護衛艦でいず!   作:角煮か?

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数冊の資料とネット頼りなので、おかしな箇所があったらご指摘いただけると助かります。


第6話

 

 

 訓練を始めてから早一週間。少しずつではあるが、進歩しているのを実感している。今では支え無しでも進めるようになり、短距離ではあるが瞬間的に第二戦速(21ノットほど)まで出せるようにもなった。

 ……そのあと減速の際に転ぶけどな。

 

「第一目標、補足!30度方向の水上標的、距離200(20km)、教練対水上戦闘用-意!!」

 

 妖精さんの声に合わせ、主砲用射撃指揮装置のカメラが遥か遠方にある的を見据える。

 HMDのバイザーにもその様子がハッキリと映し出された。

 

「教練対水上戦闘用意良し。 攻撃始め!主砲、攻撃始め!! 教練対水上戦闘、CIC指示の目標、発射弾5発、主砲ぅー打ちぃ方ぁ、はぁじめぇ!!」

 

 独特な発音の妖精さんの号令と共に俺はトリガーを引く。

 装填された訓練用砲弾が叩き出され、そのまま五発立て続けに発射した。

 

『弾着……近1、遠3 命中1』

「少し遠いですね。砲身を下げてください」

 

 無線から伝わる司令官の結果と妖精さんによる報告を元に、砲身の角度を調節する。

 俺は示される情報を元に再度構え直す。

 

「調定良し。目標同じ、第二射、5発、打て!」

 

 薬室から飛び出す五個の空薬莢。一度の修正で正しい距離を掴めたらしく、砲弾は次々と的に直撃。破壊していった。

 

『次、第二目標。第一戦速にて砲撃開始』

 

 司令官の指示と共に、また別の的が出現する。

 

「第一戦速、第二目標補足……」

 

 その標的に向かって、俺は砲撃を開始した。

 

 

 

『――午前の訓練はこれで終了だ。1時間の休憩の後、午後の訓練を始める』

 

 正午を知らせるラッパが鳴り響き、俺たちは陸上に上がる。

 

「ふぁー……疲れたぁ」

 

 艤装を外し、地面に座り込む皐月。俺のサポートまで勤めてるんだから当然だろう……。

 支給された昼食を食べ終えた後、背中の機関部及び居住区に相当する部分から冷えたアイスを労いの意味を込めて三つ、取り出す。

 

「アイス食べるか?」

 

 実戦訓練を積みつつ、俺は司令官から座学も学んだ。無論その中にはイージス艦に関する知識も含まれている。

 ゆきづき――むつき型護衛艦なる艦種はこの世界には存在しないと言われた時は驚いたが、その兵装やシステムは旧海上自衛隊最後の護衛艦『あたご型』、他国だとあたご型の元ネタとなった米海軍が誇る『アーレイバーク級』に近いらしい。

 

 だから俺の艤装の居住性、戦闘能力は現在運用されるどの艦娘よりも遥かに優れていると教わった。

こうやってアイスを保冷できるのも現代艦ならではの強みだろう。

 

「うん、食べる!」

「……感謝」

 

 それでも日本最強の戦艦大和と妹の武蔵、天皇の御召艦を務めた比叡は当時としてはトップクラスの内装だったと聞く。

 

「それにしても、ゆきづきの主砲はすごいよね。あんなに早く、正確に、しかも遠くまで飛ぶなんてサ」

「ああ。私も驚いたな……しかし何故一基しかないんだ?」

 

 菊月の質問は尤もだ。主砲は文字通り〝主なる砲〟。軍艦を象徴するものである。

 前述の大和型なんて巨大な砲を三基も備えるが、俺は一つだけ。快速の駆逐艦でも主砲は重要な武器になっているに、だ。

 

「えっと、司令官の話だとイージス艦が活躍した時代にはもう主砲は主力武器じゃなかったみたいだよ。その代わり――」

 

 俺は大きなコンテナ型の艤装を指差す。VLS……垂直発射装置と呼ばれる、いわばこれがイージス艦の〝主砲〟だ。

 

「この中にミサイルっていう音速を超えて飛ぶ飛翔体がたくさん詰まってんだ。その範囲は戦艦の主砲より広く、命中精度もとんでもなく高いんだって」

 

 またそのミサイルにもいくつかの種類がある。対地用のトマホークや対艦用の誘導弾、対潜用の07式、高速で飛んでくる大型ミサイルを高高度で迎撃するタイプまで、その種類は豊富だ。

 

「へぇ、〝みさいる〟か……見当もつかないや」

「要は噴進砲の化け物だな……21世紀の船は大したものだ……」

「まあ、扱うには複雑な計算とかが必要だけどね。その辺は妖精さんに任せてるよ」

 

 俺に少しでも船としての記憶があれば、妖精さんたちへの苦労も減らせるんだけどな……。本当、感謝してもしきれないや。

 

 そうこうしてるうちに休み時間が終わり、再び艤装を背負って海に出る。今日も天気は良く、波は落ち着ている。少しくらいなら速度を出しても平気か?

