れ込んだ時に思わず目を瞑ってしまったが、コケたにもかかわらず痛みを感じない。むしろ顔に当たる感触が……妙に柔らかい…………ふにふにして気持ち良い。

 ちょっと待て…………………………コケた時は……………………あやせの方に倒れ込まなかったか、俺?

 俺は、恐る恐る、目を開き、倒れていた体を起こす。まず目に映ったのは、いままで俺が顔を埋めていた…………まずまずの大きさの……とても柔らかい丘がある………………………………………その漢の夢が詰まった丘から、さらに視線を上に傾けていくと、涙目で顔を真っ赤にしている妹が大きく手を振り上げている。

 

「いやぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁ!?」

「ひでぶぅ!?」

 

 あやせを押し倒していた俺が吹き飛ばされた。今回はいつものハイキックでなく平手である、しかもあやせの体勢が悪かったので、俺の意識が飛ぶ事はなかった。ただし頬っぺたがジンジンと、とても痛い。いま鏡があれば、頬にきっと立派なもみじを見る事が出来ただろう。

 悲鳴をあげ、俺にビンタをかました妹が立ち上がって、俺を見下ろす。

 

「兄さんの、エッチ、変態、ケダモノ、いきなり何をやってるんですか!? 妹押し倒して、どうする気なんですか!? そ、それに、わ、わたしの胸に顔を〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜もぉ〜〜ほんとに信じられない!! 兄さんのエッチ、エッチ、エッチ、エッチ、エッチ!!」

 

 あやせの怒濤の罵声が俺を責める。条件反射で俺は即座に土下座へ移行した。

 

「ごめんなさい、ごめんなさい、ほんとにすみません」

 

 流石にこれは、言い訳の余地が無い。女の子を押し倒し、オッパイに顔を埋める。警察のご厄介になる事件である。妹といえど、いや、ある意味妹だから、大問題である。親父にバレたら、裁判無しの死刑確定である。

 俺にできる事は、ひたすら地面に頭を擦り付ける事だけであった。

 

「なんで兄さんは、いつも、いつも……………」

 

 後頭部であやせの説教を聞いていると、俺のポケットから、着信音が聞こえてきた。おそらく沙織と思われる。

しかしあやせの説教が…………沙織、すまない。また折り返すよ。ちょっと時間かかっちまうかも知れないけど……

 俺は心の中で沙織に謝った。




神社を脱出出来なくなるほど長くなるとは思わなかった。
まったく、すべてとらぶるが発生した所為だな!

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