ここでとあるフラグが回収されます。わからない人は六章の1話目をご覧ください。
簪の弐式用のパッケージのデータもアップしてきました。
雪兎とシャルロットは弾達と別れた後、見回りを開始した。途中でオータムが一夏を連れ込むと思われる生徒会の出し物【シンデレラ】の行われるアリーナもチェックし、雪兎はとある仕掛けを施していた。
「よし、これでいいな」
「どうしてそこまで思い付くのかなぁ」
それは更衣室のセキュリティに細工がされると細工されたように見せかける仕掛けで、実際は細工を無力化するという代物だった。それは一夏を隔離しようとするオータムに対する仕掛けだ。
「この手のやり口は束さんの教えだ。ちゃんと会長にも許可取ったから問題無い」
「で、演劇中に一夏がいなくなってここに反応があれば救援にいくってことでいいの?」
「ああ、俺はもう一人の方を相手にするからオータムはシャルロットに任せる。アラクネのスペックは把握してるな?」
「誰に言ってるの、雪兎。そっちこそサイレント・ゼフィルスの相手でしょ?」
「ブルー・ティアーズの強化仕様程度で俺がやられるとでも?」
今回は福音の時のような強化フラグなどもないので雪兎は最初から一切遠慮するつもりはない。シャルロットもリヴァイヴⅡSの扱いにも慣れアラクネとオータムのデータは頭に入っている。その上、二人はそれぞれ新たなパックまで準備している。どう考えてもオーバーキル前提である。
「オータムはいざとなったらアラクネからコアを抜いて自爆させてくると思うから注意しろよ?」
「うん」
「さて、そろそろ演劇の方の準備にいかねぇとな」
「まさか僕達まで出ることになるとはね」
実は雪兎とシャルロットも演劇で役があるのだ。その役とは王子の護衛という原作にない役だった。
「・・・・何か嫌な予感がしてならんのだが」
「そ、そうかな?」
雪兎が何か不穏なものを感じ取るとシャルロットは雪兎から目を逸らした。
(・・・・まさか、な)
雪兎はある可能性に至るが、それを否定する。しかし、この時シャルロットをちゃんと問い詰めておかなかったことを雪兎は後に後悔することになる。
シンデレラ。誰もが大抵聞いたことのあるお伽噺の一つで、義理の母とその娘である義理の姉二人にいじめられていたシンデレラが魔女の魔法でドレスアップして舞踏会に行き王子のハートを射止めるが、魔法の制限時間である12時が過ぎ慌てて帰ろうとする中、ガラスで出来た靴を落とす。王子はその持ち主を妃にするとシンデレラを探し見事結ばれる。要約するとこんなお話だ。黒い原文の方だと色々凄まじいらしいがそこは置いておこう。シンデレラストーリーなどと言う言葉が生まれる程有名なこのお伽噺だが、更識楯無が生徒会の出し物として改変された演劇【シンデレラ】はとんでもない内容だった。
1、シンデレラはスパイである。
2、シンデレラは数々の舞踏会をくぐり抜けた歴戦の兵士である。
3、シンデレラが舞踏会に参加する目的は王子の王冠に隠された国の機密情報を奪取するためである。
色々と突っ込みどころ全開である。そんな王子役に選ばれたのは原作通り織斑一夏。原作と違うのは王子に二人の護衛役がいることだった。一人は護衛の騎士である雪兎(舞踏会なので軍服)。もう一人はメイド兼護衛のシャルロット。護衛は劇中にオータムを警戒するためであり、本当に護衛なのだ。
「雪兎、シンデレラって何だったっけ・・・・」
劇の前説をする楯無のナレーションを聞き、王子の衣装を身につけた一夏が呟く。
「気にしたら負けだ。とりあえず王子はその王冠を守ることだけ考えていてください」
「護衛は僕達がしますから」
原作通りに一人で五人を相手にするよりは遥かにマシな状況ではあるが、四人共原作より強くなっているため油断はできない。
「はぁっ!」
そんな中、一番最初に仕掛けてきたのは鈴だった。鈴は偏月刀を片手に一夏に襲いかかるも雪兎が何処からか取り出した片刃の直刀で弾くと、弾かれて後方に跳んだ鈴にハンドガン(弾はゴム弾)で追撃する。
「わっとっと、相変わらず容赦ないわね、あんた」
「仮にも護衛だ。手は抜かん」
「た、助かったよ、雪兎」
「油断大敵ですわ!」
鈴の襲撃を防ぎ、一夏が気を緩めた瞬間、一夏を潜んでいたセシリアの狙撃(ゴム弾)が襲うも、今度はシャルロットが防弾シールドで弾丸を弾く。
「僕がいるのを忘れちゃ困るよ、セシリア」
「今のは完璧な奇襲だったはず!」
「僕達が狙撃ポイントを予めチェックしてないとでも?」
「ま、まさか鈴さんの襲撃の直後から死角のカバーを!?」
そう、オータムへの仕掛けを行った際についでにこの舞台の下見もしており、セシリアが潜んでいた狙撃ポイントなどは全てチェック済みだったのだ。
「セシリア達には悪いけど、これも仕事だからね」
そう言うとシャルロットはシールドを量子変換してアサルトライフル(ゴム弾)に持ち変えるとセシリアのいる狙撃ポイントを攻撃する。
「高速切替!?それ、反則なんじゃ」
「護衛対象の一夏は攻撃手段ないからな。人数差のハンデとして会長の許可は貰ってある」
直刀をしまいもう一丁ハンドガンを取り出した雪兎は容赦なく鈴に発砲する。
(やっぱりこのコンビ厄介すぎぃ!!)