 

「よーし、じゃあ午後の訓練も張り切っていこうよ!」

 

 俺は頷き、司令官に訓練再開の合図を送ろうとしたが――。

 

「パッシブソナーに反応が出ました。方位は南西です」

 

 対潜戦闘役の妖精から連絡が来る。音を聞くだけの機能なので距離は分からないが……この近海に潜水艦がいるのか?

 

「待って、ソナーに反応が出た。潜水艦がいる」

「何? ……私の水中聴音機には何も聞こえないな……皐月姉さんはどうだ?」

「ボクも何も聞こえないけど。ゆきづきには聴こえるんだね」

「ああ……」

 

 味方だろうか。司令官に聞いてみよう。

 

「司令官、ゆきづきだ。ソナーに反応が出たんだけど……近くに味方の潜水艦でもいる?」

『なんだと?』

 

 暫しの沈黙が流れ、

 

「いや、そのような連絡はない。周辺基地も潜水艦は運用してないはずだ。隠密で活動してる可能性もあるが……」

 

 そうか。何とか分かればいいんだけど。

 

『ゆきづき、SOSUSを使え』

「SO……?」

『米英海軍が海底に造った潜水艦監視ラインだ。この辺にも設置されてある。使われなくなって久しいが……データリンクすれば役立つだろう』

「分かった。妖精さん、頼む」

「了解です。データリンク、開始」

 

 バイザーに情報と文字列がつらつらと流れていく。

 

『さて、それと関連するかは分からんが……たった今SOS信号を受信した』

「え、どこから!?」

「沖合に30キロの地点、艦娘用の緊急回線だ」

 

 随分近いけど……まさか。

 

「データリンク終了。キャビテーションノイズの識別をかけました。間違いありません、深海棲艦です。艦種は潜水カ級! 音源は……ダメです。システムの一部が正しく認識されません」

「司令官、リンクに不備あり。音源の特定ができない」

 

 妖精さんの緊張した声。一気に場の空気が張り詰めた気がする。

 

「つまり……誰かが追われてるって、こと?」

 

 確認するように皐月は呟く。恐らく、その通りなんだろう。外れてほしいけど。

 

『チッ、やっぱ老朽化してやがるか……皐月、菊月はゆきづきのサポートを。ゆきづき、お前はパッシブソナーで潜水艦の位置を割り出すんだ』

 

 司令官からの素早い指示に皐月たちは首肯する。

 だが俺は……。

 

「司令官、パッシブだと探すのに時間がかかる。アクティブじゃないと……」

『分かってる。しかしお前はまだ魚雷回避に必要な速力を出せないだろ。無誘導魚雷でも当たればお前の装甲なら致命傷になるぞ。許可できない』

 

 事実だ。アクティブを放てばこちらの居場所を教えることになる。おまけに魚雷回避行動すら習っていない。少しでもスピードを出せば転んでしまうのだから……だけど!

 

「司令官! アクティブで正確な場所さえつかめれば、撃たれる前に必殺の一撃を叩き込める! やらせてくれ……いや、やらせてください!」

 

 記憶を失くしてもイージス艦としての想いや決意は残ってるのだろうか。予想よりも強く、大きな口調になったことに自分でも驚いた。

 

「私共からもお願いします。対潜ヘリも飛ばせば高確率で先制攻撃を打てます」

 

 乗っている妖精さんたちも口を合わせて頼み込む。司令官は無言だったが、ややあって答えを返してきた。

 

『分かった……やってみろ。だが無茶はするな。いいな?』

「ああ」

 

 それに少しはカッコいいところを見せたい。転んでばかりだと流石に悔しいし。

 

「対潜戦闘用意だ。航空機、即自待機。準備出来次第発艦!」

 

 こうして俺にとって、初めての実戦が幕を開けた。

 

 

 


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