用意周到、抜群のコンビネーション、そして雪兎は近接よりの万能型、シャルロットは射撃よりの万能型と穴も少ない。一方の鈴達は互いに王冠を狙うライバル同士であるためコンビネーションなど皆無である。どちらが有利かなど火を見るより明らかだろう。
「やはりこうなったか」
「私達も参加させてもらおうか」
そこに姿を現したのは箒とラウラの二人だった。
「げっ、箒、ラウラ」
「来ましたわね」
こうして四人のシンデレラがこの場に揃う。
「やっぱそうなるよな」
「でも、僕達が簡単に抜けるとは思わないでね?」
しかし、雪兎とシャルロットも負けるつもりはないようで各々武器を構える。
「これ、絶対シンデレラじゃない・・・・」
そんな中、一夏の虚しい声が響くのだった。
その後も激しい戦いが繰り広げられていた。
「そろそろ弾切れじゃないの?」
「問題無い」
ハンドガンの弾切れを狙っていた鈴だったが、雪兎はマガジンを外しそのまま落としながら量子変換し、新たなマガジンを同じ位置に出すとガンスピンさせてマガジンを嵌め込む。
「ガンスピンリロード!?あんた何処の魔王様よ!」
そう、その技能は某奈落から這い上がった魔王様が得意としていたリロード法だったのだ。
「練習したら出来た」
「これだからあんたは!」
「やはりお前は厄介だな」
雪兎が相手にしているのは鈴とラウラで、ハンドガンで片方を牽制しつつ、もう片方を直刀で抑える雪兎。
「そんなんじゃ一夏の王冠は獲れんぞ」
攻めあぐねている鈴とラウラに今度は二刀流となった雪兎が斬りかかる。
「くっ、当たりませんわ」
一方で少し離れたところでシャルロットの相手をする箒とセシリアもシャルロットを攻略出来ずにいた。
「シャルロットが強敵なのは知っていたが、ここまでとは・・・・」
高速切替による武器交換があるとはいえ、二対一で攻めきれないとは思っていなかった箒とセシリア。雪兎と並び立とうとするシャルロットの成長は凄まじかった。
「これくらい離せば十分かな?」
「はっ!?い、一夏さんは!?」
「これがお前の狙いか!?」
気付けば箒とセシリアは一夏を見失っていた。
「そういうことさ。じゃあ、僕はそろそろ雪兎と合流しないといけないから」
「ま、待てっ!」
その声も虚しくシャルロットはスタングレネードで行方を眩ませてしまう。
「は、嵌められましたわ」
「くそっ、一夏を探すぞ!」
スタングレネードの閃光から回復すると二人は再び一夏を探しに舞台を駆けるのであった。
「シャル、お疲れ様」
「雪兎もね」
シャルロットが箒とセシリアを撒いて事前に打ち合わせていた合流ポイントに向かうと既に一夏と雪兎の姿があった。どうやら雪兎も鈴とラウラを撒いたらしい。
「め、目が・・・・」
一夏は雪兎の放った閃光玉の光をまともに食らってしまったのかム○カのようなことを呟いている。
「ふぅ、やっと落ち着けるぜ」
「鈴とラウラの相手してたんだもんね、当然だよ」
雪兎を労いつつ、シャルロットはハンカチを取り出して片手で雪兎の汗を拭おうとするが・・・・
「おい、シャル。その手はなんだ?」
残るもう片方の手は雪兎の胸にあるブローチを狙っていた。
「な、なんのことかな?」
すると突然、楯無のアナウンスが入る。
『実は護衛の少女の正体は某国のスパイ。しかし、彼女はもう一方の護衛の少年に恋をしてしまい、それが本国にバレてしまった少女は護衛の少年が持つもう一つの機密情報を隠したブローチを奪えば見逃してもらえると言われ少年のブローチを密かに狙っていたのだ』
微妙にシャルロットの境遇に似た解説が入り、味方だと思っていたシャルロットまでもが雪兎の敵となってしまう。
「雪兎、ごめんね・・・・」
「シャル・・・・まさか、部屋割りか!」
ここで雪兎は事前に仕込まれていた事態の全貌を知る。そう、今の雪兎の部屋は一夏と同様に一人で部屋を使っている。それを利用して劇を盛り上げるべく楯無はシャルロットに雪兎のブローチを奪えば再び雪兎と相部屋にしてもいいと悪魔の囁きをしていたのだ。
「謀ったなぁ!更識楯無ぃいいいいい!!」
そして、舞台上に雪兎の絶叫が響くのであった。
雪兎、楯無に謀られるの巻。
次でシンデレラは終わってオータム戦に入る予定です。
次回予告
楯無の策略でシャルロットと攻防を繰り広げることになった雪兎。一方、一夏に再びオータムの魔の手が伸びる。
次回
「シンデレラの幕引きと亡国の足掻き 兎、彼女との攻防」